WEBVTT 00:00:00.201 --> 00:00:01.893 今日の僕の話のタイトルは 00:00:01.893 --> 00:00:05.101 「アーティストになろう、今すぐに」です 00:00:05.101 --> 00:00:08.158 こういう話をしても 多くの人は 00:00:08.158 --> 00:00:10.784 素直に聞いてはくれないようです 00:00:10.784 --> 00:00:13.778 「アートじゃ生活できないし 今は忙しいから」 00:00:13.778 --> 00:00:16.154 「学校に行っているから」「就活が忙しくて」 00:00:16.154 --> 00:00:18.441 「子供の送り迎えがあるし」ってね 00:00:18.441 --> 00:00:23.976 「忙しくて アートのための時間なんてない」と思ってる 00:00:23.976 --> 00:00:27.437 今すぐアーティストになれない 理由はたくさんある 00:00:27.437 --> 00:00:28.992 みなさんも すぐ思い浮かぶでしょう? NOTE Paragraph 00:00:28.992 --> 00:00:30.815 なれない理由は本当にたくさんある 00:00:30.815 --> 00:00:33.375 そもそも なるべき理由もよく分からない 00:00:33.375 --> 00:00:35.068 アーティストになるべき理由が分からないうえに 00:00:35.068 --> 00:00:38.971 なれない理由の方はたくさんあるんだ 00:00:38.971 --> 00:00:43.346 なぜ 自分とアートを結びつけることに抵抗を感じるのか 00:00:43.346 --> 00:00:47.214 たぶん アートはすごい天才か 00:00:47.214 --> 00:00:52.266 修行を重ねたプロだけのものだと思っているんだ 00:00:52.266 --> 00:00:56.609 アートから遠ざかっているから と思っている人もいるだろう 00:00:56.609 --> 00:01:01.227 その可能性もゼロじゃないけど 僕は疑わしいと思う 00:01:01.227 --> 00:01:03.696 今日はこのことについて話をします 00:01:03.696 --> 00:01:05.498 僕らはみんな生まれた時からアーティストだ NOTE Paragraph 00:01:05.498 --> 00:01:08.542 子供がいる人は 分かるよね 00:01:08.542 --> 00:01:13.427 子供がやることは ほとんどすべてがアートだ 00:01:13.427 --> 00:01:16.005 壁にクレヨンで絵を描いたり 00:01:16.005 --> 00:01:19.157 テレビのソン・ダムビを真似て踊ったり 00:01:19.157 --> 00:01:23.015 でも真似できずに オリジナルな振付になったりする 00:01:23.015 --> 00:01:28.301 変なダンスを踊ったり 人に歌を聴かせたりする 00:01:28.301 --> 00:01:32.275 子供のアートに我慢できるのは その子の親だけかもしれない 00:01:32.275 --> 00:01:37.472 子供の芸術活動は一日中続くから 00:01:37.472 --> 00:01:40.751 実際 子供の相手は大変だよね NOTE Paragraph 00:01:40.751 --> 00:01:43.906 時にはお芝居をすることもある -- 00:01:43.906 --> 00:01:47.452 ままごとは一人か数人でやる お芝居だ 00:01:47.452 --> 00:01:50.131 少し大きくなると 嘘をつくことを 00:01:50.131 --> 00:01:52.151 覚える子もいるよね 00:01:52.151 --> 00:01:57.242 親は 子供が最初に嘘をついた時を覚えている 00:01:57.242 --> 00:01:58.587 なにしろ ショックだから 00:01:58.587 --> 00:02:02.155 「本性が現れて来たようね」とお母さんが言う 『どうしてお父さんに似ちゃったのから』と思いながら 00:02:02.155 --> 00:02:05.361 それで子供に尋ねる 「どんな大人になるつもり?」 NOTE Paragraph 00:02:05.361 --> 00:02:06.932 でも心配することはありません 00:02:06.932 --> 00:02:13.152 子供が嘘をつき始めた瞬間に 物語を創る才能が目覚めるんだ 00:02:13.152 --> 00:02:15.340 見たことのないものについて話し始める 00:02:15.340 --> 00:02:17.131 すばらしい瞬間です 00:02:17.131 --> 00:02:19.198 親は喜ぶべきです 00:02:19.198 --> 00:02:23.355 「やった! うちの子が初めての嘘をついた!」 って 00:02:23.355 --> 00:02:25.584 お祝いしなくちゃいけない 00:02:25.584 --> 00:02:28.973 「ママ! 帰り道に誰に合ったか分かる? 宇宙人だよ」 と 00:02:28.973 --> 00:02:33.424 子供に言われたら 普通の親は「やめなさい!」と応える 00:02:33.424 --> 00:02:37.040 理想的な親はこんな風に応えるだろう 00:02:37.040 --> 00:02:40.112 「本当?宇宙人がいたの? どんなだった?何かしゃべった? 00:02:40.112 --> 00:02:41.816 どこで会ったの?」 「えっと...スーパーの前だよ」 NOTE Paragraph 00:02:41.816 --> 00:02:44.138 こんな風に話をすれば 00:02:44.138 --> 00:02:50.513 子供は次の展開を ちゃんと考えなきゃいけなくなる 00:02:50.513 --> 00:02:52.677 そうするうちに 物語がどんどん発展していくのです 00:02:52.677 --> 00:02:57.154 もちろんそれは 子供のお話に過ぎないけど 00:02:57.154 --> 00:03:00.970 一行 また一行と 考えていく作業は 00:03:00.970 --> 00:03:05.038 僕たちプロの作家と同じだ 00:03:05.038 --> 00:03:07.417 両者に本質的な違いはない 00:03:07.417 --> 00:03:10.103 ロラン・バルトがフロベールの小説について言っている 00:03:10.103 --> 00:03:12.709 「フロベールは小説を書こうとしたというよりも 00:03:12.709 --> 00:03:15.714 1つずつ 文をつなぎ合わせていったに過ぎない 00:03:15.714 --> 00:03:20.441 その行間に潜むエロスこそが 彼の小説の本質だ」 00:03:20.441 --> 00:03:23.224 そのとおりだ -- 小説は まず一文を書いて 00:03:23.224 --> 00:03:26.683 その前提からはみ出さないように 00:03:26.683 --> 00:03:28.388 次の行を書いて 00:03:28.388 --> 00:03:29.897 それを繰り返すことで生み出されるものだ NOTE Paragraph 00:03:29.897 --> 00:03:31.963 この文をちょっと見てみましょう 00:03:31.963 --> 00:03:34.430 「ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた。」 00:03:34.430 --> 00:03:36.876 カフカの「変身」の 冒頭の 1 文です 00:03:36.876 --> 00:03:40.044 こんな 有り得ない出だしなのに 00:03:40.044 --> 00:03:42.492 それが説得力を持つように続けることで 00:03:42.492 --> 00:03:46.921 カフカは現代文学の名作を生み出しました 00:03:46.921 --> 00:03:49.670 カフカは父親には自分の作品を見せなかった 00:03:49.670 --> 00:03:51.994 父親とは仲が悪かったのです 00:03:51.994 --> 00:03:55.790 カフカはこんなことをこっそり書いています 00:03:55.790 --> 00:03:59.053 もし父に見せたら「正気を失った」と思われるだろう NOTE Paragraph 00:03:59.053 --> 00:04:00.965 実はそうなんです アートは常識を外れ 00:04:00.965 --> 00:04:03.212 いかにも真実の様に 次の文を続けていくという 00:04:03.212 --> 00:04:06.473 子供の遊びみたいな方法で 創作したのだから 00:04:06.473 --> 00:04:08.004 嘘をつき始めた子供は 00:04:08.004 --> 00:04:11.130 物語の作者になる第一歩を踏み出したと言えます 00:04:11.130 --> 00:04:13.691 子供たちはアートを実践しています 00:04:13.691 --> 00:04:15.116 飽きることもなく 楽しみながらやっている 00:04:15.116 --> 00:04:16.877 数日前に済州島に行ってきました 00:04:16.877 --> 00:04:21.989 ほとんどの子が海に入りたがるけど 00:04:21.989 --> 00:04:24.896 中には砂の方が好きな子もいる 00:04:24.896 --> 00:04:27.140 山や海を作ったり -- 海じゃないか 00:04:27.140 --> 00:04:31.087 何か -- 人とか 犬とか 00:04:31.087 --> 00:04:32.500 そういう時に親が言うんだ 00:04:32.500 --> 00:04:34.263 「どうせ波に壊されちゃうわよ」 00:04:34.263 --> 00:04:36.085 つまりムダだし 何の役にも立たないってことだね 00:04:36.085 --> 00:04:37.229 つまりムダだし 何の役にも立たないってことだね 00:04:37.229 --> 00:04:39.095 でも子供たちは気にしない 00:04:39.095 --> 00:04:40.266 その瞬間を楽しんでいて 00:04:40.266 --> 00:04:42.432 無心に砂遊びを続ける 00:04:42.432 --> 00:04:44.698 誰かに言われてそうしているわけじゃない 00:04:44.698 --> 00:04:46.294 ボスに命令されたわけじゃない 00:04:46.294 --> 00:04:49.219 ただそうするんだ NOTE Paragraph 00:04:49.219 --> 00:04:54.615 子供の頃 夢中に絵を描いたことがあるでしょ 00:04:54.615 --> 00:04:58.977 一番幸せだった時について書いて と学生に言うと 00:04:58.977 --> 00:05:04.901 幼い頃の芸術体験について書くことが多い 00:05:04.901 --> 00:05:07.656 初めてピアノを弾いたときや連弾したとき 00:05:07.656 --> 00:05:12.672 友達をボケ役にしてコントをしたとき 00:05:12.672 --> 00:05:16.023 初めて撮った写真を現像したときとか 00:05:16.023 --> 00:05:18.346 そういう経験について語り始める 00:05:18.346 --> 00:05:20.611 あなたにも そんな時がありませんでしたか? 00:05:20.611 --> 00:05:22.544 その時 アートはあなたを幸せにしていたはずです 00:05:22.544 --> 00:05:24.221 仕事と違ってね 00:05:24.221 --> 00:05:26.754 仕事で幸せを感じていますか? つらいことの方が多いですよね NOTE Paragraph 00:05:26.754 --> 00:05:29.855 フランスの作家 ミシェル・トゥルニエの 有名な言葉があります 00:05:29.855 --> 00:05:31.545 からかっているみたいだけど 00:05:31.545 --> 00:05:36.517 「仕事は人間性に反する。 仕事をすると疲れるのが その証拠だ」 00:05:36.517 --> 00:05:38.002 仕事が人間の本性なら なぜ疲れるのか 00:05:38.002 --> 00:05:39.663 遊びでは疲れないのに 00:05:39.663 --> 00:05:41.098 徹夜で遊ぶことだって出来る 00:05:41.098 --> 00:05:43.531 徹夜で働いたら 残業代を請求する 00:05:43.531 --> 00:05:46.815 うんざりするし疲れるから 00:05:46.815 --> 00:05:51.497 でも子供は楽しみのためにアートをする それは遊びなんだ 00:05:51.497 --> 00:05:54.231 絵を描いて売ろうとしているわけじゃない 00:05:54.231 --> 00:05:57.256 家族を養うためにピアノを弾いているわけじゃない 00:05:57.256 --> 00:06:00.032 もちろん 昔はそういう子もいた 00:06:00.032 --> 00:06:01.334 この人が誰だか分かりますか? 00:06:01.334 --> 00:06:05.420 家族を養うためにヨーロッパ中を旅した 00:06:05.420 --> 00:06:07.310 モーツァルトです -- 00:06:07.310 --> 00:06:10.273 でも何世紀も前のことだし モーツァルトは例外扱いでいいでしょう 00:06:10.273 --> 00:06:14.138 残念なことに 純粋な楽しみであるはずのアートは やがて終わりを迎えます 00:06:14.138 --> 00:06:17.528 子供たちは学校や習い事に通い始め 宿題も出される 00:06:17.528 --> 00:06:21.046 ピアノやバレエのレッスンもあるけど 00:06:21.046 --> 00:06:22.815 それまでみたいに楽しくはない 00:06:22.815 --> 00:06:26.147 命令されたり 競争させられたり そんなの楽しくないに決まってる 00:06:26.147 --> 00:06:31.739 小学校に入ったのに 壁に落書きをしていたら 00:06:31.739 --> 00:06:35.654 お母さんにも怒られるし 00:06:35.654 --> 00:06:39.521 それに 00:06:39.521 --> 00:06:42.101 いつまでもアーティストのように振る舞っていると 00:06:42.101 --> 00:06:45.769 だんだんプレッシャーをかけられるようになる -- 00:06:45.769 --> 00:06:51.824 みんなに変な目で見られて ちゃんとしろって言われちゃう NOTE Paragraph 00:06:51.824 --> 00:06:58.011 僕がそうだった -- 中学のとき 景福宮の写生大会に参加して 00:06:58.011 --> 00:07:00.918 一生懸命描いてた そしたら先生が回ってきて 00:07:00.918 --> 00:07:04.506 「何してるの?」って訊いてきたんだ 00:07:04.506 --> 00:07:06.320 「一生懸命描いてます」って答えたら 00:07:06.320 --> 00:07:08.223 「何で黒一色なの?」って 00:07:08.223 --> 00:07:10.603 僕は黒一色でスケッチブックを塗りつぶしていたんだ 00:07:10.603 --> 00:07:13.672 僕は説明した 00:07:13.672 --> 00:07:16.919 「闇夜にカラスが樹上で休んでいる図です」 00:07:16.919 --> 00:07:17.917 先生は言った 00:07:17.917 --> 00:07:23.239 「ヨンハ君は絵は描けないけど 物語の才能があるよね」 00:07:23.239 --> 00:07:25.974 -- だったら良かったんですが 00:07:25.974 --> 00:07:28.742 実際は 「ふざけるな!」って怒られた(笑) 00:07:28.742 --> 00:07:30.346 「立っていなさい!」って先生は怒鳴った 00:07:30.346 --> 00:07:33.028 「今日は宮殿を描きに来たんだぞ」って 00:07:33.028 --> 00:07:35.463 でも僕の絵は真っ黒だった 00:07:35.463 --> 00:07:37.147 先生は僕をグループから引きずり出した 00:07:37.147 --> 00:07:39.167 周りには女子もたくさんいた 00:07:39.167 --> 00:07:40.718 僕は恥ずかしくてたまらなかった NOTE Paragraph 00:07:40.718 --> 00:07:45.170 何を言っても聞いてもらえなかったし 00:07:45.170 --> 00:07:48.383 深く傷ついた 00:07:48.383 --> 00:07:52.901 理想的な教師なら 僕が望んだような答えが返って来ただろう 00:07:52.901 --> 00:07:55.214 「ヨンハ君は絵は描けないけど 00:07:55.214 --> 00:07:58.589 物語の才能があるね」って 励ましてくれたはずだ 00:07:58.589 --> 00:08:02.041 でもそんな先生は滅多にいない 00:08:02.041 --> 00:08:05.004 大人になってヨーロッパの美術館に行ったとき -- 00:08:05.004 --> 00:08:06.905 大学生の時だ -- すごく不公平に感じたよ 00:08:06.905 --> 00:08:12.303 これを見た時に(笑) NOTE Paragraph 00:08:12.303 --> 00:08:16.628 僕が自分の絵をくわえて 景福宮の前に立たされていた頃 00:08:16.628 --> 00:08:22.021 この絵はバーゼルの美術館に飾られていたんだ 00:08:22.021 --> 00:08:25.027 これなんか まるで壁紙じゃないか 00:08:25.027 --> 00:08:26.943 現代美術では 言い訳なんていらないそうだ 00:08:26.943 --> 00:08:30.888 カラスがどうとかね 00:08:30.888 --> 00:08:34.221 ほとんどの作品の題名は「無題」だ 00:08:34.221 --> 00:08:37.322 ともあれ 20 世紀の現代美術は 00:08:37.322 --> 00:08:42.691 何か変なことをして 説明や解釈で空白を埋めるという 00:08:42.691 --> 00:08:44.170 僕がやったのと まさに同じようなものだ 00:08:44.170 --> 00:08:46.918 僕のは完全に素人の作品だったけど 00:08:46.918 --> 00:08:50.207 代わりにもっと有名な作品を見てみよう NOTE Paragraph 00:08:50.207 --> 00:08:52.808 これはピカソの作品です 00:08:52.808 --> 00:08:58.609 自転車のハンドルにサドルをくっつけて 「牡牛の頭部」という作品名を付けた 00:08:58.609 --> 00:09:03.253 こちらの小便器は 「泉」という題名の作品 00:09:03.253 --> 00:09:04.847 デュシャンの作品です 00:09:04.847 --> 00:09:09.297 つまり 何か変なことをして それをストーリーで説明するというのが 00:09:09.297 --> 00:09:13.424 現代美術がやっていることなんだ 00:09:13.424 --> 00:09:14.812 ピカソはこうも言っている 00:09:14.812 --> 00:09:18.989 「私は見たものを描くのではなく 感じたものを描く」 00:09:18.989 --> 00:09:21.506 慶會楼を見たままに描く必要はなかったんだ 00:09:21.506 --> 00:09:25.577 ピカソのこの言葉をもし知っていたら あの先生に勝てたかもしれない 00:09:25.577 --> 00:09:29.379 不幸なことに 僕たちの中にある創造性は 00:09:29.379 --> 00:09:34.866 芸術の抑圧者との戦い方を覚える前に 息の根を止められてしまう 00:09:34.866 --> 00:09:36.471 檻に閉じ込められて 00:09:36.471 --> 00:09:37.554 それは僕たちの悲劇だ NOTE Paragraph 00:09:37.554 --> 00:09:42.814 創造性が閉じ込められたり 踏みにじられたとき 何が起きるのか? 00:09:42.814 --> 00:09:44.197 アートに対する欲求は消えたりしない 00:09:44.197 --> 00:09:47.294 自己表現への渇望が残る 00:09:47.294 --> 00:09:52.532 でも創造性を否定されたら 抑圧された形でしか表現できなくなる 00:09:52.532 --> 00:09:55.499 「追憶のメロディ」や「ホテルカリフォルニア」を 00:09:55.499 --> 00:09:58.041 エアギターを弾きながら 00:09:58.041 --> 00:10:00.361 カラオケで歌ったり 00:10:00.361 --> 00:10:02.603 大抵 すごく下手なんだよね 00:10:02.603 --> 00:10:05.082 そんな風になったりする人もいるし 00:10:05.082 --> 00:10:07.155 クラブで踊る人もいる 00:10:07.155 --> 00:10:10.557 物語を紡ぎだすことの出来たかもしれない人々が 00:10:10.557 --> 00:10:13.567 一晩中 インターネットで騒いでいる 00:10:13.567 --> 00:10:16.962 そこでは 文章を書く才能が 暗黒の一面を見せる NOTE Paragraph 00:10:16.962 --> 00:10:20.915 子供のおもちゃを取り上げちゃうお父さんもいる 00:10:20.915 --> 00:10:23.900 レゴとかプラモデルで遊ぶときに 00:10:23.900 --> 00:10:25.633 「触るな! パパがやってやるから」って 00:10:25.633 --> 00:10:27.268 子供は飽きて 別のことをし始めるんだけど 00:10:27.268 --> 00:10:31.277 お父さんは構わずお城を作り続ける 00:10:31.277 --> 00:10:35.755 創造性が抑圧されても 完全になくなっていない証だ 00:10:35.755 --> 00:10:39.547 それはしばしば嫉妬という 裏返しの形で現れる 00:10:39.547 --> 00:10:44.841 「テレビに出たい」っていう歌を知ってる? どうしてテレビに出たいのかな? 00:10:44.841 --> 00:10:48.669 自分が願ってもなれなかったような人たちが 00:10:48.669 --> 00:10:50.609 テレビにはたくさん出ている 00:10:50.609 --> 00:10:56.738 踊ったり 演技したり -- やればやるほど称賛される 00:10:56.738 --> 00:10:59.888 そうなると彼らが妬ましくなってくる 00:10:59.888 --> 00:11:03.982 リモコンを握り テレビの人々を批判し始める 00:11:03.982 --> 00:11:09.835 「演技が下手」 「これが歌? 音程合ってないじゃん」 00:11:09.835 --> 00:11:12.125 こういう言葉がどんどん出てくる 00:11:12.125 --> 00:11:15.068 僕らが嫉妬するのは 僕らの性格が悪いからじゃない 00:11:15.068 --> 00:11:19.605 僕らの中に 創造性が閉じ込められているからだ 00:11:19.605 --> 00:11:23.191 僕はそう思う NOTE Paragraph 00:11:23.191 --> 00:11:25.029 じゃあ どうすればいいのか? 00:11:25.029 --> 00:11:25.806 そのとおり 00:11:25.806 --> 00:11:29.000 いますぐ 自分たちのアートを始めるべきだ 00:11:29.000 --> 00:11:30.009 いますぐに テレビを消して 00:11:30.009 --> 00:11:32.458 インターネットを止めて 00:11:32.458 --> 00:11:35.158 自分自身で何かを始めるべきだ 00:11:35.158 --> 00:11:36.893 僕は演劇学校で教えている 00:11:36.893 --> 00:11:39.627 演技・演出術のコースだ 00:11:39.627 --> 00:11:43.817 このコースでは学生全員に 舞台を上演させる 00:11:43.817 --> 00:11:47.929 でも演技専攻の学生には 演技はさせない 00:11:47.929 --> 00:11:49.949 彼らには台本を書かせたり 00:11:49.949 --> 00:11:52.673 作家志望の学生に舞台美術をさせたり 00:11:52.673 --> 00:11:54.969 美術専攻の学生に演技をさせたりして 舞台を完成させる 00:11:54.984 --> 00:11:58.732 最初は 学生たちは戸惑うけど 00:11:58.732 --> 00:12:03.295 そのうち新しい役割を楽しみ始める 楽しくなさそうな学生は滅多にいない 00:12:03.295 --> 00:12:07.457 学校でも 軍隊でも 果ては精神病院でも 舞台をやることになれば みんなが楽しむ 00:12:07.457 --> 00:12:12.353 軍隊でもそうだった -- 沢山の人が楽しそうに舞台に参加していた NOTE Paragraph 00:12:12.353 --> 00:12:15.285 もう一つ 僕の経験を紹介しよう 00:12:15.285 --> 00:12:18.919 作文の講義で 僕はちょっと変わった課題を出す 00:12:18.919 --> 00:12:24.819 講義にはみなさんのような 作家志望でない学生も大勢いて 00:12:24.819 --> 00:12:29.396 美術や音楽を専攻している学生は 自分には書けないと思っている 00:12:29.396 --> 00:12:33.123 僕は学生に白紙とテーマを与える 00:12:33.123 --> 00:12:34.737 簡単なテーマを与える 00:12:34.737 --> 00:12:37.251 子供の頃に起きた 最もツイていない経験について書く とか 00:12:37.251 --> 00:12:41.164 ただし一つだけ条件を付ける 狂ったように書け! と 00:12:41.164 --> 00:12:43.897 教室を回って学生に声をかける 00:12:43.897 --> 00:12:47.641 「とにかく書け!」って 1 時間か 2 時間 狂ったように書かせる 00:12:47.641 --> 00:12:50.849 考える時間は最初の 5 分くらいだろう NOTE Paragraph 00:12:50.849 --> 00:12:54.071 狂ったように書け というのは 00:12:54.071 --> 00:12:56.829 ゆっくり書くといろんなことを考えて 00:12:56.829 --> 00:12:59.276 悪魔に隙を与えることになるから 00:12:59.276 --> 00:13:03.308 悪魔はいくつもの理由を持ち出して 00:13:03.308 --> 00:13:06.238 書くことを諦めさせようとする 00:13:06.238 --> 00:13:09.073 「みんなに笑われるよ」「下手くそだな!」 00:13:09.073 --> 00:13:10.623 「変な文章!」「字が汚い!」 00:13:10.623 --> 00:13:12.200 そういうことを次々に言う 00:13:12.200 --> 00:13:14.704 この悪魔に捕まらないように 全力疾走しなきゃいけない 00:13:14.704 --> 00:13:18.776 僕の授業でこれまで一番良かった作品は 00:13:18.776 --> 00:13:21.449 じっくり取り組める長期間の課題ではなく 00:13:21.449 --> 00:13:24.933 1 時間以下の短い時間に 僕の目の前で学生が 00:13:24.933 --> 00:13:28.335 鉛筆で書きなぐった文章だった 00:13:28.335 --> 00:13:30.174 学生はある種のトランス状態におちいる 00:13:30.174 --> 00:13:34.636 30 分か 40 分もすると 自分でもよく分からないことを書き始める 00:13:34.636 --> 00:13:37.601 そのとき 悪魔がつけ込む隙はなくなる NOTE Paragraph 00:13:37.601 --> 00:13:39.310 こう言うことができるだろう 00:13:39.310 --> 00:13:43.325 アーティストになるために必要なのは 00:13:43.325 --> 00:13:47.575 沢山の否定的な理由ではなく たった一つの必然的な理由だ 00:13:47.575 --> 00:13:49.284 成れるはずがないという理由なんて 重要じゃない 00:13:49.284 --> 00:13:52.434 たった一つの必然的な理由こそが 多くのアーティストを生み出す 00:13:52.434 --> 00:13:56.104 悪魔の方を閉じ込めて 自分自身のアートを始めると 00:13:56.104 --> 00:13:58.438 今度は外側からの攻撃にさらされる 00:13:58.438 --> 00:14:01.294 たいていの場合は 自分の両親だ(笑) 00:14:01.294 --> 00:14:04.395 妻や夫の場合もある 00:14:04.395 --> 00:14:06.163 でもそれは本当の両親や配偶者ではなく 00:14:06.163 --> 00:14:09.057 悪魔が化けているのです 00:14:09.057 --> 00:14:11.001 悪魔が身近な人に姿を変え 00:14:11.001 --> 00:14:14.947 アーティストになるのを邪魔しに来たのです 00:14:14.947 --> 00:14:16.869 彼らはすごい呪文を使います 00:14:16.869 --> 00:14:23.027 「公民館のクラスで 演技を習ってみようかな」 とか 00:14:23.027 --> 00:14:27.504 「カンツォーネを習いたい」というと 「ふーん? 何のために?」と訊かれる 00:14:27.504 --> 00:14:31.166 この「何のために?」というのが 悪魔の呪文なのです 00:14:31.166 --> 00:14:34.878 アートは何かのためにやるものではない 00:14:34.878 --> 00:14:37.132 アートこそが究極のゴールです 00:14:37.132 --> 00:14:41.272 人間の魂に救済を与え 生活を豊かにする 00:14:41.272 --> 00:14:46.778 お酒や薬に頼らなくても 自分を表現して楽しくなれる 00:14:46.778 --> 00:14:51.103 だから この呪文を投げかけられても 00:14:51.118 --> 00:14:53.537 怯まないでください 00:14:53.537 --> 00:14:57.981 「面白そうだからだよ! 君も何か見つけたら?」 とか 00:14:57.981 --> 00:15:02.006 「とにかくやってみるよ」と言ってください 00:15:02.006 --> 00:15:07.106 僕が考える理想の未来では 誰にでも複数のアイデンティティがあって 00:15:07.106 --> 00:15:10.887 少なくともそのうち 1 つはアーティストなんだ NOTE Paragraph 00:15:10.887 --> 00:15:14.056 ニューヨークでタクシーに乗った時 後部座席の目の前に 00:15:14.056 --> 00:15:18.213 演劇関係の貼り紙がしてあった 00:15:18.213 --> 00:15:19.350 「これ何?」ってドライバーに訊くと 00:15:19.350 --> 00:15:23.395 自分のプロフィールだと彼は答えた 「何してるの?」って訊くと「役者だよ」って答えたんだ 00:15:23.395 --> 00:15:26.818 彼は運転手兼役者ってことだ 「どういう役が多いの?」って訊くと 00:15:26.818 --> 00:15:28.844 嬉しそうに「リア王だよ」って答えた 00:15:28.844 --> 00:15:30.289 リア王 00:15:30.289 --> 00:15:31.915 「我が誰であるかを告げるものは誰か」 00:15:31.915 --> 00:15:35.306 -- リア王の有名なセリフです これこそ 僕が夢に見る世界だ 00:15:35.306 --> 00:15:39.241 昼間はゴルファーで夜は作家とか 00:15:39.241 --> 00:15:41.760 運転手兼 役者とか 銀行員兼 画家であるとか 00:15:41.760 --> 00:15:47.336 人に見せる見せないに関わらず 誰もがアートを実践する NOTE Paragraph 00:15:47.336 --> 00:15:52.207 1990年に モダンダンスの先駆者 マーサ・グラハムが韓国を訪れた際 00:15:52.207 --> 00:15:57.963 金浦空港に降り立った 90 代の偉大な芸術家に 00:15:57.979 --> 00:16:01.044 記者たちが型どおりの質問をした 00:16:01.044 --> 00:16:03.651 「優れたダンサーになるために すべきことはありますか? 00:16:03.651 --> 00:16:06.231 韓国のダンサーたちにアドバイスをお願いします」 00:16:06.231 --> 00:16:11.226 彼女は巨匠だった。1948 年にこの写真が 撮られた時彼女はすでにスターだった 00:16:11.226 --> 00:16:13.417 この質問をされたのは 1990 年だった 00:16:13.417 --> 00:16:16.101 彼女の答えはこうだった 00:16:16.101 --> 00:16:20.018 「とにかくやってみるのよ」 00:16:20.018 --> 00:16:21.536 僕は感動した 00:16:21.536 --> 00:16:25.628 それだけ言うと 彼女は空港を後にした 00:16:25.628 --> 00:16:28.859 僕たちは いま何をすべきなのか? 00:16:28.859 --> 00:16:32.585 アーティストになろう! 今すぐに! でもどうやって? 00:16:32.585 --> 00:16:33.577 とにかくやってみるんだ! NOTE Paragraph 00:16:33.577 --> 00:16:35.191 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:16:35.191 --> 00:16:36.995 (拍手)