WEBVTT 00:00:06.969 --> 00:00:11.366 人間の脳は世界で最も 精巧な器官のひとつです 00:00:11.366 --> 00:00:14.157 数十億もの神経細胞で構成された スーパーコンピュータで 00:00:14.157 --> 00:00:18.833 私たちのすべての感覚 思考 そして行動を処理・統制します 00:00:19.303 --> 00:00:23.587 しかしチャールズ・ダーウィンを もっと驚愕させたものがあります 00:00:23.587 --> 00:00:26.793 蟻の脳です ダーウィンの言葉を借りれば 00:00:26.793 --> 00:00:30.792 「世界でもっとも素晴らしい 原子の集合体のひとつ」です 00:00:31.882 --> 00:00:35.006 あんなに小さい生き物が 複雑な脳を持つなんて 00:00:35.006 --> 00:00:36.556 にわかには 信じられないでしょう 00:00:36.556 --> 00:00:37.969 みんなそう思います 00:00:37.969 --> 00:00:41.897 すべての生物を分類しようと試みた 自身のプロジェクトにおいて 00:00:41.897 --> 00:00:47.665 スウェーデンの博物学者カール・リンネは 昆虫には脳がないと思っていました 00:00:48.205 --> 00:00:51.069 彼は間違っていましたが 無理もありません 00:00:51.069 --> 00:00:53.549 昆虫の脳は とても小さいというだけでなく 00:00:53.549 --> 00:00:57.568 いろいろな面で人間の脳とは 機能が異なるからです 00:00:57.568 --> 00:00:59.735 もっとも著しい違いのひとつは 00:00:59.735 --> 00:01:04.072 昆虫は頭部が切断されても 歩いたり 00:01:04.072 --> 00:01:05.173 脚で体を掻いたり 00:01:05.173 --> 00:01:06.037 呼吸したり 00:01:06.037 --> 00:01:08.065 飛ぶことさえできるということです 00:01:08.065 --> 00:01:11.544 これは 人間の神経系統が たとえるなら君主制で 00:01:11.544 --> 00:01:13.314 脳が全ての権力を握っているのに対し 00:01:13.314 --> 00:01:18.019 昆虫の神経系統は権力が分散した 連邦政府のように振る舞うからです 00:01:18.519 --> 00:01:22.023 歩行や呼吸というような 昆虫の活動の多くは 00:01:22.023 --> 00:01:26.215 神経節と呼ばれる 体内を走る神経細胞の束により 00:01:26.215 --> 00:01:28.153 統制されています 00:01:28.153 --> 00:01:33.176 頭部にある脳とともに 体部それぞれにある 神経節が昆虫の神経系を構成します 00:01:33.816 --> 00:01:37.328 その神経節だけでも いろいろな動作が可能ですが 00:01:37.328 --> 00:01:39.636 生き残るには 脳も必要不可欠です 00:01:39.636 --> 00:01:43.553 昆虫の脳は 視覚と嗅覚を通して 世界の認識を可能にします 00:01:43.553 --> 00:01:45.497 また 適切なパートナーを選択し 00:01:45.497 --> 00:01:48.745 食料や巣の場所を記憶し 00:01:48.745 --> 00:01:50.412 コミュニケーションを制御し 00:01:50.412 --> 00:01:54.408 超長距離の進路決定さえも 統制するのです 00:01:54.928 --> 00:01:57.556 このように とても幅広い種類の行動を 00:01:57.556 --> 00:02:01.589 100万個未満の脳細胞からなる ピンの頭の大きさ程度の器官で 00:02:01.589 --> 00:02:03.688 統率しているのです 00:02:03.688 --> 00:02:06.428 これに対して人間の脳細胞の数は 860億個です 00:02:06.698 --> 00:02:10.913 昆虫の脳は人間とは大きく違う 構造を持つものの 00:02:10.913 --> 00:02:13.143 驚くほど似ている点もあります 00:02:13.143 --> 00:02:17.683 例えば ほとんどの昆虫の嗅覚器官は 触覚の先にあります 00:02:17.683 --> 00:02:20.443 これは人間の鼻と似ています 00:02:20.443 --> 00:02:25.726 また 脳で嗅覚を司る主要な部位は 昆虫も人間も似たような構造と機能を持ちます 00:02:25.726 --> 00:02:30.494 特定の匂いのコードに対応して 神経細胞の集まりが正確なタイミングで 00:02:30.494 --> 00:02:32.792 活性化および不活性化するのです 00:02:33.322 --> 00:02:36.349 科学者たちはこのような類似性に 驚かされっぱなしです 00:02:36.349 --> 00:02:40.055 なぜなら昆虫と人間は かけ離れた種だからです 00:02:40.055 --> 00:02:44.455 最後の共通の祖先は 5億年以上も前に生きていた— 00:02:44.455 --> 00:02:47.305 単純なミミズのような生物でした 00:02:47.585 --> 00:02:50.576 まったく異なる進化の道を辿ったのに どうして 00:02:50.576 --> 00:02:54.268 こんなに似通った脳の構造を 持つようになったのでしょうか? 00:02:54.608 --> 00:02:58.275 科学者たちはこの現象を 「収斂(しゅうれん)進化」と呼びます 00:02:58.275 --> 00:03:04.417 鳥類 コウモリ 蜂がそれぞれ別々に 羽を進化させた原理と同じです 00:03:04.417 --> 00:03:07.740 同じような「淘汰(とうた)圧」があると 00:03:07.740 --> 00:03:10.661 大きく異なる進化の歴史を持つ種でも 00:03:10.661 --> 00:03:14.435 自然淘汰が 同じ進化的戦略に 味方することがあります 00:03:14.935 --> 00:03:18.818 昆虫の脳と人間の脳を 比較研究することで 00:03:18.818 --> 00:03:23.678 脳のどの機能が種固有のもので 00:03:23.678 --> 00:03:27.716 どの機能が進化における 汎用的な解なのか理解できるでしょう 00:03:27.716 --> 00:03:32.657 しかし科学者たちが昆虫の脳に 興味津々な理由はこれだけではありません 00:03:32.657 --> 00:03:36.466 その小ささと構造の単純さから 神経細胞が脳内でどのように相互作用するのか 00:03:36.466 --> 00:03:39.526 より理解しやすくなっています 00:03:40.056 --> 00:03:42.327 エンジニアにとっても有用です 00:03:42.327 --> 00:03:46.197 昆虫の脳を調べることが 自動操縦飛行機や 00:03:46.197 --> 00:03:51.818 小さなゴキブリ型救援救助ロボットなどの 制御システムの設計に役立っています 00:03:52.348 --> 00:03:56.465 このとおり 大きさと複雑さだけが必ずしも 一番偉いということはありません 00:03:56.465 --> 00:03:58.977 今度ハエたたきでハエを叩く前に 00:03:58.977 --> 00:04:03.589 ちょっとだけ その小さな神経系の 抜群な効率を思い出して感心しましょう 00:04:03.589 --> 00:04:06.719 あなたの高級な脳の 裏をかいて逃げる前にね