1 00:00:00,709 --> 00:00:02,235 私達は活字を 2 00:00:02,235 --> 00:00:04,157 大量に消費しています 3 00:00:04,157 --> 00:00:05,239 どこにいようと 4 00:00:05,239 --> 00:00:07,107 逃れられない現実です 5 00:00:07,107 --> 00:00:10,130 でも こんなことを 知りたがる人は ほぼゼロでしょう 6 00:00:10,130 --> 00:00:12,462 ある書体が どこから現れ 7 00:00:12,462 --> 00:00:15,226 いつ 誰がデザインしたのか 8 00:00:15,226 --> 00:00:18,579 そもそも人間が制作したものなのか 9 00:00:18,579 --> 00:00:21,376 それとも 10 00:00:21,376 --> 00:00:25,088 ソフトウェアが 生み出したものなのか・・・ 11 00:00:25,088 --> 00:00:28,613 でも私はそういうことに 関心があります 12 00:00:28,613 --> 00:00:30,130 仕事だからです 13 00:00:30,130 --> 00:00:32,340 「T」と「e」の 14 00:00:32,340 --> 00:00:34,454 間隔が気に入らなくて 15 00:00:34,454 --> 00:00:37,048 怒り狂う人達は ほんの少数でしょうが 16 00:00:37,048 --> 00:00:38,948 私はその1人です 17 00:00:38,948 --> 00:00:40,390 スライドは消しましょう 18 00:00:40,390 --> 00:00:42,461 私にもクリスにも堪え難い 19 00:00:42,461 --> 00:00:44,122 これでいい 20 00:00:44,122 --> 00:00:45,890 さて 私がお話しするのは 21 00:00:45,890 --> 00:00:49,290 テクノロジーと 活字デザインとの関係です 22 00:00:49,290 --> 00:00:51,953 この仕事を始めてから 23 00:00:51,953 --> 00:00:54,825 技術上の変革を 何度も経験してきました 24 00:00:54,825 --> 00:00:59,486 写植 デジタル デスクトップ スクリーン ウェブなどです 25 00:00:59,486 --> 00:01:01,224 変化を繰り返し経験して 26 00:01:01,224 --> 00:01:03,928 私はデザインにおける その意味を理解しようと 27 00:01:03,928 --> 00:01:05,319 努めてきました 28 00:01:05,319 --> 00:01:10,489 このスライドでは ツールが 形に与える影響がわかります 29 00:01:10,489 --> 00:01:13,390 「K」が2つあります 30 00:01:13,390 --> 00:01:16,715 向かって左の「K」は現代的です 31 00:01:16,715 --> 00:01:18,126 コンピュータで作りました 32 00:01:18,126 --> 00:01:20,168 直線はどれもまっすぐで 33 00:01:20,168 --> 00:01:22,978 曲線には数学的な なめらかさがあります 34 00:01:22,978 --> 00:01:26,724 ベジェ曲線が使われているためです 35 00:01:26,724 --> 00:01:29,221 右は昔のゴシック体です 36 00:01:29,221 --> 00:01:33,280 耐久性の高い素材である鉄に 手彫りされています 37 00:01:33,280 --> 00:01:35,405 どの直線もまっすぐではなく 38 00:01:35,405 --> 00:01:37,570 曲線は繊細です 39 00:01:37,570 --> 00:01:42,284 この文字には機械や プログラムには捉えられない — 40 00:01:42,284 --> 00:01:44,198 手作りによる 41 00:01:44,198 --> 00:01:46,131 生命の輝きがあります 42 00:01:46,131 --> 00:01:48,110 なんという違いでしょうか 43 00:01:48,110 --> 00:01:50,689 でも実は全部ウソです 44 00:01:50,689 --> 00:01:53,677 TEDなのにウソをつきました すみません 45 00:01:53,677 --> 00:01:55,798 実はどちらもコンピュータを使い 46 00:01:55,798 --> 00:01:57,724 同じソフトとベジェ曲線 — 47 00:01:57,724 --> 00:01:59,416 同じフォント形式で作りました 48 00:01:59,416 --> 00:02:01,950 左はエミグレ社の 49 00:02:01,950 --> 00:02:04,204 ズザーナ・リッコが作ったもので 50 00:02:04,204 --> 00:02:05,639 右のは私が作りました 51 00:02:05,639 --> 00:02:08,995 ツールは同じですが 字体は異なります 52 00:02:08,995 --> 00:02:10,518 字体が違う理由は 53 00:02:10,518 --> 00:02:11,724 デザイナーが 54 00:02:11,724 --> 00:02:14,985 違うからです ズザーナは左の様に作り 55 00:02:14,985 --> 00:02:18,106 私は右の様にしたかった ただ それだけです 56 00:02:18,106 --> 00:02:20,310 活字には適応力があります 57 00:02:20,310 --> 00:02:23,631 彫刻や建築といった 美術と違って 58 00:02:23,631 --> 00:02:27,030 活字を見ても制作方法はわかりません 59 00:02:27,030 --> 00:02:29,827 私は自分のことを 工業デザイナーだと思っています 60 00:02:29,827 --> 00:02:31,393 私がデザインしたものは 61 00:02:31,393 --> 00:02:33,269 印刷され 読まれ 62 00:02:33,269 --> 00:02:35,107 意味を伝えます 63 00:02:35,107 --> 00:02:36,753 ただ それだけではなく 64 00:02:36,753 --> 00:02:38,601 美的な要素もあります 65 00:02:38,601 --> 00:02:41,317 なぜ2つの文字は デザイナーそれぞれの 66 00:02:41,317 --> 00:02:44,349 解釈によって 違うものになるのでしょう? 67 00:02:44,349 --> 00:02:46,362 なぜ 作品には 68 00:02:46,362 --> 00:02:49,273 デザイナーのスタイルが 現れるのでしょう? 69 00:02:49,273 --> 00:02:51,810 ファッションデザイナーや 70 00:02:51,810 --> 00:02:54,885 自動車デザイナーの 作品でもそうですが・・・ 71 00:02:54,885 --> 00:02:56,660 確かに デザイナーとして 72 00:02:56,660 --> 00:02:57,810 テクノロジーの 73 00:02:57,810 --> 00:03:00,899 影響を感じることがあります 74 00:03:00,899 --> 00:03:03,959 これは60年代中頃の作品です 75 00:03:03,959 --> 00:03:06,194 金属活字が 写真植字に変わった時代 ― 76 00:03:06,194 --> 00:03:07,896 鋳造から写真への転換期です 77 00:03:07,896 --> 00:03:09,093 写植は便利でしたが 78 00:03:09,093 --> 00:03:12,439 大きな欠点もありました 79 00:03:12,439 --> 00:03:15,112 文字を配置する際の 80 00:03:15,112 --> 00:03:19,095 ユニットが18個しかない 81 00:03:19,095 --> 00:03:21,558 システムだったのです 82 00:03:21,558 --> 00:03:23,534 当時コンデンス・サンセリフ体を 83 00:03:23,534 --> 00:03:26,272 シリーズでデザインする 依頼を受けたのですが 84 00:03:26,272 --> 00:03:29,435 その18ユニットの範囲で 可能な限り 85 00:03:29,435 --> 00:03:33,282 たくさんの種類を 作って欲しいというのです 86 00:03:33,282 --> 00:03:34,921 計算結果を見て すぐに 87 00:03:34,921 --> 00:03:38,230 3種類しか作れないことが わかりました 88 00:03:38,230 --> 00:03:41,617 ご覧の通りです 89 00:03:41,617 --> 00:03:44,208 ヘルベチカ・コンプレス エクストラコンプレス — 90 00:03:44,208 --> 00:03:48,019 ウルトラコンプレスの デザインでは 18ユニットの 91 00:03:48,019 --> 00:03:49,592 システムに手を焼きました 92 00:03:49,592 --> 00:03:51,425 まるでシステムが書体の 93 00:03:51,425 --> 00:03:53,714 プロポーションを 決めているようでした 94 00:03:53,714 --> 00:03:57,744 ここには小文字の書体しか ありませんが 95 00:03:57,744 --> 00:04:00,436 こんな感想をもつかも知れません 96 00:04:00,436 --> 00:04:03,575 「気の毒に 問題が克服できずに 97 00:04:03,575 --> 00:04:07,382 こんな結果になってしまった」 98 00:04:07,382 --> 00:04:08,689 そうでなければいいのですが 99 00:04:08,689 --> 00:04:10,930 今 同じ仕事を引き受けたら 100 00:04:10,930 --> 00:04:13,756 ユニットは18個どころか 101 00:04:13,756 --> 00:04:16,839 千個は使えるでしょう 102 00:04:16,839 --> 00:04:19,293 もっといろいろな 書体を作れるはずです 103 00:04:19,293 --> 00:04:23,989 ただ それでこの3書体が もっとよくなるでしょうか? 104 00:04:23,989 --> 00:04:25,841 実際にやってみないとわかりませんが 105 00:04:25,841 --> 00:04:27,548 1,000対18の割合で 106 00:04:27,548 --> 00:04:30,637 よくなるとは思えません 107 00:04:30,637 --> 00:04:32,575 私の直感では よくなったとしても 108 00:04:32,575 --> 00:04:35,653 わずかでしょう なぜなら これらの書体は 109 00:04:35,653 --> 00:04:38,574 システムに合わせて デザインされたもので 110 00:04:38,574 --> 00:04:40,983 活字は それに適応するからです 111 00:04:40,983 --> 00:04:43,770 活字を見ても制作方法はわかりません 112 00:04:43,770 --> 00:04:46,452 工業デザイナーには必ず制約があります 113 00:04:46,452 --> 00:04:48,944 美術ではないのです 114 00:04:48,944 --> 00:04:50,822 ただ制約があるからといって 115 00:04:50,822 --> 00:04:53,489 妥協する必要はあるでしょうか? 116 00:04:53,489 --> 00:04:55,000 制約を受け入れると 117 00:04:55,000 --> 00:04:57,449 水準は低くなるでしょうか? 118 00:04:57,449 --> 00:04:59,411 そんなことはありません 119 00:04:59,411 --> 00:05:01,535 私はチャールズ・イームズの 120 00:05:01,535 --> 00:05:03,080 言葉を励みにしています 121 00:05:03,080 --> 00:05:04,118 「制作する上で 122 00:05:04,118 --> 00:05:07,344 制約は意識していても 妥協はしない」 123 00:05:07,344 --> 00:05:09,905 確かに制約と妥協の境界線は 124 00:05:09,905 --> 00:05:12,280 とても微妙です 125 00:05:12,280 --> 00:05:17,951 ただ 私が仕事に向き合う上で この区別はとても重要です 126 00:05:17,951 --> 00:05:20,842 これを使っていた頃を 覚えていますか? 127 00:05:20,842 --> 00:05:22,267 電話帳です 128 00:05:22,267 --> 00:05:26,802 皆さんがノスタルジーに浸れる様に 画面はそのままにしましょう 129 00:05:26,802 --> 00:05:29,548 これは70年代の中頃 電話帳用に 130 00:05:29,548 --> 00:05:32,177 私がデザインした ベル・センテニアルの 131 00:05:32,177 --> 00:05:33,951 初期の試作です 132 00:05:33,951 --> 00:05:37,270 デジタル・タイプは 初体験だったので 133 00:05:37,270 --> 00:05:41,440 新鮮な経験でした 134 00:05:41,440 --> 00:05:43,039 電話帳は 135 00:05:43,039 --> 00:05:46,407 新聞用紙に極小サイズの文字を 136 00:05:46,407 --> 00:05:48,725 ランプブラックと灯油のインクを使って 137 00:05:48,725 --> 00:05:51,477 超高速の輪転機で印刷します 138 00:05:51,477 --> 00:05:55,318 書体デザイナーにとっては 139 00:05:55,318 --> 00:05:58,520 恵まれた条件ではありません 140 00:05:58,520 --> 00:06:00,419 私にとって挑戦だったのは 141 00:06:00,419 --> 00:06:01,920 条件が厳しくても 142 00:06:01,920 --> 00:06:06,665 印刷できて きちんと読める 文字のデザインでした 143 00:06:06,665 --> 00:06:09,520 当時はデジタル・タイプの黎明期で 144 00:06:09,520 --> 00:06:12,339 文字はすべて方眼紙に 145 00:06:12,339 --> 00:06:14,054 手書きしました 146 00:06:14,054 --> 00:06:16,006 ベル・センテニアルには ウエイトが 147 00:06:16,006 --> 00:06:19,359 4種類ありましたが 1ピクセルずつ手書きし1行ずつ 148 00:06:19,359 --> 00:06:20,340 エンコードしました 149 00:06:20,340 --> 00:06:24,764 作業には2年かかりましたが いろいろ学びました 150 00:06:24,764 --> 00:06:26,394 この文字は まるで犬か何かが 151 00:06:26,394 --> 00:06:27,838 かじったみたいですが 152 00:06:27,838 --> 00:06:29,780 ストロークが交差したり 153 00:06:29,780 --> 00:06:31,385 分岐したりする部分の 154 00:06:31,385 --> 00:06:34,559 ピクセルが欠けているのは 155 00:06:34,559 --> 00:06:37,505 安い紙でインクがにじむ様子を調べ 156 00:06:37,505 --> 00:06:41,242 それに従ってフォントを 改良した結果です 157 00:06:41,242 --> 00:06:44,492 私は 文字のサイズと 制作過程から生じる — 158 00:06:44,492 --> 00:06:47,244 影響も考慮して この奇妙な書体を 159 00:06:47,244 --> 00:06:49,530 デザインしたのです 160 00:06:49,530 --> 00:06:52,376 一方 AT&Tは 161 00:06:52,376 --> 00:06:55,617 電話帳にヘルベチカを 使おうとしていました 162 00:06:55,617 --> 00:06:57,282 ただ友人の エリック・シュピーカーマンが 163 00:06:57,282 --> 00:06:59,785 映画『ヘルベチカ』で言った通り 164 00:06:59,785 --> 00:07:01,820 この書体は それぞれの文字が 165 00:07:01,820 --> 00:07:04,561 できるだけ似た形になる様に デザインされています 166 00:07:04,561 --> 00:07:07,835 文字が小さい場合の読みやすさが 目的ではありません 167 00:07:07,835 --> 00:07:10,425 スライドで見ると とてもエレガントです 168 00:07:10,425 --> 00:07:12,615 一方 私は文字を 169 00:07:12,615 --> 00:07:15,615 見分けやすくする必要があったので ベル・センテニアルでは 170 00:07:15,615 --> 00:07:17,910 文字の形を少し広げました 171 00:07:17,910 --> 00:07:20,823 スライドの下にある通りです 172 00:07:20,823 --> 00:07:23,480 続いて80年代の中頃 ― 173 00:07:23,480 --> 00:07:26,036 デジタル・アウトラインフォント — 174 00:07:26,036 --> 00:07:28,393 すなわちベクター技術の 幕開けです 175 00:07:28,393 --> 00:07:30,431 当時の課題はフォントの 176 00:07:30,431 --> 00:07:32,287 データ・サイズでした 177 00:07:32,287 --> 00:07:35,171 コンピュータのメモリ上で 178 00:07:35,171 --> 00:07:40,141 フォントの検索と記録に必要な データ量が問題になりました 179 00:07:40,141 --> 00:07:41,799 そのせいで 植字システムで 180 00:07:41,799 --> 00:07:44,789 利用できるフォントの数に 制限があったからです 181 00:07:44,789 --> 00:07:48,938 私はデータを分析して 182 00:07:48,938 --> 00:07:51,462 画面の左にあるような 183 00:07:51,462 --> 00:07:52,921 典型的なセリフ体は 184 00:07:52,921 --> 00:07:54,937 中央のサンセリフ体と比べて 185 00:07:54,937 --> 00:07:57,473 約2倍のデータが必要だと知りました 186 00:07:57,473 --> 00:07:59,535 文字の末端の 187 00:07:59,535 --> 00:08:04,043 優美な曲線の定義に必要な 点のせいです 188 00:08:04,043 --> 00:08:07,477 ちなみに スライドの下にある数字は 189 00:08:07,477 --> 00:08:09,179 それぞれのフォントを 190 00:08:09,179 --> 00:08:12,984 記憶するのに必要な データ量を表しています 191 00:08:12,984 --> 00:08:15,150 ですから中央のサンセリフ体は 192 00:08:15,150 --> 00:08:18,114 データ量が81で セリフ体の151と比べて 193 00:08:18,114 --> 00:08:20,313 はるかに少ないのです 194 00:08:20,313 --> 00:08:23,970 そこで私は考えました 「技術者は課題を抱えている 195 00:08:23,970 --> 00:08:26,205 それを救うのはデザイナーだ」 196 00:08:26,205 --> 00:08:28,552 そこで私は右にある — 197 00:08:28,552 --> 00:08:30,499 曲線のないセリフを作りました 198 00:08:30,499 --> 00:08:32,914 セリフを多角形 つまり直線で構成し 199 00:08:32,914 --> 00:08:34,898 曲線部分は面取りしました 200 00:08:34,898 --> 00:08:39,265 こうすることでサンセリフ体並に データを減らせました 201 00:08:39,265 --> 00:08:41,565 これをチャーターと名付けました 202 00:08:41,565 --> 00:08:43,534 私はデータサイズの値を持って 203 00:08:43,534 --> 00:08:45,993 得意げに技術チーフの ところに行きました 204 00:08:45,993 --> 00:08:48,121 「問題を解決したよ」 205 00:08:48,121 --> 00:08:51,834 するとチーフは 「問題って何だ?」と聞くのです 206 00:08:51,834 --> 00:08:53,480 だから こう説明しました 207 00:08:53,480 --> 00:08:56,897 「サンセリフ体に必要な データ量の問題とかだよ」 208 00:08:56,897 --> 00:09:00,444 彼は こうこたえました 「問題は先週片付けたよ 209 00:09:00,444 --> 00:09:02,600 データ圧縮ルーチンを使って 210 00:09:02,600 --> 00:09:05,180 データサイズを1桁減らしたんだ 211 00:09:05,180 --> 00:09:07,168 もう システムに好きなだけ 212 00:09:07,168 --> 00:09:08,726 フォントを載せられるよ」 213 00:09:08,726 --> 00:09:11,340 「なるほど ありがとう」と 言うしかありませんでした 214 00:09:11,340 --> 00:09:12,970 また失敗です 215 00:09:12,970 --> 00:09:15,015 デザイン上の解決策を見出したのに 216 00:09:15,015 --> 00:09:19,488 技術上の問題は 既になくなっていたのです 217 00:09:19,488 --> 00:09:21,957 でも面白いのは ここからです 218 00:09:21,957 --> 00:09:24,552 私は このデザインを 219 00:09:24,552 --> 00:09:25,953 ゴミ箱行きにはせずに 220 00:09:25,953 --> 00:09:27,690 取っておいたのです 221 00:09:27,690 --> 00:09:29,858 はじめは技術上の取り組みでしたが 222 00:09:29,858 --> 00:09:33,122 美学上の実践になっていたのです 223 00:09:33,122 --> 00:09:36,171 要は 私はこの書体が気に入りました 224 00:09:36,171 --> 00:09:38,490 きっかけはどうでもいい 225 00:09:38,490 --> 00:09:40,980 私はデザイン自体が 気に入りました 226 00:09:40,980 --> 00:09:43,363 チャーターの簡素な形には 227 00:09:43,363 --> 00:09:45,446 ある種の率直さと 228 00:09:45,446 --> 00:09:46,997 簡潔性が表れています 229 00:09:46,997 --> 00:09:49,487 私には それが心地よかったのです 230 00:09:49,487 --> 00:09:52,040 技術革新のまっただ中で 231 00:09:52,040 --> 00:09:53,560 デザイナーは時代の空気から 232 00:09:53,560 --> 00:09:55,296 影響を受けようとします 233 00:09:55,296 --> 00:09:57,527 私達デザイナーは 234 00:09:57,527 --> 00:10:00,938 時代の空気に反応して 新しいものを追い求めます 235 00:10:00,938 --> 00:10:03,837 チャーターは 私にとって一種の比喩です 236 00:10:03,837 --> 00:10:07,627 結局 チャーターのデザインと テクノロジーとの間には 237 00:10:07,627 --> 00:10:10,820 明確な因果関係はなかったのです 238 00:10:10,820 --> 00:10:14,582 私はテクノロジーを 誤解していました 239 00:10:14,582 --> 00:10:17,910 確かにヒントをくれたのは テクノロジーですが 240 00:10:17,910 --> 00:10:20,027 それに縛られてはいませんでした 241 00:10:20,027 --> 00:10:22,744 これはよくあることです 242 00:10:22,744 --> 00:10:25,370 技術者はとても頭の回転が速く 243 00:10:25,370 --> 00:10:26,926 私は少し鈍いので 244 00:10:26,926 --> 00:10:28,453 ストレスは感じますが 245 00:10:28,453 --> 00:10:30,180 彼らと一緒に作業して 246 00:10:30,180 --> 00:10:32,258 学ぶのは楽しいことです 247 00:10:32,258 --> 00:10:34,600 さて90年代の中頃になって 248 00:10:34,600 --> 00:10:37,291 私はスクリーンフォントについて 249 00:10:37,291 --> 00:10:39,679 マイクロソフトと検討を始めました 250 00:10:39,679 --> 00:10:42,100 それまで画面表示用のフォントは 251 00:10:42,100 --> 00:10:44,853 どれも印刷用のフォントを 252 00:10:44,853 --> 00:10:47,230 使い回していました 253 00:10:47,230 --> 00:10:49,733 一方 マイクロソフトは 時代の流れを 254 00:10:49,733 --> 00:10:51,883 正しくとらえていました 255 00:10:51,883 --> 00:10:54,670 つまり電子コミュニケーションや 256 00:10:54,670 --> 00:10:56,700 スクリーン上での読み書きへと 257 00:10:56,700 --> 00:10:59,833 急速に転換することで 印刷物の重要性が 258 00:10:59,833 --> 00:11:02,056 低下するという流れです 259 00:11:02,056 --> 00:11:05,635 その頃 まさに 優先順位が変わろうとしていました 260 00:11:05,635 --> 00:11:07,829 マイクロソフトが求めたのは 261 00:11:07,829 --> 00:11:11,134 使い回しのフォントではなく 新たなデザインでした 262 00:11:11,134 --> 00:11:13,707 解像度が低いディスプレイという 263 00:11:13,707 --> 00:11:17,549 表示上の課題に 対応できるフォントです 264 00:11:17,549 --> 00:11:21,080 マイクロソフトにはこう伝えました 「特定のテクノロジー用に 265 00:11:21,080 --> 00:11:22,649 デザインした書体は 266 00:11:22,649 --> 00:11:26,024 いつか古びてしまう 267 00:11:26,024 --> 00:11:28,118 私はこれまで技術的な問題を 268 00:11:28,118 --> 00:11:31,697 解決するために 書体をたくさんデザインしたし 269 00:11:31,697 --> 00:11:34,532 技術者達のおかげで 問題は解決したけれど 270 00:11:34,532 --> 00:11:37,021 同時に私の書体も消えていった 271 00:11:37,021 --> 00:11:40,152 つなぎの手段に 過ぎなかったからだよ」 272 00:11:40,152 --> 00:11:41,693 マイクロソフト側の返答は 273 00:11:41,693 --> 00:11:43,323 より高解像度で価格を抑えた 274 00:11:43,323 --> 00:11:44,520 モニターの開発には 275 00:11:44,520 --> 00:11:47,116 10年はかかるというものでした 276 00:11:47,116 --> 00:11:49,770 それを聞いて思いました 「10年なら悪くない 277 00:11:49,770 --> 00:11:52,182 つなぎで終わることはなさそうだ」 278 00:11:52,182 --> 00:11:54,183 私は説得されて制作を始め 279 00:11:54,183 --> 00:11:56,505 ヴァーダナとジョージアが 280 00:11:56,505 --> 00:11:58,177 生まれました 281 00:11:58,177 --> 00:12:00,517 この時 初めて紙は使わず 282 00:12:00,517 --> 00:12:04,477 最後の1ピクセルまで スクリーン上で作りました 283 00:12:04,477 --> 00:12:08,330 当時スクリーンは 「バイナリ」で 284 00:12:08,330 --> 00:12:11,370 ピクセルには オンとオフしかありませんでした 285 00:12:11,370 --> 00:12:14,225 これは大文字「H」の 286 00:12:14,225 --> 00:12:15,692 アウトラインです 287 00:12:15,692 --> 00:12:18,493 黒い輪郭線ですが 288 00:12:18,493 --> 00:12:21,369 メモリ上ではこのように 記録されています 289 00:12:21,369 --> 00:12:23,039 その下にグレーで 290 00:12:23,039 --> 00:12:25,187 ビットマップを表示しています 291 00:12:25,187 --> 00:12:27,024 画面上には これが表示されます 292 00:12:27,024 --> 00:12:30,170 ビットマップは アウトラインから生成されます 293 00:12:30,170 --> 00:12:32,411 「H」は直線だけで構成されるので 294 00:12:32,411 --> 00:12:34,499 ビットマップとアウトラインは 295 00:12:34,499 --> 00:12:38,867 方眼上でほぼ一致します 296 00:12:38,867 --> 00:12:41,993 一方「O」の場合は そうはいきません 297 00:12:41,993 --> 00:12:44,720 文字というより レンガを積んだようですが 298 00:12:44,720 --> 00:12:47,621 これは正しいビットマップです 299 00:12:47,621 --> 00:12:49,636 理由は単純で 300 00:12:49,636 --> 00:12:52,116 x軸と y軸について対称だからです 301 00:12:52,116 --> 00:12:54,974 バイナリのビットマップで これ以上は 302 00:12:54,974 --> 00:12:56,694 望めません 303 00:12:56,694 --> 00:12:59,098 小文字の「a」など 難しい文字の場合は 304 00:12:59,098 --> 00:13:01,454 3〜4種類 作っておいて 305 00:13:01,454 --> 00:13:02,960 一番よい字を選ぶため 306 00:13:02,960 --> 00:13:06,500 少し下がって眺めたものです 307 00:13:06,500 --> 00:13:08,595 いや 「一番よい字」というより 308 00:13:08,595 --> 00:13:11,020 デザイナーの直感で 309 00:13:11,020 --> 00:13:12,409 「最も悪くない」字を 310 00:13:12,409 --> 00:13:15,450 決めようとしていました 311 00:13:15,450 --> 00:13:17,900 これは妥協でしょうか 312 00:13:17,900 --> 00:13:19,446 私はそうは思いません 313 00:13:19,446 --> 00:13:22,533 その時 技術的に可能な 最高の水準に従うだけです 314 00:13:22,533 --> 00:13:24,742 ただ その水準が 315 00:13:24,742 --> 00:13:27,221 理想とは かけ離れているだけです 316 00:13:27,221 --> 00:13:28,812 ご覧いただいているのは 317 00:13:28,812 --> 00:13:30,974 どちらもビットマップフォントです 318 00:13:30,974 --> 00:13:32,670 上の「a」の方が 319 00:13:32,670 --> 00:13:34,583 下のものよりは いいですが 320 00:13:34,583 --> 00:13:37,159 決して最高とは言えません 321 00:13:37,159 --> 00:13:39,066 文字を小さくすると 322 00:13:39,066 --> 00:13:42,442 効果がもっとよく わかるかも知れません 323 00:13:42,442 --> 00:13:44,838 私は理想主義者ではなく 現実主義者ですが 324 00:13:44,838 --> 00:13:46,341 そうなる必要がありました 325 00:13:46,341 --> 00:13:48,270 私の性格だと 326 00:13:48,270 --> 00:13:49,970 完ぺきには できないことにも 327 00:13:49,970 --> 00:13:53,608 力の限り全力で取り組むことに 328 00:13:53,608 --> 00:13:57,477 満足感を覚えます 329 00:13:57,477 --> 00:14:02,334 これはジョージア・イタリックの 小文字の「h」です 330 00:14:02,334 --> 00:14:04,607 ビットマップだとギザギザで 331 00:14:04,607 --> 00:14:06,466 粗い印象を受けます 332 00:14:06,466 --> 00:14:08,462 でも いろいろ試してみて 333 00:14:08,462 --> 00:14:11,679 画面にイタリックを表示したときに 334 00:14:11,679 --> 00:14:13,625 ピクセルの境界部分で 335 00:14:13,625 --> 00:14:15,957 ストロークがきちんと離れて見える 336 00:14:15,957 --> 00:14:18,440 最適な傾きがあることがわかりました 337 00:14:18,440 --> 00:14:21,221 見てください 粗いかも知れませんが 338 00:14:21,221 --> 00:14:23,271 左右の脚の部分が 339 00:14:23,271 --> 00:14:25,220 同じ線上にあって離れて見えます 340 00:14:25,220 --> 00:14:28,740 これはデザインの勝利です 341 00:14:28,740 --> 00:14:31,918 もちろん さらに小さくすると 342 00:14:31,918 --> 00:14:33,841 選択肢は限られてきます 343 00:14:33,841 --> 00:14:38,886 これは「S」です わかりますか? 344 00:14:38,886 --> 00:14:41,040 ヴァーダナとジョージアが 345 00:14:41,040 --> 00:14:43,690 リリースされて18年が経ちました 346 00:14:43,690 --> 00:14:45,780 マイクロソフトの予想は正しく 347 00:14:45,780 --> 00:14:48,194 まる10年かかりましたが 348 00:14:48,194 --> 00:14:50,474 現在のディスプレイは 349 00:14:50,474 --> 00:14:52,927 アンチエイリアスなどのおかげで 350 00:14:52,927 --> 00:14:56,399 空間解像度は高くなり 測光解像度も 351 00:14:56,399 --> 00:14:59,553 はるかに改善しました 352 00:14:59,553 --> 00:15:03,250 彼らは目標を達成しましたが だからといって 353 00:15:03,250 --> 00:15:04,980 低解像度ディスプレイ向けに 354 00:15:04,980 --> 00:15:06,860 かつて私がデザインした 355 00:15:06,860 --> 00:15:09,511 スクリーンフォントは なくなるでしょうか? 356 00:15:09,511 --> 00:15:12,906 それとも そのフォント群は すでに旧式になったディスプレイや 357 00:15:12,906 --> 00:15:15,078 市場にあふれる 新しいウェブフォントよりも 358 00:15:15,078 --> 00:15:16,581 長く存在し続けるのでしょうか? 359 00:15:16,581 --> 00:15:18,441 それともテクノロジーから離れた 360 00:15:18,441 --> 00:15:20,679 進化上 独自の地位を 361 00:15:20,679 --> 00:15:24,416 確立していくのでしょうか? 362 00:15:24,416 --> 00:15:26,087 言い方を換えれば 363 00:15:26,087 --> 00:15:29,400 書体デザインの主流に なっていくのでしょうか? 364 00:15:29,400 --> 00:15:33,058 私にはわかりませんが 今のところはよくやっています 365 00:15:33,058 --> 00:15:35,553 18年ですよ 366 00:15:35,553 --> 00:15:37,704 今の消費スピードを考えれば 367 00:15:37,704 --> 00:15:39,618 不満なんてありません 368 00:15:39,618 --> 00:15:42,457 どうもありがとう 369 00:15:42,457 --> 00:15:44,634 (拍手)