WEBVTT 00:00:09.983 --> 00:00:13.871 今日お話しするのは依存症について 特に依存の力についてですが 00:00:13.871 --> 00:00:16.679 力への依存についてもお話しします 00:00:16.679 --> 00:00:19.967 私はカナダのバンクーバーで 医師として働いています 00:00:19.967 --> 00:00:22.658 極めて重度の依存症患者を 診てきました 00:00:22.658 --> 00:00:26.091 ヘロインを使う者 コカインを注射する者 00:00:26.091 --> 00:00:31.584 アルコール 覚せい剤など ありとあらゆる薬物の使用者たちです 00:00:31.584 --> 00:00:33.387 苦しんでいる人たちです 00:00:33.387 --> 00:00:38.310 もし医師の成功を測る基準が 患者の寿命を延ばすことなら 00:00:38.310 --> 00:00:39.900 私は失格です 00:00:39.900 --> 00:00:43.860 私の患者は相対的に 若くして亡くなるからです 00:00:43.860 --> 00:00:47.553 死因はHIV、C型肝炎 00:00:47.553 --> 00:00:50.206 心臓弁の感染症 00:00:50.206 --> 00:00:53.887 脳や脊椎の感染症 00:00:53.887 --> 00:00:56.198 心臓や血液の感染症などです 00:00:56.198 --> 00:01:02.390 自殺や薬物の過剰摂取 暴力や事故による死亡もあります 00:01:02.390 --> 00:01:06.251 彼らの姿を見たら エジプトの偉大な作家― 00:01:06.251 --> 00:01:10.402 ナギーブ・マフフーズの言葉を 思い起こすでしょう 00:01:10.402 --> 00:01:15.445 「人間の体ほど 悲しい人生を 克明に記録するものはない」 00:01:15.445 --> 00:01:17.392 彼らはすべてを失っているからです 00:01:17.392 --> 00:01:20.314 健康も 見た目の美しさも 00:01:20.314 --> 00:01:23.736 歯も富も 00:01:23.736 --> 00:01:25.905 他人との関係も失い 00:01:25.905 --> 00:01:28.504 多くの場合 ついには 命をも失います 00:01:28.504 --> 00:01:31.503 それでも彼らが依存から 足を洗うことは ないのです 00:01:31.503 --> 00:01:34.708 彼らに依存をやめさせることは 力ずくでも できません 00:01:34.708 --> 00:01:38.715 依存症には強い力があります なぜでしょう 00:01:38.715 --> 00:01:40.856 ある患者が私に言いました 00:01:40.856 --> 00:01:45.387 「死ぬのは怖くない 生きることの方が怖い」 00:01:45.387 --> 00:01:50.538 我々が考えるべき問題はこれです 「なぜ彼らは生きることを恐れるのか」 00:01:50.538 --> 00:01:53.529 依存症を理解しようと思ったら 00:01:53.529 --> 00:01:56.043 着目すべきは 依存の悪い点ではありません 00:01:56.043 --> 00:01:57.993 依存の良い点に目を向けるのです 00:01:57.993 --> 00:02:00.910 つまり患者が依存から得ているのは 何なのか 00:02:00.910 --> 00:02:03.730 依存しなければ得られないものとは 何なのか 00:02:03.730 --> 00:02:07.880 依存症患者たちが得ているのは 痛みからの解放です 00:02:07.880 --> 00:02:12.661 安らぎやコントロール感 00:02:12.661 --> 00:02:16.192 落ち着きが得られます ただし ほんの一時です 00:02:16.192 --> 00:02:19.986 問題は なぜこうした感覚が 彼らの人生に欠けているのか 00:02:19.986 --> 00:02:22.210 彼らに何が起きたかです 00:02:22.210 --> 00:02:27.574 ヘロインやモルヒネ コデインなどの薬物や 00:02:27.574 --> 00:02:31.514 コカインやアルコールには 00:02:31.514 --> 00:02:33.754 どれも鎮痛作用があります 00:02:33.754 --> 00:02:36.306 とにかく痛みが和らぐのです 00:02:36.306 --> 00:02:38.643 だから 依存症における真の問題は 00:02:38.643 --> 00:02:42.570 「なぜ依存するか」ではなく 「なぜ痛むのか」なのです 00:02:42.570 --> 00:02:46.009 キース・リチャーズの自伝を 読み終えたところです 00:02:46.009 --> 00:02:48.468 ローリング・ストーンズの ギタリストですね 00:02:48.468 --> 00:02:51.322 ご存じかと思いますが 彼が いまだ存命だというのは 00:02:51.322 --> 00:02:53.696 やはり驚きです 00:02:53.696 --> 00:02:57.031 彼は長期にわたり 重度のヘロイン依存でした 00:02:57.031 --> 00:03:00.710 自伝には こう書いています 「依存とは 00:03:00.710 --> 00:03:05.019 すなわち忘却を求めることであった」 すべてを忘れることだったのです 00:03:05.019 --> 00:03:08.215 彼は言います 「薬物による感覚の歪みのおかげで 00:03:08.215 --> 00:03:11.751 数時間は自分じゃない感覚が 味わえる」 00:03:11.751 --> 00:03:14.217 私には その気持ちがよく分かるのです 00:03:14.217 --> 00:03:16.907 自分に対する不快感を 知っているからです 00:03:16.907 --> 00:03:20.297 自分という存在に対する不快感も 00:03:20.297 --> 00:03:24.147 自分の精神状態から 逃げ出したいという欲望も分かります 00:03:24.147 --> 00:03:29.709 イギリスの偉大な精神科医 ロナルド・D・レインは 00:03:29.709 --> 00:03:32.551 「人が恐れるものには3つある」 と言いました 00:03:32.551 --> 00:03:37.953 人が恐れるのは 死、自分以外の人、 そして自分の心です 00:03:37.953 --> 00:03:42.183 長いこと私は自分の心から 目を背けようとしてきました 00:03:42.183 --> 00:03:44.333 向き合うのが怖かったのです 00:03:44.333 --> 00:03:46.284 どうやって逃げていたかというと 00:03:46.284 --> 00:03:50.951 薬物を使ったことはありませんが 仕事に逃げていました 00:03:50.951 --> 00:03:53.968 様々な活動に身を投じました 00:03:53.968 --> 00:03:57.421 買い物にも逃げました 00:03:57.421 --> 00:04:01.694 私の場合はクラシック音楽の コンパクトディスクでしたが 00:04:01.694 --> 00:04:03.851 そうやって完全に依存症になりました 00:04:03.851 --> 00:04:06.968 1週間でコンパクトディスクに 8千ドルを費やしたこともあります 00:04:06.968 --> 00:04:08.487 買いたかったわけではなく 00:04:08.487 --> 00:04:11.636 店へ行かずには いられなかったのです 00:04:11.636 --> 00:04:14.707 その頃 私は医師として 多くの赤ん坊を取り上げていましたが 00:04:14.707 --> 00:04:16.870 ある時 陣痛に苦しむ女性を病院に残して 00:04:16.870 --> 00:04:22.072 CDを買いに行ってしまったことが ありました 00:04:22.072 --> 00:04:25.758 出産の時間までには 病院へ戻れるはずでしたが 00:04:25.758 --> 00:04:28.007 いったん店に入ると出られないのです 00:04:28.007 --> 00:04:32.536 売り場にはクラシック音楽の 販売員という悪魔がいるからです 00:04:32.536 --> 00:04:36.620 「よぅ モーツァルトの交響曲の 最新のヤツ聴いたかい?」 00:04:36.620 --> 00:04:38.314 「まだ?それじゃあ...」 00:04:38.314 --> 00:04:40.360 私は出産に間に合いませんでした 00:04:40.360 --> 00:04:42.546 帰宅後 そのことで妻に嘘をつきました 00:04:42.546 --> 00:04:46.960 嘘をつくのは依存者の特徴です そして私は子どもたちを無視しました 00:04:46.960 --> 00:04:49.854 仕事と音楽に 取りつかれていたからです 00:04:49.854 --> 00:04:53.098 私には自己からの逃避がどんなものか わかるのです 00:04:53.098 --> 00:04:54.984 私は依存をこう定義しています 00:04:54.984 --> 00:05:01.270 依存とは 一時的な安らぎや喜びを与えながら 00:05:01.270 --> 00:05:05.356 長期的には害になり 悪影響をもたらす行動のことで 00:05:05.356 --> 00:05:09.325 その悪影響にも関わらず やめることができないものです 00:05:09.325 --> 00:05:12.326 この観点から見ると 実に多くの依存があることが 00:05:12.326 --> 00:05:16.077 お分かりになるでしょう 00:05:16.077 --> 00:05:17.966 薬物依存はもちろんですが 00:05:17.966 --> 00:05:21.055 消費依存もありますし 00:05:21.055 --> 00:05:25.697 セックス依存も インターネット依存も 00:05:25.697 --> 00:05:29.179 買い物や食べ物への依存もあります 00:05:29.959 --> 00:05:33.243 仏教には 「餓鬼」という考えがあります 00:05:33.243 --> 00:05:36.703 餓鬼とは膨れ上がった空っぽの腹に 00:05:36.703 --> 00:05:39.573 やせ細った首と小さな口を持つ 生き物です 00:05:39.573 --> 00:05:41.527 餓鬼は常に飢えており 00:05:41.527 --> 00:05:43.911 空虚感が満たされることは あり得ません 00:05:43.911 --> 00:05:46.557 我々は皆 この社会における餓鬼です 00:05:46.557 --> 00:05:48.253 誰もが空虚感を抱えています 00:05:48.253 --> 00:05:52.419 そして多くの人々がその空虚を 外から埋めようとしています 00:05:52.419 --> 00:05:57.101 依存とは まさに その空虚を外から 埋めようとすることなのです 00:05:57.851 --> 00:06:03.275 依存者が痛みに苦しんでいる理由に 取り組もうと思ったら 00:06:03.275 --> 00:06:05.714 着目すべきは遺伝子ではありません 00:06:06.004 --> 00:06:08.203 彼らの人生に目を向けるのです 00:06:08.203 --> 00:06:11.791 私が診ている 常習の依存患者たちの場合 00:06:11.791 --> 00:06:14.339 彼らが痛みに苦しんでいる理由は 明白です 00:06:14.339 --> 00:06:16.675 人生を通じて ずっと虐待されてきたのです 00:06:16.675 --> 00:06:18.941 生まれた時から虐待の日々です 00:06:18.941 --> 00:06:22.529 12年の間に何百人もの女性を 診てきましたが 00:06:22.529 --> 00:06:24.977 全員 幼少期に 性的虐待を受けていました 00:06:24.977 --> 00:06:26.955 男性も精神的に傷ついていました 00:06:26.955 --> 00:06:30.255 男性の場合は性的虐待を受けたり ネグレクトされたり 00:06:30.255 --> 00:06:32.908 身体的虐待を受けたり 捨てられたり 00:06:32.908 --> 00:06:36.441 繰り返し心を傷つけられたり しています 00:06:36.441 --> 00:06:38.029 これが痛みの理由です 00:06:38.029 --> 00:06:42.217 そして また別の理由もあります 人間の脳です 00:06:42.217 --> 00:06:45.443 耳にしたことがあるでしょうが 人間の脳は 00:06:45.443 --> 00:06:47.879 環境と相互に作用します 00:06:47.879 --> 00:06:49.916 遺伝的にプログラムされている 訳ではないのです 00:06:49.916 --> 00:06:53.081 ですから子どもの頃の環境によって 00:06:53.081 --> 00:06:56.786 実際に脳がどう発達するかが 決まってくるのです 00:06:56.786 --> 00:07:00.591 マウスを使った実験を2つ ご紹介しましょう 00:07:00.591 --> 00:07:03.932 ある子どものマウスの口に 食べ物を入れると 00:07:03.932 --> 00:07:07.273 マウスはそれを食べ 味わい 飲み込みますが 00:07:07.273 --> 00:07:10.614 ほんの7~8センチ先に 食べ物を置くと 00:07:10.614 --> 00:07:12.781 そこまで動いて食べようとはしません 00:07:12.781 --> 00:07:16.318 食べには行かず餓死するのです 00:07:16.318 --> 00:07:17.567 なぜでしょう? 00:07:17.567 --> 00:07:21.741 このマウスの脳では ドーパミンという物質の受容体が 00:07:21.741 --> 00:07:23.275 遺伝的に不活化してあったからです 00:07:23.275 --> 00:07:26.131 ドーパミンには報酬とやる気の 作用があります 00:07:26.131 --> 00:07:29.366 ドーパミンが分泌されるのは 私たちがやる気になった時や 00:07:29.366 --> 00:07:33.081 興奮したり 明るく元気になった時 興味がわいた時 00:07:33.081 --> 00:07:35.526 食べ物やセックスの相手を 探している時です 00:07:35.526 --> 00:07:37.888 ドーパミンがなければ やる気が起きません 00:07:37.888 --> 00:07:39.775 では依存症患者の行動を 考えてみましょう 00:07:39.775 --> 00:07:41.516 コカインや覚せい剤など 00:07:41.516 --> 00:07:44.647 薬物を注入すると 依存症患者の脳では 00:07:44.647 --> 00:07:47.140 ドーパミンの放出が見られます 00:07:47.140 --> 00:07:48.625 問題は 00:07:48.625 --> 00:07:52.370 そもそも彼らの脳に 何が起こっていたかです 00:07:52.370 --> 00:07:55.546 薬物に依存性があるというのは 正しくないからです 00:07:55.546 --> 00:07:57.656 薬物そのものに依存性はありません 00:07:57.656 --> 00:08:00.866 ほとんどの人は 薬物を使っても 依存症になることはありません 00:08:00.866 --> 00:08:02.260 ですから問題は 00:08:02.260 --> 00:08:05.174 なぜ一部の人は 依存症になりやすいのか? 00:08:05.174 --> 00:08:08.439 食べ物に依存性はありませんが 依存症になる人はいます 00:08:08.439 --> 00:08:11.115 買い物に依存性はありませんが 依存症になる人はいます 00:08:11.115 --> 00:08:13.831 テレビに依存性はありませんが 依存症になる人はいます 00:08:13.831 --> 00:08:17.008 このように依存症になりやすい理由は 何なのでしょう? 00:08:19.247 --> 00:08:21.611 マウスを使った もう1つの実験では 00:08:21.611 --> 00:08:23.503 マウスの赤ちゃんを使いました 00:08:23.503 --> 00:08:27.655 母親から引き離されても 赤ちゃんマウスは母を求めて鳴きません 00:08:27.655 --> 00:08:29.449 自然界だったら どうなるでしょう? 00:08:29.449 --> 00:08:30.837 赤ちゃんは死にます 00:08:30.837 --> 00:08:34.205 子どもの命を守り育てるのは 母親しかいないからです 00:08:34.205 --> 00:08:35.253 なぜ 鳴かないのか? 00:08:35.253 --> 00:08:38.385 このマウスでは 脳内で エンドルフィンに結合する受容体が 00:08:38.385 --> 00:08:42.496 遺伝的に不活性化してあったからです 00:08:42.496 --> 00:08:46.960 エンドルフィンは脳内にある モルヒネ様の物質で 00:08:46.960 --> 00:08:50.130 我々が持つ天然の鎮痛剤です 00:08:50.130 --> 00:08:56.130 またモルヒネやエンドルフィン類によって 愛を感じることや 00:08:56.130 --> 00:08:59.262 親への愛着心や 親から子への愛着心を 00:08:59.262 --> 00:09:01.564 感じることが可能になります 00:09:01.564 --> 00:09:05.180 ですから脳内のエンドルフィン受容体が 働かない赤ちゃんマウスたちは 00:09:05.180 --> 00:09:07.366 母親を求めて鳴くことがない というわけです 00:09:07.366 --> 00:09:08.694 言い換えると 00:09:08.694 --> 00:09:14.352 ヘロインやモルヒネなどの薬物への 依存というものは 00:09:14.352 --> 00:09:17.894 このエンドルフィンの仕組みに 作用するのです 00:09:17.894 --> 00:09:19.966 それで薬物の効果が 現れるというわけです 00:09:19.966 --> 00:09:23.045 ですから問題は 00:09:23.045 --> 00:09:27.354 この物質を外から取り入れなければ ならない人たちの身に何が起きたのか― 00:09:27.354 --> 00:09:30.411 彼らのように 虐待を受けている子どもの脳では 00:09:30.411 --> 00:09:32.738 こうした回路が発達しないのです 00:09:33.768 --> 00:09:36.372 乳幼児のうちに 暮らしの中で 00:09:36.372 --> 00:09:37.926 愛やつながりを感じていないと 00:09:37.926 --> 00:09:41.872 こうした脳の重要な回路が 正常に発達しません 00:09:41.872 --> 00:09:46.406 虐待の環境にあれば なにしろ正常に発達しませんから 00:09:46.406 --> 00:09:51.599 薬物を使った場合 彼らの脳は影響を受けやすくなります 00:09:51.599 --> 00:09:54.484 薬物によって ようやく 調子を取り戻し 痛みが和らぎ 00:09:54.484 --> 00:09:56.069 愛を感じられるようになるのです 00:09:56.069 --> 00:10:00.116 ある患者が こう言いました 「初めてヘロインをやった時 00:10:00.116 --> 00:10:05.284 優しいハグの温もりを感じたわ 母親が赤ん坊を抱くような感覚だった」 00:10:06.410 --> 00:10:12.738 さて患者たちほどではないにしろ 私も同じ空虚感を抱えていました 00:10:12.738 --> 00:10:16.883 私の身に起きたことをお話ししましょう 私は1944年 ハンガリーの 00:10:16.883 --> 00:10:19.358 ブダペストで ユダヤ人の両親の元に生まれました 00:10:19.358 --> 00:10:22.054 ドイツ人がハンガリーを占領する 直前のことです 00:10:22.054 --> 00:10:25.759 東欧のユダヤ人に何が起きたかは ご存じでしょう 00:10:25.759 --> 00:10:29.857 ドイツ軍がブダペストへ侵攻してきた時 私は生後2ヶ月でした 00:10:29.857 --> 00:10:33.789 そして侵攻された翌日 母は小児科医に電話をして 00:10:33.789 --> 00:10:35.053 こう言いました 00:10:35.053 --> 00:10:38.747 「ガボールが泣き止まないので 診に来ていただけませんか」 00:10:38.747 --> 00:10:41.903 小児科医は こう言いました 「もちろん 伺いますが 00:10:41.903 --> 00:10:45.515 ただ 申し上げておきますと ユダヤ人の赤ちゃんは皆 泣いてるんですよ」 00:10:45.515 --> 00:10:46.787 さあ なぜでしょう? 00:10:46.787 --> 00:10:51.089 赤ん坊がヒトラーや大虐殺や戦争の 何を知っているのでしょう? 00:10:51.089 --> 00:10:52.331 何も知りません 00:10:52.331 --> 00:10:55.728 赤ん坊は母親の感じている ストレスや恐怖や 00:10:55.728 --> 00:10:57.995 絶望に気づいていたのです 00:10:57.995 --> 00:11:02.522 そのことが子どもの脳の発達を 方向付けるのです 00:11:02.522 --> 00:11:07.325 そして当時の私は 「自分はこの世で望まれていない」 00:11:07.325 --> 00:11:10.478 というメッセージを 受け取っていたのでした 00:11:10.478 --> 00:11:12.584 母が私のそばにいて 幸せでないなら 00:11:12.584 --> 00:11:15.340 母には私を求める気持ちが ないに違いありません 00:11:15.340 --> 00:11:17.886 のちに私が仕事中毒になった理由は 00:11:17.886 --> 00:11:21.281 気持ちとしては求められずとも 私を必要と思ってもらえるからです 00:11:21.281 --> 00:11:24.691 有力な医者になれば 皆が私を必要としてくれます 00:11:24.691 --> 00:11:26.311 そうすれば最初に感じた 00:11:26.311 --> 00:11:29.361 望まれていない感覚の 埋め合わせができると考えたのです 00:11:29.361 --> 00:11:31.123 その結果 どうなったかと言えば 00:11:31.123 --> 00:11:33.342 私は 休みなく働き続け 00:11:33.342 --> 00:11:38.321 働いていない時は 音楽CDを買うことに没頭しました 00:11:38.321 --> 00:11:40.432 私の子たちは どう感じたでしょう? 00:11:40.432 --> 00:11:43.450 私の時と同じく「自分は望まれていない」 と感じていました 00:11:43.450 --> 00:11:46.503 こうして我々は 自分が受け取ったメッセージや 00:11:46.503 --> 00:11:49.315 トラウマや苦痛を 無意識のうちに 00:11:49.315 --> 00:11:52.867 次の世代へ伝えてしまうのです 00:11:52.867 --> 00:11:56.049 当然 この空虚感を埋める方法は いろいろあり 00:11:56.049 --> 00:11:59.382 人それぞれ 空虚感の埋め方は 異なりますが 00:11:59.382 --> 00:12:01.107 結局のところ 空虚感は 00:12:01.107 --> 00:12:07.702 幼い頃に得られなかったものに 端を発しているのです 00:12:07.702 --> 00:12:11.097 薬物依存者に出会うと 私たちは こう言います 00:12:11.097 --> 00:12:13.546 「よく そんなことが 自分自身にできるもんだ 00:12:13.546 --> 00:12:17.121 自分を殺すかもしれない悪い物質を 自分の身に注射するなんて 00:12:17.121 --> 00:12:18.956 どうしてできるんだ?」 00:12:18.956 --> 00:12:21.053 でも我々が地球に対して していることは? 00:12:21.053 --> 00:12:24.141 我々は地球の大気圏や 海洋や環境に 00:12:24.141 --> 00:12:28.089 様々なものを注射していますよね 00:12:28.089 --> 00:12:30.488 それが私たちや 地球を 殺しつつあるのに 00:12:30.488 --> 00:12:33.131 どちらの依存が より深刻でしょう? 00:12:33.131 --> 00:12:36.191 石油への依存? 大量消費への依存? 00:12:36.191 --> 00:12:38.499 より甚大な害をもたらすのは どちらでしょう? 00:12:38.499 --> 00:12:40.481 それでも我々は 薬物依存者を非難します 00:12:40.481 --> 00:12:43.562 その理由は彼らが自分たちに そっくりだと知っていて 00:12:43.562 --> 00:12:45.213 そのことが嫌だからです 00:12:45.213 --> 00:12:48.672 だから言うのです「お前は我々とは違う お前は我々より悪い」 00:12:48.672 --> 00:12:54.111 (拍手) 00:12:55.831 --> 00:13:00.730 サンパウロ そしてリオデジャネイロへ 来る飛行機で 00:13:00.730 --> 00:13:04.059 6月9日のニューヨーク・タイムズ紙を 読んでいると 00:13:04.059 --> 00:13:06.220 ブラジルに関する記事がありました 00:13:06.220 --> 00:13:10.199 ニジオ・ゴメスという男性についての 記事です 00:13:10.199 --> 00:13:14.178 彼はアマゾンに住む グアラニー族の長で 00:13:14.178 --> 00:13:18.628 去年11月に殺害されました 皆さんも お聞き及びでしょう 00:13:18.628 --> 00:13:21.919 彼は大農場や企業から 自分の部族を守ろうとして 00:13:21.919 --> 00:13:25.210 殺されました 00:13:25.210 --> 00:13:28.613 大農場や企業が熱帯雨林を買収し 破壊することによって 00:13:28.613 --> 00:13:32.410 ブラジルの先住民の居住環境が 破壊されています 00:13:32.410 --> 00:13:36.342 カナダ出身者として言いますが あちらでも同じことが起きています 00:13:36.342 --> 00:13:39.731 実際 私の患者の多くは ファースト・ネーションという 00:13:39.731 --> 00:13:43.503 カナダの先住民で 重度の依存症を患っています 00:13:43.503 --> 00:13:47.085 彼らが人口全体に占める割合は 小さいのですが 00:13:47.085 --> 00:13:50.296 受刑者や依存症患者や 精神疾患の患者や 00:13:50.296 --> 00:13:51.667 自殺者の中では 00:13:51.667 --> 00:13:53.610 大きな割合を占めます 00:13:53.610 --> 00:13:55.518 なぜでしょうか 00:13:55.518 --> 00:13:57.696 その理由は 彼らが土地を奪われ 00:13:57.696 --> 00:14:02.946 何世代にもわたって 殺され 虐待されてきたからです 00:14:02.946 --> 00:14:04.466 しかし 考えてみてください 00:14:04.466 --> 00:14:07.216 彼ら先住民の苦しみを理解でき その苦しみが原因で 00:14:07.216 --> 00:14:11.768 彼らが痛みからの解放を求めて 依存に向かうのだと理解できたなら 00:14:11.768 --> 00:14:14.017 殺害や虐待をおこなう人間は どうでしょう? 00:14:14.017 --> 00:14:15.516 彼らは何に依存しているのか? 00:14:15.516 --> 00:14:17.511 彼らは権力に依存しているのであり 00:14:17.511 --> 00:14:19.421 富に依存しているのであり 00:14:19.421 --> 00:14:21.201 獲得することに依存しているのです 00:14:21.201 --> 00:14:23.493 より強大な力を手に入れたいのです 00:14:23.493 --> 00:14:26.310 権力への依存を理解しようと 私は歴史上 00:14:26.310 --> 00:14:28.977 最大級の力を得た人物を何人か 調べました 00:14:28.977 --> 00:14:33.569 アレクサンダー大王や ナポレオン、ヒトラー、 00:14:33.569 --> 00:14:35.862 チンギス・カンやスターリンを 調べました 00:14:35.862 --> 00:14:38.705 この人たちを調べると 非常に面白いことが わかります 00:14:38.705 --> 00:14:41.898 まず 彼らは なぜ あれほどまでに 権力を欲したのか? 00:14:41.898 --> 00:14:43.686 興味深いことに 00:14:43.686 --> 00:14:46.431 身体的には 彼らは全員 とても背が低いのです 00:14:46.431 --> 00:14:52.216 私と同じか 私より小柄なぐらいです 00:14:52.216 --> 00:14:56.483 また彼らは もともと よそ者です 00:14:56.483 --> 00:14:59.242 中心的な集団の出身者では ありませんでした 00:14:59.242 --> 00:15:04.153 スターリンはロシアでなくグルジア人 ナポレオンはフランスでなくコルシカ人 00:15:06.043 --> 00:15:13.103 アレクサンダーはギリシャでなくマケドニア人 ヒトラーはドイツでなくオーストリア人でした 00:15:13.683 --> 00:15:16.394 ですから本質的に不安や 劣等感があったのでしょう 00:15:16.394 --> 00:15:19.704 彼らが力を必要としたのは 「自分は大丈夫だ」と感じ 00:15:19.704 --> 00:15:21.304 自分を大きく見せるためです 00:15:21.304 --> 00:15:24.606 その力を手に入れるために 彼らは進んで戦争をおこない 00:15:24.606 --> 00:15:28.414 大勢の人々を殺したのです すべては 自分の力を維持するためです 00:15:29.354 --> 00:15:32.363 小柄な人だけが権力に貪欲なわけでは ありませんよ 00:15:32.363 --> 00:15:34.923 ただ 彼らのような例は興味深いです 00:15:34.923 --> 00:15:38.573 なぜなら権力への依存とは 例外なく自らの空虚感を 00:15:38.573 --> 00:15:40.753 外から埋めようとすることだからです 00:15:40.753 --> 00:15:45.217 たとえば ナポレオンは セントヘレナ島へ追放され 00:15:45.217 --> 00:15:49.669 力を失った後も 自らの権力への愛を語り続けました 00:15:49.669 --> 00:15:52.906 力を持たない自分の姿など 考えられなかったのです 00:15:52.906 --> 00:15:56.953 他人の目に映る自分が もう力を 失っているとは思いもよりませんでした 00:15:56.953 --> 00:16:01.049 これを釈迦やキリストのような人々と 比べてみると 00:16:01.049 --> 00:16:03.465 大変に興味深く感じられます 00:16:03.465 --> 00:16:05.913 釈迦やキリストの物語を見ると 00:16:05.913 --> 00:16:08.535 どちらも悪魔に誘惑されていますが 00:16:08.535 --> 00:16:14.307 悪魔が様々な申し出をする中で 壮大な力を授けてやると言った時 00:16:14.307 --> 00:16:16.510 2人とも断っているのです 00:16:16.510 --> 00:16:18.333 なぜ彼らは断るのでしょう? 00:16:18.333 --> 00:16:23.504 なぜなら彼らは自分の内側に 力を持っているからです 00:16:23.504 --> 00:16:25.525 力を外側に求める必要がないのです 00:16:25.525 --> 00:16:28.688 また彼らは 人々を支配することを望まず 00:16:28.688 --> 00:16:30.463 人々に教えを説くことを望みました 00:16:30.463 --> 00:16:35.685 手本を示し 穏やかな口調で 腕ずくではなく知恵でもって 00:16:35.685 --> 00:16:41.477 人々に教えることを望みました だから力を拒んだのです 00:16:41.477 --> 00:16:44.392 これについて彼らは大変 興味深い言葉を残しています 00:16:46.292 --> 00:16:53.484 キリストは「力と本当の姿は 自分の外ではなく内にある」と説きます 00:16:53.484 --> 00:16:56.527 天国は人の心の中にあると説きます 00:16:57.377 --> 00:17:01.359 釈迦は入滅に際し 弟子たちが嘆き悲しみ 泣き 00:17:01.359 --> 00:17:02.691 誰もが動揺している時 00:17:02.691 --> 00:17:06.214 こう言いました「私を悼んだり 崇拝したり してはならぬ 00:17:06.214 --> 00:17:12.854 自らの内に灯明を見つけ 自らを灯し その中に光を見出しなさい」 00:17:12.854 --> 00:17:16.916 ですから環境の損失や 地球温暖化や 00:17:16.916 --> 00:17:21.970 海洋汚染などを抱える この難しい世界について考える場合も 00:17:21.970 --> 00:17:25.031 世の中を変えるため 権力者を 当てにするのは やめましょう 00:17:25.031 --> 00:17:28.756 というのも 残念ながら 権力者とは 往々にして誰よりも深い― 00:17:28.756 --> 00:17:31.299 空虚感に苛まれている人で 彼らが我々のために 00:17:31.299 --> 00:17:33.392 世の中を変えてくれることは ないからです 00:17:33.392 --> 00:17:35.838 我々は自らの内に光を見出し 00:17:35.838 --> 00:17:38.356 コミュニティや自らの英知や 創造性の中に 00:17:38.356 --> 00:17:41.814 光を見出さなければなりません 00:17:41.814 --> 00:17:45.012 権力者が世の中を良くしてくれるのを 待っても無駄です 00:17:45.012 --> 00:17:48.972 私たちが強制しない限り 彼らは やってくれません 00:17:53.022 --> 00:17:58.494 彼らは 人間の本質とは 野心的で攻撃的で 00:17:58.494 --> 00:18:00.489 利己的だと言います 00:18:00.489 --> 00:18:03.964 まったく正反対です 人間の本質とは実に協力的で 00:18:03.964 --> 00:18:09.499 実に寛容で 社会への貢献を目指すものなのです 00:18:09.499 --> 00:18:13.614 このカンファレンスもそうです ここに集まっているのは 情報を共有し 00:18:13.614 --> 00:18:17.289 情報を受け取り 世界を良くしようと 尽力する人々です 00:18:17.289 --> 00:18:19.084 それこそが人間の本質です 00:18:19.084 --> 00:18:20.626 最後に申し上げます 00:18:20.626 --> 00:18:23.825 もし皆さんが自分の内に光を見出し 自分らしさを見出せたら 00:18:23.825 --> 00:18:25.714 我々はもっと自分に優しくなり 00:18:25.714 --> 00:18:27.675 自然に対しても優しくなれるでしょう 00:18:27.675 --> 00:18:28.957 ありがとうございました 00:18:28.957 --> 00:18:32.408 (歓声)(拍手)