1 00:00:01,461 --> 00:00:07,177 もし私が この写真は 喜んでいる顔だと言ったら 2 00:00:07,177 --> 00:00:09,968 クレイジーだと感じるかもしれません 3 00:00:10,678 --> 00:00:11,918 でも怒ったりしません 4 00:00:11,918 --> 00:00:16,172 この北極での自撮り写真を見ると いつも寒気がします 5 00:00:16,920 --> 00:00:19,919 今日はこの写真について お話しします 6 00:00:19,919 --> 00:00:23,485 ノルウェーのロフォーテン諸島周辺で 泳いでおり 7 00:00:23,485 --> 00:00:25,190 北極圏の内側にありますが 8 00:00:25,190 --> 00:00:28,348 水は凍結寸前です 9 00:00:28,348 --> 00:00:32,179 空気は冷たく マイナス10度 10 00:00:32,179 --> 00:00:38,425 そして文字通り手・脚・顔から 血の気が引いていくのを感じます 11 00:00:38,425 --> 00:00:40,375 重要な臓器を守るためです 12 00:00:40,375 --> 00:00:42,149 経験した中で最低の気温です 13 00:00:43,069 --> 00:00:47,921 唇は腫れて 目はくぼみ 頬は赤くなりましたが 14 00:00:47,921 --> 00:00:53,867 ここは とても楽しい所だと気付いたのです 15 00:00:54,562 --> 00:00:57,627 ところで 痛みに関して 心理学者のブロック・バスティアンは 16 00:00:57,627 --> 00:00:59,972 最も適切な表現をしたと思います 17 00:00:59,972 --> 00:01:02,549 「痛みとは集中力への近道である 18 00:01:02,549 --> 00:01:06,218 周りにある全ての物を気付かせてくれる 19 00:01:06,218 --> 00:01:08,192 容赦なく 20 00:01:08,192 --> 00:01:12,718 瞑想のような世界の気付きへと導いてくれる」 21 00:01:13,047 --> 00:01:16,537 身震いが瞑想の形だとすれば 私は修道士と言えるでしょう 22 00:01:16,537 --> 00:01:17,387 (笑) 23 00:01:17,387 --> 00:01:22,676 身も凍る海でサーフィンをしたい と何故 誰も思わなかったのか 24 00:01:22,676 --> 00:01:23,981 という話の前に 25 00:01:23,981 --> 00:01:26,558 映像をお見せしたいと思います 26 00:01:26,558 --> 00:01:29,162 私の一日です 27 00:01:29,832 --> 00:01:35,799 (音楽) 28 00:02:16,017 --> 00:02:19,544 良い波を探しているけど 29 00:02:19,544 --> 00:02:22,424 予測不能だと思う 30 00:02:22,424 --> 00:02:24,095 震えが止まらない 31 00:02:24,095 --> 00:02:25,919 とても寒い 32 00:02:28,344 --> 00:02:31,432 (音楽) 33 00:02:31,432 --> 00:02:34,185 (拍手) 34 00:02:36,135 --> 00:02:39,804 サーフィンの写真家です 35 00:02:39,804 --> 00:02:42,708 果たして そんな肩書きがあるのか 分かりません 36 00:02:42,708 --> 00:02:44,844 両親は認めてくれませんでした 37 00:02:44,844 --> 00:02:49,718 19才のとき この夢の仕事をする為 仕事を辞めるんだと言った時です 38 00:02:49,718 --> 00:02:54,294 青い空 温暖なトロピカルビーチ そして一年中残る日焼け 39 00:02:54,294 --> 00:02:58,125 これ以上は望めない無い生活です 40 00:02:58,125 --> 00:03:02,769 魅力的な観光地の誘惑に負けず サーファーを撮影するのです 41 00:03:02,769 --> 00:03:04,510 でも一つだけ問題があります 42 00:03:04,510 --> 00:03:08,109 魅力的な土地を旅する程に 43 00:03:08,109 --> 00:03:10,534 満足感は減っていくのです 44 00:03:11,104 --> 00:03:14,909 冒険を探し始めても 辿り着くのはありふれた場所で 45 00:03:15,679 --> 00:03:20,439 それは Wi-Fi ・テレビ・高級料理や いつでも繋がる携帯電話がある 46 00:03:20,439 --> 00:03:23,411 有名な観光地の証でした 47 00:03:23,411 --> 00:03:25,709 水の中も外もです 48 00:03:25,709 --> 00:03:29,376 そしてすぐに息苦しくなりました 49 00:03:31,106 --> 00:03:35,223 そしてより広大な自然を求めはじめ 50 00:03:35,223 --> 00:03:38,665 誰も記していない場所を探し始めました 51 00:03:38,665 --> 00:03:42,543 とても寒く とても辺ぴで サーフィンには危険すぎる 52 00:03:42,543 --> 00:03:45,353 このチャレンジにそそられました 53 00:03:45,353 --> 00:03:49,485 平凡への革命という挑戦を始めたのです 54 00:03:49,485 --> 00:03:52,109 一つ気付いたことがあります 55 00:03:52,109 --> 00:03:53,961 どんな職業でも言えることかもしれません 56 00:03:53,961 --> 00:03:57,722 サーフィンの写真家は一見華やかに見えますが 57 00:03:57,722 --> 00:04:00,148 単調になる危険があります 58 00:04:00,648 --> 00:04:03,702 この退屈さを壊す方法を 探しながら気付いたのは 59 00:04:03,702 --> 00:04:06,656 暖い海は地球上の海の 3分の1しかありません 60 00:04:06,656 --> 00:04:09,587 赤道周囲の狭い海域だけです 61 00:04:09,587 --> 00:04:12,095 完璧な波を探しに行こうと思えば 62 00:04:12,095 --> 00:04:14,672 寒いところに行くことにもなるでしょう 63 00:04:14,672 --> 00:04:16,553 海は最悪に荒れているかもしれません 64 00:04:16,553 --> 00:04:19,246 そしてそれは事実であると判りました 65 00:04:19,246 --> 00:04:21,777 初めて行った アイスランドで 66 00:04:21,777 --> 00:04:24,496 求めていたものを見付けたと感じました 67 00:04:24,846 --> 00:04:28,023 自然の美しい風景に圧倒されました 68 00:04:28,023 --> 00:04:32,219 しかし重要なのは こんな辺境の地で 69 00:04:32,219 --> 00:04:35,229 完璧な波を見つけられると思わなかったことです 70 00:04:35,639 --> 00:04:37,915 そして浜に到着すると 71 00:04:37,915 --> 00:04:41,018 海岸線にはびっくりする程 大量の氷がありました 72 00:04:41,018 --> 00:04:43,371 サーフィンへの障壁です 73 00:04:43,371 --> 00:04:45,761 迷路のような氷をぬって行くのです 74 00:04:45,761 --> 00:04:47,348 波打ち際まで出て 75 00:04:47,348 --> 00:04:48,473 海に入ると 76 00:04:48,473 --> 00:04:51,511 波に乗るために氷を押し退けて進むのです 77 00:04:51,511 --> 00:04:55,468 とてつもない経験です 一生忘れられないでしょう 78 00:04:55,468 --> 00:04:58,254 このような厳しい環境下で 79 00:04:58,254 --> 00:05:02,976 「最後の静寂な所」に 偶然辿り着いたと感じました 80 00:05:02,976 --> 00:05:05,991 頭脳が鮮明になり世界と繋がりを感じます 81 00:05:05,991 --> 00:05:08,913 混雑した海では得られません 82 00:05:10,073 --> 00:05:13,231 もう病み付きです (笑) 83 00:05:13,231 --> 00:05:16,087 絶えず冷たい水が意識にあります 84 00:05:16,087 --> 00:05:17,399 それからというもの 85 00:05:17,399 --> 00:05:20,729 このような厳しい環境に焦点を合わせていて 86 00:05:20,729 --> 00:05:24,605 ロシア・ノルウェー・アラスカ アイスランド・チリ 87 00:05:24,605 --> 00:05:27,534 フェロー諸島などに行きました 88 00:05:27,534 --> 00:05:30,552 これらの土地で好きなところは 89 00:05:30,552 --> 00:05:34,453 単に挑戦であること そして辿り着くまでの創造性です 90 00:05:34,453 --> 00:05:36,659 Google Earth で何日も何週間も 91 00:05:36,659 --> 00:05:40,828 辿り着けそうな 辺境の 岩礁や浜を探索します 92 00:05:41,418 --> 00:05:44,848 そして目的地に辿り着けば 乗り物まで創造的です 93 00:05:44,848 --> 00:05:47,757 スノーモービルや 6輪のソビエト製装甲車 94 00:05:47,757 --> 00:05:51,054 そして 超不安なヘリコプター 95 00:05:51,054 --> 00:05:53,260 (笑) 96 00:05:53,260 --> 00:05:55,920 ヘリコプターは本当に恐怖でした 97 00:05:56,510 --> 00:05:59,208 ここではボートに乗って 激流を登りました 98 00:05:59,208 --> 00:06:02,198 バンクーバー島の 人里離れたサーフ場では 99 00:06:02,198 --> 00:06:04,777 どうすることもできず 見守ることしかできません 100 00:06:04,777 --> 00:06:07,168 熊がテントを破壊するところをです 101 00:06:07,168 --> 00:06:10,188 熊は食料とテントの一部を持って行きました 102 00:06:10,188 --> 00:06:13,400 食物連鎖の最下層にいることを 思い知らされました 103 00:06:13,400 --> 00:06:15,527 彼等の場所で我々のものではないのです 104 00:06:15,527 --> 00:06:17,454 でも この旅は 105 00:06:17,454 --> 00:06:22,046 賑やかなビーチと引き換えに得た 野生の証しと言えます 106 00:06:24,066 --> 00:06:28,120 これはノルウェーに行ったときの写真です 107 00:06:28,123 --> 00:06:31,204 寒いということを本当に理解しました 108 00:06:32,294 --> 00:06:34,206 そう ここは 109 00:06:34,206 --> 00:06:37,573 世界で最も強烈な嵐が発生し 110 00:06:37,573 --> 00:06:40,627 海岸線に巨大な波が押し寄せる場所です 111 00:06:40,627 --> 00:06:44,605 北極圏にある僻地のフィヨルドにいます 112 00:06:44,605 --> 00:06:47,151 人間より羊の個体数が断然多く 113 00:06:47,151 --> 00:06:50,201 助けを求めたくても呼べません 114 00:06:50,936 --> 00:06:53,151 サーファーの写真を撮る為に 海中にいたところ 115 00:06:53,151 --> 00:06:55,281 雪が降り始めました 116 00:06:56,241 --> 00:06:59,867 そして気温が下り始めたのです 117 00:07:00,458 --> 00:07:03,843 地上に上がるべきではない と言い聞かせました 118 00:07:03,843 --> 00:07:07,437 わざわざ旅をして 待ちに待った状況だろう 119 00:07:07,437 --> 00:07:09,519 凍て付く状況と完璧な波だ 120 00:07:09,519 --> 00:07:12,537 シャッターを切る指は 感覚がなくなっていましたが 121 00:07:12,537 --> 00:07:14,049 出ないと決めたのです 122 00:07:14,049 --> 00:07:16,842 指を動かしたり できることはやりました 123 00:07:16,842 --> 00:07:18,525 気付いたときには 124 00:07:18,525 --> 00:07:20,644 谷から吹き荒れる風に打たれ 125 00:07:20,644 --> 00:07:26,056 小降りだった雪は吹雪に変りました 126 00:07:26,058 --> 00:07:30,226 そして視界はなくなりました 127 00:07:30,932 --> 00:07:34,092 沖に流されているのか岸に向かっているのか さっぱりわかりませんでした 128 00:07:34,095 --> 00:07:38,047 かすかに聞こえるカモメの声と 129 00:07:38,047 --> 00:07:40,170 押し寄せる波で何とかなりました 130 00:07:40,810 --> 00:07:45,646 ここは船が沈没したり 飛行機が墜落する有名な場所です 131 00:07:45,646 --> 00:07:50,037 漂っている間は少し不安にもなりましたが 132 00:07:50,609 --> 00:07:52,977 実際びびってました 133 00:07:52,977 --> 00:07:56,414 (笑) そして低体温症の直前で 134 00:07:56,414 --> 00:07:59,595 友人に助け出してもらいました 135 00:07:59,595 --> 00:08:02,752 精神錯乱状態になっていたのかもしれません 136 00:08:02,752 --> 00:08:04,912 後になって教えてもらったのですが 137 00:08:04,912 --> 00:08:09,091 ずっと笑っていたようです 138 00:08:10,415 --> 00:08:12,528 これが私の旅です 139 00:08:12,528 --> 00:08:16,312 まさにこの経験を通して感じたことは 140 00:08:16,312 --> 00:08:20,272 貴重な写真は全て 141 00:08:20,272 --> 00:08:24,302 その瞬間に追い込まれたからこそ 得られたものだからです 142 00:08:25,352 --> 00:08:30,257 そしてこの身震いする寒さは 人生において 143 00:08:30,257 --> 00:08:34,270 喜びは近道しては得られない ことを教えてくれました 144 00:08:35,120 --> 00:08:38,893 追いかける価値があるものは 苦しみを必要とするかもしれない 145 00:08:38,893 --> 00:08:40,855 少しだけです 146 00:08:40,855 --> 00:08:44,547 ほんの少しの苦しみが この写真にあります 147 00:08:44,547 --> 00:08:47,844 苦しみは私の仕事に価値を与え より意味のあるものになります 148 00:08:47,844 --> 00:08:50,180 雑誌のページを埋めることよりもです 149 00:08:51,900 --> 00:08:58,208 厳しい環境に自分の身を置いて 150 00:08:58,208 --> 00:09:00,755 ずっと探していた 151 00:09:00,755 --> 00:09:05,046 充足感の様な物を持ち帰れるのです 152 00:09:06,326 --> 00:09:09,298 この写真を見返すと 153 00:09:09,298 --> 00:09:14,018 凍り付いた指と冷いウエットスーツを 思い出します 154 00:09:14,018 --> 00:09:17,082 そこに辿り着くまでの 苦労さえ思い出します 155 00:09:17,082 --> 00:09:21,128 でも何よりも感じるのは 喜びです 156 00:09:21,935 --> 00:09:23,996 ありがとうございました 157 00:09:23,996 --> 00:09:29,383 (拍手)