0:00:06.593,0:00:08.552 見よ 人間の脳を 0:00:08.552,0:00:13.533 その見渡す限りのでこぼこが[br]はっきりと左右に分かれています 0:00:13.533,0:00:18.458 この構造をもとに[br]脳に関して もっともよく知られた― 0:00:18.458,0:00:20.444 左脳が論理を司り 0:00:20.444,0:00:22.924 右脳が創造性を司るという考えが[br]生まれました 0:00:22.924,0:00:28.023 しかし これは科学的根拠のない[br]俗説なのです 0:00:28.023,0:00:30.524 では この誤解を招く考えは[br]どうやって生まれ 0:00:30.524,0:00:33.184 どこで間違ったのでしょう? 0:00:33.184,0:00:36.266 脳に右側と左側があるのは[br]本当です 0:00:36.266,0:00:40.105 これは大脳皮質と呼ばれる[br]表面の層を見ると よくわかります 0:00:40.105,0:00:42.454 内部の領域である線条体や 0:00:42.454,0:00:43.555 視床下部 0:00:43.555,0:00:44.475 視床 0:00:44.475,0:00:45.766 脳幹なども 0:00:45.766,0:00:48.646 連続した組織でできているように[br]見えますが 0:00:48.646,0:00:53.426 実際には それぞれに[br]左側と右側があるのです 0:00:53.426,0:00:57.217 事実 脳の左側と右側は[br]体の異なる機能を司ります 0:00:57.217,0:00:59.896 運動と視覚を例に挙げましょう 0:00:59.896,0:01:05.447 脳の右側は左腕と左足の動きを司り[br]逆もまた然りです 0:01:05.447,0:01:08.667 視覚系は より複雑で 0:01:08.667,0:01:12.517 両方の眼 それぞれに[br]左右の視野があります 0:01:12.517,0:01:16.388 両眼の左側の視野は[br]脳の右側に送られ 0:01:16.388,0:01:19.548 両眼の右側の視野は[br]左側に送られます 0:01:19.548,0:01:24.436 つまり脳は両側を使うことで[br]完全な像を捉えているわけです 0:01:24.436,0:01:29.918 左右の交叉がなぜ起きるのか[br]科学的に明確な答えは出ていません 0:01:29.918,0:01:35.347 ある説によると 事の始まりは[br]動物がより複雑な神経系を持ち始めた頃 0:01:35.347,0:01:39.848 より素早い反射が[br]生存上 有利だったからだと言われます 0:01:39.848,0:01:42.689 捕食者が左側から[br]近づいてくるのが見えたら 0:01:42.689,0:01:45.781 動物にとっては[br]右へ逃げるのが得策です 0:01:45.781,0:01:49.549 ですから視野と運動のコントロールは 0:01:49.549,0:01:52.929 左右の脳の構造に依存したシステムだと[br]言ってよいでしょう 0:01:52.929,0:01:59.381 ただし その考えを論理性と創造性にまで[br]拡大してしまうのは問題です 0:01:59.381,0:02:02.360 この誤解が始まったのは[br]1800年代の中頃 0:02:02.360,0:02:05.421 ブローカとウェルニッケという[br]2人の神経学者が 0:02:05.421,0:02:10.981 外傷によってコミュニケーションに[br]支障をきたした患者を調べた時のことです 0:02:10.981,0:02:15.052 2人は患者の左側頭葉に[br]損傷があるのを発見し 0:02:15.052,0:02:20.221 言語が脳の左側で支配されていることを[br]示唆しました 0:02:20.221,0:02:22.702 これが民衆の想像力を[br]かきたてました 0:02:22.702,0:02:24.211 作家のロバート・ルイス・[br]スティーヴンソンは 0:02:24.211,0:02:27.832 論理的な左脳と感情的な右脳が[br]競い合うというアイデアを 0:02:27.832,0:02:30.762 登場人物を使って描き[br]世に送り出しました 0:02:30.762,0:02:35.373 それが『ジキル博士とハイド氏』です 0:02:35.373,0:02:38.236 しかし このアイデアは[br]医師や科学者が 0:02:38.236,0:02:41.247 脳の片側が生まれつきなかったり[br]左右が分離した患者を 0:02:41.247,0:02:44.732 調べてみると[br]証明できませんでした 0:02:44.732,0:02:47.960 患者たちの動作は[br]あらゆる範囲に及び 0:02:47.960,0:02:50.614 論理的なものも創造的なものも[br]確認されました 0:02:50.614,0:02:55.393 後々 研究によって いくつかの機能では[br]脳の片側が反対側に比べて 0:02:55.393,0:02:57.704 機能が高いことがわかりました 0:02:57.704,0:03:00.265 言語は左半球に 0:03:00.265,0:03:03.084 注意力は右半球に[br]より依存しています 0:03:03.084,0:03:05.384 脳の片側が[br]多く働くことはあるわけです 0:03:05.384,0:03:09.555 でも それはシステムによる違いで[br]人によって異なるものではありません 0:03:09.555,0:03:11.355 片側だけが優位というような 0:03:11.355,0:03:14.654 脳を持つ人がいることを示唆する[br]証拠はありませんし 0:03:14.654,0:03:17.635 左脳と右脳が 論理性と創造性で[br]分かれているという 0:03:17.635,0:03:20.305 考えを裏付ける証拠もありません 0:03:20.305,0:03:23.725 特に論理性や創造性に[br]長けた人がいても 0:03:23.725,0:03:27.084 その人の左右の脳とは[br]関係ありません 0:03:27.084,0:03:31.564 そもそも論理性と創造性が[br]互いに反目しあうという考えが 0:03:31.564,0:03:33.714 事実に反するのです 0:03:33.714,0:03:37.677 複雑な数学の問題を解くには[br]見事な創造性が必要ですし 0:03:37.677,0:03:42.456 生き生きした芸術作品の多くは[br]込み入った論理的枠組みを備えています 0:03:42.456,0:03:45.798 創造性と論理性の成し遂げることは[br]ほぼすべて 0:03:45.798,0:03:49.826 脳全体が1つになって[br]機能していることを表しています