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ニューヨーカー誌が誇るカンマ・クイーンの重箱の隅をつつく栄光

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    私は過去38年間
    人目につかないように努めてきました
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    校閲の仕事を
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    『ザ・ニューヨーカー』で
    しています
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    ニューヨーカー誌の校閲の役割は
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    メジャーリーグで
    ショートを守るようなもので
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    どんな些細な動きも
    評論家の目を逃れられません
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    エラーなんて もってのほかです
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    断っておくと 誌面に何を載せるかを
    決める仕事ではありません
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    校閲の仕事は文レベルで行います
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    段落で見たり
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    語や句読点を見たりもします
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    細部を見ていくのが仕事です
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    例えば 点2つの記号を“naïve”(世間知らず)の
    “i”の上につけたりします
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    誌面に自社スタイルを貫く役目です
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    どの出版社にも
    それぞれスタイルがありますが
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    『ザ・ニューヨーカー』のスタイルは
    とりわけ独特です
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    からかいの種になることもあるほどです
  • 0:55 - 1:00
    例えば“teen-ager”(ティーンエイジャー)は
    うちでは未だにハイフン付きで
  • 1:00 - 1:02
    最近できたばかりの
    造語であるかのように表記します
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    “teen-age”に
    ハイフンが付いていたり
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    “coöperate”(協力する)に
    点が2つ付いていたら
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    『ザ・ニューヨーカー』の記事だと
    わかるわけです
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    うちでの校閲の仕事は
    機械的な作業です
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    校閲に関連して「疑問出し」や
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    「OK出し」という役割もあります
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    校閲の仕事は機械的ですが
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    疑問出しは解釈する仕事です
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    編集者を通じて
    筆者に提案をします
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    ある文の主張の強さを調整したり
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    意図せずに重複している部分を指摘したり
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    より訴求力のある表現を
    提案したりします
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    筆者の面目を守るのが目的です
  • 1:44 - 1:47
    ただし 朱入りの校正刷りを
    筆者に直接渡すことはなく
  • 1:47 - 1:48
    編集者に渡します
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    これにより「アメとムチ」的な
    役割分担が生まれ
  • 1:53 - 1:56
    広義での校閲者が 例外なく
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    「ムチ」を振るう役目を負います
  • 2:00 - 2:02
    問題がなければ
    校閲者は姿を隠していられますが
  • 2:02 - 2:05
    ミスをするや否や
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    痛いほどに目立ってしまいます
  • 2:09 - 2:13
    例えば 一番最近
    読者にとがめられた誤植がこれです
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    「去る火曜日 トランプ氏以前の
    共和党のポピュリスト的—
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    no-nothingism(皆無主義)の権化
    サラ・ペイリン氏が
  • 2:21 - 2:22
    トランプ氏の支持を表明」
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    読者曰く「ニューヨーカー誌の
    名高い校閲部は何してるんだ?
  • 2:27 - 2:30
    know-nothingism
    (移民排斥主義)の間違いだろう」
  • 2:31 - 2:32
    やってしまいました
  • 2:32 - 2:35
    このようなミスには
    言い訳もできません
  • 2:35 - 2:38
    でも「皆無主義」という言葉
    私は気に入りました
  • 2:38 - 2:42
    「虚無主義」という意味の
    方言なのかもってね
  • 2:42 - 2:45
    (笑)
  • 2:45 - 2:48
    別の読者は 誌面から
    ある一節を引っぱってきました
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    「ルビーは76歳だったが
    厳然とした態度を崩さなかった
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    ふらついた足取りだけが
    高齢であることをbelieした」
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    この文について
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    「ニューヨーカー誌の社内に
    “belie”の意味がわかる人は
  • 3:01 - 3:04
    いるはずだろう
    使い方が正反対ではないか
  • 3:04 - 3:06
    全く しっかりしてくれよ!」
  • 3:07 - 3:10
    “belie”(事実に反する印象を与える)
    ではなく
  • 3:10 - 3:13
    正しくは“betray”(うっかり表す)
    でした
  • 3:13 - 3:16
    E.B. ホワイト氏は ある時
    本誌のカンマの使い方を
  • 3:16 - 3:21
    「体の周りを取り囲むナイフ投げに
    匹敵する精度である」と評しました
  • 3:21 - 3:23
    (笑)
  • 3:23 - 3:26
    ごもっともです カンマについての
    苦情はたくさん来ます
  • 3:26 - 3:30
    「『マーティン・ルーサー・キング
    ・ジュニア通り』のカンマは本当に2つ?」
  • 3:31 - 3:36
    標識とは違いますが “Jr.”に
    カンマがつくのが本誌のスタイルです
  • 3:36 - 3:38
    シャレの利いたお便りも
    ありました
  • 3:38 - 3:42
    「お願いですから、貴社の編集部の、
    カンマ・マニアを、
  • 3:42 - 3:45
    クビにするか、もし、無理なら、
    拘束してください」
  • 3:45 - 3:46
    (笑)
  • 3:46 - 3:48
    そうですねぇ
  • 3:48 - 3:50
    なかなか良いカンマの使い方ですが
  • 3:50 - 3:53
    “maniac”と“on”の間のは
    余計ですね
  • 3:53 - 3:55
    (笑)
  • 3:55 - 3:58
    あと もし“at least”を
    カンマで囲みたいなら
  • 3:58 - 4:03
    ダッシュを使って
    こう書きなおします
  • 4:03 - 4:05
    “— or, at least, restrain —”
  • 4:06 - 4:08
    完璧!
  • 4:08 - 4:09
    (拍手)
  • 4:09 - 4:11
    そしてこんな声も
  • 4:11 - 4:12
    「貴誌の愛読者で
    大ファンです
  • 4:12 - 4:17
    でも 大きな数字を文字で表すのは
    やめてくれませんか?」
  • 4:17 - 4:19
    [二百五十万・・・
    三億八千五百万・・・]
  • 4:19 - 4:20
    無理です
  • 4:20 - 4:22
    (笑)
  • 4:22 - 4:25
    もう一つだけ 綴りにうるさい
    読者の切なる声をご紹介します
  • 4:25 - 4:30
    「“vocal cords”(声帯)の“cord”(弦)は
    “chord”(和音)とは書かない」
  • 4:30 - 4:32
    この読者は憤りに任せてこう続けました
  • 4:33 - 4:34
    「この明らかに言語道断な
  • 4:34 - 4:38
    誤植を指摘したのは
    私が初めてではないはずだし
  • 4:38 - 4:40
    私が最後でないことも確かだ
  • 4:40 - 4:41
    けしからん!」
  • 4:41 - 4:44
    (笑)
  • 4:44 - 4:46
    昔は読者のお便り
    楽しみだったんですけどねぇ
  • 4:47 - 4:50
    さて 筆者と編集者の間には
    約束事があります
  • 4:50 - 4:52
    編集者は筆者の名誉を死守します
  • 4:52 - 4:56
    ボツになったひどいジョークや
  • 4:56 - 4:58
    長すぎて削られた記事について
    公言しません
  • 4:58 - 5:03
    筆者の行き過ぎを未然に防ぐのが
    優れた編集者です
  • 5:04 - 5:06
    校閲者にもルールがあります
  • 5:06 - 5:08
    校閲内容を吹聴しないことです
  • 5:09 - 5:11
    ここで誤用例をバラすと
    裏切りになりますので
  • 5:11 - 5:14
    うまくいっている例を
    お話ししましょう
  • 5:16 - 5:18
    どういうわけか私は
    厳格さで知られていますが
  • 5:19 - 5:23
    記者の中には 私の校閲のかわし方を
    知っている人もいます
  • 5:24 - 5:28
    サンディことイアン・フレイジャーは
    80年代前半からの同僚で
  • 5:28 - 5:30
    大好きな記者の一人ですが
  • 5:30 - 5:34
    時々 校閲者を困らせる文を
    書くんですよね
  • 5:35 - 5:37
    ハリケーン・サンディ通過後の
    スタテン島について
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    こんな記事を書いています
  • 5:40 - 5:44
    「ある桟橋は
    真ん中から半分が流され
  • 5:44 - 5:47
    残り半分は
    水面に向かって傾き
  • 5:47 - 5:50
    その先から支柱やワイヤーが
    飛び出していた
  • 5:50 - 5:54
    リングイネの箱を開けて
    中身が滑り出た時みたいに」
  • 5:54 - 5:55
    (笑)
  • 5:55 - 6:00
    かつてなら 文法家の検閲で
    絶対に不合格にされていた文ですが
  • 6:01 - 6:02
    どうしようもありません
  • 6:02 - 6:04
    厳密に言えば“like”は“as”に
    するべきですが
  • 6:04 - 6:06
    そうすると滑稽に聞こえます
  • 6:06 - 6:10
    ホメロス的直喩の拡張表現を
    使わんとでもしているかのような—
  • 6:10 - 6:13
    「リングイネの箱を開けし時が如く」
  • 6:13 - 6:15
    (笑)
  • 6:15 - 6:20
    ハリケーンの被害が都合よく
    文にも及んだものと解釈することにして
  • 6:20 - 6:21
    そのまま残しました
  • 6:21 - 6:22
    (笑)
  • 6:22 - 6:24
    通常 何かおかしいと思ったときは
  • 6:24 - 6:26
    筆者に3回まで照会します
  • 6:26 - 6:30
    ちょっと前にこのことを
    うかつにもサンディに漏らしてしまったら
  • 6:30 - 6:31
    「3回だけ?」と返ってきて
  • 6:31 - 6:33
    校閲に対し粘るように
    なってしまいました
  • 6:33 - 6:35
    最近『街のうわさ』コーナーに
    載った記事—
  • 6:35 - 6:38
    これは本誌冒頭にあるコーナーで
  • 6:38 - 6:41
    題材は奇術師リッキー・ジェイが
    メトロポリタン美術館で
  • 6:41 - 6:42
    蒐集品を展示するという話から
  • 6:42 - 6:46
    フランスでドギーバッグ(折詰)が
    始まるまでの話など様々です
  • 6:46 - 6:48
    サンディの記事は
    最高裁判事ソニア・ソトメイヤーの
  • 6:48 - 6:51
    ブロンクス区への里帰りについてでした
  • 6:51 - 6:53
    この記事で私が
    引っかかったのは3点です
  • 6:53 - 6:55
    1点目は文法
  • 6:55 - 6:57
    判事の黒の装いについて
    こう書いてありました
  • 6:57 - 7:03
    「判事の顔と手が 古く暗い色味の
    絵画の中のように際立っていた」
  • 7:03 - 7:05
    この場合の“like”には
  • 7:05 - 7:09
    ハリケーンの被害を表している
    という言い訳は通用しません
  • 7:09 - 7:14
    そうであれば“like”は前置詞になり
    前置詞には目的語が必要で
  • 7:14 - 7:15
    目的語は名詞です
  • 7:15 - 7:17
    この“like”は
    “as”でなければなりません
  • 7:17 - 7:21
    「古く暗い色味の絵画の中にあるように
    際立っていた」
  • 7:21 - 7:22
    2点目は綴りの問題です
  • 7:22 - 7:25
    判事のアシスタントの発言に
    言及する部分です
  • 7:26 - 7:27
    「少しだけお待ち下さい
  • 7:27 - 7:30
    判事にマイクつけてますので」
  • 7:31 - 7:33
    “mic'ed”ですって?
  • 7:33 - 7:35
    音楽業界でマイクを“mic”と綴るのは
  • 7:35 - 7:37
    機器にそう書いてあるからです
  • 7:37 - 7:40
    この綴りで動詞として使う例は
    見たことがなく
  • 7:40 - 7:42
    私の監視下で“mic'ed”が通るなんて
  • 7:42 - 7:45
    考えただけで気が狂いそうでした
  • 7:45 - 7:46
    (笑)
  • 7:46 - 7:50
    “microphone”の省略形は
    本誌では“mike”です
  • 7:51 - 7:53
    最後に 文法・語法的に
    厄介な問題が残りました
  • 7:53 - 7:58
    代名詞は 先行する語句と
    単数・複数が一致していなければなりません
  • 7:59 - 8:03
    “Everyone in the vicinity held their breath”
    (そこにいた誰もが息を呑んだ)
  • 8:03 - 8:08
    “their”は複数ですが
    先行する“everyone”は単数です
  • 8:08 - 8:11
    “Everyone were there”
    とは絶対言わず
  • 8:11 - 8:15
    “was"または“is”となるのは
    単数だからですが
  • 8:15 - 8:18
    “Everyone held their breath”は
    しょっちゅう見ます
  • 8:18 - 8:23
    この語法に妥当性を与えるため
    校閲者は「単数のtheir」と呼びます
  • 8:23 - 8:26
    単数と呼べば複数では
    なくなるとでも言うのでしょうかね
  • 8:26 - 8:27
    (笑)
  • 8:27 - 8:33
    こういう用例を見つけたら 取り除くように
    最善を尽くすのが私の仕事です
  • 8:33 - 8:36
    とは言え
    “their”を“her”にはできないし
  • 8:36 - 8:38
    “his”もダメ
  • 8:38 - 8:40
    “his or her”も不適当
  • 8:40 - 8:43
    どれも文脈に馴染まないからです
  • 8:43 - 8:44
    そこで 編集者を通して
  • 8:44 - 8:46
    筆者にこういう代案を提案しました
  • 8:46 - 8:49
    “All in the vicinity held their breath”
    (そこにいた全員が~)
  • 8:49 - 8:51
    “all”(全員)は複数ですからね
  • 8:51 - 8:52
    却下
  • 8:52 - 8:56
    “All those present held their breath”
    (現場の者全員が〜)で再挑戦
  • 8:56 - 8:58
    どことなく裁判の雰囲気が出ます
  • 8:58 - 8:59
    しかし編集者から
  • 8:59 - 9:01
    “present”(現場の)と
    “presence”(存在)は
  • 9:01 - 9:03
    同じ文の中では使えないと言われ
  • 9:03 - 9:05
    最終稿が来たとき
  • 9:05 - 9:08
    “like”は“as”に
    “mic'ed”は“miked”に
  • 9:08 - 9:09
    提案通り直っていましたが
  • 9:09 - 9:13
    “Everyone held their breath”は
    そのままでした
  • 9:13 - 9:15
    3件中2件成功なら
    まあまあです
  • 9:16 - 9:17
    同じ号の
  • 9:17 - 9:20
    フランスのドギーバッグの記事では
  • 9:20 - 9:24
    フランス人男性が必然性もなく
    “F”で始まる罵り言葉を使っています
  • 9:24 - 9:27
    読者からの声が届いたとき
  • 9:27 - 9:30
    クレームが多いのは
    どちらの記事でしょうねぇ
  • 9:30 - 9:31
    (笑)
  • 9:31 - 9:33
    ありがとうございました
  • 9:33 - 9:36
    (拍手)
Title:
ニューヨーカー誌が誇るカンマ・クイーンの重箱の隅をつつく栄光
Speaker:
メアリー・ノリス
Description:

有名雑誌『ザ・ニューヨーカー』での校閲の仕事は、メジャーリーグでショートを守るような役割である、と同社でこのポジションを30年以上務めてきたメアリー・ノリスは言います。つまり、どんな些細な動きでも評論家の目を逃れられないのです。校閲の厳しさで、またカンマ・マニアとしても知られてきたノリスですが、いわれのないことだとも主張します。結局は筆者の面目を守るのが目的なのですから。『ザ・ニューヨーカー』の独特な文章スタイルを、最も熟知しているノリスが魅力たっぷりに語ります。

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Video Language:
English
Team:
closed TED
Project:
TEDTalks
Duration:
09:49

Japanese subtitles

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