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感謝の心を包み、伝える〜FUGURO〜 | 引地恵 | TEDxTohoku

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    皆さんのふるさとは どんなところですか
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    そしてそこに何があるのか 本当に知っていますか
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    宮城県亘理町 仙台から電車で南に40分
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    人口約3万人の 小さな城下町
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    真っ赤で甘いイチゴの産地です
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    私はこの町で生まれ育ちました
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    仙台の高校に通うようになって
    大きな建物や素敵なお店がたくさんあるのに驚いて
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    「亘理って田舎だったんだぁ」って知りました
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    一生懸命標準語で話しても
    隠しきれない訛りが出ちゃって
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    本名じゃなくて「亘理ちゃん」なんて
    呼ばれちゃったりして
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    亘理のことも自分のことも
    なんだかあか抜けなくてかっこ悪くて
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    あまり好きじゃありませんでした
  • 1:21 - 1:26
    2011年2月 私は町役場の職員でした
  • 1:26 - 1:31
    郷土資料館に務めていて
    学芸員として民俗調査に携わり
  • 1:31 - 1:38
    着物というテーマで 古い時代の亘理を知る人たちを
    訪ね歩いていました
  • 1:38 - 1:42
    80過ぎのおばあちゃんがタンスを開けて
  • 1:42 - 1:45
    「こいづさ 私が嫁さ来る時
  • 1:45 - 1:48
    母ちゃんが繭から糸とって 織って
  • 1:48 - 1:50
    仕立ててでけた着物なの
  • 1:50 - 1:56
    もう着ないだげんどさ 元気出したい時に眺める
    お守りなんだ」
  • 1:56 - 1:59
    そう言って見せてくれました
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    何十年もの時を超えて
    かつて養蚕が盛んだった町の歴史
  • 2:04 - 2:08
    嫁入り支度の着物に込めた親の愛
  • 2:08 - 2:13
    それが私に伝わってきて
    とても温かい気持ちになりました
  • 2:13 - 2:18
    でもこの着物はもう着る人がいない
    これからどうなるんだろう
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    そう思ったのも覚えています
  • 2:22 - 2:27
    3月11日 東日本大震災が起きて
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    津波で多くの命が失われました
  • 2:30 - 2:37
    あのおばあさんの家も お守りだった着物も
    波に飲み込まれてしまいました
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    私は支援物資の担当になり
    毎日山のような段ボールに囲まれて
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    必死で復興業務に追われていました
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    そんな最中 父が病でこの世を去りました
  • 2:54 - 2:56
    人々が今まで積み重ねてきた暮らし
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    あの着物のように 心の支えだったものが
    一瞬のうちに消えて
  • 3:02 - 3:06
    仕事も みんなが集まる場所もなくなりました
  • 3:06 - 3:13
    父はもう記憶の中だけの存在で
    それすらも日ごとに薄れていく
  • 3:13 - 3:16
    頭ではね 誰のせいでもないし
    もう起きちゃったことだから
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    しょうがないってわかるんですよね
  • 3:19 - 3:22
    でもやっぱり悔しくて
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    怒りとか悲しみとか色んな気持ちが毎日わいてきて
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    早く消えればいいのにと思うけど消えなくて
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    どうしていいかわからないまま過ごしていました
  • 3:34 - 3:40
    答えが出ないまま 夏には資料館に戻り
    民俗調査を再開しました
  • 3:40 - 3:44
    しばらくたった頃 亘理では昭和の中頃まで
  • 3:44 - 3:50
    家族の着るものは その家の女性たちが
    仕立てていたことを知りました
  • 3:50 - 3:55
    縫うことは女性にとって
    生活の一部だったんです
  • 3:55 - 4:00
    そしてある農家で一つの巾着袋に出会いました
  • 4:00 - 4:06
    亘理に暮らす女性たちは
    着物の残り布で仕立てておいた巾着袋に
  • 4:06 - 4:11
    一升のお米を入れて お祝いやお返し
    手土産にしていました
  • 4:11 - 4:16
    小さな布も大切にして たくさん縫いためて
  • 4:16 - 4:21
    いつでもすぐに「ありがとね」って
    気持ちを手渡していたんです
  • 4:21 - 4:25
    米粒が縫い目に入らないように裏地を付けて
  • 4:25 - 4:30
    口がしっかり閉まって中身がこぼれないように
    紐は両引きにして
  • 4:30 - 4:35
    作り方にも渡す相手への配慮が
    込められていました
  • 4:35 - 4:39
    「ふくろ」が訛って「ふぐろ」
  • 4:39 - 4:42
    「ふぐろ」は私に時間軸を超えて
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    自分とは異次元な生き方
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    感謝を形にする生き方を伝えてくれました
  • 4:50 - 4:53
    私は震災が起きて 父を病気で亡くすまで
  • 4:53 - 4:59
    安全で便利に暮らしていること
    自分も家族も健康で生きていること
  • 4:59 - 5:02
    そんなの当たり前のことだと思っていました
  • 5:02 - 5:09
    失ってみて初めて
    それがどんなにありがたいことだったのかに気付きました
  • 5:09 - 5:11
    いつでも伝えられるからと思って
  • 5:11 - 5:16
    父に「ありがとう」を言うことすら
    後回しにしてきました
  • 5:16 - 5:21
    もう会いたくても会えなくなって
    伝えたくても伝えられなくなって初めて
  • 5:21 - 5:25
    気持ちを形にするって
    大事なんだなぁと気付いたから
  • 5:25 - 5:30
    「ふぐろ」のストーリーがとても心に残りました
  • 5:30 - 5:34
    亘理のちょっと昔の暮らしの中に
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    受け継ぎ 伝えていきたい生き方がある
  • 5:37 - 5:42
    こんなに素晴らしい価値がふるさとに埋もれている
    そう思った時
  • 5:42 - 5:47
    これまで色あせて見えていたふるさとが
    キラキラと輝き始めました
  • 5:47 - 5:52
    思いがけないところで 宝物を見つけました
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    「ふぐろ」に詰まった亘理の女性たちの
    暮らしや生き方を
  • 5:56 - 5:57
    受け継ぎ 伝えたい
  • 5:57 - 6:01
    そのためにこの「ふぐろ」をもう一度甦らせ
  • 6:01 - 6:05
    新しい形で世に送り出したいと思いました
  • 6:05 - 6:10
    そうして誕生したのが
    この新しい「FUGURO」です
  • 6:10 - 6:14
    たくさんの方に実際に使っていただけるように商品にして
  • 6:14 - 6:17
    亘理から広い地域に発信したいと思いました
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    被災して建物を取り壊すことになった
    地元の呉服店から
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    着物の生地を譲り受けて
    妹と友人と製作を開始しました
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    もう時代が変わって使う機会が少なくなった
    古い「ふぐろ」を
  • 6:32 - 6:37
    今の時代に合うものにしようと
    アイデアを出し合い 工夫を凝らしました
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    まず 名前をローマ字にしました
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    ストーリーはそのままに 新たにリメイクしたイメージを
    持たせたかったからです
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    次はデザインです
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    裏地には鮮やかな色を組み合わせました
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    紐の先には可愛らしい飾りを付けて
    現代のファッションにも合うものにしました
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    仕上がりにもこだわりました
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    ステッチをご覧下さい
  • 7:03 - 7:07
    直線には0.5mmのブレもありません
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    私たちに縫い物を教えてくださる地元の先生が
  • 7:11 - 7:16
    「縫い目見ると誰の仕事かわかるよ
    生き様が表れるからね」
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    いつもそうおっしゃいます
  • 7:19 - 7:23
    まっすぐな縫い目には
    「ぶれないものづくりをしていく」という
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    私たちの決意が込められています
  • 7:26 - 7:32
    お客様には 「丁寧で綺麗に仕上げてあって
    使ってても見ててもとても気持ちがいい」
  • 7:32 - 7:35
    と言って頂きます
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    様々な素材の着物地を
    ミシンを使って縫い上げていること
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    表地と裏地に合わせて2色の糸を使っていること
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    そんな細かいところにも気付いていただけた時は
    とっても嬉しいです
  • 7:50 - 7:53
    FUGUROを作り続けて2年半
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    今 始めは予想もしていなかった良い循環が
    三つも地域に生まれています
  • 8:01 - 8:07
    まず一つ目は 文化と技術の伝承の場が
    生まれたことです
  • 8:07 - 8:14
    昔は当たり前だった「ふぐろ」のやり取りも
    「ふぐろ」を縫う人も 今はもう少なくなって
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    このままでは亘理の返礼文化や縫製技術が
    消えてしまいそうでした
  • 8:21 - 8:24
    地元の若い女性たちが おばあちゃんから
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    「小豆3粒包める布は
    捨ててはあがんねよ[ダメだよ]」って
  • 8:28 - 8:33
    端切れも大切にすることを教わりながら
    縫製の技術を学ぶことで
  • 8:33 - 8:40
    地域の文化や技術を次の世代に
    受け継ぐことができるようになりました
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    二つ目は 被災地に新しいコミュニティができたことです
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    あの震災を経験してから
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    「何かあったらすぐ駆けつけられるように
    子どものそばで働きたいんです」
  • 8:51 - 8:54
    そういうお母さんたちが増えました
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    女性が家事や育児
    介護と両立しながら働く為には
  • 8:59 - 9:02
    働く時間を選べる仕組みが必要です
  • 9:02 - 9:05
    あの古い「ふぐろ」は元々 地元の女性が
  • 9:05 - 9:09
    家で空いた時間に手作業で作っていたもの
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    そこに女性のニーズに応じた
    働き方のヒントがありました
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    自宅で自由な時間に「ふぐろ」を縫って
  • 9:17 - 9:21
    納品や研修の度に集まるうちに
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    震災で崩壊したコミュニティが仕事を通して
    再び形になり始めました
  • 9:27 - 9:33
    今では作り手やその子どもたち
    地域の人が集う交流の場になっています
  • 9:33 - 9:42
    三つ目 着物地の価値を高め 再び世に出す
    アップサイクル文化を醸成していることです
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    元々あった古い「ふぐろ」は
    着物地の残り布を再利用したものでした
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    私たちも今 全国から送られる着物地を
    再利用しています
  • 9:53 - 9:59
    日本の衣料品のリサイクル率は20%以下と
    あまり高くありません
  • 9:59 - 10:02
    そんな中で私たちは 昨年1年間で
  • 10:02 - 10:09
    タンスに眠る着物地 段ボールで314箱分
    約2.3トン回収しました
  • 10:09 - 10:15
    それを亘理の女性たちの手で甦らせ
    再び世に送り出しています
  • 10:16 - 10:21
    この度 FUGUROがスイスの高級腕時計メーカー
    ジラール・ベルゴの
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    限定モデルパッケージに採用されました
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    また アメリカのハイエンドなアパレルブランド
    トーマス・ワイルドとコラボ商品も製作
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    女性ファッション誌の25ansで誌上販売もしました
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    こうしてFUGUROのデザインやストーリーが
    少しずつ海外でも認められるようになってきました
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    元々「ふぐろ」は
    ある地域の一つの風習に過ぎないものですが
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    その中には 人と人をつなぐ
    温かい心が詰まっています
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    それは世界に誇れる宝物だと思っています
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    こうして振り返ってみると
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    地域に好い循環をもたらし
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    様々な社会課題を解決するためのヒントは
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    すべて 古い農家で出会った
    あの「ふぐろ」の中にあったのです
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    伝統や文化という地域に根付く価値
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    実はその中に 多くの問題を解決する鍵、力が
    隠されているのかもしれません
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    物事には色んな面がありますよね
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    どの面から見るか どこに視点を当てるかで
    見えるものが変わってきます
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    私は「ふぐろ」に出会ってから
    ふるさとの良いところに目を向けられるようになりました
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    そこで生まれ育った自分の中に
    しっかりと染み込んだ「亘理らしさ」も
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    以前は嫌いで 消してしまいたいと思ったけど
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    今は他の人には無い素敵な個性なんだと
    思えるようになりました
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    そう思えるようになって
    自分自身も 自分を取り巻く世界も
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    大きく変わったと思っています
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    WATALISの事務所には毎日のように
    学校帰りの子どもたちが立ち寄ります
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    地域の伝統や文化に 身近に触れながら育つことは
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    やがてふるさとを誇らしく思う気持ちや
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    生まれ育ったこの地で生きていこうという想いにも
    つながるはずです
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    母親の働く姿を通して
    「本気で一生懸命働くことの尊さ」も
  • 12:27 - 12:32
    必ず伝わっていくと信じています
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    FUGUROに地域の伝統や文化を縫い込んで
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    地域の宝である「感謝を形にする生き方」を
  • 12:44 - 12:49
    お守りのように大切に
    人から人へ たくさんの人へ
  • 12:49 - 12:54
    世界へ そして未来へ
    受け継いでいきたいと思っています
  • 12:54 - 12:58
    どうもありがとうございます
Title:
感謝の心を包み、伝える〜FUGURO〜 | 引地恵 | TEDxTohoku
Description:

宮城県亘理町(わたりちょう)の女性たちはかつて、思いのこもった着物を捨てず、切れ端から「ふぐろ」という巾着を作り、何かお礼をするときに米などと一緒に渡していたといいます。時代の流れとともに廃れていったこの風習が、震災により多くのものを失った亘理町で今、引地さんの取り組みにより新たな姿でよみがえっています。そしてその新しい「FUGURO」が包んでいるのは、感謝の心と、アイディアと、そして・・・

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Video Language:
Japanese
Team:
closed TED
Project:
TEDxTalks
Duration:
13:08

Japanese subtitles

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