1 00:00:06,829 --> 00:00:07,882 ホメロスの『オデュッセイア』は 2 00:00:07,882 --> 00:00:10,135 西洋文学の最古の作品の1つであり 3 00:00:10,135 --> 00:00:12,897 ギリシャの英雄のオデュッセウスが 4 00:00:12,897 --> 00:00:16,337 トロイア戦争から帰国するまでの 10年間の旅の物語です 5 00:00:16,337 --> 00:00:19,167 いくつかの部分は 事実に基づいている一方 6 00:00:19,167 --> 00:00:23,851 奇妙な怪物や恐ろしい巨人や 強力な魔術師との遭遇は 7 00:00:23,851 --> 00:00:26,294 全くの作り話だと考えられています 8 00:00:26,294 --> 00:00:29,667 しかしこれらの神話に 目に映る以上の真実はないでしょうか? 9 00:00:29,667 --> 00:00:32,140 詩の中の有名なエピソードを 1つ見てみましょう 10 00:00:32,140 --> 00:00:34,293 長い航海の途中で 11 00:00:34,293 --> 00:00:38,782 オデュッセウスと乗組員たちは 謎めいたアイアイエー島を見つけます 12 00:00:38,782 --> 00:00:42,926 飢えて疲れきった中で 何人かの男は宮殿のような家にたどり着き 13 00:00:42,926 --> 00:00:47,454 そこで 絶世の美女に迎えられ 豪華な食事で歓待を受けます 14 00:00:47,454 --> 00:00:51,313 もちろん その後に 話がうますぎたとわかります 15 00:00:51,313 --> 00:00:54,684 本当はこの女性は 極悪な魔女のキルケで 16 00:00:54,684 --> 00:00:57,903 兵士達が彼女のもてなしで 目一杯食事をすると 17 00:00:57,903 --> 00:01:02,183 彼女は魔法の杖を一振りし 兵士達を全て動物に変えてしまいます 18 00:01:02,183 --> 00:01:04,353 幸運にも1人の男が逃げ出し 19 00:01:04,353 --> 00:01:07,503 オデュッセウスを見つけ 乗組員の窮地を報告します 20 00:01:07,503 --> 00:01:10,356 しかしオデュッセウスが 乗組員を助けるために 21 00:01:10,356 --> 00:01:12,762 急いで伝令の神 ヘルメスに会いに行くと 22 00:01:12,762 --> 00:01:15,560 ヘルメスはまず魔法の薬草を 呑むように助言します 23 00:01:15,560 --> 00:01:17,608 オデュッセウスはこの助言を守り 24 00:01:17,608 --> 00:01:20,968 ついにキルケに遭ったときには 彼女の呪文は彼に効かず 25 00:01:20,968 --> 00:01:25,275 オデュッセウスは魔女を打ち負かし 乗組員を救出します 26 00:01:25,275 --> 00:01:28,747 自然な成り行きですが 魔術や動物への変身などは 27 00:01:28,747 --> 00:01:32,754 何世紀もの間 想像の産物以上ではないと 片付けられていました 28 00:01:32,754 --> 00:01:36,866 しかし近年になり 全編を通じて 薬草や薬が多く言及されていることが 29 00:01:36,866 --> 00:01:39,344 科学者の好奇心をそそり 30 00:01:39,344 --> 00:01:41,216 何人かの研究者が 31 00:01:41,216 --> 00:01:45,510 神話は実際に起こった経験の 詩的表現ではと考えるようになりました 32 00:01:45,510 --> 00:01:48,680 ホメロスの文章の初期の版では 33 00:01:48,680 --> 00:01:52,490 キルケは食べ物の中に 乗組員が祖国をすっかり忘れるように 34 00:01:52,490 --> 00:01:56,183 毒薬を混ぜたと書かれています 35 00:01:56,183 --> 00:01:59,647 地中海地域に自生する植物の1つで 36 00:01:59,647 --> 00:02:02,846 チョウセンアサガオという 無垢な名前を持つ薬草は 37 00:02:02,846 --> 00:02:05,762 顕著な記憶喪失を起こすことがあります 38 00:02:05,762 --> 00:02:09,868 この植物は生命活動に不可欠な 神経伝達物質である― 39 00:02:09,868 --> 00:02:12,723 アセチルコリンを阻害する 化合物も含んでいます 40 00:02:12,723 --> 00:02:15,553 神経伝達物質の阻害は 深刻な幻覚と 41 00:02:15,553 --> 00:02:17,251 奇妙な行動を起こし 42 00:02:17,251 --> 00:02:20,748 幻想と現実を区別することを 困難にさせることがあります 43 00:02:20,748 --> 00:02:22,133 これらのことにより 44 00:02:22,133 --> 00:02:26,396 人々は乗組員達が動物に変わったと 信じたのかもしれません 45 00:02:26,396 --> 00:02:29,181 とすれば キルケは魔女ではなく 46 00:02:29,181 --> 00:02:34,670 実際には 地域の植物の使い方を熟知した 化学者であったことになります 47 00:02:34,670 --> 00:02:37,302 しかしチョウセンアサガオは 話の半分に過ぎません 48 00:02:37,302 --> 00:02:39,513 『オデュッセイア』の多くの話と異なり 49 00:02:39,513 --> 00:02:44,232 ヘルメスがオデュッセウスに授けた 薬草の名前がとても具体的なのです 50 00:02:44,232 --> 00:02:46,157 神々にモーリュと呼ばれる この薬草は 51 00:02:46,157 --> 00:02:49,360 森の深い渓谷の中で見つかり 52 00:02:49,360 --> 00:02:52,799 根は黒く 花はミルクのように白いと 記述されています 53 00:02:52,799 --> 00:02:55,174 キルケの残りのエピソードと同様に 54 00:02:55,174 --> 00:02:58,827 モーリュも何世紀もの間 想像の産物と片付けられてきました 55 00:02:58,827 --> 00:03:03,006 しかし1951年に ロシアの薬理学者 ミハイル・マシュコフスキーは 56 00:03:03,006 --> 00:03:05,736 ウラル山脈の村人達が 57 00:03:05,736 --> 00:03:09,202 乳白色の花と黒い根を持つ植物を 58 00:03:09,202 --> 00:03:12,730 ポリオに苦しむ子供達の麻痺を 取り除くために使っていることを発見しました 59 00:03:12,730 --> 00:03:14,473 ユキノハナと呼ばれるその植物は 60 00:03:14,473 --> 00:03:17,814 ガランタミンと呼ばれる化合物を含み 61 00:03:17,814 --> 00:03:21,564 神経伝達物質であるアセチルコリンの 阻害を食い止め 62 00:03:21,564 --> 00:03:24,263 ポリオの治療だけでなく 63 00:03:24,263 --> 00:03:28,077 アルツハイマーなどの他の病気にも 有効であることが分かりました 64 00:03:28,077 --> 00:03:30,106 第12回の世界神経学会議で 65 00:03:30,106 --> 00:03:33,725 アンドレアス・プレイタクス博士と ロジャー・ドゥボアザン博士は 66 00:03:33,725 --> 00:03:38,899 ヘルメスがオデュッセウスに授けた植物が ユキノハナであると最初に主張しました 67 00:03:38,899 --> 00:03:41,909 ホメロスの時代の人々が 幻覚の症状を軽減すると知っていたという 68 00:03:41,909 --> 00:03:45,256 直接的な証拠はそれほどないものの 69 00:03:45,256 --> 00:03:48,881 4世紀のギリシャの作家 テオプラストスの一節には 70 00:03:48,881 --> 00:03:53,602 モーリュは解毒剤として 使われたと書かれています 71 00:03:53,602 --> 00:03:55,396 それでは 72 00:03:55,396 --> 00:03:59,409 オデュッセウス、キルケや他の登場人物は 実在するのでしょうか 73 00:03:59,409 --> 00:04:01,272 必ずしもそうとは限りませんが 74 00:04:01,272 --> 00:04:05,124 これらのことは 古代の物語が 今まで人々が考えてきたよりも 75 00:04:05,124 --> 00:04:07,364 多くの事実を含むのではないかと 示唆しています 76 00:04:07,364 --> 00:04:10,192 そして私たちが 周囲の世界を知るほどに 77 00:04:10,192 --> 00:04:12,628 はるか昔の神話や伝説に隠された 78 00:04:12,628 --> 00:04:15,707 同じ知識を紐解くことになるのです