0:00:00.804,0:00:05.216 フランス人が 他の国民より[br]巧みな事は何でしょう? 0:00:06.454,0:00:08.380 そんな世論調査をしたなら 0:00:08.404,0:00:10.211 トップ3の答えは 0:00:10.235,0:00:14.274 愛、ワイン、ワイニング(泣き言) 0:00:14.298,0:00:15.599 (笑) 0:00:15.623,0:00:16.782 かもしれませんが 0:00:17.530,0:00:19.868 それに加えて もう1つ提案すると 0:00:19.892,0:00:21.082 数学です 0:00:21.760,0:00:24.613 パリ程 数学者の多い街は 0:00:24.637,0:00:26.578 世界中どこを捜してもありません 0:00:26.578,0:00:29.945 これ程 数学者にちなんだ[br]名前の街路もありません 0:00:30.215,0:00:33.664 統計からすると[br] 0:00:33.688,0:00:36.181 数学のノーベル賞とも言われ 0:00:36.205,0:00:40.137 40才以下の数学者に与えられる 0:00:40.161,0:00:43.342 フィールズ賞の受賞者人口比は 0:00:43.342,0:00:45.240 フランスが世界一です 0:00:46.286,0:00:49.660 数学の何が フランス人を[br]そんなに魅惑するのでしょうか? 0:00:50.153,0:00:53.357 数学なんて 抽象的でつまらないとか 0:00:53.381,0:00:56.864 またはルールと数字を使っての計算に[br]過ぎないように思えるでしょう 0:00:58.518,0:01:00.630 数学は抽象的かも知れませんが 0:01:00.654,0:01:01.805 退屈ではなく 0:01:01.829,0:01:03.768 計算が全てでもありません 0:01:04.178,0:01:05.925 数学とは論証と証明こそが 0:01:05.949,0:01:08.209 数学者の仕事の中核を成し 0:01:08.513,0:01:10.035 想像力 すなわち 0:01:10.059,0:01:12.078 我々が最も称賛する能力を使う 0:01:12.102,0:01:14.203 真理の追求です 0:01:15.613,0:01:18.350 何ヶ月も思考を重ねた上 0:01:18.374,0:01:20.545 問題が解け やっと正しい証明が 0:01:20.569,0:01:23.867 論証し上がった時の喜び[br]と言ったらありません 0:01:25.042,0:01:28.532 偉大なる数学者アンドレ・ヴェイユが[br]この喜びを— 0:01:28.532,0:01:29.863 冗談抜きに— 0:01:29.863,0:01:31.406 性的快感に例えています 0:01:32.197,0:01:37.538 違いは その感覚が何時間も[br]時には何日も継続するという事です 0:01:38.804,0:01:40.657 見返りが大きいのです 0:01:41.325,0:01:45.189 数学的真理は[br]この物質世界全体に潜んでいます 0:01:45.680,0:01:48.350 我々は それを五感で[br]感じる事は出来なくとも 0:01:48.374,0:01:51.098 数学というレンズを通して[br]見る事が出来ます 0:01:52.092,0:01:53.684 では 暫く目を閉じて 0:01:53.708,0:01:57.183 身の回りで起きている事を[br]考えてみて下さい 0:01:58.337,0:02:01.830 あなたの周りの空気中にある[br]見えない無数の粒子が 0:02:01.854,0:02:04.301 常にあなたの体に[br]ぶつかってきています 0:02:04.301,0:02:07.114 それは まったく不規則です 0:02:07.114,0:02:08.199 それでも 0:02:08.223,0:02:12.912 動きの統計的な値は[br]数理物理学で正確に予測できます 0:02:13.715,0:02:16.507 では 目を開けて 0:02:16.531,0:02:19.841 その粒子の速度の統計に[br]目を向けてみましょう 0:02:20.510,0:02:23.750 これは かの有名な[br]釣り鐘形のガウス曲線— 0:02:23.774,0:02:25.955 誤差の法則— 0:02:25.979,0:02:28.701 平均的挙動に対する[br]偏差を表したものです 0:02:29.550,0:02:33.852 この曲線は 粒子の速度を 0:02:33.876,0:02:36.415 人口統計が年齢分布を表すように 0:02:36.439,0:02:40.280 統計で表したもので 0:02:40.884,0:02:43.534 最も重要な曲線の1つです 0:02:44.137,0:02:47.323 これは幾度となく 0:02:47.347,0:02:49.750 多くの理論や実験から現れる 0:02:49.774,0:02:53.055 普遍的な一大真理として 0:02:53.079,0:02:56.631 我々数学者には とても大切なものです 0:02:57.694,0:02:58.921 ガウス曲線に関して 0:02:58.945,0:03:01.994 有名な科学者フランシス・ゴルトンが[br]こう言いました 0:03:02.018,0:03:06.542 「ギリシャ人がこの法則を知っていたら[br]これを神格化していただろう 0:03:07.064,0:03:10.415 これは無秩序の最高法規だ」 0:03:11.818,0:03:18.420 この至高の女神を最もうまく[br]具現化したのがゴルトンボードです 0:03:19.774,0:03:22.971 この中には 狭いトンネルがあり 0:03:22.995,0:03:27.623 それを通り 小さなビー玉が 0:03:28.295,0:03:33.682 右へ 左へ また左へというように[br]ランダムに落ちていきます 0:03:34.139,0:03:37.390 完全に無秩序な混沌とした動きです 0:03:38.085,0:03:44.165 こんな無秩序な軌道が共に[br]何を起こすか見てみましょう 0:03:44.189,0:03:49.624 (ボードを振る) 0:03:49.648,0:03:52.492 これはちょっとした運動です 0:03:52.516,0:03:57.386 この中の交通渋滞を[br]解消しないといけないので 0:03:59.715,0:04:00.865 さあ 0:04:01.313,0:04:04.900 この場で無秩序が何か面白い事を[br]起こすかもしれませんよ 0:04:07.609,0:04:09.072 出ました 0:04:10.382,0:04:12.965 無秩序の至高の女神 0:04:12.989,0:04:14.508 ガウス曲線が 0:04:14.532,0:04:20.983 『サンドマン』の主人公ドリームのように[br]この透明の箱に閉じ込められています 0:04:22.623,0:04:25.321 ここでは 実験で[br]お見せするだけですが 0:04:25.345,0:04:30.630 この曲線以外はあり得ない理由を[br]私のクラスでは説明します 0:04:31.128,0:04:33.998 至高の女神の神秘に触れ 0:04:34.022,0:04:38.723 美しい偶然の一致が[br]美しい論証に取って代わるのです 0:04:39.027,0:04:41.360 科学とはこのようなものです 0:04:42.213,0:04:47.561 美しい数学的な論証は[br]数学者の喜びであるだけでなく 0:04:47.585,0:04:50.245 我々の世界観を変えてしまいます 0:04:51.040,0:04:52.277 例えば 0:04:52.301,0:04:53.296 アインシュタイン 0:04:53.296,0:04:54.181 ペラン 0:04:54.181,0:04:55.476 スモルコフスキー 0:04:55.476,0:04:59.385 彼らは 無秩序な軌道の集合とガウス曲線を 0:04:59.409,0:05:01.446 数学的に分析して 0:05:01.470,0:05:06.398 この世に存在する全てのものは[br]原子で成っていると証明しました 0:05:07.524,0:05:09.010 数学者が 0:05:09.010,0:05:12.740 我々の世界観を覆したのは[br]これが初めてではありません 0:05:13.555,0:05:15.767 2千年以上前 0:05:15.791,0:05:18.401 古代ギリシャの時代には 0:05:19.502,0:05:21.291 そのような事が既に起きていました 0:05:21.827,0:05:23.113 当時 0:05:23.137,0:05:26.420 世界のほんの一部しか[br]探検されておらず 0:05:26.444,0:05:29.946 地球は無限に広がっている[br]かのようだったでしょう 0:05:30.034,0:05:31.801 知恵者のエラストテネスは 0:05:31.825,0:05:33.242 数学を使い 0:05:33.266,0:05:38.377 僅か2%の誤差という驚く程の正確さで[br]地球の周長を測ったのです 0:05:39.969,0:05:41.385 もう1つの例は 0:05:42.238,0:05:45.977 1673年に ジャン・リシェが 0:05:45.977,0:05:52.979 カイエンヌでは振り子の動きがパリより[br]少し遅くなることに気がつきました 0:05:54.350,0:05:58.750 この観察だけから[br]数学を巧妙に使い 0:05:58.774,0:06:01.080 ニュートンは 0:06:01.104,0:06:06.209 地球の両極が ほんの少し平坦なことを[br]正確に導き出しました 0:06:06.209,0:06:08.270 その扁平率は0.3%と僅かで 0:06:08.843,0:06:13.256 地球全体を実際見たとしても[br]気がつかない程でしょう 0:06:14.276,0:06:16.958 これらの例が示しているのは 0:06:16.958,0:06:22.990 数学が我々に直観の世界を[br]超えさせてくれ 0:06:23.512,0:06:26.997 果てしなく見える地球の[br]大きさを測定させ 0:06:27.021,0:06:28.879 目には見えない原子や 0:06:28.879,0:06:32.720 我々が五感で感知できないものを[br]検知させてくれるということです 0:06:32.744,0:06:36.591 この私のトークから[br]覚えておく事があるとしたなら 0:06:36.615,0:06:37.809 それは1つ 0:06:37.833,0:06:42.195 我々の直観を越えた所にある[br]知覚では理解し難いものを 0:06:42.195,0:06:46.324 数学は探索させてくれるということです 0:06:47.609,0:06:50.608 皆さんも経験している[br]現代の例がこれです 0:06:51.362,0:06:53.209 ネットでの検索です 0:06:54.037,0:06:55.379 ワールド・ワイド・ウェブ 0:06:55.403,0:06:57.207 10億を超えるページ全部 0:06:57.231,0:06:59.115 調べ上げたいと思いますか? 0:06:59.660,0:07:01.462 それだけの計算能力があればですが 0:07:01.486,0:07:04.672 データに潜む情報を見出すための[br]数学モデルがなければ 0:07:04.696,0:07:07.459 使い物にならないでしょう 0:07:08.491,0:07:10.870 分かり易い問題で考えてみましょう 0:07:11.872,0:07:15.679 こう想像して下さい[br]あなたは ある事件を扱っている刑事で 0:07:15.703,0:07:19.491 1人1人異なった見解を[br]持った証人が多くいたとします 0:07:20.032,0:07:21.997 誰を最初に事情聴取しますか 0:07:22.681,0:07:24.596 合理的に見ても 0:07:24.620,0:07:26.217 主要目撃者ですよね 0:07:26.878,0:07:28.112 こうです 0:07:28.120,0:07:33.531 証人7が ある話をするとします 0:07:33.555,0:07:35.569 その情報の発信源を[br]証人7に尋ねると 0:07:35.593,0:07:38.629 証人3から聞いたと言うのです 0:07:38.653,0:07:40.721 その次には 証人3は 0:07:40.745,0:07:44.441 証人1が その話の源だと[br]言うかも知れません 0:07:44.465,0:07:46.126 さあ 証人1が主要証人となり 0:07:46.150,0:07:49.518 その人からの事情聴取を[br]絶対に最優先したいと思いますよね 0:07:50.148,0:07:51.299 でも このグラフから 0:07:51.323,0:07:54.551 証人4が主要目撃者だとも[br]見なされるので 0:07:54.575,0:07:57.018 彼の方を先に事情聴取した方が[br]いいかもしれません 0:07:57.042,0:07:59.611 大勢の人の口から[br]彼の名が上がるからです 0:08:00.354,0:08:03.018 この場合は簡単ですが 0:08:03.042,0:08:08.288 もし 非常に多くの人が証言する[br]となったら どうします? 0:08:08.864,0:08:10.216 また このグラフは 0:08:10.240,0:08:15.723 複雑な事件で証言する人々を[br]表しているようですが 0:08:15.723,0:08:19.799 相互にURLを参照し合う 0:08:19.799,0:08:22.000 ウェブサイトを[br]表しているのでもあります 0:08:22.878,0:08:25.584 これでは どのサイトが[br]最も信頼できるのか 0:08:25.587,0:08:27.061 あまり はっきりしません 0:08:28.091,0:08:29.991 ここで登場するのが「ページランク」 0:08:30.015,0:08:33.191 Google初期の主要機能の1つです 0:08:33.337,0:08:37.578 このアルゴリズムは[br]数学的無秩序の法則を使って 0:08:37.602,0:08:41.460 最も関連性の高いウェブサイトを[br]自動的に決定します 0:08:41.484,0:08:46.546 これはゴルトンボードの実験で[br]見られた無秩序の法則と同じ原理です 0:08:47.341,0:08:49.682 では このグラフに 0:08:49.706,0:08:52.556 小さなデジタル・ビー玉を送り込み 0:08:52.580,0:08:56.329 バラバラに通してみましょう 0:08:56.353,0:08:58.020 それぞれサイトに到着し 0:08:58.044,0:09:02.210 次から次にリンクを[br]無秩序に通り抜けます 0:09:02.234,0:09:03.987 どの玉も そうです 0:09:04.358,0:09:05.986 玉が少しずつ積み上がり 0:09:06.010,0:09:09.763 それぞれのサイトの閲覧数— 0:09:09.787,0:09:11.732 デジタル・ビー玉の数が記録されます 0:09:12.243,0:09:13.394 さあ行きますよ 0:09:13.418,0:09:15.266 無秩序に バラバラと 0:09:15.811,0:09:17.259 時々 0:09:17.283,0:09:21.435 全く無秩序にジャンプを起こして[br]もっと面白くしましょう 0:09:22.471,0:09:23.687 ご覧下さい 0:09:24.358,0:09:27.143 カオスの状態から解決法が生まれます 0:09:27.483,0:09:29.968 ビー玉の数が一番多いのは 0:09:29.992,0:09:33.503 他のサイトに比べて[br]リンクが多いサイトであり 0:09:33.527,0:09:36.170 より多く参照されているサイトです 0:09:36.170,0:09:37.546 これで どれが 0:09:37.570,0:09:40.602 最初に見てみたいウェブサイトか[br]はっきりと分かります 0:09:41.507,0:09:42.658 ここでもまた 0:09:42.682,0:09:45.142 解決法が無秩序から生まれます 0:09:45.775,0:09:48.026 もちろん それ以来 0:09:48.050,0:09:51.757 Googleはもっと洗練された[br]アルゴリズムを導入していますが 0:09:51.781,0:09:54.711 ページランクは既に実に[br]うまく機能していました 0:09:54.981,0:09:56.457 それでも問題は起きますが 0:09:56.481,0:09:58.702 その頻度は ほんの百万回に1回程です 0:09:58.734,0:10:01.004 デジタルの到来で 0:10:01.028,0:10:06.044 数学的分析が応用出来る[br]問題が増えて来て 0:10:06.068,0:10:10.433 数学者の仕事は増々有用になり 0:10:11.166,0:10:13.888 数年前 0:10:13.912,0:10:17.691 2009年の[br]ウォール・ストリート・ジャーナルによると 0:10:17.715,0:10:21.683 「職種ランキング100」の調査で 0:10:21.707,0:10:24.892 百の仕事の内のトップに[br]のし上がるまでになりました 0:10:25.445,0:10:27.297 数学者は 0:10:27.321,0:10:29.164 世界で最高の仕事です 0:10:29.646,0:10:32.714 理由は その応用の幅広さです 0:10:32.738,0:10:34.877 コミュニケーション理論 0:10:34.901,0:10:36.721 情報理論 0:10:36.745,0:10:38.005 ゲーム理論 0:10:38.029,0:10:39.475 圧縮センシング 0:10:39.499,0:10:41.061 機械学習 0:10:41.085,0:10:42.652 グラフ解析 0:10:42.676,0:10:44.418 調和解析に加え 0:10:44.442,0:10:47.082 確率過程 0:10:47.106,0:10:48.736 線形計画 0:10:48.760,0:10:50.788 流体シミュレーションもあり 0:10:51.292,0:10:55.187 それぞれ 様々な産業界で[br]大いに応用されています 0:10:55.211,0:10:56.362 これらを通して 0:10:56.386,0:10:58.385 数学は大きな利益をもたらします 0:10:59.400,0:11:01.480 そして 認めざるを得ないことは 0:11:01.480,0:11:03.941 数学を使い富を得る事に関しては 0:11:03.965,0:11:07.789 ダントツで米国が世界一です 0:11:07.813,0:11:12.196 その象徴の才気ある億万長者や[br]素晴らしい巨大企業は全て 0:11:12.196,0:11:16.216 究極のところ 良く出来たアルゴリズムに[br]頼っているということです 0:11:17.091,0:11:21.063 これら全ての美しさ[br]有用さと豊かさで 0:11:21.087,0:11:23.811 数学は より一層魅惑的に見えるのです 0:11:24.399,0:11:26.016 しかし数学者の研究生活が 0:11:26.040,0:11:30.160 楽だなんて思わないで下さい 0:11:30.959,0:11:33.700 解決までには 当惑 0:11:34.347,0:11:35.497 苛立たしさ 0:11:36.172,0:11:38.917 理解に向けての[br]絶望的な闘いで一杯なのです 0:11:39.955,0:11:42.095 私の数学者としての人生で 0:11:42.119,0:11:46.173 最も印象深かった[br]ある日のことを お話ししましょう 0:11:46.173,0:11:47.774 最も印象深い夜だったと 0:11:47.774,0:11:49.435 言うべきかも知れません 0:11:50.713,0:11:51.864 当時 0:11:51.888,0:11:55.039 私はプリンストン高等研究所にいました 0:11:55.063,0:11:58.372 アルベルト・アインシュタインが[br]何年も研究を続けた場所で 0:11:58.372,0:12:02.844 数学の研究には世界で最も聖なる地だと[br]言っても間違いがありません 0:12:02.878,0:12:06.626 その夜 私は 捕らえ所のない証明に[br]取り組んでいて 0:12:06.626,0:12:08.494 それは不完全なままでした 0:12:09.452,0:12:13.403 これは電子の集合体である[br]プラズマの 0:12:13.403,0:12:17.711 矛盾する安定性に関するものでした 0:12:18.423,0:12:21.159 完璧なプラズマの世界では 0:12:21.183,0:12:24.491 我々に馴染みの安定性を作り出す 0:12:24.491,0:12:26.643 衝突も摩擦もありません 0:12:27.392,0:12:28.543 しかし 0:12:28.567,0:12:31.600 少しでもプラズマの平衡が崩れると 0:12:31.624,0:12:34.086 電場は 結果として 0:12:34.086,0:12:36.369 ひとりでに消え去る つまり 0:12:36.369,0:12:38.674 減衰することになります 0:12:38.698,0:12:41.992 まるで何か不可解な摩擦力が[br]働いたようにです 0:12:42.728,0:12:44.357 この矛盾する現象は 0:12:44.357,0:12:46.064 「ランダウ減衰」と呼ばれ 0:12:46.088,0:12:49.077 プラズマ物理における[br]最も重要な事象の1つで 0:12:49.101,0:12:52.103 その存在は数学で証明されました 0:12:52.970,0:12:54.121 とはいっても 0:12:54.145,0:12:58.375 この現象は完全には[br]数学的に理解されていませんでした 0:12:58.399,0:13:03.185 かつての私の教え子であり[br]主要共同研究者のクレマン・ムーオと共に— 0:13:03.209,0:13:04.701 その時パリにいたのですが— 0:13:04.725,0:13:08.811 何ヶ月もその証明に[br]取り組んでいました 0:13:09.832,0:13:11.167 実は 0:13:11.191,0:13:15.937 私は 解けたと勘違いして[br]公表してしまっていたのですが 0:13:15.961,0:13:17.686 実際には 0:13:17.710,0:13:20.207 その証明は成り立っていなかったのです 0:13:20.207,0:13:24.545 百ページ以上の複雑な数学的論理 0:13:24.569,0:13:26.259 多くの発見や 0:13:26.283,0:13:27.550 膨大な計算にも拘らず 0:13:27.574,0:13:28.923 うまく行きませんでした 0:13:29.290,0:13:30.971 プリンストンでの その夜は 0:13:30.995,0:13:35.676 証明を構築する過程の論理が[br]うまく繋がらなく気がどうかなりそうでした 0:13:35.676,0:13:40.251 エネルギーと経験 そしてあらゆる手法を[br]駆使していたのに 0:13:40.275,0:13:42.017 何もうまく行きませんでした 0:13:42.553,0:13:46.435 夜中の1時 2時 3時になっても 0:13:46.459,0:13:47.767 同じ状態でした 0:13:48.545,0:13:52.866 4時頃になり[br]落ち込んだまま就寝し 0:13:53.915,0:13:56.375 その数時間後 0:13:56.399,0:13:57.444 目覚め 0:13:57.444,0:14:00.795 「子供たちを学校に連れて行く時間だ」[br]とその時 0:14:00.795,0:14:02.030 何だ これは? 0:14:02.030,0:14:04.882 頭の中で こう言う声が[br]確かに聞こえたのです 0:14:04.894,0:14:06.807 「第2項目を[br]式の反対側に持って行き 0:14:06.831,0:14:09.190 フーリエ変換して[br]L²空間で逆変換せよ」 0:14:09.257,0:14:10.202 (笑) 0:14:10.202,0:14:12.018 これだ! 0:14:12.018,0:14:14.271 それが解決への第一歩でした 0:14:15.519,0:14:16.670 このように 0:14:16.694,0:14:18.977 休息していたと思っていたのに 0:14:19.001,0:14:22.389 実は私の脳は働き続けていたのです 0:14:23.008,0:14:24.605 そんな時には 0:14:24.629,0:14:27.230 野心も同僚の事も頭にはありません 0:14:27.254,0:14:30.944 取り組んでいる問題と自分だけです 0:14:32.098,0:14:33.426 そうは言ったものの 0:14:33.450,0:14:37.399 自分の辛苦が報われ[br]昇進するのも悪くはないですね 0:14:37.808,0:14:42.968 ランダウ減衰の膨大な証明が完了してから 0:14:42.992,0:14:44.607 私は幸運な事に 0:14:44.631,0:14:47.661 最も切望されているフィールズ賞を 0:14:47.685,0:14:50.552 インドの大統領の手から 0:14:50.576,0:14:54.496 ハイデラバードで[br]2010年の8月19日に頂きました 0:14:55.453,0:14:58.704 数学者にとって夢の様な光栄です 0:14:58.728,0:15:01.677 死ぬまで この日を忘れないでしょう 0:15:02.366,0:15:03.813 どう思われますか 0:15:03.837,0:15:05.978 その時の私の気持ちは? 0:15:06.002,0:15:07.332 プライド? もちろん 0:15:07.791,0:15:11.811 それに加え これを可能にしてくれた[br]協力者の方々ヘの感謝の念です 0:15:12.304,0:15:14.516 これは人々と共同の冒険だったからです 0:15:14.540,0:15:18.682 共同研究者以外の人々とも[br]共有すべき事なのです 0:15:19.548,0:15:25.240 誰でも数学研究のワクワク感を味わえ 0:15:25.264,0:15:29.582 その陰に潜む人々の情熱的な物語を[br]共有出来ると信じています 0:15:30.494,0:15:35.268 アンリ・ポアンカレ研究所の[br]私のスタッフと共同研究者たちと 0:15:35.292,0:15:40.473 世界の数学的表現アーティストと共に[br]アンリ・ポアンカレ研究所で 0:15:40.497,0:15:45.404 実に特殊な独自の数学博物館創立に[br]力を注いでいます 0:15:46.537,0:15:48.314 数年後に 0:15:48.885,0:15:50.462 パリに来られたら 0:15:50.486,0:15:56.144 美味しいパリパリのフランスパンと[br]マカロンを 賞味なさった後 0:15:56.168,0:15:59.831 どうぞアンリ・ポアンカレ研究所へ[br]お越し下さい 0:15:59.856,0:16:02.371 そして 数学の夢を一緒に見ましょう 0:16:02.395,0:16:03.546 ありがとうございました 0:16:03.570,0:16:10.570 (拍手)