WEBVTT 00:00:08.597 --> 00:00:13.789 あなたは筋肉を痛めてしまい 炎症による激痛に耐えかねています 00:00:13.789 --> 00:00:16.807 痛みを和らげるために 何か冷たいものがあればと思います 00:00:16.807 --> 00:00:21.305 でもアイスパックを使うためには何時間も前に 冷凍庫に入れておく必要がありました 00:00:21.305 --> 00:00:23.420 幸運なことに別の方法があります 00:00:23.420 --> 00:00:28.057 冷却パックは必要になるまで 常温で保存することができて 00:00:28.057 --> 00:00:33.834 使用法に従いパックを割ると わずか数秒でひんやりしてきます 00:00:33.834 --> 00:00:37.141 でも どうやったら そんなに短い時間で温度が 00:00:37.141 --> 00:00:38.927 常温から氷結温度近くまで 下がるのでしょう? 00:00:38.927 --> 00:00:41.434 その答えは化学にあります 00:00:41.434 --> 00:00:44.404 冷却パックには水と固体の物質― 00:00:44.404 --> 00:00:49.657 ふつうは硝酸アンモニウム ― が 壁を隔てて個別に収納されています 00:00:49.657 --> 00:00:52.588 分離していた壁が壊れると 固体が水に溶け 00:00:52.588 --> 00:00:55.644 吸熱反応という化学反応が起き 00:00:55.644 --> 00:00:58.521 周りから熱を吸収します 00:00:58.521 --> 00:01:00.598 この現象を理解するには 00:01:00.598 --> 00:01:04.538 化学反応の背後にある 2つの仕組みを理解しなければなりません 00:01:04.538 --> 00:01:07.186 エネルギー論とエントロピーです 00:01:07.186 --> 00:01:13.027 これらが系の変化や エネルギーの流れを決定づけます 00:01:13.027 --> 00:01:17.380 化学において エネルギー論は 分子レベルでの粒子の 00:01:17.380 --> 00:01:20.317 引力と斥力を扱います 00:01:20.317 --> 00:01:26.184 尺度がとても小さいので グラス一杯の水には 00:01:26.184 --> 00:01:29.454 宇宙にあるとされる星よりも 多い数の水分子が入っています 00:01:29.454 --> 00:01:31.527 これら何兆もの分子は 00:01:31.527 --> 00:01:36.181 さまざまな速さで たえず動き、振動し、回転しています 00:01:36.181 --> 00:01:39.785 温度とは これらの分子の平均的な動き 00:01:39.785 --> 00:01:42.800 あるいは運動エネルギーと 考えることができます 00:01:42.800 --> 00:01:46.906 運動の量が多ければ温度が高くなり 00:01:46.906 --> 00:01:48.732 その逆も成り立ちます 00:01:48.732 --> 00:01:51.596 いかなる化学反応においても 熱の流れは 00:01:51.596 --> 00:01:54.836 それぞれの物質の化学的な状態における 00:01:54.836 --> 00:01:57.910 粒子の相互作用の 相対的な強弱によって決まります 00:01:57.910 --> 00:02:00.761 粒子間に強い引力が働くと 00:02:00.761 --> 00:02:03.843 お互いを素早く引き寄せます そして近くなりすぎると 00:02:03.843 --> 00:02:07.614 今度は斥力がお互いを引き離します 00:02:07.614 --> 00:02:09.693 最初の引き寄せる力が十分に強ければ 00:02:09.693 --> 00:02:13.286 このように 近づいたり離れたりと 振動を繰り返します 00:02:13.286 --> 00:02:16.384 引力が強いほど振動の速度も速く 00:02:16.384 --> 00:02:18.764 熱とは本質的に粒子の動きなので 00:02:18.764 --> 00:02:22.463 相互作用がより強くなるような状態に 物質が変化すると 00:02:22.463 --> 00:02:24.150 系の温度は上がります 00:02:24.150 --> 00:02:26.437 しかし冷却パックでは 逆のことが起きています 00:02:26.437 --> 00:02:29.209 つまり固体の物質が水に溶けると 00:02:29.209 --> 00:02:33.336 固体の粒子と水の分子との相互作用は 00:02:33.336 --> 00:02:37.363 それぞれの状態でいた時よりも弱くなるのです 00:02:37.363 --> 00:02:40.741 これにより双方の粒子の 平均速度が緩やかになり 00:02:40.741 --> 00:02:42.492 溶液全体は冷えるということです 00:02:42.492 --> 00:02:47.051 しかし 物質が相互作用が弱い状態に 変化するのはなぜでしょう? 00:02:47.051 --> 00:02:51.228 もともとの相互作用が強ければ 固体が溶けるのを妨ぐのでは? 00:02:51.228 --> 00:02:53.380 ここでエントロピーの登場です 00:02:53.380 --> 00:02:56.271 エントロピーは ランダムな動きによって 00:02:56.271 --> 00:02:59.825 物質やエネルギーが 分布している様を表します 00:02:59.825 --> 00:03:03.535 部屋の中の空気の場合 これを構成する何兆もの粒子は 00:03:03.535 --> 00:03:05.902 多くの異なる並び方が可能です 00:03:05.902 --> 00:03:09.317 ある並び方では部屋の片隅に すべての酸素分子がかたより 00:03:09.317 --> 00:03:11.898 もう片隅に窒素の分子が かたまるかもしれません 00:03:11.898 --> 00:03:14.513 しかしバラバラに散らばっている 可能性の方が断然高いので 00:03:14.513 --> 00:03:17.700 空気はいつもバラバラに 混ざった状態で見出されます 00:03:17.700 --> 00:03:20.976 さて粒子間の引力が強い場合 00:03:20.976 --> 00:03:24.209 いくつかの並び替えの確率が 変わることがあり 00:03:24.209 --> 00:03:28.290 物質が混ざる確率を グンと下げることもあります 00:03:28.290 --> 00:03:31.250 油と水が混ざらないのはこの例です 00:03:31.250 --> 00:03:35.196 硝酸アンモニウムなど 冷却パックに使われている物質の場合 00:03:35.196 --> 00:03:38.619 引き合う力は確率を変えるほどは強くなく 00:03:38.619 --> 00:03:42.625 ランダムな動きが 固体を構成する粒子をバラバラにし 00:03:42.625 --> 00:03:47.313 水に溶けることで 固体には戻らなくなります 00:03:47.313 --> 00:03:50.895 簡単に言えば 冷却パックが冷えるのは ランダムな動きが 00:03:50.895 --> 00:03:55.470 固体と水が混合する 組み合わせをより多く作り出し 00:03:55.470 --> 00:03:59.220 これらの組み合わせでは 粒子の相互作用がより弱いため 00:03:59.220 --> 00:04:00.700 平均的にみた粒子の動きが鈍くなり 00:04:00.700 --> 00:04:05.193 未開封の冷却パックよりも 熱量が少なくなるからです 00:04:05.193 --> 00:04:08.122 つまりエントロピーがもたらす乱雑さが 00:04:08.122 --> 00:04:10.513 あなたの怪我のもとに なったかもしれませんが 00:04:10.513 --> 00:04:14.948 その痛みを和らげる心地よい冷たさを 生み出して くれてもいるのです