1 00:00:09,229 --> 00:00:12,271 「木を見て森を見ない」人はいますが 2 00:00:12,271 --> 00:00:18,533 スティーブン・シレットより先に 木の中の森を想像できた人はいません 3 00:00:18,533 --> 00:00:21,644 スティーブンは幼い頃から 新しい世界の探検家でした 4 00:00:21,644 --> 00:00:24,505 ペンシルべニア州のハリスバーグで 少年時代を過ごし 5 00:00:24,505 --> 00:00:28,229 トールキンを読み 兄のスコットと RPGゲームで遊んだりしました 6 00:00:28,229 --> 00:00:32,428 シレット一家がゲティスバーグ近くの 祖父母の家を訪ねると 7 00:00:32,428 --> 00:00:34,320 祖母のヘレン・ポー・シレットが 8 00:00:34,320 --> 00:00:38,606 近くの山や森へ バードウォッチングしに 兄弟を連れて行ったものです 9 00:00:38,606 --> 00:00:40,522 シレット・ポーおばあちゃんは 10 00:00:40,522 --> 00:00:44,876 小鳥や植物 さらには地衣類という 石や木の幹の日陰側をおおう 11 00:00:44,876 --> 00:00:51,029 カーペットのシミのような生物の 見分け方を教えてくれました 12 00:00:51,029 --> 00:00:54,193 兄弟は上を眺めながら 天職を見つけました 13 00:00:54,193 --> 00:00:58,141 スコットは渡り鳥を専門に研究する 科学者になりました 14 00:00:58,141 --> 00:01:01,140 スティーブンは木のほうに興味を持ちました 15 00:01:01,140 --> 00:01:04,612 枝や葉の絡みが彼の好奇心を 駆立てました 16 00:01:04,612 --> 00:01:06,806 あの上には何が隠れているんだろう? 17 00:01:06,806 --> 00:01:10,676 大学に入学する頃には その好奇心は上の方へと向かいました 18 00:01:10,676 --> 00:01:16,140 世界で一番高い木 北カリフォルニアの古いセコイアです 19 00:01:16,140 --> 00:01:18,680 セコイアの幹は直径6メートルにもなり 20 00:01:18,680 --> 00:01:25,132 2千年以上の生涯をかけて ビルの38階に 相当する120メートルにまで育ちます 21 00:01:25,132 --> 00:01:29,616 ですが その天然の摩天楼の頂上を 調べようとは誰も考えませんでした 22 00:01:29,616 --> 00:01:32,183 あの頂上には枝以外に何があるのだろう? 23 00:01:32,183 --> 00:01:34,914 スティーブンは自分で調べることに しました 24 00:01:34,914 --> 00:01:39,712 1987年 スティーブンと兄のスコット 友人のマーウッドは 25 00:01:39,712 --> 00:01:41,355 オレゴン州のリードカレッジから 26 00:01:41,355 --> 00:01:45,207 北カリフォルニアにある州立公園へ 車で向かいました 27 00:01:45,207 --> 00:01:49,441 公園の奥深くで スティーブンは見つけた中で 最も高いセコイアを選びました 28 00:01:49,441 --> 00:01:52,606 一番低い枝でも 30メートルほどの高さの所にあり 29 00:01:52,606 --> 00:01:54,456 全く手が届きません 30 00:01:54,456 --> 00:01:59,135 そこで彼は その木の隣にある もっと若くて 低いセコイアに目をつけました 31 00:01:59,135 --> 00:02:02,658 助走をつけて飛び上がり 一番低い枝を掴みました 32 00:02:02,658 --> 00:02:05,378 ぐいっと体を引き上げて 木に駆け上がりました 33 00:02:05,378 --> 00:02:07,972 ロープや安全帯も着けていないので 34 00:02:07,972 --> 00:02:10,388 一歩踏み外せば死に至ります 35 00:02:10,388 --> 00:02:12,434 それでも彼は上へと進み 頂上に達すると 36 00:02:12,434 --> 00:02:17,162 体を揺らして 目的のセコイアの枝へ飛び移り 37 00:02:17,162 --> 00:02:20,021 まだ誰も見たことのない世界に 足を踏み入れました 38 00:02:20,021 --> 00:02:21,926 友人のマーウッドもついて来ました 39 00:02:21,926 --> 00:02:25,718 2人の青年はセコイアの頂上まで 登り切りました 40 00:02:25,718 --> 00:02:29,436 スティーブンは 子供の頃に祖母が 教えてくれた地衣類を見つけました 41 00:02:29,436 --> 00:02:33,355 上に行くほど木の枝が太くなることに 気がつきました 42 00:02:33,355 --> 00:02:35,451 多くの木では見られないことです 43 00:02:35,451 --> 00:02:38,313 太い枝の上には針葉樹の落ち葉や樹皮 他の植物のくず 44 00:02:38,313 --> 00:02:43,020 空から降る埃などでできた湿った土壌が 45 00:02:43,020 --> 00:02:45,619 何センチにも積もっていました 46 00:02:45,619 --> 00:02:47,465 彼はさらに 主幹から 47 00:02:47,465 --> 00:02:50,705 新しい幹が生える「複製」に気づきました 48 00:02:50,705 --> 00:02:53,316 セコイアが自分のコピーを 作り出していたのです 49 00:02:53,316 --> 00:02:55,098 スティーブンは頂上に到達すると 50 00:02:55,098 --> 00:02:58,714 枝と葉が交差してできた 台のような場所で休憩しました 51 00:02:58,714 --> 00:03:02,481 土壌には 熟した実をつけた ハックルベリーが育っていました 52 00:03:02,481 --> 00:03:05,162 それを少し食べながら友人を待ちました 53 00:03:05,162 --> 00:03:09,897 スティーブンは地上100メートルもの高さに 新しい世界を発見したのです 54 00:03:09,897 --> 00:03:14,044 やっと安全装備をするようになり 他の古いセコイアをさらに探検しました 55 00:03:14,044 --> 00:03:17,502 森全体の樹冠にある枝や 主幹から伸びる幹の構造を 56 00:03:17,502 --> 00:03:21,733 調査し計測しました 57 00:03:21,733 --> 00:03:25,383 彼は地球上で一番高い木の生態系や 樹冠における生物多様性の豊かさ 58 00:03:25,383 --> 00:03:31,330 つまり それまで誰も想像しなかった 「空中」の生態系に関する専門家になりました 59 00:03:31,330 --> 00:03:36,146 そこにはシダや菌類もいます また 通常は地上で育つー 60 00:03:36,146 --> 00:03:39,008 ベイマツ ツガ タンオークなどの 着生植物もいます 61 00:03:39,008 --> 00:03:42,062 これらは豊かで湿った土壌に 根を張る植物です 62 00:03:42,062 --> 00:03:48,885 蟻 マルハナバチ ダニ 甲虫 ミミズや 水生甲殻類のカイアシといった無脊椎動物が 63 00:03:48,885 --> 00:03:51,413 ツツジやカラント ニワトコなどの 64 00:03:51,413 --> 00:03:54,427 顕花植物の茂みに 住み着いています 65 00:03:54,427 --> 00:03:58,419 ミサゴやニシアメリカフクロウ カケスが樹冠で餌を探し 66 00:03:58,419 --> 00:04:00,908 太平洋に住む渡り鳥の マダラウミスズメは 67 00:04:00,908 --> 00:04:04,003 巣を作るために遠くから 海を渡ってきます 68 00:04:04,003 --> 00:04:06,975 リスやハタネズミが頂上の巣から 顔を出しています 69 00:04:06,975 --> 00:04:10,782 なかでも頂点捕食者はパワフルな ワンダリングサラマンダーです 70 00:04:10,782 --> 00:04:14,393 シレットの研究は人々の 高い木に対する見方を変え 71 00:04:14,393 --> 00:04:16,939 木々の保護の正当性を裏付けました 72 00:04:16,939 --> 00:04:19,378 それは 印象的な ひとつの生物としてだけでなく 73 00:04:19,378 --> 00:04:22,234 無数の種の棲み家としてです 74 00:04:22,234 --> 00:04:25,283 木の枝や葉を見上げるときは 問いかけてみてください 75 00:04:25,283 --> 00:04:26,992 「その上には他に何があるんだろう」 76 00:04:26,992 --> 00:04:31,254 新しい世界には少しだけ届かないかも だからジャンプしてみましょう