1
00:00:06,019 --> 00:00:09,192
至極当然でことわざにすらなっている

2
00:00:09,192 --> 00:00:12,094
「ゆでた卵は戻せない」

3
00:00:12,094 --> 00:00:15,509
でも本当は「ある程度」戻せるんです

4
00:00:15,509 --> 00:00:18,291
熱エネルギーによる卵の分子への作用は

5
00:00:18,291 --> 00:00:21,481
力学的エネルギーで戻せるのです

6
00:00:21,481 --> 00:00:24,338
卵はほとんど水とタンパク質でできています

7
00:00:24,338 --> 00:00:28,032
タンパク質は最初複雑な形状にもつれ合い

8
00:00:28,032 --> 00:00:31,006
弱い化学結合により固まっています

9
00:00:31,006 --> 00:00:33,596
加熱すると この結合は壊れ

10
00:00:33,596 --> 00:00:39,630
たんぱく質は 重ならず 渦巻かず 
ほどけて自由に動くようになります

11
00:00:39,630 --> 00:00:42,671
この過程は変性と呼ばれます

12
00:00:42,671 --> 00:00:45,820
新たに遊離したタンパク質は
近隣の分子と衝突し

13
00:00:45,820 --> 00:00:48,807
新しい結合を作り始めます

14
00:00:48,807 --> 00:00:51,074
さらに熱が加えられると

15
00:00:51,074 --> 00:00:56,254
最後には複雑にもつれあって
ゲル化し固体の塊になります

16
00:00:56,254 --> 00:00:58,183
ゆで卵の完成です

17
00:00:58,183 --> 00:01:01,648
このもつれは永続的に見えますが
実は違います

18
00:01:01,648 --> 00:01:03,521
微視的可逆性の法則と呼ばれる

19
00:01:03,521 --> 00:01:06,793
化学の理論によれば

20
00:01:06,793 --> 00:01:10,093
卵のタンパク質が固まるような 
全ての現象は

21
00:01:10,093 --> 00:01:14,564
理論的にはステップをさかのぼることにより
元に戻すことができるのです

22
00:01:14,564 --> 00:01:17,836
しかしさらに加熱しても
タンパク質を さらにもつれさせ

23
00:01:17,836 --> 00:01:20,718
冷やしても凍らせるだけです

24
00:01:20,718 --> 00:01:22,322
答えはこうです

25
00:01:22,322 --> 00:01:25,273
桁外れに早く回転させるのです

26
00:01:25,273 --> 00:01:26,717
嘘ではありません

27
00:01:26,717 --> 00:01:28,198
うまく行くのです

28
00:01:28,198 --> 00:01:31,853
最初に科学者はゆで卵の白身を

29
00:01:31,853 --> 00:01:33,953
尿素という化学物質が入った水に溶かします

30
00:01:33,953 --> 00:01:38,957
尿素の小さい分子は潤滑剤となり
たんぱく質の長い房を包みます

31
00:01:38,957 --> 00:01:42,685
するとそれぞれのタンパク質が
滑りやすくなるのです

32
00:01:42,685 --> 00:01:45,924
次にガラス管の中の溶液を回転させます

33
00:01:45,924 --> 00:01:49,229
１分間に5000回転ほどの猛烈な速さでです

34
00:01:49,229 --> 00:01:52,640
すると溶液は薄い膜のように広がります

35
00:01:52,640 --> 00:01:54,187
そしてここが大事です

36
00:01:54,187 --> 00:01:57,232
壁に近い溶液は

37
00:01:57,232 --> 00:01:59,575
中央付近よりも早く回転します

38
00:01:59,575 --> 00:02:03,171
速さの違いが剪断応力―
横滑りをさせる力を生み出し

39
00:02:03,171 --> 00:02:06,831
タンパク質を繰り返し 伸縮させ

40
00:02:06,831 --> 00:02:12,911
最後には元の姿に戻ります

41
00:02:12,911 --> 00:02:15,156
遠心分離機の回転が止まる頃には

42
00:02:15,156 --> 00:02:20,230
卵白はゆでる前の状態に戻ります

43
00:02:20,230 --> 00:02:23,055
この技術はどんなタンパク質にも
利用可能です

44
00:02:23,055 --> 00:02:27,194
より大きくて複雑なタンパク質は
遊離させることが難しいので

45
00:02:27,194 --> 00:02:31,042
化学者達は樹脂のビーズを片端につけて

46
00:02:31,042 --> 00:02:35,897
さらに力が加わることによって
タンパク質が早くほどけるようにします

47
00:02:35,897 --> 00:02:40,104
このゆで卵を戻す方法は
殻の中の卵全体には使えません

48
00:02:40,104 --> 00:02:44,276
溶液がシリンダー中に広がってしまうからです

49
00:02:44,276 --> 00:02:48,867
しかしこの方法は朝食を調理前に戻すよりも
もっと広く活用できます

50
00:02:48,867 --> 00:02:53,751
たんぱく質でできる 多くの薬は
製造にとてもお金がかかりますが

51
00:02:53,751 --> 00:02:57,223
その理由の１つは
調理した卵白のように

52
00:02:57,223 --> 00:02:59,179
もつれて塊になってしまうからです

53
00:02:59,179 --> 00:03:03,828
そこで 薬として使う時には もつれを解き
もう一度折り重ねる必要があります

54
00:03:03,828 --> 00:03:06,143
この回転させる技術は

55
00:03:06,143 --> 00:03:09,201
タンパク質をほどく他の方法よりも

56
00:03:09,201 --> 00:03:11,574
簡単で 安く 早い方法となる
可能性があります

57
00:03:11,574 --> 00:03:16,102
そして 新薬が作られ より多くの人々に
より早く届けられる可能性があります

58
00:03:16,102 --> 00:03:18,550
でも 全ての料理を元に戻す前に

59
00:03:18,550 --> 00:03:21,271
知っておくべきことがあります

60
00:03:21,271 --> 00:03:25,025
ゆで卵は実は特殊な調理法なのです

61
00:03:25,025 --> 00:03:29,848
なぜならタンパク質の形や
結合の方法を変化させるものの

62
00:03:29,848 --> 00:03:33,154
化学的な特性は変化させないからです

63
00:03:33,154 --> 00:03:36,999
多くの調理法は有名なメイラード反応―

64
00:03:36,999 --> 00:03:38,996
糖とタンパク質を

65
00:03:38,996 --> 00:03:43,720
美味しいキャラメルのサクサクに変える
化学反応を起こしますが

66
00:03:43,720 --> 00:03:46,516
これを元に戻すのはずっと難しいのです

67
00:03:46,516 --> 00:03:48,983
そのため ゆで卵は元に戻せても

68
00:03:48,983 --> 00:03:53,165
残念ですが 今のところ
目玉焼きは元に戻せないのです