今 私たちは 世界的な保健医療問題を抱えています というのも 現在の― 新薬の研究・開発方法は コストも時間もかかりすぎる上 成功するより 失敗の方が多い状況で とにかく うまく行っていないからです つまり 本当に必要とされている 新しい治療法が 患者さんのもとに 届けられず 病気がそのまま 蔓延っている状態です 私たちは 以前にも増して お金を投資しているようですが 研究開発投資 一千億円あたりの 新薬承認数は減ってきています より多くのお金をかけて 少ない薬を生み出す どうなっているんでしょう? これには様々な原因があるわけですが 主要因の一つと思われるのが 新薬試験のためのツールです 薬がうまく機能するのか 効能があるのか 安全であるのかを 臨床試験前に確認するのですが それが うまく行っていません 人間に使ったとき どうなるか予測できないのです 今 私たちが使えるツールは 主に2つで 細胞培養と動物実験です まず 1つ目の細胞培養を 見てみましょう 細胞は 私たちの体の中で 機能するわけですが 元々あった環境から 細胞だけを 取り出してきて このようなシャーレに移し 元通りに機能させようとしても そう うまくはいきません 細胞は そんな環境 好まないのです やっぱり 体の中とは 状況が違いますから では 動物実験はどうでしょう? 動物は 実際に 大変有益な情報を 与えてくれています 動物のお蔭で 複雑な器官で どんなことが起こるのか 分かります まさに生物学的なことを多く学べます でも しばしば 動物実験では 特定の薬で治療をしたときに 人体に何が起こるのか 分からないことがあります ですから より良いツールが必要なのです 人間の細胞が必要ですが 体から取り出しても 心地よい環境にできるような 方法を見つけないといけません 私たちの体は 動的環境で 常に動いています 細胞も その影響を受けます 細胞は 私たちの体の 動的環境の中で 常に機械的な力を 受けているわけです ですから 体外で 細胞にとって 心地よい環境を作るためには 私たちは 細胞建築家に ならないといけません この細胞たちのために 第二の故郷を 設計し 作ってあげるのです ハーバード大学ヴィース研究所は そのことに成功しました それが「臓器チップ (organ-on-a-chip)」で こちらがそうです 美しいでしょう? 本当にすごいんですよ 私が手にしているのは チップ上の人間の肺で まさに呼吸し 生きています ただ美しいだけではないのです これによって 本当にいろんなことができます あの小さなチップの上の 生きた細胞は 動的な環境にあり 様々な種類の細胞と 互いに作用し合っています 多くの人が 研究室で 細胞を育てる取組みをし 様々なアプローチが 取られてきました 研究室で ミニ臓器を作る というものさえ ありました 私たちが考えているのは そういうことではなく この小さなチップに 最小機能単位を作り その中で 細胞が人体で影響を受ける 生化学 機能 力学的歪みも 再現しようというのです どう機能するのか お見せしましょう コンピュータチップ製造技術を使い コンピュータチップ製造技術を使い これらの構造を 実際の細胞と環境に 見合ったものにしています ここに 3つの流体チャネルがあります 真ん中が 多孔質で柔軟性がある皮膜で ここに人間の細胞をのせます 例えば 肺ですね その下には 毛細血管細胞― 血管にある細胞があります さらに チップには 機械的な力を加えることができ 皮膜は伸びたり縮んだりします つまり 細胞には 私たちが呼吸をしたときと同様の 機械的な力が加わり 私たちの体の中にいるのと 同じような影響を受けます 上のチャネルには 空気が流れ 血管のチャネルには 栄養素を含む 液体を流します さて チップは素晴らしいですが これで何ができるのでしょうか? この小さなチップには すごい機能性があるのです この小さなチップには すごい機能性があるのです お見せしましょう 例えば 疑似感染をさせられます バクテリアを肺に流し込んで 人間の白血球も入れます すると 白血球は バクテリアの侵入に対して 防御機能がありますから 白血球は 感染による炎症を感知すると 血管から肺に浸入して バクテリアを飲みこみます これを チップ上の 人間の肺で 実際にご覧いただきましょう 白血球にマークをしていますので 流れているのが分かるでしょう 今 感染を感知して 白血球は留まり始めました そして そこに留まって 肺に入り込もうとし 血管から侵入します ご覧いただいた通り 1つの白血球の動きを 実際に目で見られるのです 止まって 小刻みに動いて 細胞の層を通り 穴を抜け 反対側の皮膜から出てきます そして 緑色にマークされた バクテリアを 動けなくします あの小さなチップで再現される― 感染に対する 体の最も基本的な反応を ご覧いただきました これが免疫反応です 素晴らしいですね 次に お見せするのは この写真です ただ美しいだけではなく 非常に多くの情報を 教えてくれるもので チップ内での 細胞の動きが分かります これらの細胞は 私たちの肺の 細い気道から取ったものですが 実際の肺の中にも この毛のようなものが生えています 繊毛と呼ばれるものですが 肺から粘液を 排出する役割があります 粘液というと気持ち悪いですね でも 粘液は とても重要なもので 粘液が 微粒子やウイルス アレルゲンになりうるものを捉え これらの繊毛が動いて 粘液を外に出すのです 繊毛がもし損傷してしまうと 例えば 喫煙とかで― 繊毛は正しく機能せず 粘液を外に出せなくなり 気管支炎などの 病気になります 繊毛と 粘液排出機能は 嚢胞(のうほう)性線維症のような 重大な病気とも関わりがありますね さて これらのチップで 細胞が機能するようになったので 私たちは 新たな治療の可能性を 探り始めました チップに肺を作っただけ ではありません 腸も作りました こちらが そうです 人間の腸細胞を 腸チップに入れ 絶えず蠕動運動を与えます 波のように細胞から細胞に 伝わる運動です これによって 人間の腸で起こりうる 多くの機能を再現できます これで病気のモデルも 作れるようになりました 例えば 過敏性腸症候群 これは多くの人が患っていて 本当に体にこたえますが あまり良い治療法がないのが 現状です 今 様々な器官のチップを つなげた一連の機構を 私たちの研究室で 作っています 実は この技術の 真の実力は これらのチップを 流体的に結び付けられることに あるのです 液体が これらの細胞に流れ さまざまな臓器チップを 互いにつなげて チップ上に いわゆる 仮想人体を作るのです 本当にうれしく思っています これらのチップで 人体の全てを 再現するつもりはありません 私たちが目指すところは 人体でどんなことが起こるか 予測性を高めるために 十分な機能を再現することだからです 例えば 今 私たちは エアロゾル製剤などの薬を 入れたときに どうなるか 調べられるようになりました 私のように喘息持ちの方が 吸入具を使ったとき どのように薬が 肺に入って行き 体に吸収されるのか 心臓には どんな影響を与えるか 調べられます 心臓の鼓動が変わるか? 毒性があるのか? 肝臓で解毒されるのか? 肝臓の中で代謝されるのか? 腎臓で排出されるのか? 体が薬にどう反応するか 動的に研究することができるのです これはとても革命的で 世の中をひっくり返すようなものです 製薬会社だけではなく 化粧品業界を始めとする 様々な産業にとって革命です 今 研究室で 開発している皮膚チップを使えば 化粧品に使われている成分が 実際に皮膚に使っても 安全か確認もできるでしょう それも動物実験なしにです 日々 私たちが さらされている化学物質が 安全かも検証できます 例えば 家庭用洗剤に含まれる 化学物質などです 臓器チップがあれば バイオテロや放射線被ばくにも 応用ができます さらには エボラ出血熱や SARSなどの危険な病気について 多くを学ぶことができます 臓器チップによって 私たちの臨床試験のあり方も 変わるでしょう 今 臨床試験の対象となるのは 平均的な患者です 平均ですから つまり 中年や女性が 対象となる傾向があります 臨床試験で あまり子どもは 対象となりません 日々 子どもは 薬を飲んでいるのに 唯一 その安全性を検証したデータは 大人のものというわけです 子どもは 大人とは違います 大人と同じような 反応をするとは限りません ほかにも 遺伝学的な違いなどによって ほかにも 遺伝学的な違いなどによって ある種の人は リスク集団に入り 薬の副作用が出る可能性も 高くなるかもしれません ですから もし様々な人から細胞を取って チップに載せて チップの上で 様々な人口集団を 再現できたとしたら これは 本当に 臨床試験を大きく変えるのです これが この取り組みをしている チームのみんなです エンジニアもいれば 細胞生物学者も 臨床医もいて 一緒に研究をしています ここ ヴィース研究所で 素晴らしいことが起こりつつあります 様々な領域がここに収斂し 生物学が デザインや設計・制作をする方法に 影響を与えているのです 面白いことです 重要な産業間連携を 打ち立てつつあるのです その一例として 私たちも 大規模デジタル製造専門の 企業と連携しています これによって 一つではなく 何百万ものチップが作れ 出来るだけ多くの 研究者の手に渡せるようになります これこそ この技術の可能性を 開くものです ここで 私たちの機械をお見せしましょう こちらは エンジニアが 今 研究室で プロトタイプしているもので この機械を使えば 技術的に制御を行い 10以上の臓器チップを リンクできるようになるのです ほかにも重要な機能があります 簡単に使えるインターフェイスです 私のような細胞生物学者でも チップを取って それをカートリッジに入れ ちょうど このプロトタイプのように カートリッジをちょうど CDのように機械に挿入すれば 準備完了です つないでスイッチを入れるだけ 簡単です ちょっと想像してみてください あなたの幹細胞を取って チップに載せることで 将来 どんなことができるのか あなた専用のチップです ここにいる私たちは それぞれ違います こうした個人差は 薬に対して 異なった反応― 時には予想もしない反応を 引き起こします 私自身 2年ほど前に ひどい頭痛があり どうしても治らず 「何かしなくちゃ」と思い 鎮痛解熱剤を飲みました すると15分後には 病院行きになりました ひどい喘息の発作を起こしたのです 私は 致命的ではありませんでしたが 残念ながら こうした薬の副作用は 時に致命的になります どうやって それを防ぐのか? 私たちは いつの日か ジェラルディンさん専用のチップ ダニエルさん専用のチップ そして あなたのチップを作り その人専用の医療が できるかもしれません ありがとうございました (拍手)