0:00:00.709,0:00:02.235
私達は活字を

0:00:02.235,0:00:04.157
大量に消費しています

0:00:04.157,0:00:05.239
どこにいようと

0:00:05.239,0:00:07.107
逃れられない現実です

0:00:07.107,0:00:10.130
でも こんなことを[br]知りたがる人は ほぼゼロでしょう

0:00:10.130,0:00:12.462
ある書体が どこから現れ

0:00:12.462,0:00:15.226
いつ 誰がデザインしたのか

0:00:15.226,0:00:18.579
そもそも人間が制作したものなのか

0:00:18.579,0:00:21.376
それとも

0:00:21.376,0:00:25.088
ソフトウェアが[br]生み出したものなのか・・・

0:00:25.088,0:00:28.613
でも私はそういうことに[br]関心があります

0:00:28.613,0:00:30.130
仕事だからです

0:00:30.130,0:00:32.340
「T」と「e」の

0:00:32.340,0:00:34.454
間隔が気に入らなくて

0:00:34.454,0:00:37.048
怒り狂う人達は[br]ほんの少数でしょうが

0:00:37.048,0:00:38.948
私はその１人です

0:00:38.948,0:00:40.390
スライドは消しましょう

0:00:40.390,0:00:42.461
私にもクリスにも堪え難い

0:00:42.461,0:00:44.122
これでいい

0:00:44.122,0:00:45.890
さて 私がお話しするのは

0:00:45.890,0:00:49.290
テクノロジーと[br]活字デザインとの関係です

0:00:49.290,0:00:51.953
この仕事を始めてから

0:00:51.953,0:00:54.825
技術上の変革を[br]何度も経験してきました

0:00:54.825,0:00:59.486
写植 デジタル デスクトップ[br]スクリーン ウェブなどです

0:00:59.486,0:01:01.224
変化を繰り返し経験して

0:01:01.224,0:01:03.928
私はデザインにおける[br]その意味を理解しようと

0:01:03.928,0:01:05.319
努めてきました

0:01:05.319,0:01:10.489
このスライドでは ツールが[br]形に与える影響がわかります

0:01:10.489,0:01:13.390
「K」が２つあります

0:01:13.390,0:01:16.715
向かって左の「K」は現代的です

0:01:16.715,0:01:18.126
コンピュータで作りました

0:01:18.126,0:01:20.168
直線はどれもまっすぐで

0:01:20.168,0:01:22.978
曲線には数学的な[br]なめらかさがあります

0:01:22.978,0:01:26.724
ベジェ曲線が使われているためです

0:01:26.724,0:01:29.221
右は昔のゴシック体です

0:01:29.221,0:01:33.280
耐久性の高い素材である鉄に[br]手彫りされています

0:01:33.280,0:01:35.405
どの直線もまっすぐではなく

0:01:35.405,0:01:37.570
曲線は繊細です

0:01:37.570,0:01:42.284
この文字には機械や[br]プログラムには捉えられない —

0:01:42.284,0:01:44.198
手作りによる

0:01:44.198,0:01:46.131
生命の輝きがあります

0:01:46.131,0:01:48.110
なんという違いでしょうか

0:01:48.110,0:01:50.689
でも実は全部ウソです

0:01:50.689,0:01:53.677
TEDなのにウソをつきました[br]すみません

0:01:53.677,0:01:55.798
実はどちらもコンピュータを使い

0:01:55.798,0:01:57.724
同じソフトとベジェ曲線 —

0:01:57.724,0:01:59.416
同じフォント形式で作りました

0:01:59.416,0:02:01.950
左はエミグレ社の

0:02:01.950,0:02:04.204
ズザーナ・リッコが作ったもので

0:02:04.204,0:02:05.639
右のは私が作りました

0:02:05.639,0:02:08.995
ツールは同じですが[br]字体は異なります

0:02:08.995,0:02:10.518
字体が違う理由は

0:02:10.518,0:02:11.724
デザイナーが

0:02:11.724,0:02:14.985
違うからです[br]ズザーナは左の様に作り

0:02:14.985,0:02:18.106
私は右の様にしたかった[br]ただ それだけです

0:02:18.106,0:02:20.310
活字には適応力があります

0:02:20.310,0:02:23.631
彫刻や建築といった[br]美術と違って

0:02:23.631,0:02:27.030
活字を見ても制作方法はわかりません

0:02:27.030,0:02:29.827
私は自分のことを[br]工業デザイナーだと思っています

0:02:29.827,0:02:31.393
私がデザインしたものは

0:02:31.393,0:02:33.269
印刷され 読まれ

0:02:33.269,0:02:35.107
意味を伝えます

0:02:35.107,0:02:36.753
ただ それだけではなく

0:02:36.753,0:02:38.601
美的な要素もあります

0:02:38.601,0:02:41.317
なぜ２つの文字は[br]デザイナーそれぞれの

0:02:41.317,0:02:44.349
解釈によって[br]違うものになるのでしょう？

0:02:44.349,0:02:46.362
なぜ 作品には

0:02:46.362,0:02:49.273
デザイナーのスタイルが[br]現れるのでしょう？

0:02:49.273,0:02:51.810
ファッションデザイナーや

0:02:51.810,0:02:54.885
自動車デザイナーの[br]作品でもそうですが・・・

0:02:54.885,0:02:56.660
確かに デザイナーとして

0:02:56.660,0:02:57.810
テクノロジーの

0:02:57.810,0:03:00.899
影響を感じることがあります

0:03:00.899,0:03:03.959
これは60年代中頃の作品です

0:03:03.959,0:03:06.194
金属活字が[br]写真植字に変わった時代 ―

0:03:06.194,0:03:07.896
鋳造から写真への転換期です

0:03:07.896,0:03:09.093
写植は便利でしたが

0:03:09.093,0:03:12.439
大きな欠点もありました

0:03:12.439,0:03:15.112
文字を配置する際の

0:03:15.112,0:03:19.095
ユニットが18個しかない

0:03:19.095,0:03:21.558
システムだったのです

0:03:21.558,0:03:23.534
当時コンデンス・サンセリフ体を

0:03:23.534,0:03:26.272
シリーズでデザインする[br]依頼を受けたのですが

0:03:26.272,0:03:29.435
その18ユニットの範囲で[br]可能な限り

0:03:29.435,0:03:33.282
たくさんの種類を[br]作って欲しいというのです

0:03:33.282,0:03:34.921
計算結果を見て すぐに

0:03:34.921,0:03:38.230
３種類しか作れないことが[br]わかりました

0:03:38.230,0:03:41.617
ご覧の通りです

0:03:41.617,0:03:44.208
ヘルベチカ・コンプレス[br]エクストラコンプレス —

0:03:44.208,0:03:48.019
ウルトラコンプレスの[br]デザインでは 18ユニットの

0:03:48.019,0:03:49.592
システムに手を焼きました

0:03:49.592,0:03:51.425
まるでシステムが書体の

0:03:51.425,0:03:53.714
プロポーションを[br]決めているようでした

0:03:53.714,0:03:57.744
ここには小文字の書体しか[br]ありませんが

0:03:57.744,0:04:00.436
こんな感想をもつかも知れません

0:04:00.436,0:04:03.575
「気の毒に[br]問題が克服できずに

0:04:03.575,0:04:07.382
こんな結果になってしまった」

0:04:07.382,0:04:08.689
そうでなければいいのですが

0:04:08.689,0:04:10.930
今 同じ仕事を引き受けたら

0:04:10.930,0:04:13.756
ユニットは18個どころか

0:04:13.756,0:04:16.839
千個は使えるでしょう

0:04:16.839,0:04:19.293
もっといろいろな[br]書体を作れるはずです

0:04:19.293,0:04:23.989
ただ それでこの３書体が[br]もっとよくなるでしょうか？

0:04:23.989,0:04:25.841
実際にやってみないとわかりませんが

0:04:25.841,0:04:27.548
1,000対18の割合で

0:04:27.548,0:04:30.637
よくなるとは思えません

0:04:30.637,0:04:32.575
私の直感では よくなったとしても

0:04:32.575,0:04:35.653
わずかでしょう[br]なぜなら これらの書体は

0:04:35.653,0:04:38.574
システムに合わせて[br]デザインされたもので

0:04:38.574,0:04:40.983
活字は それに適応するからです

0:04:40.983,0:04:43.770
活字を見ても制作方法はわかりません

0:04:43.770,0:04:46.452
工業デザイナーには必ず制約があります

0:04:46.452,0:04:48.944
美術ではないのです

0:04:48.944,0:04:50.822
ただ制約があるからといって

0:04:50.822,0:04:53.489
妥協する必要はあるでしょうか？

0:04:53.489,0:04:55.000
制約を受け入れると

0:04:55.000,0:04:57.449
水準は低くなるでしょうか？

0:04:57.449,0:04:59.411
そんなことはありません

0:04:59.411,0:05:01.535
私はチャールズ・イームズの

0:05:01.535,0:05:03.080
言葉を励みにしています

0:05:03.080,0:05:04.118
「制作する上で

0:05:04.118,0:05:07.344
制約は意識していても[br]妥協はしない」

0:05:07.344,0:05:09.905
確かに制約と妥協の境界線は

0:05:09.905,0:05:12.280
とても微妙です

0:05:12.280,0:05:17.951
ただ 私が仕事に向き合う上で[br]この区別はとても重要です

0:05:17.951,0:05:20.842
これを使っていた頃を[br]覚えていますか？

0:05:20.842,0:05:22.267
電話帳です

0:05:22.267,0:05:26.802
皆さんがノスタルジーに浸れる様に[br]画面はそのままにしましょう

0:05:26.802,0:05:29.548
これは70年代の中頃[br]電話帳用に

0:05:29.548,0:05:32.177
私がデザインした[br]ベル・センテニアルの

0:05:32.177,0:05:33.951
初期の試作です

0:05:33.951,0:05:37.270
デジタル・タイプは[br]初体験だったので

0:05:37.270,0:05:41.440
新鮮な経験でした

0:05:41.440,0:05:43.039
電話帳は

0:05:43.039,0:05:46.407
新聞用紙に極小サイズの文字を

0:05:46.407,0:05:48.725
ランプブラックと灯油のインクを使って

0:05:48.725,0:05:51.477
超高速の輪転機で印刷します

0:05:51.477,0:05:55.318
書体デザイナーにとっては

0:05:55.318,0:05:58.520
恵まれた条件ではありません

0:05:58.520,0:06:00.419
私にとって挑戦だったのは

0:06:00.419,0:06:01.920
条件が厳しくても

0:06:01.920,0:06:06.665
印刷できて きちんと読める[br]文字のデザインでした

0:06:06.665,0:06:09.520
当時はデジタル・タイプの黎明期で

0:06:09.520,0:06:12.339
文字はすべて方眼紙に

0:06:12.339,0:06:14.054
手書きしました

0:06:14.054,0:06:16.006
ベル・センテニアルには[br]ウエイトが

0:06:16.006,0:06:19.359
４種類ありましたが[br]１ピクセルずつ手書きし１行ずつ

0:06:19.359,0:06:20.340
エンコードしました

0:06:20.340,0:06:24.764
作業には２年かかりましたが[br]いろいろ学びました

0:06:24.764,0:06:26.394
この文字は まるで犬か何かが

0:06:26.394,0:06:27.838
かじったみたいですが

0:06:27.838,0:06:29.780
ストロークが交差したり

0:06:29.780,0:06:31.385
分岐したりする部分の

0:06:31.385,0:06:34.559
ピクセルが欠けているのは

0:06:34.559,0:06:37.505
安い紙でインクがにじむ様子を調べ

0:06:37.505,0:06:41.242
それに従ってフォントを[br]改良した結果です

0:06:41.242,0:06:44.492
私は 文字のサイズと[br]制作過程から生じる —

0:06:44.492,0:06:47.244
影響も考慮して[br]この奇妙な書体を

0:06:47.244,0:06:49.530
デザインしたのです

0:06:49.530,0:06:52.376
一方 AT&Tは

0:06:52.376,0:06:55.617
電話帳にヘルベチカを[br]使おうとしていました

0:06:55.617,0:06:57.282
ただ友人の[br]エリック・シュピーカーマンが

0:06:57.282,0:06:59.785
映画『ヘルベチカ』で言った通り

0:06:59.785,0:07:01.820
この書体は それぞれの文字が

0:07:01.820,0:07:04.561
できるだけ似た形になる様に[br]デザインされています

0:07:04.561,0:07:07.835
文字が小さい場合の読みやすさが[br]目的ではありません

0:07:07.835,0:07:10.425
スライドで見ると[br]とてもエレガントです

0:07:10.425,0:07:12.615
一方 私は文字を

0:07:12.615,0:07:15.615
見分けやすくする必要があったので[br]ベル・センテニアルでは

0:07:15.615,0:07:17.910
文字の形を少し広げました

0:07:17.910,0:07:20.823
スライドの下にある通りです

0:07:20.823,0:07:23.480
続いて80年代の中頃 ―

0:07:23.480,0:07:26.036
デジタル・アウトラインフォント —

0:07:26.036,0:07:28.393
すなわちベクター技術の[br]幕開けです

0:07:28.393,0:07:30.431
当時の課題はフォントの

0:07:30.431,0:07:32.287
データ・サイズでした

0:07:32.287,0:07:35.171
コンピュータのメモリ上で

0:07:35.171,0:07:40.141
フォントの検索と記録に必要な[br]データ量が問題になりました

0:07:40.141,0:07:41.799
そのせいで 植字システムで

0:07:41.799,0:07:44.789
利用できるフォントの数に[br]制限があったからです

0:07:44.789,0:07:48.938
私はデータを分析して

0:07:48.938,0:07:51.462
画面の左にあるような

0:07:51.462,0:07:52.921
典型的なセリフ体は

0:07:52.921,0:07:54.937
中央のサンセリフ体と比べて

0:07:54.937,0:07:57.473
約２倍のデータが必要だと知りました

0:07:57.473,0:07:59.535
文字の末端の

0:07:59.535,0:08:04.043
優美な曲線の定義に必要な[br]点のせいです

0:08:04.043,0:08:07.477
ちなみに[br]スライドの下にある数字は

0:08:07.477,0:08:09.179
それぞれのフォントを

0:08:09.179,0:08:12.984
記憶するのに必要な[br]データ量を表しています

0:08:12.984,0:08:15.150
ですから中央のサンセリフ体は

0:08:15.150,0:08:18.114
データ量が81で[br]セリフ体の151と比べて

0:08:18.114,0:08:20.313
はるかに少ないのです

0:08:20.313,0:08:23.970
そこで私は考えました[br]「技術者は課題を抱えている

0:08:23.970,0:08:26.205
それを救うのはデザイナーだ」

0:08:26.205,0:08:28.552
そこで私は右にある —

0:08:28.552,0:08:30.499
曲線のないセリフを作りました

0:08:30.499,0:08:32.914
セリフを多角形 つまり直線で構成し

0:08:32.914,0:08:34.898
曲線部分は面取りしました

0:08:34.898,0:08:39.265
こうすることでサンセリフ体並に[br]データを減らせました

0:08:39.265,0:08:41.565
これをチャーターと名付けました

0:08:41.565,0:08:43.534
私はデータサイズの値を持って

0:08:43.534,0:08:45.993
得意げに技術チーフの[br]ところに行きました

0:08:45.993,0:08:48.121
「問題を解決したよ」

0:08:48.121,0:08:51.834
するとチーフは[br]「問題って何だ？」と聞くのです

0:08:51.834,0:08:53.480
だから こう説明しました

0:08:53.480,0:08:56.897
「サンセリフ体に必要な[br]データ量の問題とかだよ」

0:08:56.897,0:09:00.444
彼は こうこたえました[br]「問題は先週片付けたよ

0:09:00.444,0:09:02.600
データ圧縮ルーチンを使って

0:09:02.600,0:09:05.180
データサイズを１桁減らしたんだ

0:09:05.180,0:09:07.168
もう システムに好きなだけ

0:09:07.168,0:09:08.726
フォントを載せられるよ」

0:09:08.726,0:09:11.340
「なるほど ありがとう」と[br]言うしかありませんでした

0:09:11.340,0:09:12.970
また失敗です

0:09:12.970,0:09:15.015
デザイン上の解決策を見出したのに

0:09:15.015,0:09:19.488
技術上の問題は[br]既になくなっていたのです

0:09:19.488,0:09:21.957
でも面白いのは ここからです

0:09:21.957,0:09:24.552
私は このデザインを

0:09:24.552,0:09:25.953
ゴミ箱行きにはせずに

0:09:25.953,0:09:27.690
取っておいたのです

0:09:27.690,0:09:29.858
はじめは技術上の取り組みでしたが

0:09:29.858,0:09:33.122
美学上の実践になっていたのです

0:09:33.122,0:09:36.171
要は 私はこの書体が気に入りました

0:09:36.171,0:09:38.490
きっかけはどうでもいい

0:09:38.490,0:09:40.980
私はデザイン自体が[br]気に入りました

0:09:40.980,0:09:43.363
チャーターの簡素な形には

0:09:43.363,0:09:45.446
ある種の率直さと

0:09:45.446,0:09:46.997
簡潔性が表れています

0:09:46.997,0:09:49.487
私には[br]それが心地よかったのです

0:09:49.487,0:09:52.040
技術革新のまっただ中で

0:09:52.040,0:09:53.560
デザイナーは時代の空気から

0:09:53.560,0:09:55.296
影響を受けようとします

0:09:55.296,0:09:57.527
私達デザイナーは

0:09:57.527,0:10:00.938
時代の空気に反応して[br]新しいものを追い求めます

0:10:00.938,0:10:03.837
チャーターは[br]私にとって一種の比喩です

0:10:03.837,0:10:07.627
結局 チャーターのデザインと[br]テクノロジーとの間には

0:10:07.627,0:10:10.820
明確な因果関係はなかったのです

0:10:10.820,0:10:14.582
私はテクノロジーを[br]誤解していました

0:10:14.582,0:10:17.910
確かにヒントをくれたのは[br]テクノロジーですが

0:10:17.910,0:10:20.027
それに縛られてはいませんでした

0:10:20.027,0:10:22.744
これはよくあることです

0:10:22.744,0:10:25.370
技術者はとても頭の回転が速く

0:10:25.370,0:10:26.926
私は少し鈍いので

0:10:26.926,0:10:28.453
ストレスは感じますが

0:10:28.453,0:10:30.180
彼らと一緒に作業して

0:10:30.180,0:10:32.258
学ぶのは楽しいことです

0:10:32.258,0:10:34.600
さて90年代の中頃になって

0:10:34.600,0:10:37.291
私はスクリーンフォントについて

0:10:37.291,0:10:39.679
マイクロソフトと検討を始めました

0:10:39.679,0:10:42.100
それまで画面表示用のフォントは

0:10:42.100,0:10:44.853
どれも印刷用のフォントを

0:10:44.853,0:10:47.230
使い回していました

0:10:47.230,0:10:49.733
一方 マイクロソフトは[br]時代の流れを

0:10:49.733,0:10:51.883
正しくとらえていました

0:10:51.883,0:10:54.670
つまり電子コミュニケーションや

0:10:54.670,0:10:56.700
スクリーン上での読み書きへと

0:10:56.700,0:10:59.833
急速に転換することで[br]印刷物の重要性が

0:10:59.833,0:11:02.056
低下するという流れです

0:11:02.056,0:11:05.635
その頃 まさに[br]優先順位が変わろうとしていました

0:11:05.635,0:11:07.829
マイクロソフトが求めたのは

0:11:07.829,0:11:11.134
使い回しのフォントではなく[br]新たなデザインでした

0:11:11.134,0:11:13.707
解像度が低いディスプレイという

0:11:13.707,0:11:17.549
表示上の課題に[br]対応できるフォントです

0:11:17.549,0:11:21.080
マイクロソフトにはこう伝えました[br]「特定のテクノロジー用に

0:11:21.080,0:11:22.649
デザインした書体は

0:11:22.649,0:11:26.024
いつか古びてしまう

0:11:26.024,0:11:28.118
私はこれまで技術的な問題を

0:11:28.118,0:11:31.697
解決するために[br]書体をたくさんデザインしたし

0:11:31.697,0:11:34.532
技術者達のおかげで[br]問題は解決したけれど

0:11:34.532,0:11:37.021
同時に私の書体も消えていった

0:11:37.021,0:11:40.152
つなぎの手段に[br]過ぎなかったからだよ」

0:11:40.152,0:11:41.693
マイクロソフト側の返答は

0:11:41.693,0:11:43.323
より高解像度で価格を抑えた

0:11:43.323,0:11:44.520
モニターの開発には

0:11:44.520,0:11:47.116
10年はかかるというものでした

0:11:47.116,0:11:49.770
それを聞いて思いました[br]「10年なら悪くない

0:11:49.770,0:11:52.182
つなぎで終わることはなさそうだ」

0:11:52.182,0:11:54.183
私は説得されて制作を始め

0:11:54.183,0:11:56.505
ヴァーダナとジョージアが

0:11:56.505,0:11:58.177
生まれました

0:11:58.177,0:12:00.517
この時 初めて紙は使わず

0:12:00.517,0:12:04.477
最後の１ピクセルまで[br]スクリーン上で作りました

0:12:04.477,0:12:08.330
当時スクリーンは[br]「バイナリ」で

0:12:08.330,0:12:11.370
ピクセルには[br]オンとオフしかありませんでした

0:12:11.370,0:12:14.225
これは大文字「H」の

0:12:14.225,0:12:15.692
アウトラインです

0:12:15.692,0:12:18.493
黒い輪郭線ですが

0:12:18.493,0:12:21.369
メモリ上ではこのように[br]記録されています

0:12:21.369,0:12:23.039
その下にグレーで

0:12:23.039,0:12:25.187
ビットマップを表示しています

0:12:25.187,0:12:27.024
画面上には これが表示されます

0:12:27.024,0:12:30.170
ビットマップは[br]アウトラインから生成されます

0:12:30.170,0:12:32.411
「H」は直線だけで構成されるので

0:12:32.411,0:12:34.499
ビットマップとアウトラインは

0:12:34.499,0:12:38.867
方眼上でほぼ一致します

0:12:38.867,0:12:41.993
一方「O」の場合は[br]そうはいきません

0:12:41.993,0:12:44.720
文字というより[br]レンガを積んだようですが

0:12:44.720,0:12:47.621
これは正しいビットマップです

0:12:47.621,0:12:49.636
理由は単純で

0:12:49.636,0:12:52.116
x軸と y軸について対称だからです

0:12:52.116,0:12:54.974
バイナリのビットマップで[br]これ以上は

0:12:54.974,0:12:56.694
望めません

0:12:56.694,0:12:59.098
小文字の「a」など[br]難しい文字の場合は

0:12:59.098,0:13:01.454
３〜４種類 作っておいて

0:13:01.454,0:13:02.960
一番よい字を選ぶため

0:13:02.960,0:13:06.500
少し下がって眺めたものです

0:13:06.500,0:13:08.595
いや 「一番よい字」というより

0:13:08.595,0:13:11.020
デザイナーの直感で

0:13:11.020,0:13:12.409
「最も悪くない」字を

0:13:12.409,0:13:15.450
決めようとしていました

0:13:15.450,0:13:17.900
これは妥協でしょうか

0:13:17.900,0:13:19.446
私はそうは思いません

0:13:19.446,0:13:22.533
その時 技術的に可能な[br]最高の水準に従うだけです

0:13:22.533,0:13:24.742
ただ その水準が

0:13:24.742,0:13:27.221
理想とは かけ離れているだけです

0:13:27.221,0:13:28.812
ご覧いただいているのは

0:13:28.812,0:13:30.974
どちらもビットマップフォントです

0:13:30.974,0:13:32.670
上の「a」の方が

0:13:32.670,0:13:34.583
下のものよりは いいですが

0:13:34.583,0:13:37.159
決して最高とは言えません

0:13:37.159,0:13:39.066
文字を小さくすると

0:13:39.066,0:13:42.442
効果がもっとよく[br]わかるかも知れません

0:13:42.442,0:13:44.838
私は理想主義者ではなく[br]現実主義者ですが

0:13:44.838,0:13:46.341
そうなる必要がありました

0:13:46.341,0:13:48.270
私の性格だと

0:13:48.270,0:13:49.970
完ぺきには できないことにも

0:13:49.970,0:13:53.608
力の限り全力で取り組むことに

0:13:53.608,0:13:57.477
満足感を覚えます

0:13:57.477,0:14:02.334
これはジョージア・イタリックの[br]小文字の「h」です

0:14:02.334,0:14:04.607
ビットマップだとギザギザで

0:14:04.607,0:14:06.466
粗い印象を受けます

0:14:06.466,0:14:08.462
でも いろいろ試してみて

0:14:08.462,0:14:11.679
画面にイタリックを表示したときに

0:14:11.679,0:14:13.625
ピクセルの境界部分で

0:14:13.625,0:14:15.957
ストロークがきちんと離れて見える

0:14:15.957,0:14:18.440
最適な傾きがあることがわかりました

0:14:18.440,0:14:21.221
見てください[br]粗いかも知れませんが

0:14:21.221,0:14:23.271
左右の脚の部分が

0:14:23.271,0:14:25.220
同じ線上にあって離れて見えます

0:14:25.220,0:14:28.740
これはデザインの勝利です

0:14:28.740,0:14:31.918
もちろん さらに小さくすると

0:14:31.918,0:14:33.841
選択肢は限られてきます

0:14:33.841,0:14:38.886
これは「S」です[br]わかりますか？

0:14:38.886,0:14:41.040
ヴァーダナとジョージアが

0:14:41.040,0:14:43.690
リリースされて18年が経ちました

0:14:43.690,0:14:45.780
マイクロソフトの予想は正しく

0:14:45.780,0:14:48.194
まる10年かかりましたが

0:14:48.194,0:14:50.474
現在のディスプレイは

0:14:50.474,0:14:52.927
アンチエイリアスなどのおかげで

0:14:52.927,0:14:56.399
空間解像度は高くなり[br]測光解像度も

0:14:56.399,0:14:59.553
はるかに改善しました

0:14:59.553,0:15:03.250
彼らは目標を達成しましたが[br]だからといって

0:15:03.250,0:15:04.980
低解像度ディスプレイ向けに

0:15:04.980,0:15:06.860
かつて私がデザインした

0:15:06.860,0:15:09.511
スクリーンフォントは[br]なくなるでしょうか？

0:15:09.511,0:15:12.906
それとも そのフォント群は[br]すでに旧式になったディスプレイや

0:15:12.906,0:15:15.078
市場にあふれる[br]新しいウェブフォントよりも

0:15:15.078,0:15:16.581
長く存在し続けるのでしょうか？

0:15:16.581,0:15:18.441
それともテクノロジーから離れた

0:15:18.441,0:15:20.679
進化上 独自の地位を

0:15:20.679,0:15:24.416
確立していくのでしょうか？

0:15:24.416,0:15:26.087
言い方を換えれば

0:15:26.087,0:15:29.400
書体デザインの主流に[br]なっていくのでしょうか？

0:15:29.400,0:15:33.058
私にはわかりませんが[br]今のところはよくやっています

0:15:33.058,0:15:35.553
18年ですよ

0:15:35.553,0:15:37.704
今の消費スピードを考えれば

0:15:37.704,0:15:39.618
不満なんてありません

0:15:39.618,0:15:42.457
どうもありがとう

0:15:42.457,0:15:44.634
（拍手）