WEBVTT

00:00:00.988 --> 00:00:02.889
私が自伝を書いた時

00:00:02.889 --> 00:00:06.566
出版社の人たちは困惑していました

00:00:06.566 --> 00:00:10.800
その本は 私が難民だった頃の話なのか？

00:00:10.800 --> 00:00:16.303
ハイテク・ソフト会社を1960年代に設立し

00:00:16.303 --> 00:00:18.380
株式を公開して

00:00:18.380 --> 00:00:22.963
最終的に8,500人以上の社員を抱える
会社に成長させた女性の話なのか？

00:00:22.963 --> 00:00:27.470
自閉症の子どもを持った母の話か？

00:00:27.470 --> 00:00:31.925
それとも大金を寄付する
慈善活動家の話なのか？

00:00:31.925 --> 00:00:34.569
実は どれも私のことです

00:00:34.569 --> 00:00:37.469
では 私の物語をお聞かせしましょう

00:00:39.779 --> 00:00:46.446
すべては ウィーンで
列車に乗った時に始まりました

00:00:46.446 --> 00:00:51.483
ナチス支配下のヨーロッパから
ユダヤ人の子どもを１万人近く救った

00:00:51.483 --> 00:00:53.851
キンダー・トランスポートの１つでした

00:00:53.851 --> 00:00:57.860
５才だった私は
９才の姉の手を握り

00:00:57.860 --> 00:01:01.813
何が起きているのか 分からずにいました

00:01:01.813 --> 00:01:06.504
「イギリスって何？
なぜ そこに向かってるの？」

00:01:06.504 --> 00:01:13.241
私が今 生きているのは
見知らぬ寛大な人々のおかげです

00:01:14.911 --> 00:01:18.446
私は幸運でした
でも さらに幸運だったのは

00:01:18.446 --> 00:01:20.885
後に生みの親と再会出来たことです

00:01:20.885 --> 00:01:27.917
でも 悲しいことに
深い絆は結べませんでした

00:01:27.917 --> 00:01:31.227
ただ 母が列車に乗せてくれた
あのつらい日から

00:01:31.227 --> 00:01:33.003
70年かけて

00:01:33.003 --> 00:01:36.290
当時は想像もできなかったことを
成し遂げてきました

00:01:36.290 --> 00:01:39.398
私は養子に迎えてくれた
イギリスを熱烈に愛しています

00:01:39.398 --> 00:01:44.469
たぶん人権を失った経験をもつ人間に
特有の感情でしょう

00:01:45.831 --> 00:01:52.188
私は救われた甲斐があったと
思えるような人生にしようと誓いました

00:01:52.188 --> 00:01:54.449
そして ただ突き進んだのです

00:01:55.709 --> 00:01:58.524
（笑）

00:01:59.264 --> 00:02:03.465
1960年代の初めのことです

00:02:03.465 --> 00:02:07.953
当時の性差別を避けるために

00:02:07.953 --> 00:02:14.443
自分でソフト制作会社を設立しました
イギリスで最初の新興企業の１つです

00:02:14.443 --> 00:02:20.301
それは同時に
女性が作る 女性のための会社で

00:02:20.301 --> 00:02:23.325
初期のソーシャルビジネスでした

00:02:23.325 --> 00:02:27.001
誰もがその発想を笑いました
当時ソフトウェアはハードにつけて

00:02:27.001 --> 00:02:29.074
無料で提供されるものでしたから

00:02:29.074 --> 00:02:33.808
ソフトを それも女から
「買う」人などいるはずありません

00:02:33.808 --> 00:02:39.745
その頃すでに 女性は大学を卒業し
ちゃんとした学位を持っていましたが

00:02:39.745 --> 00:02:43.299
前進しようとしても
見えない障害がありました

00:02:44.309 --> 00:02:48.985
私は そんな「ガラスの天井」に
ぶつかってばかりだったので

00:02:48.985 --> 00:02:52.550
女性にも平等な機会を望んでいました

00:02:52.550 --> 00:02:57.042
私は 専門的な能力を持ちながら
結婚や妊娠で ―

00:02:57.042 --> 00:02:59.293
業界を去った女性を採用し

00:02:59.293 --> 00:03:04.484
在宅勤務の組織を作り上げました

00:03:04.484 --> 00:03:09.069
キャリアを中断した女性が
職場復帰するという発想を

00:03:09.069 --> 00:03:11.611
生み出したのです

00:03:11.611 --> 00:03:15.394
次々に新しい柔軟な勤務体系を
開発していきました

00:03:15.394 --> 00:03:20.646
ジョブ・シェアリングや利益分配
そして「共同所有」です

00:03:20.646 --> 00:03:24.092
私を除く社員全員に

00:03:24.092 --> 00:03:27.912
無償で会社の４分の１を委ねました

00:03:29.582 --> 00:03:35.773
長い間 私は最初の女性とか
唯一の女性と言われ続けました

00:03:35.773 --> 00:03:39.539
当時 女の私は株式取引もできず

00:03:39.539 --> 00:03:43.300
バスの運転も飛行機の操縦も
できませんでした

00:03:43.300 --> 00:03:49.193
本当の話ですが 夫の許可なしでは
銀行口座も開けませんでした

00:03:49.193 --> 00:03:53.715
私の世代の女性は働く権利や

00:03:53.715 --> 00:03:58.207
平等な賃金を求めて闘いました

00:03:58.207 --> 00:04:02.068
労働者にも 社会にも
大した支援は望めませんでした

00:04:02.068 --> 00:04:04.566
その頃 女性に期待されていたのは

00:04:04.566 --> 00:04:08.461
家庭と家族への責任だけでしたから

00:04:08.461 --> 00:04:11.298
でも私には それが受け入れられなくて

00:04:11.298 --> 00:04:17.286
当時の規範に立ち向かうことにしたのです

00:04:17.286 --> 00:04:23.142
事業開発の手紙を書く時に自分の名前を
ステファニーから「スティーブ」に

00:04:23.142 --> 00:04:24.891
変えたほどです

00:04:24.891 --> 00:04:27.369
そうすれば女だと気づかれる前に

00:04:27.369 --> 00:04:28.750
入り口は抜けられますから

00:04:28.750 --> 00:04:32.054
（笑）

00:04:32.054 --> 00:04:39.214
私の会社フリーランス・プログラマーズは
名前の通りの会社でした

00:04:39.214 --> 00:04:44.287
極小規模でスタートし
使っていたのは食卓テーブル

00:04:44.287 --> 00:04:49.681
資金は今の金額で100ドルほど

00:04:49.681 --> 00:04:56.978
財源は私の労働と
家を担保にした融資でした

00:04:56.978 --> 00:05:02.615
本当は科学に関心があり
市場なんて 扱うのは賃金台帳くらいの

00:05:02.615 --> 00:05:06.640
商業的でつまらないものと思っていました

00:05:06.640 --> 00:05:11.752
だからオペレーションズ・リサーチを
手がけることで妥協したのです

00:05:11.752 --> 00:05:15.183
それなら私の興味をひく
知的な挑戦がありましたし

00:05:15.183 --> 00:05:22.850
商業的な価値があって
顧客も高く評価してくれました

00:05:22.850 --> 00:05:28.108
貨物列車のダイヤを決めたり

00:05:28.108 --> 00:05:34.297
バスの時刻表を作ったり
膨大な量の在庫管理をしたりしました

00:05:34.297 --> 00:05:38.545
そのうち 仕事が入るようになりました

00:05:38.545 --> 00:05:42.300
社員が家庭で しかもパートタイムで
働いていることを隠すために

00:05:42.300 --> 00:05:47.440
固定価格にしました
これを取り入れた会社は ほぼ初めてでした

00:05:47.440 --> 00:05:50.755
そもそも超音速旅客機コンコルドの

00:05:50.755 --> 00:05:54.699
ブラック・ボックス内にある
フライトレコーダーのプログラムを

00:05:54.699 --> 00:05:59.908
女性たちが家庭で作っていたなんて
誰が想像したでしょう？

00:05:59.908 --> 00:06:06.682
（拍手）

00:06:07.392 --> 00:06:12.323
私たちが頼ったのは
「社員を信頼する」という方針と

00:06:12.323 --> 00:06:14.504
電話だけでした

00:06:14.504 --> 00:06:20.225
就職希望者には必ず
「電話は受けられますか？」と聞いたものです

00:06:22.175 --> 00:06:25.194
初期のプロジェクトは
ソフトウェアの品質管理手続きの

00:06:25.194 --> 00:06:27.434
基準を開発することでした

00:06:27.434 --> 00:06:33.636
ソフトは今も昔も
腹が立つほど品質管理が難しいので

00:06:33.636 --> 00:06:35.747
これは極めて高い価値を持っていました

00:06:35.747 --> 00:06:37.971
自分たちもこの基準を使いましたし

00:06:37.971 --> 00:06:40.989
お金まで払って
長年アップデートを続け

00:06:40.989 --> 00:06:45.253
最終的にはNATOに採用されました

00:06:46.323 --> 00:06:50.450
我が社のプログラマーたちは
ゲイやトランスジェンダーを含む

00:06:50.450 --> 00:06:53.896
女性だけでした

00:06:53.896 --> 00:06:58.939
彼らは 個々のタスクを
定義するフローチャートを

00:06:58.939 --> 00:07:02.596
紙と鉛筆で書いていました

00:07:02.596 --> 00:07:06.509
それからプログラムを
大抵はマシン語 ―

00:07:06.509 --> 00:07:08.776
時にはバイナリコードで書き

00:07:08.776 --> 00:07:13.506
データセンターに郵便で送ると

00:07:13.506 --> 00:07:17.724
それが紙テープやカードにパンチされ

00:07:17.724 --> 00:07:22.051
さらに確認のために
パンチし直されました

00:07:22.051 --> 00:07:25.387
コンピュータに辿り着くまで
こんなに作業があったのです

00:07:25.387 --> 00:07:30.046
これが1960年代初頭の
プログラミングでした

00:07:31.566 --> 00:07:36.701
起業してから13年後の1975年に

00:07:36.701 --> 00:07:39.912
男女雇用機会均等法が
イギリスで制定され

00:07:39.912 --> 00:07:46.824
私たちの女性優先の方針が
違法になってしまいました

00:07:46.824 --> 00:07:50.400
予期せぬ結果の１つは

00:07:50.400 --> 00:07:54.072
女性だけの会社に
男性を雇う必要に迫られたことです

00:07:54.072 --> 00:07:59.014
（笑）

00:07:59.014 --> 00:08:01.418
私が女性だけで会社を始めた時

00:08:01.418 --> 00:08:08.317
男性たちは言ったものです
「面白いけれど 小規模だからできるんだ」

00:08:08.317 --> 00:08:14.136
その後 会社が大きくなると
彼らも認めました「確かに成長した ―

00:08:14.136 --> 00:08:17.355
でもビジネス戦略的には
まったく面白みがないね」

00:08:18.125 --> 00:08:25.274
さらにその後 会社の評価額が
30億ドルを超えて

00:08:25.274 --> 00:08:29.877
70人の従業員が億万長者になると

00:08:29.877 --> 00:08:33.397
彼らもこんな風に言いました
「がんばったな スティーブ！」

00:08:33.397 --> 00:08:37.683
（笑）

00:08:37.683 --> 00:08:41.969
（拍手）

00:08:41.969 --> 00:08:46.255
上昇志向の女性は
頭の形を見ればわかります

00:08:46.255 --> 00:08:49.580
男性に 上から目線で叩かれ続け
てっぺんが平らですから

00:08:49.580 --> 00:08:55.521
（笑）（拍手）

00:08:55.521 --> 00:09:00.084
足は特大で
台所から離れても立っていられます

00:09:00.084 --> 00:09:01.737
（笑）

00:09:01.737 --> 00:09:05.562
成功の秘訣を２つ お教えしましょう

00:09:05.562 --> 00:09:11.781
身の回りを一流の人間と
お気に入りの人で固めること

00:09:11.781 --> 00:09:18.065
それから 伴侶は
とても慎重に選ぶことです

00:09:18.065 --> 00:09:21.278
というのも 先日ある女性に
「私の夫は天使なの」と言ったら

00:09:21.278 --> 00:09:23.764
不満げに言うんです
「あなた ついてるわね ―

00:09:23.764 --> 00:09:25.790
私の夫は まだ生きてるわ」

00:09:25.790 --> 00:09:28.807
（笑）

00:09:33.117 --> 00:09:38.174
もし成功が簡単なものなら
私たちはみんな億万長者です

00:09:39.054 --> 00:09:46.048
ただ 私に成功が訪れた時
家族は苦痛と危機の真っ只中でした

00:09:49.258 --> 00:09:57.532
亡くなった一人息子のジャイルズは
赤ちゃんの時は愛らしく満ち足りていました

00:09:57.532 --> 00:10:01.465
その後 ２才半になると

00:10:01.465 --> 00:10:04.738
まるで童話に出てくる取替え子のように

00:10:04.738 --> 00:10:08.170
わずかな言葉さえ失い

00:10:08.170 --> 00:10:13.442
乱暴で 手に負えない子どもに
なってしまったのです

00:10:13.442 --> 00:10:15.524
２才の反抗期ではありません

00:10:15.524 --> 00:10:21.457
重度の自閉症で
二度としゃべることはありませんでした

00:10:24.387 --> 00:10:29.734
ジャイルズは 私が自閉症患者向けの
サービスを開発するために設立した

00:10:29.734 --> 00:10:33.304
最初の慈善事業で建てた施設の
初の入居者になりました

00:10:33.304 --> 00:10:36.304
その後 自閉症児の学校としては
草分け的な

00:10:36.304 --> 00:10:38.724
プライアーズ・コートを設立し

00:10:38.724 --> 00:10:42.844
自閉症の医学的研究に対する
慈善活動をしてきました

00:10:42.844 --> 00:10:47.823
サービスに手付かずの部分があれば
必ず手を差し伸べました

00:10:49.313 --> 00:10:54.583
新しいものも
新たなことを始めるのも好きなんです

00:10:54.583 --> 00:11:01.159
今は自閉症に関する３年間に渡る
シンクタンクを始めたところです

00:11:01.159 --> 00:11:06.434
それから私の富の源になった産業に
一部が還元されるように

00:11:06.434 --> 00:11:10.017
オックスフォード・インターネット研究所や

00:11:10.017 --> 00:11:12.510
ITベンチャーを設立しました

00:11:12.510 --> 00:11:16.795
研究所が対象にするのは
テクノロジー自体ではなく

00:11:16.795 --> 00:11:21.607
インターネットにおける社会的
経済的 法的 倫理的な問題です

00:11:23.887 --> 00:11:30.909
ジャイルズは17年前に
思いがけなく 亡くなりました

00:11:30.909 --> 00:11:34.689
それ以来 少しずつ
息子がいなくても ―

00:11:34.689 --> 00:11:39.469
息子に頼られなくても
生きられるようになってきました

00:11:39.469 --> 00:11:42.829
今は慈善事業が私のすべてです

00:11:42.829 --> 00:11:45.188
道に迷う心配はまったくありません

00:11:45.188 --> 00:11:48.697
どこかの慈善団体が
すぐ私を見つけるでしょうから

00:11:48.697 --> 00:11:52.667
（笑）

00:12:00.807 --> 00:12:04.885
事業を思いつくのは簡単です

00:12:04.885 --> 00:12:07.112
でも ご存知の方も多いでしょうが

00:12:07.112 --> 00:12:10.025
大変なのは それを実行することです

00:12:10.025 --> 00:12:18.117
ものすごいエネルギーと
自分への信頼 決意 そして

00:12:18.117 --> 00:12:22.322
家族や家庭を犠牲にする勇気 ―

00:12:22.322 --> 00:12:27.491
ほとんど執念に近い
一時も休まぬ献身が必要です

00:12:27.491 --> 00:12:31.475
つくづく私が仕事中毒で
よかったと思います

00:12:31.475 --> 00:12:36.706
仕事は きちんと慎ましくやっていれば
素晴らしいものだと思います

00:12:38.153 --> 00:12:43.522
私にとって仕事とは 他にやりたいことがあるのに
やるものではありません

00:12:45.612 --> 00:12:47.756
私たちは 前に向かって生きていくのです

00:12:47.756 --> 00:12:50.990
さて ここから私は
何を学んだのでしょう？

00:12:52.210 --> 00:12:55.846
「明日は 決して今日と同じではなく

00:12:55.846 --> 00:12:58.899
当然 昨日とも違う」ということです

00:12:58.899 --> 00:13:02.306
それで私は変化に 対応できるようになり

00:13:02.306 --> 00:13:06.634
最終的には 変化を
歓迎できるようになりました

00:13:06.634 --> 00:13:11.666
それでもまだ
すごく頑固だって言われますけどね

00:13:11.666 --> 00:13:13.801
どうもありがとう

00:13:13.801 --> 00:13:21.081
（拍手）