WEBVTT 00:00:00.428 --> 00:00:03.425 人生はチャンスであふれています 00:00:03.425 --> 00:00:06.575 それは自分で作り上げ 掴み取っていくものでもあるのです 00:00:06.575 --> 00:00:08.506 私にとってはそれが五輪出場でした 00:00:08.506 --> 00:00:11.952 それが私であり 私の幸せでした 00:00:11.952 --> 00:00:15.701 オーストラリアチームの クロスカントリースキーヤーとして 00:00:15.701 --> 00:00:17.346 冬季オリンピックを目指し 00:00:17.346 --> 00:00:21.575 私はチームメイトと共に 自転車訓練をしていました 00:00:21.575 --> 00:00:23.519 向かう先にはシドニーの西の 00:00:23.519 --> 00:00:26.669 雄大なブルーマウンテンズが 見えていました 00:00:26.669 --> 00:00:29.133 快晴の秋空でした 00:00:29.133 --> 00:00:33.318 太陽が輝き ユーカリが香り 夢で溢れていました 00:00:33.318 --> 00:00:34.751 充実感がありました 00:00:34.751 --> 00:00:37.649 訓練を開始してから5時間半 00:00:37.649 --> 00:00:40.043 自転車で私が大好きな 坂道にさしかかりました 00:00:40.043 --> 00:00:43.080 私は坂道が大好きです 00:00:43.080 --> 00:00:45.778 私は立ちこぎを始めました 00:00:45.778 --> 00:00:48.731 両足に力を入れ 吸いこんだ山の冷気が 00:00:48.731 --> 00:00:51.386 肺一杯に広がるのを感じ 00:00:51.386 --> 00:00:55.073 太陽の光を浴びようと顔をあげました 00:00:55.073 --> 00:00:58.157 すると急に目の前が真っ暗になりました 00:00:58.157 --> 00:01:01.151 ここはどこ? 何が起きたの? 00:01:01.151 --> 00:01:04.752 全身に痛みが走りました 00:01:04.752 --> 00:01:07.576 あと10分という時 猛スピードの小型トラックが 00:01:07.576 --> 00:01:10.895 私にぶつかったのです 00:01:10.895 --> 00:01:12.743 事故現場からヘリコプターで 00:01:12.743 --> 00:01:16.351 シドニーの脊髄病棟に 運ばれました 00:01:16.351 --> 00:01:19.403 私は生命に関わる 重傷を全身に負っていました 00:01:19.403 --> 00:01:23.539 首と背中6か所を骨折 00:01:23.539 --> 00:01:26.116 左ろっ骨も5か所骨折 00:01:26.116 --> 00:01:28.923 右腕と鎖骨も折れていました 00:01:28.923 --> 00:01:31.169 足首から下も一部骨折 00:01:31.169 --> 00:01:34.429 体の右半分がぱっくりと開き 中は砂利だらけでした 00:01:34.429 --> 00:01:36.723 額を横切る傷口からは 00:01:36.723 --> 00:01:38.184 頭蓋骨が見えました 00:01:38.184 --> 00:01:40.547 頭部も内蔵も損傷 00:01:40.547 --> 00:01:43.228 5リットルの大出血でした 00:01:43.228 --> 00:01:46.423 それは私サイズの体の 全血液量に相当します 00:01:46.423 --> 00:01:49.214 プリンスヘンリー病院に到着した時には 00:01:49.214 --> 00:01:53.585 私の血圧は40しかありませんでした 00:01:53.585 --> 00:01:58.988 全くついていない日でした(笑) 00:02:02.635 --> 00:02:07.732 10日間 私は2つの世界を行き来しました 00:02:07.732 --> 00:02:10.961 体の中の自分とは別に 00:02:10.961 --> 00:02:13.290 どこか他の場所から 00:02:13.290 --> 00:02:15.188 他人事のように見ている自分がいました 00:02:15.188 --> 00:02:18.941 あんなに壊れた体に戻りたい? 00:02:18.941 --> 00:02:24.663 でも別の声が言います 「頑張って 死なないで」 00:02:24.663 --> 00:02:27.168 「だめ 無理」 00:02:27.168 --> 00:02:30.121 「大丈夫 これはチャンスよ」 00:02:30.121 --> 00:02:34.090 「だめ あの体はボロボロ もう役に立たないわ」 00:02:34.090 --> 00:02:39.594 「大丈夫 頑張って 一緒に力を合わせればできる」 00:02:39.594 --> 00:02:41.877 私は分岐点にいました 00:02:41.877 --> 00:02:45.745 自分の体に戻らなければ 二度とこの世に帰れない 00:02:45.745 --> 00:02:49.903 命をかけた戦いでした 00:02:49.903 --> 00:02:54.653 10日後 自分の体に戻る決心をすると 00:02:54.653 --> 00:02:59.045 内出血が止まりました 00:02:59.045 --> 00:03:02.161 次の問題は歩行でした 00:03:02.161 --> 00:03:04.691 腰から下が麻痺していたのです 00:03:04.691 --> 00:03:07.413 医者は両親に言いました 首は安定骨折だが 00:03:07.413 --> 00:03:09.103 背中が完全に潰れていて 00:03:09.103 --> 00:03:13.050 L1脊椎は落としたピーナツを 00:03:13.050 --> 00:03:16.268 踏んで粉々にしたようだ と 00:03:16.268 --> 00:03:18.699 手術が必要でした 00:03:18.699 --> 00:03:21.599 手術が始まり ビーンバッグに乗せられ 00:03:21.599 --> 00:03:23.893 文字通り半分に切られ 00:03:23.893 --> 00:03:26.809 その証拠に 体を一周する傷がまだあります 00:03:26.809 --> 00:03:29.419 脊髄に引っかかっていた骨を 00:03:29.419 --> 00:03:31.181 できる限り除去しました 00:03:31.181 --> 00:03:35.292 折れた2本のろっ骨を取りだし L1の復元に使い 00:03:35.292 --> 00:03:38.126 もう1本折れたろっ骨を使って 00:03:38.126 --> 00:03:41.346 T12 L1 L2を繋ぎ合わせました 00:03:41.346 --> 00:03:44.378 その後 体の縫合に1時間かかりました 00:03:44.378 --> 00:03:47.385 私が集中治療室で眼を覚ますと 00:03:47.385 --> 00:03:50.409 手術の成功に沸く医者がいました 00:03:50.409 --> 00:03:53.494 足の親指が少しだけ動き 00:03:53.494 --> 00:03:56.835 「やった オリンピックに行ける!」 と私は思いました 00:03:56.835 --> 00:03:58.721 (笑) 00:03:58.721 --> 00:04:00.994 私は確信していたのです 00:04:00.994 --> 00:04:04.081 私にこんなことが起きる筈がないと 00:04:04.081 --> 00:04:06.191 ところが医者は言ったのです 00:04:06.191 --> 00:04:09.617 「ジャニーン 手術は成功しました 00:04:09.617 --> 00:04:12.969 脊髄に刺さっていた骨は 出来る限り取り除きましたが 00:04:12.969 --> 00:04:14.073 障害は一生残るでしょう 00:04:14.073 --> 00:04:17.390 中枢神経の治療法もなく 00:04:17.390 --> 00:04:20.440 いわゆる部分対マヒです 00:04:20.440 --> 00:04:23.432 それに伴う様々な傷もあります 00:04:23.432 --> 00:04:26.640 腰から下の感覚は失われ 00:04:26.640 --> 00:04:29.661 戻ったとしても10~20%でしょう 00:04:29.661 --> 00:04:32.782 内臓障害も残り 00:04:32.782 --> 00:04:35.200 生涯カテーテルが必要です 00:04:35.200 --> 00:04:40.702 仮に歩けても矯正器具と 歩行器なしには無理でしょう」 00:04:40.702 --> 00:04:42.313 更に言いました 「ジャニーン 00:04:42.313 --> 00:04:44.416 今後 何をするか改めて考えて 00:04:44.416 --> 00:04:49.176 今までやってきたことは 二度とできないから」 00:04:49.176 --> 00:04:51.889 私は理解に苦しみました 00:04:51.889 --> 00:04:54.351 私は競技選手で それしかしたことがありません 00:04:54.351 --> 00:04:57.599 それができないなら 何ができるでしょう? 00:04:57.599 --> 00:05:01.469 自問しました それができないのなら 00:05:01.469 --> 00:05:03.320 私は何者? 00:05:07.735 --> 00:05:11.055 集中治療室から脊髄病棟に移され 00:05:11.055 --> 00:05:13.474 薄くて固い専用ベッドに寝かされました 00:05:13.474 --> 00:05:16.017 足を動かすことは不可能で 00:05:16.017 --> 00:05:17.931 血栓を防ぐ圧縮タイツを履いていました 00:05:17.931 --> 00:05:21.056 片方の腕にギプス もう片方に点滴の針 00:05:21.056 --> 00:05:23.813 首もネックサポートと 両側の砂袋で固定されていました 00:05:23.813 --> 00:05:25.742 頭上の鏡に映るものだけが 00:05:25.742 --> 00:05:29.100 私の世界でした 00:05:29.100 --> 00:05:32.577 病室には他に5人の患者がいましたが 00:05:32.577 --> 00:05:34.832 全員が動けず横になっていたので 00:05:34.832 --> 00:05:39.903 お互いの姿は見えませんでした 00:05:39.903 --> 00:05:43.040 何と素晴らしいことでしょう? 00:05:43.040 --> 00:05:47.754 外見に拘らず友情を育む機会など 00:05:47.754 --> 00:05:50.488 人生ではそう多くないでしょう? 00:05:50.488 --> 00:05:52.999 うわべだけの会話でなく 00:05:52.999 --> 00:05:56.327 心のうち 恐怖心 00:05:56.327 --> 00:06:00.985 そして退院後の人生への期待を 語り合いました 00:06:00.985 --> 00:06:03.702 ある晩 看護師のジョナサンが 00:06:03.702 --> 00:06:07.892 大量のストローを病室に持ってきました 00:06:07.892 --> 00:06:10.561 私達それぞれにストローの束を渡し 00:06:10.561 --> 00:06:13.313 「さあ これをつなげて」 と言いました 00:06:13.313 --> 00:06:16.614 他にやることもないので 私達はつなげ始めました 00:06:16.614 --> 00:06:20.255 全部つなぎ終えると 彼は静かに病室を回り 00:06:20.255 --> 00:06:22.740 全てのストローをつなげ 00:06:22.740 --> 00:06:26.313 病室をストローの輪で囲みました 00:06:26.313 --> 00:06:30.245 「さあ皆 自分のストローを握って」 00:06:30.245 --> 00:06:37.220 私達が握ると彼は言いました 「これで皆繋がった」 00:06:37.220 --> 00:06:42.680 ストローを手に皆と 一つになって呼吸をしたとき 00:06:42.680 --> 00:06:47.033 この道のりでは皆 仲間だとわかったのです 00:06:47.033 --> 00:06:51.537 動けない身で病室にいながら 00:06:51.537 --> 00:06:54.759 これまで経験したことのない 00:06:54.759 --> 00:06:58.011 深くて豊かで純粋な絆を 00:06:58.011 --> 00:07:02.355 感じられたのです 00:07:02.355 --> 00:07:06.836 そして退院後は皆 00:07:06.836 --> 00:07:11.655 違った生き方になるだろうと 理解しました 00:07:11.655 --> 00:07:15.817 半年後 退院の時となり 00:07:15.817 --> 00:07:19.283 父の押す車椅子に乗って 外に出ました 00:07:19.283 --> 00:07:22.144 全身ギプスに覆われ 00:07:22.144 --> 00:07:25.115 手術後初めて顔に太陽を顔に浴び 00:07:25.115 --> 00:07:27.053 私は思いました 00:07:27.053 --> 00:07:30.927 なぜこれを当たり前と 思っていたのだろう? 00:07:30.927 --> 00:07:35.204 私は命があることに感謝しました 00:07:35.204 --> 00:07:37.199 ところが病院を出る前 看護師長がそばに来て 00:07:37.199 --> 00:07:39.418 こう言いました 「ジャニーン 心の準備をしてね 00:07:39.418 --> 00:07:42.153 家に着くとあることが起きるから」 00:07:42.153 --> 00:07:44.045 「何それ?」と私が聞くと 彼女は言いました 00:07:44.045 --> 00:07:46.151 「きっと落ち込むわ」 00:07:46.151 --> 00:07:48.866 「私はならないわ ジャニーン・マシンよ」 00:07:48.866 --> 00:07:51.046 私のあだ名です 00:07:51.046 --> 00:07:53.912 彼女は言いました 「いいえなるわ 皆なるから 00:07:53.912 --> 00:07:56.659 脊髄病棟では それが普通 00:07:56.659 --> 00:07:57.972 車椅子も普通のこと 00:07:57.972 --> 00:08:00.142 でも家に着くと気が付くの 00:08:00.142 --> 00:08:02.238 様変わりした人生に」 00:08:02.238 --> 00:08:06.071 家に着くとそれは起きました 00:08:08.641 --> 00:08:11.660 サム看護婦は正しかったのです 00:08:11.660 --> 00:08:14.554 私は意気消沈しました 00:08:14.554 --> 00:08:17.925 車椅子に座り 腰から下は感覚がなく 00:08:17.925 --> 00:08:21.494 カテーテルの瓶をぶら下げ 歩けませんでした 00:08:21.494 --> 00:08:23.627 入院中にげっそりと痩せ 00:08:23.627 --> 00:08:27.389 体重は36キロしかありませんでした 00:08:27.389 --> 00:08:29.910 私は全て投げ出したかった 00:08:29.910 --> 00:08:33.340 ランニングシューズを履いて 外へ逃げ出したかった 00:08:33.340 --> 00:08:36.727 元の人生 元の体を返して欲しかった 00:08:36.727 --> 00:08:39.247 母がベッドに腰をかけ つぶやきました 00:08:39.247 --> 00:08:43.140 「この先 人生は好転するのかしら」 00:08:43.140 --> 00:08:47.436 私は思いました 「あり得ない 大事なもの 00:08:47.436 --> 00:08:51.636 努力した全てを失ったのよ 00:08:51.636 --> 00:08:54.513 何もかも」 00:08:54.513 --> 00:08:59.537 そしてこればかり考えました 「なぜ私? なぜ私が?」 00:08:59.537 --> 00:09:03.436 それから脊髄病棟にいる 00:09:03.436 --> 00:09:05.839 友人達を思い出しました 00:09:05.839 --> 00:09:07.483 特にマリアです 00:09:07.483 --> 00:09:09.593 マリアは交通事故に遭い 00:09:09.593 --> 00:09:14.440 16歳の誕生日に 完全四肢麻痺であると告げられました 00:09:14.440 --> 00:09:16.733 首から下は全く動かず 00:09:16.733 --> 00:09:20.422 声帯も損傷し 話せなかったのです 00:09:20.422 --> 00:09:22.696 私は言われました 「彼女の横に移しますね 00:09:22.696 --> 00:09:24.991 彼女の為になるでしょうから」 00:09:24.991 --> 00:09:28.321 私は不安でした 彼女の横になって 00:09:28.321 --> 00:09:30.270 自分がどう反応をするか 分からなかったのです 00:09:30.270 --> 00:09:34.194 大変だと思ったのですが 実際は彼女の笑顔に救われました 00:09:34.194 --> 00:09:39.436 彼女は笑顔を絶やさなかった 00:09:39.436 --> 00:09:43.858 彼女はいつも幸せそうでした 話せるようになった時も 00:09:43.858 --> 00:09:49.935 理解は困難でしたが 彼女は不満を言わなかった 一度も 00:09:49.935 --> 00:09:55.758 彼女がなぜあんな風に状況を 受け入れられたのか不思議でした 00:09:55.758 --> 00:10:00.477 そしてわかったのです 私だけが問題を抱えている訳じゃない と 00:10:00.477 --> 00:10:04.782 人生には問題がつき物で 痛みは私だけでなく 00:10:04.782 --> 00:10:09.925 誰にでもあるものなのです 以前のように 00:10:09.925 --> 00:10:14.257 選択は自分次第で このまま戦い続けるか 00:10:14.257 --> 00:10:19.278 諦めて この体とこの人生を受け入れるのも 00:10:19.278 --> 00:10:22.661 自分次第なのです 00:10:22.661 --> 00:10:26.476 そこで「なぜ私?」と 自問するのを止めました 00:10:26.476 --> 00:10:29.429 「だったら私が」と 考えるようになりました 00:10:29.429 --> 00:10:33.556 どん底はスタート地点として 00:10:33.556 --> 00:10:40.447 最高なのかもしれないと 思い始めました 00:10:40.447 --> 00:10:44.439 自分を創造性のある人間だと 考えたことはありません 00:10:44.439 --> 00:10:48.103 私はアスリートでした 体は機械でした 00:10:48.103 --> 00:10:52.794 ところがこれ以上ない創造的なプロジェクトに 00:10:52.794 --> 00:10:54.729 取り掛かることになるのです 00:10:54.729 --> 00:10:57.449 人生の建て直しです 00:10:57.449 --> 00:11:00.008 何をすればいいか 全く見当もつかない中 00:11:00.008 --> 00:11:02.863 その不確かさの中で 00:11:02.863 --> 00:11:05.307 自由を感じ取ったのです 00:11:05.307 --> 00:11:08.061 もう決められた道を進まなくてもいい 00:11:08.061 --> 00:11:14.183 人生の無限の可能性を探れる 00:11:14.183 --> 00:11:20.403 それに気付き 人生は起点を迎えようとしていました 00:11:20.403 --> 00:11:25.207 ギブスをはめた体で 自宅で車椅子に座っていると 00:11:25.207 --> 00:11:29.096 上空を飛行機が飛ぶのが見え 00:11:29.096 --> 00:11:32.003 思いついたのです 「これだ! 00:11:32.003 --> 00:11:36.366 私は歩けない なら飛ぼうじゃないか」 00:11:36.366 --> 00:11:39.002 「ママ 私 飛行機の操縦の勉強をする」 と私が言うと 00:11:39.002 --> 00:11:43.142 母は言いました 「あら素敵ね」 (笑) 00:11:43.142 --> 00:11:45.073 私は続けました 「タウンページかして」 00:11:45.073 --> 00:11:47.415 電話帳を受け取り 飛行訓練学校へ電話しました 00:11:47.415 --> 00:11:50.377 飛行コースの予約をしたいと伝えると 00:11:50.377 --> 00:11:53.008 学校側は言いました 「いつ来られますか?」 00:11:53.008 --> 00:11:54.861 私はこう答えました 「友達の都合を聞かないと 00:11:54.861 --> 00:11:58.170 私は運転できる体じゃないし 歩くのもやっとですから 00:11:58.170 --> 00:11:59.160 問題ありますか?」 00:11:59.160 --> 00:12:01.257 予約を済ませ数週間後 友人のクリスと母が 00:12:01.257 --> 00:12:03.034 空港へ連れて行ってくれました 00:12:03.034 --> 00:12:05.727 36キロの私の体は 体幹ギブスで固定され 00:12:05.727 --> 00:12:08.763 更にだぶだぶのオーバーオールが 被さっていました (笑) 00:12:08.763 --> 00:12:11.561 パイロットの免許を取るのに 00:12:11.561 --> 00:12:14.351 ふさわしい風体とはいえませんでした (笑) 00:12:14.351 --> 00:12:16.717 カウンターに掴り体を支えながら 言いました 00:12:16.717 --> 00:12:18.531 「飛行レッスンを受けに来ました」 00:12:18.531 --> 00:12:21.797 私を見たスタッフ達は 奥で貧乏くじを押し付け合いました 00:12:21.797 --> 00:12:25.715 「君が担当しろよ」 「いい いい 君が受け持てよ」 00:12:25.715 --> 00:12:27.045 やっと一人が出てきて言いました 00:12:27.045 --> 00:12:28.828 「やあ 僕はアンドリュー 実飛行に行きましょう」 00:12:28.828 --> 00:12:30.456 「最高」と言った私を 00:12:30.456 --> 00:12:31.784 彼らは駐機場へ連れて行ってくれました 00:12:31.784 --> 00:12:33.542 そこに赤白青の飛行機がありました 00:12:33.542 --> 00:12:36.876 綺麗でした 私は翼まで持ち上げられ 00:12:36.876 --> 00:12:39.474 そこからコックピットに入れられました 00:12:39.474 --> 00:12:41.747 座ってみると至るところに ボタンやダイヤルがありました 00:12:41.747 --> 00:12:45.280 「どうやってこれ全部覚えるの?」 と思っていると 00:12:45.280 --> 00:12:47.823 インストラクターのアンドリューが前に座り 飛行機をスタートさせ 00:12:47.823 --> 00:12:49.885 「地上滑走試してみますか?」と 私に訊きました 00:12:49.885 --> 00:12:52.086 地上で飛行機を操縦するとき 00:12:52.086 --> 00:12:54.111 足元のペダルでコントロールします 00:12:54.111 --> 00:12:56.458 私は言いました 「いいえ 足は動かせません」 00:12:56.458 --> 00:12:57.670 「あっ」と彼が言うので 00:12:57.670 --> 00:13:00.477 「でも手は使えます」と言うと 「了解」と彼は答えました 00:13:00.477 --> 00:13:03.506 そして彼は操縦を始め滑走路に入り 離陸準備にかかりました 00:13:03.506 --> 00:13:06.315 スピードを上げ滑走路を進み 00:13:06.315 --> 00:13:10.325 駐機場から車輪が離れ 空中に飛び立ったとき 00:13:10.325 --> 00:13:15.356 私はこの上ない自由を感じました 00:13:15.356 --> 00:13:17.822 訓練区域に入ったとき 00:13:17.822 --> 00:13:20.403 アンドリューは言いました 00:13:20.403 --> 00:13:22.879 「あそこの山が見えますか?」 00:13:22.879 --> 00:13:24.412 私が「ええ」と答えると 彼は続けました 00:13:24.412 --> 00:13:29.168 「今度はあなたが操縦機を握り あの山の方に飛んでみてください」 00:13:29.168 --> 00:13:31.650 見上げると 彼が指していたのは 00:13:31.650 --> 00:13:34.873 この旅路の始まりとなった 00:13:34.873 --> 00:13:37.853 あのブルーマウンテンズでした 00:13:37.853 --> 00:13:42.438 私は操縦桿を手に飛んでいました 00:13:42.438 --> 00:13:45.491 脊髄病棟から遠く離れた場所にいて 00:13:45.491 --> 00:13:49.633 その瞬間 自分はパイロットになると確信しました 00:13:49.633 --> 00:13:53.503 身体検査に合格するかは疑問でしたが 00:13:53.503 --> 00:13:56.562 そんなことより夢が先決でした 00:13:56.562 --> 00:14:00.786 帰宅後 トレーニング日誌に計画を書きました 00:14:00.786 --> 00:14:03.616 歩行訓練を目一杯こなし 00:14:03.616 --> 00:14:06.750 二人の人に支えられ立つところから 00:14:06.750 --> 00:14:09.625 一人が支えてくれるだけで 立てるようになり 00:14:09.625 --> 00:14:11.527 家具と家具が離れていなければ 00:14:11.527 --> 00:14:14.260 家具づたいに 伝い歩きできるまでになりました 00:14:14.260 --> 00:14:16.452 そしてやっと家に中で 00:14:16.452 --> 00:14:18.684 壁沿いに歩けるまでになりました 00:14:18.684 --> 00:14:22.274 こんな風にです 母は私の後ろを付いて回り 00:14:22.274 --> 00:14:25.927 指紋を拭き取っていました(笑) 00:14:25.927 --> 00:14:30.606 少なくとも彼女には私の居場所が わかっていました 00:14:30.606 --> 00:14:32.992 医師が私の体が元に戻るよう 00:14:32.992 --> 00:14:35.029 手術を継続していた一方で 00:14:35.029 --> 00:14:38.684 私は航空理論の勉強を続け やがて驚いたことに 00:14:38.684 --> 00:14:42.119 パイロットの身体検査にも受かり 00:14:42.119 --> 00:14:44.651 飛行許可が下りました 00:14:44.651 --> 00:14:47.315 寸暇を惜しんで飛行訓練学校に行き 00:14:47.315 --> 00:14:48.853 ちょっと勇気がいりましたが 00:14:48.853 --> 00:14:51.255 カンタス航空のパイロットを 夢見る若者にまぎれて 00:14:51.255 --> 00:14:54.742 年長の私がいました 00:14:54.742 --> 00:14:57.443 ギブス 金属のブレース だぶだぶのオーバーオールに 00:14:57.443 --> 00:15:01.009 薬の袋とカテーテルを持って びっこを引いている私です 00:15:01.009 --> 00:15:02.270 彼等は私を見てこう考えたでしょう 00:15:02.270 --> 00:15:05.641 「何かの冗談か? 彼女にやれっこないよ」 00:15:05.641 --> 00:15:07.544 私も時々そう思いました 00:15:07.544 --> 00:15:12.044 でもかまわなかった 私の中で何かが燃え始め 00:15:12.044 --> 00:15:16.431 私の傷を消し去ってくれたのです 00:15:16.431 --> 00:15:18.396 小さなゴールに達成しては前進し 00:15:18.396 --> 00:15:22.122 ついには自家用機パイロット免許を 取得したのです 00:15:22.122 --> 00:15:27.352 自由飛行することを覚え 友達とオーストラリア中を飛行しました 00:15:27.352 --> 00:15:30.180 双発機の操縦も学び 00:15:30.180 --> 00:15:32.746 資格を得ました 00:15:32.746 --> 00:15:35.691 良天候でも悪天候でも 飛行できる訓練をし 00:15:35.691 --> 00:15:38.156 計器飛行資格を取得しました 00:15:38.156 --> 00:15:41.260 その後 商業用パイロットの免許も取り 00:15:41.260 --> 00:15:43.983 インストラクターの資格も得ました 00:15:43.983 --> 00:15:47.182 そして気が付けば 00:15:47.182 --> 00:15:49.430 初めて飛行した訓練学校に戻り 00:15:49.430 --> 00:15:52.576 生徒に飛ぶ事を教えていました 00:15:52.576 --> 00:15:56.718 ちょうど脊髄病棟から退院して 18ヵ月後でした 00:15:56.718 --> 00:16:08.272 (拍手) 00:16:08.272 --> 00:16:10.423 そして思いました 「どうせなら 00:16:10.423 --> 00:16:13.694 逆さ飛行も習おうかしら」 00:16:13.694 --> 00:16:16.348 その言葉を実行し 00:16:16.348 --> 00:16:20.406 アクロバット飛行の インストラクターになりました 00:16:20.406 --> 00:16:26.589 父と母は? 私と飛んだことはありません 00:16:26.589 --> 00:16:32.304 身体的な制約も 00:16:32.304 --> 00:16:37.466 私の気力を留められなかったのです 00:16:37.466 --> 00:16:40.847 老子の言葉にもあります 00:16:40.847 --> 00:16:43.766 「今の自分に固執するのをやめた時 00:16:43.766 --> 00:16:47.197 なり得る自分になれる」 00:16:47.197 --> 00:16:52.102 自分で決めつけていた自分を捨てて 00:16:52.102 --> 00:16:56.303 初めて新しい人生を 作れるのだとわかりました 00:16:56.303 --> 00:17:00.940 自分の人生と信じてきた人生を 手放して初めて 00:17:00.940 --> 00:17:05.724 待ち受けている新しい人生を 発見できたのです 00:17:05.724 --> 00:17:08.945 私の本当の強さは 00:17:08.945 --> 00:17:12.162 体から来るものではない 00:17:12.162 --> 00:17:17.169 身体能力が劇的に変わっても 00:17:17.169 --> 00:17:20.952 私であることに変わりはなかった 00:17:20.952 --> 00:17:25.291 私の中のともし火は消えていず 00:17:25.291 --> 00:17:29.988 誰の中にでもある筈です 00:17:29.988 --> 00:17:33.211 私の体だけが「私」でないように 00:17:33.211 --> 00:17:36.659 皆さんの体だけが 皆さん自身ではないのです 00:17:36.659 --> 00:17:40.935 外見や出身地 00:17:40.935 --> 00:17:45.253 仕事など もう意味はない 00:17:45.253 --> 00:17:50.700 大切なのは真の自分を 00:17:50.700 --> 00:17:54.752 究極の創造性で表現し 00:17:54.752 --> 00:17:58.518 人間性の炎を絶やさないことです 00:17:58.518 --> 00:18:01.324 なぜなら私達は皆 00:18:01.324 --> 00:18:05.471 無数のストローで繋がっているのです 00:18:05.471 --> 00:18:08.392 今それを皆でつなげて 00:18:08.392 --> 00:18:10.199 握り締める時なのです 00:18:10.199 --> 00:18:14.563 全体の幸福を掴もうとするなら 00:18:14.563 --> 00:18:17.286 物理的なことに目を向けず 00:18:17.286 --> 00:18:21.121 心の声を受け入れてください 00:18:21.121 --> 00:18:25.200 さあ皆さん 私と一緒に ストローを掲げようではありませんか 00:18:25.200 --> 00:18:31.479 ありがとうございました (拍手) 00:18:31.479 --> 00:18:36.449 ありがとう