WEBVTT 00:00:01.087 --> 00:00:04.636 ある物理の問題が 00:00:04.636 --> 00:00:09.296 子供の頃から随分と私の頭を悩ませてきました 00:00:10.760 --> 00:00:12.813 それは科学者が 00:00:12.813 --> 00:00:15.921 100年もの間 問い続けても 答えが得られない問題に 00:00:15.921 --> 00:00:17.280 関わるものです 00:00:19.108 --> 00:00:21.702 自然界で最小の物質であり 00:00:21.702 --> 00:00:23.779 量子論の世界に属する素粒子と 00:00:23.779 --> 00:00:27.350 自然界での最大の物体であり 重力で結びつけられている 00:00:27.350 --> 00:00:30.671 惑星や恒星や銀河とを どうやって統一するのか? NOTE Paragraph 00:00:31.090 --> 00:00:33.987 子供のころには この問題に対して答えを出そうと 00:00:33.987 --> 00:00:36.913 顕微鏡や電磁石をいじくったり 00:00:36.913 --> 00:00:38.998 微小世界の力や量子力学について 00:00:38.998 --> 00:00:40.566 本を読んだりしました 00:00:40.566 --> 00:00:43.748 そして 本の記述が 私たちの実験結果と よく合致していることに 00:00:43.748 --> 00:00:45.238 驚きました 00:00:46.000 --> 00:00:47.477 それから天体を観測しました 00:00:47.477 --> 00:00:50.115 重力がかなり解明されていることも 学びました 00:00:50.115 --> 00:00:53.229 そして 私はこれらの2つのシステムを 統一する美しい理論が― 00:00:53.229 --> 00:00:56.294 あるに違いないと確信しました 00:00:56.731 --> 00:00:58.402 しかし そのようなものはありません 00:00:59.553 --> 00:01:00.337 本によると 00:01:00.337 --> 00:01:02.994 この2つの領域について 別々には研究が進んでいますが 00:01:02.994 --> 00:01:06.108 数学的に結び付けようとすると 00:01:06.108 --> 00:01:07.518 全くうまくいきません NOTE Paragraph 00:01:08.674 --> 00:01:09.984 100年もの間 00:01:10.008 --> 00:01:14.560 この根本的な物理学上の破綻を 解く試みはどれも 00:01:14.560 --> 00:01:16.634 実験による裏付けができませんでした 00:01:18.271 --> 00:01:19.955 少し大きくなった私― 00:01:19.955 --> 00:01:21.743 好奇心旺盛で 疑り深い子供の私には 00:01:21.743 --> 00:01:24.651 この状況は到底 納得のいくものではありませんでした NOTE Paragraph 00:01:26.071 --> 00:01:28.244 そうです 私は今でも疑り深い子供なのです 00:01:28.268 --> 00:01:31.918 ここで2015年の12月に話が飛びますが 00:01:33.029 --> 00:01:35.227 この時 私がその中心にいた物理の世界は 00:01:35.227 --> 00:01:38.327 天地のひっくり返る騒ぎのまっただ中でした 00:01:39.249 --> 00:01:43.383 CERN(欧州原子核研究機構)で 興味深いデータが見つかったことに端を発します 00:01:43.383 --> 00:01:45.291 それは新粒子の兆しであり 00:01:45.291 --> 00:01:49.747 長年の問題に 驚くべき解答が 得られる可能性を匂わせていました NOTE Paragraph 00:01:51.777 --> 00:01:53.638 私は まだ疑り深い子供だと思うのですが 00:01:53.638 --> 00:01:55.935 今や 素粒子ハンターでもあるのです 00:01:55.935 --> 00:01:59.042 私は 物理学者で 稼働中の実験施設では最大の 00:01:59.042 --> 00:02:02.783 CERNの大型ハドロン衝突型加速器で 研究しています 00:02:03.877 --> 00:02:07.106 これは フランスとスイスの国境にまたがる 27キロのトンネルで 00:02:07.106 --> 00:02:08.930 地下100メートルに埋められています 00:02:08.930 --> 00:02:10.028 このトンネルの中で 00:02:10.028 --> 00:02:13.395 宇宙空間よりも冷たい超伝導磁石を使って 00:02:13.395 --> 00:02:17.200 陽子を光速近くまで加速して 00:02:17.200 --> 00:02:20.531 1秒間に数百万回 衝突させ 00:02:20.531 --> 00:02:23.751 その衝突による生成粒子を捉えて 00:02:23.751 --> 00:02:27.842 新たな 未発見の基本粒子を探しています 00:02:28.727 --> 00:02:31.241 この施設の設計と建設は 世界中から集まった物理学者の 00:02:31.241 --> 00:02:34.031 数十年間に渡る努力の賜物です 00:02:34.031 --> 00:02:36.756 2015年の夏には 00:02:36.756 --> 00:02:40.094 人類史上最大のエネルギーでの 衝突型加速器実験をするために 00:02:40.094 --> 00:02:44.651 この大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の 稼働に向けて精力的に働いていました NOTE Paragraph 00:02:45.535 --> 00:02:48.242 高いエネルギーは重要です 00:02:48.242 --> 00:02:50.233 なぜなら 素粒子の世界では 00:02:50.233 --> 00:02:52.578 エネルギーと質量は等しいからです 00:02:52.578 --> 00:02:55.019 質量は 自然が与えた ただの数値です 00:02:56.068 --> 00:02:57.310 新粒子を発見するには 00:02:57.310 --> 00:02:59.146 より大きな数値に達する必要があります 00:02:59.146 --> 00:03:02.274 そこで より高エネルギーを生む より大きな衝突型加速器が必要です 00:03:02.274 --> 00:03:05.003 そして 世界で最高エネルギーを生む 最大の加速器が 00:03:05.003 --> 00:03:06.829 CERNのLHCなのです 00:03:08.201 --> 00:03:12.774 そこでは 陽子を数千兆回衝突させ 00:03:12.774 --> 00:03:17.308 何か月にもわたる時間をかけて そのデータを集めます 00:03:18.813 --> 00:03:22.792 すると 新粒子が データのグラフ上の コブとして表れてくるかもしれません 00:03:22.792 --> 00:03:25.611 予測値からのわずかな偏りであり 00:03:25.611 --> 00:03:29.248 滑らかな線に凹凸を与える 一群のデータ点です 00:03:30.269 --> 00:03:32.100 例えば このグラフ上のコブは 00:03:32.800 --> 00:03:35.543 2012年に数ヶ月間 データを蓄積した結果ですが 00:03:35.567 --> 00:03:38.960 ボソン粒子のひとつである ヒッグス粒子の発見に至り 00:03:38.965 --> 00:03:42.264 粒子の存在を裏付けることで ノーベル賞受賞にもつながりました NOTE Paragraph 00:03:43.852 --> 00:03:47.390 2015年に エネルギーが 大幅に増強されたことによって 00:03:48.488 --> 00:03:51.920 新粒子 つまり長く未解決だった問題への 新たな答を発見する 00:03:51.944 --> 00:03:55.355 史上最大のチャンスが訪れました 00:03:55.361 --> 00:03:58.758 なぜなら ヒッグス粒子を発見した時の 00:03:58.758 --> 00:04:00.148 約2倍のエネルギーだからです 00:04:00.448 --> 00:04:04.323 私の同僚の多くは この一瞬に 研究生活の全てを賭けていました 00:04:04.323 --> 00:04:06.553 率直に言って 好奇心旺盛な子供の私にとっては 00:04:06.553 --> 00:04:08.917 それまでの人生は この一瞬を待つためだったのです 00:04:08.917 --> 00:04:10.938 2015年は まさにその時でした NOTE Paragraph 00:04:12.464 --> 00:04:14.634 2015年の6月に 00:04:15.582 --> 00:04:18.331 LHCは再稼働しました 00:04:18.950 --> 00:04:21.917 私は同僚たちと一緒に 息もできないほどドキドキしていました 00:04:21.921 --> 00:04:24.436 そして ついに この最高エネルギーでの 00:04:24.436 --> 00:04:26.146 陽子衝突の1回目を観測しました 00:04:26.146 --> 00:04:28.306 拍手と乾杯と祝福が起こりました 00:04:28.306 --> 00:04:31.746 科学界の節目でした 00:04:31.746 --> 00:04:36.598 この新たに観測されたデータから 何が発見できるかは未知数でした 00:04:39.730 --> 00:04:41.688 数週間後にはグラフ上に コブを見つけました 00:04:43.972 --> 00:04:45.738 あまり大きくはありませんでしたが 00:04:46.822 --> 00:04:48.818 眉を上げるには十分な大きさのコブでした 00:04:48.818 --> 00:04:51.113 眉を上げる段階を10段階に分けて 00:04:51.113 --> 00:04:53.427 10を新粒子発見とすると 00:04:53.427 --> 00:04:55.068 今回は4ぐらいでした NOTE Paragraph 00:04:55.068 --> 00:04:57.298 (笑) NOTE Paragraph 00:04:58.052 --> 00:05:03.547 何時間も 何日間も 何週間もかけて このわずかなコブについて 00:05:03.547 --> 00:05:06.127 同僚たちと秘密裏に話し合い 00:05:06.127 --> 00:05:09.367 データを徹底的に調べ上げ 00:05:09.367 --> 00:05:11.148 精査に耐えるかどうかを検討しました 00:05:11.648 --> 00:05:15.193 何か月もの間 憑りつかれた様に 研究をしました 00:05:15.193 --> 00:05:17.439 家には帰らず 研究所に寝泊まりし 00:05:17.439 --> 00:05:19.270 キャンディバーを夕食にして 00:05:19.270 --> 00:05:21.514 バケツ一杯のコーヒーを飲み― 00:05:21.514 --> 00:05:25.407 物理学者は コーヒーを図表に変える 機械のようなものですが― NOTE Paragraph 00:05:25.691 --> 00:05:27.224 (笑) NOTE Paragraph 00:05:27.224 --> 00:05:29.650 しかし このわずかなコブは消えませんでした 00:05:30.604 --> 00:05:32.746 そして 数か月後 00:05:32.746 --> 00:05:36.426 我々はこのわずかなコブを 明快なメッセージとともに世界に発表しました 00:05:37.287 --> 00:05:40.052 それは このわずかなコブは興味深いが 決定的ではないので 00:05:40.052 --> 00:05:43.421 さらなるデータを取って 注意深く観測するつもりだということです 00:05:43.572 --> 00:05:45.943 私たちはこのコブに関して 冷静でいようとしました NOTE Paragraph 00:05:47.323 --> 00:05:49.651 いずれにしろ この発表は世界中に広まりました 00:05:50.303 --> 00:05:52.015 マスコミはこぞって取り上げました 00:05:52.925 --> 00:05:55.264 このコブはヒッグス粒子発見の 過程で現れたコブを 00:05:55.264 --> 00:05:58.557 彷彿とさせると言われました 00:05:58.561 --> 00:06:01.759 さらに 同業者である理論物理学者たちは 00:06:02.458 --> 00:06:04.299 私の大好きな人たちですが 00:06:04.299 --> 00:06:08.181 理論家たちはこのコブについて 500本もの論文を書きました NOTE Paragraph 00:06:08.525 --> 00:06:09.980 (笑) NOTE Paragraph 00:06:10.164 --> 00:06:14.540 素粒子物理学界は 天地がひっくり返るほどの大騒ぎでした 00:06:15.585 --> 00:06:20.021 何故 この問題のコブは 何千人もの物理学者たちが― 00:06:20.021 --> 00:06:24.001 誰も彼も冷静さを失うほどの 代物なのでしょうか 00:06:25.346 --> 00:06:26.852 このわずかなコブは独特でした 00:06:28.018 --> 00:06:29.301 このコブが示唆するのは 00:06:29.301 --> 00:06:32.377 ある種の衝突が 予想外に多く 観測されているということです 00:06:32.377 --> 00:06:35.682 その衝突の生成物は 2つの光子だけ つまり 00:06:35.682 --> 00:06:37.236 2個の光の粒子だけなのです 00:06:37.260 --> 00:06:38.277 これは稀なことです NOTE Paragraph 00:06:38.959 --> 00:06:41.839 粒子の衝突は自動車の衝突とは違います 00:06:41.839 --> 00:06:43.096 別の法則に従います 00:06:43.096 --> 00:06:45.820 2つの粒子が 光速に近い速さで衝突する時は 00:06:45.820 --> 00:06:47.105 量子論が適用されます 00:06:47.105 --> 00:06:48.169 量子論の世界では 00:06:48.169 --> 00:06:51.316 2つの粒子から 新しい粒子が1つできますが 00:06:51.316 --> 00:06:54.140 その粒子の寿命はごくわずかな時間で 00:06:54.140 --> 00:06:57.235 別の粒子に分裂して検出されます 00:06:57.235 --> 00:07:00.944 車の衝突で考えると 衝突の瞬間に 2台の車が消えて 00:07:00.944 --> 00:07:03.253 その場所に自転車が1台現れるということです NOTE Paragraph 00:07:03.307 --> 00:07:04.372 (笑) NOTE Paragraph 00:07:04.372 --> 00:07:06.707 その自転車は分裂して 2台のスケートボードになり 00:07:06.707 --> 00:07:08.218 これが観測器で検出されます NOTE Paragraph 00:07:08.218 --> 00:07:09.035 (笑) NOTE Paragraph 00:07:09.035 --> 00:07:11.028 うまくいけばですが 正確には少し違います 00:07:11.028 --> 00:07:12.554 この実験は非常に高くつきます NOTE Paragraph 00:07:13.141 --> 00:07:17.343 2個の光子だけしか検出されない例は 極めて稀です 00:07:17.343 --> 00:07:20.739 光子は素粒子の中でも特別な性質を持つため 00:07:20.739 --> 00:07:25.261 2つの光子しか生み出さないような 新粒子の可能性は― 00:07:25.261 --> 00:07:26.822 先程の謎の自転車に相当しますが― 00:07:26.822 --> 00:07:29.185 非常に限られます 00:07:29.682 --> 00:07:32.768 しかし その選択肢の一つは かなりの高エネルギーで 00:07:32.768 --> 00:07:35.508 私を子供の頃から悩ませていた 00:07:35.532 --> 00:07:37.528 あの積年の問題 00:07:37.528 --> 00:07:39.188 つまり重力に関係します NOTE Paragraph 00:07:40.606 --> 00:07:44.412 重力はとても強い力に見えるかもしれません 00:07:44.412 --> 00:07:48.546 しかし 実際には 自然界の他の力に比べると 信じられないほど弱い力です 00:07:48.546 --> 00:07:51.397 私が跳ねるだけで 簡単に重力を打ち負かすことができますが 00:07:52.240 --> 00:07:55.063 手から陽子を取り出すことはできません 00:07:56.103 --> 00:07:59.459 重力は自然界の他の力と比べると どの程度の強さなのか? 00:08:00.410 --> 00:08:02.484 10の39乗分の1です 00:08:02.484 --> 00:08:05.115 小数点以下に39個の0が並びます NOTE Paragraph 00:08:05.115 --> 00:08:06.046 さらに悪いことに 00:08:06.046 --> 00:08:09.463 自然界の他の力は 私たちが標準モデルと呼ぶ理論で 00:08:09.487 --> 00:08:11.348 完全に説明できます 00:08:11.348 --> 00:08:14.777 これは 自然界を最も小さな尺度で説明できる 現時点での最良の理論です 00:08:14.777 --> 00:08:15.587 率直に言って 00:08:15.587 --> 00:08:19.568 人類の最も優れた成果の1つです 00:08:19.998 --> 00:08:24.144 重力は例外です 重力は標準理論に含まれていません 00:08:24.144 --> 00:08:25.424 有り得ません 00:08:25.956 --> 00:08:29.146 重力の大半は 消えてしまったというのでしょうか 00:08:30.000 --> 00:08:32.055 私たちは重力を少しは感じますが 00:08:32.055 --> 00:08:33.525 残りはどこにあるのでしょう 00:08:33.525 --> 00:08:34.977 誰も知りません NOTE Paragraph 00:08:35.843 --> 00:08:40.406 さて 大胆な説明を提案している ある仮説があります 00:08:41.750 --> 00:08:42.863 私たちは 00:08:42.863 --> 00:08:44.435 後ろの方のあなたも 00:08:44.435 --> 00:08:47.230 3次元の空間にいます 00:08:47.254 --> 00:08:49.531 このことは 受け入れていただけるといいのですが NOTE Paragraph 00:08:49.835 --> 00:08:51.334 (笑) NOTE Paragraph 00:08:51.518 --> 00:08:54.920 既知の粒子も全て3次元空間に存在します 00:08:54.920 --> 00:08:57.290 実は 粒子があるということは 3次元空間において 00:08:57.290 --> 00:09:00.237 その場所のエネルギーが 基底より高い状態にあるということです 00:09:00.237 --> 00:09:02.257 空間が局所的に揺らいるのです 00:09:03.178 --> 00:09:06.721 もっと重要なことは こういった物理を 記述するために用いる数学では 00:09:06.721 --> 00:09:09.728 次元の数は3つだと仮定としていることです 00:09:09.728 --> 00:09:12.873 しかし数学は数学です いろんな数学的な扱いを試すことができます 00:09:12.873 --> 00:09:15.633 とても長い間 空間の余剰次元について 00:09:15.633 --> 00:09:16.892 いろいろと考えられてきました 00:09:16.892 --> 00:09:19.657 ただこれは 抽象的な数学の概念に すぎませんでした 00:09:20.131 --> 00:09:22.957 つまり 周りを見回しても― 後ろの方も見回してください 00:09:22.957 --> 00:09:25.488 明らかに空間には3次元しかありません NOTE Paragraph 00:09:26.000 --> 00:09:28.200 それが現実ではなかったらどうしますか? 00:09:29.469 --> 00:09:36.454 重力の失われた部分は 私たちには見えない空間の余剰次元に 00:09:36.454 --> 00:09:38.300 漏れているとすると どうでしょう? 00:09:39.275 --> 00:09:42.423 この空間の余剰次元も見えれば 重力は他の力と同じぐらい強いのに 00:09:42.423 --> 00:09:45.438 私たちが感じられるのは 重力のほんの小さな断面だけなので 00:09:45.438 --> 00:09:48.432 重力がとても弱い力だと考えられているのなら 00:09:48.432 --> 00:09:50.249 どうでしょう? 00:09:51.688 --> 00:09:52.867 もしこの仮説が本当ならば 00:09:52.867 --> 00:09:55.959 素粒子の標準モデルを 拡張しなければなりません 00:09:55.959 --> 00:09:59.959 そうすると 余剰次元の素粒子 つまり重力の高次元素粒子― 00:09:59.989 --> 00:10:03.204 空間の余剰次元に存在する 特別な重力子を含めることができます NOTE Paragraph 00:10:03.204 --> 00:10:04.597 皆さんの様子からすると 00:10:04.597 --> 00:10:05.950 このようにお思いでしょう 00:10:05.950 --> 00:10:10.234 「一体どうやってこんな途方もない SF小説のようなアイディアを試すのだろう? 00:10:10.258 --> 00:10:12.543 私たちは3次元空間に捕らわれているのに」 00:10:12.543 --> 00:10:13.929 こういうときはいつも 00:10:13.929 --> 00:10:15.878 2つの陽子を衝突させるのです NOTE Paragraph 00:10:16.242 --> 00:10:17.184 (笑) NOTE Paragraph 00:10:17.328 --> 00:10:19.716 十分に激しい衝突ならば 00:10:19.716 --> 00:10:22.331 そこにあるべき空間の余剰次元を 揺るがせて 00:10:22.331 --> 00:10:25.144 直ちに高次元の重力子が生まれ 00:10:25.144 --> 00:10:28.878 すぐにLHCがある3次元空間にポンと戻り 00:10:29.310 --> 00:10:33.446 2つの光子に つまり2個の光の粒子に分裂します 00:10:35.177 --> 00:10:38.141 ここで仮定した余剰次元の重力子は 00:10:38.141 --> 00:10:41.962 2個の光子によるわずかなコブを 生み出せるという 00:10:41.962 --> 00:10:43.821 特別な量子的特徴を持ちうる 00:10:43.821 --> 00:10:48.517 仮想的な新粒子のひとつです NOTE Paragraph 00:10:49.670 --> 00:10:55.820 重力の謎を解き明かし 00:10:55.844 --> 00:10:58.456 空間の余剰次元を発見する可能性― 00:10:59.236 --> 00:11:00.648 もう皆さんはお判りでしょう 00:11:00.652 --> 00:11:04.910 どうして何千人もの物理オタクが データ上の 2個の光子からできるわずかなコブに 00:11:04.910 --> 00:11:07.012 誰も彼も冷静さを失ったのか 00:11:07.036 --> 00:11:09.566 教科書を書き換えるほどの発見です 00:11:10.189 --> 00:11:11.375 ここで思い出してください 00:11:11.375 --> 00:11:13.093 その時この研究をしていた 00:11:13.093 --> 00:11:15.726 実験物理学者たちが出したメッセージは とても明確でした 00:11:15.734 --> 00:11:17.112 「もっとデータが必要です」 00:11:18.052 --> 00:11:19.395 データが蓄積されれば 00:11:19.395 --> 00:11:23.869 このわずかなコブが パリッと素敵なノーベル賞になるか NOTE Paragraph 00:11:23.893 --> 00:11:25.653 (笑) NOTE Paragraph 00:11:25.677 --> 00:11:28.641 新たなデータがコブの周囲を埋めて 00:11:28.665 --> 00:11:30.401 滑らかな線となるか判ります NOTE Paragraph 00:11:30.945 --> 00:11:32.637 私たちはデータを取り続けました 00:11:32.637 --> 00:11:35.158 数ヶ月かかって5倍の量のデータを集めた結果 00:11:35.158 --> 00:11:36.698 このわずかなコブは 00:11:37.062 --> 00:11:39.260 滑らかな線になりました 00:11:43.177 --> 00:11:46.585 マスコミは「大きな失望」とか 「消えた希望」とか 00:11:46.585 --> 00:11:49.235 素粒子物理学者たちの「残念」などと 報道しました 00:11:49.259 --> 00:11:50.874 このように報道されたので 00:11:50.874 --> 00:11:54.432 世間は 私たちがLHCを閉鎖し 帰国したと考えたことでしょう NOTE Paragraph 00:11:54.606 --> 00:11:55.756 (笑) NOTE Paragraph 00:11:56.348 --> 00:11:57.911 しかし そんなことはしません 00:12:00.627 --> 00:12:03.071 何故でしょうか? 00:12:04.375 --> 00:12:07.230 仮に新粒子を発見できなくても まあ実際だめでしたが― 00:12:08.109 --> 00:12:10.572 何故ここで話をしているのか? 00:12:10.572 --> 00:12:12.503 何故 恥ずかしさに肩を落とし 00:12:13.293 --> 00:12:14.600 帰国しないのでしょうか? NOTE Paragraph 00:12:18.889 --> 00:12:22.260 素粒子物理学者は探査をしています 00:12:23.291 --> 00:12:25.853 私たちは 専ら地図を作っているようなものです 00:12:27.188 --> 00:12:29.174 LHCから離れて 分かりやすく説明します 00:12:29.174 --> 00:12:33.530 あなたが宇宙飛行士で 宇宙の彼方の惑星に到着し 00:12:33.530 --> 00:12:34.889 異星人を探しているとします 00:12:34.889 --> 00:12:36.401 最初に何をすべきでしょう? 00:12:37.851 --> 00:12:40.821 すぐに惑星を周回し 着陸し 生命の大きく顕著な兆候がないか 00:12:40.821 --> 00:12:42.591 ざっと調べて地球の基地に報告するでしょう 00:12:42.591 --> 00:12:44.364 ざっと調べて地球の基地に報告するでしょう 00:12:44.364 --> 00:12:46.158 この段階に私たちはいます 00:12:47.069 --> 00:12:48.590 LHCで はっきりとした 00:12:48.590 --> 00:12:50.828 大きな新粒子を探すための最初の調査をし 00:12:50.828 --> 00:12:52.698 何もなかったと報告をしたところです 00:12:53.391 --> 00:12:56.038 私たちは遠くの山に 異星人らしき変なコブを見ましたが 00:12:56.038 --> 00:12:57.638 近寄って見ると それは岩でした NOTE Paragraph 00:12:58.696 --> 00:13:01.456 そこで私たちはどうするでしょう? 諦めて飛び去りますか? 00:13:01.480 --> 00:13:02.631 絶対に違います 00:13:02.631 --> 00:13:05.166 そんなことをするのは最悪の科学者です 00:13:05.166 --> 00:13:08.497 そうではなくて 次の二十年間かけて探検をして 00:13:08.497 --> 00:13:10.031 その星の詳細な地図を作り 00:13:10.031 --> 00:13:12.460 高性能の機器で砂を厳密に調べて 00:13:12.460 --> 00:13:13.962 全ての石の下を探り 00:13:13.962 --> 00:13:15.556 地面に穴をあけます 00:13:16.016 --> 00:13:18.423 新粒子はすぐに大きな はっきりとしたコブとして 00:13:18.423 --> 00:13:20.400 現れるかもしれませんし 00:13:20.670 --> 00:13:24.611 何年もの間データを取り続けてから やっと現れるかもしれません NOTE Paragraph 00:13:25.803 --> 00:13:30.357 人類は非常に高いエネルギーでの探索を LHCで始めたばかりです 00:13:30.357 --> 00:13:32.172 もっと探索しなくてはなりません 00:13:32.172 --> 00:13:37.837 もし10年あるいは20年経っても 新粒子を発見できなかったらどうしましょう? 00:13:38.843 --> 00:13:40.478 より大きな実験設備を建設します NOTE Paragraph 00:13:40.772 --> 00:13:42.140 (笑) NOTE Paragraph 00:13:42.140 --> 00:13:43.810 もっと高いエネルギーで実験をします 00:13:44.406 --> 00:13:46.096 もっと高いエネルギーで実験をします 00:13:46.866 --> 00:13:49.879 100キロのトンネルを造る計画は すでに進行しています 00:13:50.182 --> 00:13:53.292 LHCの10倍のエネルギーで 粒子を衝突させられるでしょう 00:13:53.292 --> 00:13:55.950 自然が新粒子をどこに隠したか 決めることはできません 00:13:56.200 --> 00:13:57.826 探索し続けることを決めただけです 00:13:57.826 --> 00:14:00.594 もし100キロのトンネルでも 00:14:00.618 --> 00:14:02.282 500キロのトンネルでも 00:14:02.282 --> 00:14:05.257 あるいは 地球と月の間の宇宙空間に浮かぶ 00:14:05.257 --> 00:14:06.809 1万キロに及ぶ衝突型加速器でも 00:14:06.809 --> 00:14:09.811 新粒子を発見できないとしたらどうでしょう? 00:14:11.167 --> 00:14:14.251 多分 素粒子物理学のやり方が 間違っているということです NOTE Paragraph 00:14:14.421 --> 00:14:15.740 (笑) NOTE Paragraph 00:14:15.740 --> 00:14:17.797 私たちは考え直さなくてはならないのでしょう 00:14:19.127 --> 00:14:22.429 私たちが今持っているよりも 多くの資金と技術とノウハウが 00:14:22.429 --> 00:14:23.741 必要となるでしょう 00:14:24.440 --> 00:14:27.245 LHCの一部では既に 人工知能や機械学習の技術を 00:14:27.245 --> 00:14:28.782 取り入れています 00:14:28.782 --> 00:14:30.968 極めて複雑なアルゴリズムを使って 00:14:30.968 --> 00:14:33.231 自分で学習をして高次元の重力子を 00:14:33.231 --> 00:14:36.417 発見できるような素粒子物理実験を 設計すると考えてみましょう NOTE Paragraph 00:14:36.417 --> 00:14:38.248 しかし あの究極の問いはどうなるでしょう? 00:14:38.248 --> 00:14:41.574 人工知能でさえ私たちの問題に答えを出す 助けとならないとしたら? 00:14:41.574 --> 00:14:44.109 何世紀にも渡って未解決であった これらの問題は 00:14:44.109 --> 00:14:47.498 近い将来には解けない定めだとしたら? 00:14:47.498 --> 00:14:50.345 私が子供の頃から頭を悩ませている問題が 00:14:50.345 --> 00:14:52.928 私が生きている内には 解決されない運命だとしたら? 00:14:54.175 --> 00:14:55.091 そうなったら― 00:14:56.282 --> 00:14:58.376 もっと面白くなるでしょう NOTE Paragraph 00:14:59.984 --> 00:15:03.019 全く新しい方法で 考えなくてはならなくなるでしょう 00:15:04.231 --> 00:15:06.043 仮定に立ち戻って 00:15:06.043 --> 00:15:08.662 どこかに間違いがないか 確かめなくてはならないでしょう 00:15:09.200 --> 00:15:12.650 そして 一緒に科学を研究するように より多くの人を誘わなくてはなりません 00:15:12.650 --> 00:15:15.882 それは100年続く問題に対する 新たな視点が必要だからです 00:15:15.906 --> 00:15:18.600 私はその答を見つけていませんし その答をまだ探しています 00:15:18.984 --> 00:15:21.393 しかし 誰かが― 今は学生かもしれませんし 00:15:21.417 --> 00:15:23.200 まだ生まれてもいないかもしれませんが 00:15:23.543 --> 00:15:26.750 その誰かが 全く新しい方法で 物理学を捉えるように導き 00:15:26.750 --> 00:15:31.208 今の問いが間違っていただけだと 指摘してくれるでしょう 00:15:32.112 --> 00:15:33.822 それは物理学の終わりではなく NOTE Paragraph 00:15:34.266 --> 00:15:35.552 新しい始まりです NOTE Paragraph 00:15:36.964 --> 00:15:38.144 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:15:38.378 --> 00:15:40.919 (拍手)