WEBVTT 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 [拍手] 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 短いお話を1つ。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「おい、植木屋」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「へい、お越し」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「お前んとこ、どんな花でもあるか?」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「へぇ、うちはどんな花でも木でもおまっせ」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「ほんなら、物言う花てあるか?」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「物言う花?」 「こいつなぶりに来おったな」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「へぇ、おまっせ。」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「あるか?」 「へい、おます。」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「うちは花でも木でも皆、物言います。 なんなら、名前なと尋ねてみなはれ 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 返事しよるさかいに。」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「ホンマかいな?」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「ほんならお前、名前なんちゅうねん?」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「さくら」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「ほんに、こいつ、もの言いよったがな。ほしたら、お前は?」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「うめ」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「なるほどな〜。お前は?」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「ぼたん」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「ほー、感心やな。」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「お前は?」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「お前は?」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「おい、植木屋。 こいつ、物言いよらへんがな。」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「え?あー、こいつ、くちなしや」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 [拍手] 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 突然の小噺でしたけれども、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 これは私が68歳で落語を習い始めたときに一番初めに教えていただいた小噺でございます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 なぜ、68歳で落語を習い始めたかといいますと、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 社会とのつながりがなくなることに不安を感じたからでございます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 それまで私は仕事を持っておりました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 毎日、人と接する生活をしておりました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 ところが、定年になりまして、もう子供たちも独立しておりますし、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 孫の手も離れて、これから私は毎日家で、独りで、誰とも喋らない暮らしが、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 続くのかと思いました時に、それが強くなったのでございます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 なんとか世間との接点を持った暮らしが続けられないものか? 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 そう考えたのが、68歳でございました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 たまたま、神戸に落語教室があるというのを知りました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 落語なら私は若い頃から見に行くのが好きだったものですから、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 いっぺんやってみようか?くらいの軽い気持ちで受講を決めました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 初めてお教室へ行ってみますと、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 先輩の生徒さん方が、師匠の前でもうプロの噺家さんのように落語を演じてらっしゃいます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 わーすごいな。私もこんな風になれるのかしら?と思いました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 一年もしますと、発表会というのが開かれるんですけれども、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 私は生まれて初めて、赤い毛氈の敷き詰められた、高座というところに上がりまして、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 覚えたての落語を披露いたしました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 すると、客席から笑い声がおきたんです。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 わー、私みたいな落語にでも笑ってくださった。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 もう、この感激が忘れられずに、それからは、すっかり、落語にはまってしまいます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 そのうちに、生徒方で開いてらっしゃる 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 素人落語会というのに、私も出していただけるようになりました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 そうなりますと、落語のネタを増やさないといけません。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 落語を覚えないといけません。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 私は一生懸命落語を覚えました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 そのうちに、私自身にも出演依頼をいただけるようになりました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 地域の自治会とか、老人会から呼んでいただけるんです。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 会場へ伺いますと、お集まりいただいたお客様方が、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 私の落語を聞いてとっても喜んで下さるんです。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 主催者の方もよろこんでくだすって、また次の落語会の依頼をくださいます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 こういう人とのつながりが、落語を始めるまでは感じたことのない、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 生きがいとか、やりがいを感じまして、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 気がついたら6年が過ぎておりました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 この年の発表会では、私は30分の大ネタで、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 トリを取らせていただくまでになっておりました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 聞きに来てくださったお友達は、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 口を揃えて、すばらしかった、感心したと、お褒めの言葉をくださいます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 しかし私は、このとき75歳も間近に迫っておりまして、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 新しい落語のネタを覚えるにも、もう四苦八苦のありさまでございます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 また来年の発表会に、このままで新しいネタを今年ほめていただけたような落語を、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 できるのだろうか? 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 お教室に通っておりましても、技術の向上もままならないのではないかと考えまして、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 そこで落語教室をやめたのでございます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 ところが翌年、2013年の3月に、神戸で、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「素人女性落語家コンテスト」というのが開かれました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 いっぺん、力試しがしてみたい。 私は、応募いたしました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 予選44人の中の7人に選んでいただけたのです。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 もう、これだけで、嬉しくて、 お友達に言い回りました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 本戦までは1週間です。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 7人のうちで3人が受賞となります。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 なんとかこの3人に入りたい。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 私はもう、1週間の間、自分のネタを一生懸命何度も練習いたしまして、本番に臨みました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 審査の結果は、3位には入っておりません。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 2位にも無理でした。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 あーやっぱりだめだったかと、もうあきらめかけたその時、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「1位は、丸々亭おはぎさん」という声が聞こえてきたんです。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 もう、私は気が遠くなるような、 指の先までが冷たくなるような感覚で、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 賞状を受け取っておりました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 全応募者の中で、私が最高齢でしたので、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 審査員の先生方も、おまけで1位をくださったのだと思います。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 このコンテストの結果が新聞に載ります。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 テレビが私のことを紹介してくださいます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 それをご覧になった方々が私に出演依頼をくださいます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 東京のテレビ局までが、私のことを取材してくれまして、全国放送で流してくれました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 その上、今日はこのステージに立たせていただくという機会まで与えていただきました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 このどこにでもいる普通のおばあさんが、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 1年前まではもう想像もすることもできなかったような 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 素晴らしい体験をさせていただいでおります。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 もう、こんな嬉しいありがたいことはございません。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 しかし、私はあと10日もしない間に 76歳を迎えてしまいます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 68歳から落語を始めたこの8年間は 30代40代の8年間とはもう全然違います。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 体力や頭脳のおとろえは目に見えて速くなっております。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 しかし、私はこの先も落語をやめようとは思いません。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 いくら歳を重ねても、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 人、お客様を喜ばせる力、お客様に喜んでもらおうと思う力、パワーというものは 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 おとろえるものではないからです。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 人を喜ばせる力は、人との交流が楽しければ、そこから自然に湧いてくるものです。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 そもそも世間との交流を続けたいという気持ちから私は落語を始めました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 落語を習い始めまして、老人会などで落語をすることも楽しかった。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 落語教室へ通うことも楽しかった。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 人との交流が楽しかったのです。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 老人会などで交流が私の落語を磨いてくれました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 力を与えてくれました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 1つの交流が新しい交流を生み、 新たな可能性を生んでくれました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 落語クイーンになれたのも、 今ここに立てているのも、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 誰かとの交流がきっかけになったのは、間違いございません。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 大切なのは、交流の場へ自分から足を踏み入れることです。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 人との交流が、考えることのできないほど、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 大きな可能性を育んでくれるものと信じて、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 私は、これからも落語を続けていこうと思っております。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 それではここで、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 会場の皆様と楽しく交流をいたしましょう。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 こちらに、小噺がでてまいりました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「かなづち」という、小噺ですけれども、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 これを私が今から読ませていただきますので、一度聞いていてください。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「お隣へ行ってかなづち借りてきなはれ この釘打ってしまうさかいに」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「行ってきたけど、貸してくれしまへんねん。」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「なんで、貸さんねん?」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「かなづち何すんねんいうさかい 釘打ちますねんいうたら」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「釘と金槌とがすれてちびるいうて 貸してくれしまへん」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「なんとケチな奴がおるなあ世の中には。」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「なんぼほどちびるねん、そんなもん。 借るな借るな、そんなケチな奴から借らいでもええ」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 「うちのん出して使え。」 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 [笑] 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 こういう小噺でございますけれども。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 これを会場の皆様、 いままで黙って座っていらしゃいましたので、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 ちょっと声を出すのも楽しいかと思いますので、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 ご一緒に、えー、かなづちは退けまして、「お隣へ」から、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 声を揃えて読んでいただきましょう。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 では、まいります。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 さん、はい。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 お隣へ行ってかなづち借りてきなはれ。 この釘を打ってしまうさかいに。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 行ってきたけど、貸してくれまへん。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 なんで、貸さんねん。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 かなづち何すんねんいうさかい、 釘打ちますねんいうたら、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 釘とかなづちとがすれてちびるいうて 貸してくれしまへん。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 なんとケチな奴がおるな世の中には。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 なんぼほどちびるねん、そんなもん。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 借るな、借るな、そんなケチな奴から借らいでもええ。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 うちのん出して使え。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 [拍手] 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 ありがとうございます。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 それではね、どのへんになるのかな? 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 ここからか?こっちからこの通路からこっち側の方は、黒地に白で書いてあるところを 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 この通路からこっちの方は、 白地に黒で書いてあるところを 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 大きな声で、両方負けずに、読んでいただきたいと思います。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 では、こちらから行きます。 「お隣へ」からですよ。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 さん、はい。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 お隣へ行ってかなづちを借りてきなはれ。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 この釘を打ってしまうさかい。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 行ってきたけど貸してくれしまへん。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 なんで貸さんねん? 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 かなづち何すんねん言うさかい 釘打ちますねんいうたら、 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 釘とかなづちとが擦れてちびる言うて 貸してくれしまへん。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 なんとケチな奴がおるなあ、世の中には。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 なんぼほどちびるねん、そんなもん。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 借るな借るな、そんなケチな奴から 借らいでもええ。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 うちのん出して使え。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 [拍手] ありがとうございました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 ありがとうございました。 99:59:59.999 --> 99:59:59.999 それでは、これで私の話は終わらせていただきます。