よく語られる都市伝説に
中国の全人口が
一斉にジャンプしたら
地球が揺れて 地軸が傾く
というのがあります
計算したんですから
信じて下さい
地球の軸は全く動じません
ただ 1980年代イギリスで育った方同様
私は
気象予報士マイケル・フィッシュの
ハリケーンの甘読み予報も 思い出します
とは言っても
たった1人でもジャンプしたなら
「地球を動かす」ことはできるんです
ただ 「動く」という程ではありませんが
そんな微小変化の測定が
できると仮定しましょう
科学者たちがジャンプして起きる
地球の振動とは関係ないのですが
精度の高い測定値が得られるなら
銀河を隔てた恒星の爆発によって起きる
空間そのものの変化や形がわかるのです
SFの話のようですが
実際そんな計測装置があるのです
レーザー干渉計と呼ばれる
最先端を行く科学的装置の1つです
数年で
この技術は
宇宙を全く違う見方で眺める
重力波天文学に未来を
開いてくれるに違いないと思っています
重力波は光とは異なります
電磁波のスペクトルは
ラジオ波からガンマ線まで広がりますが
重力波はそこには属しません
光には多くの様々な種類があります
過去60年程に
あらゆる種類の光を使った 宇宙探索が
かなり進んできました
地上に巨大電波望遠鏡を備え付けたり
ガンマ線観測衛星を打ち上げたりして
これら異なるのぞき窓から
私たちは宇宙を観測し
宇宙の仕組についての
驚くべき事象を発見し
星の誕生と死や
銀河の中心部を
探索して来ました
他の恒星を周回する
地球のような惑星も探し始めました
しかし重力波スペクトルは
全く別物となるでしょう
宇宙に開かれた1つの窓として
最も凄まじい高エネルギー天体現象—
恒星の爆発 ブラックホールの衝突 そして
ビッグバンさえも捉えられるでしょう
では 宇宙における重力波の窓から
何が分かるのでしょうか
では 宇宙における重力波の窓から
何が分かるのでしょうか
最も期待されるのは
まだ分からないこと—
いわゆる未知の未知—
つまり まだ誰も存在すら
知らないことに関してです
数年掛かるでしょうが
それ程遠い未来ではありません
重力波に関してお話しする前に
重力について考えてみましょう
皆さんもご存知の
もう1つの都市伝説
ニュートンの頭に落ちた
りんごの話があります
実際にりんごが
関わっていたかは別として
どこからかインスピレーションを得て
ニュートンはうまい理論を編み出しました
その構築した同じ物理法則を使い
彼は木から落ちるリンゴも
地球を周回する月をも
説明付けたのです
彼はこれを「万有引力の法則」
と呼びました
これは基本的に宇宙の全ての物は
互いに引き合うという
美しい理論であり
非常に実用的でもあり
300年以上 様々なことに
役立ってきました
そのお陰で世界を
半周する飛行機や
月と地球を往復するロケットが
作られているのです
しかしニュートンの万有引力の法則には
哲学的問題があります
極めて基本的なレベルで
意味をなさない点があります
ニュートンの説明では
地球と月の間に力が働くのです
月はどうして地球に引かれていると
わかるのでしょうか
地球からの引力がどうやって
月まで届くのでしょう
20世紀初頭
アインシュタインもこの問題に
頭をひねりました
そして 実に見事な解答に
行き着いたのです
アインシュタインは
科学者セレブ第一号かもしれません
1955年に他界したものの
1999年に「20世紀の人」として
タイム誌に選ばれたのです
もっとも ネットの投票では
別の人物が選ばれていますが
エルヴィス・プレスリーです
(笑)
私は皆さんのように
エルヴィスの大ファンですが
ここはタイム誌の編集者に同意します
現に大学の私の研究室には
アインシュタインの人形があります
(笑)
アインシュタインが「20世紀の人」なら
彼は一体何をしたのでしょう
重力とは何なのか
私たちに再考させたのです
彼の理論は
地球と月の間 リンゴと木の間に
重力が働いている というより
それらの間の時空そのものが
歪んでいるというものです
こう1つ例えてみるといいでしょう
地球がピーンと張った
トランポリンのネットのような
ゴム製のシートの上に乗り
非常に大きな質量の地球が
ゴムシートを大きく凹ませている
というものです
ここで必要でなくなるのは
地球から月への引力の説明です
月は 地球周囲の時空の
自然な曲がりや凹みに
沿って動いているだけです
実際アインシュタインは
時間と空間は個別に
扱うべきではないとして
時空の織りなす構造の理論を
展開しました
重力は 時空の歪みだ
だというものです
もう1人の物理学者
ジョン・ホイーラーは これを
時空は物体の動きを規定し
物体は時空の歪みを決定すると簡潔に述べました
これは自然と宇宙に関する
壮大なる基本ですが
実用的な応用も多く含まれます
微弱な重力の地球上においても
アインシュタインの理論により
ある大きなことが予測されています
たぶんお気づきでないかも知れません
例えば このことを知っていましたか?
時計は地上では
はるか上空の時計よりゆっくり進むのです
地上の方が重力場が強いせいです
ある映画の1場面を
覚えておられるでしょう
『ミッション : インポッシブル
ゴースト・プロトコル』で
トム・クルーズが
世界一高い超高層ビル
ブルジュ・ハリファをよじ登るのを
地上800mでさえ—
トムはそんな余裕もなかったでしょうが—
彼の時計は地上の時計より
数十億分の1秒速く
動いていたのです
数十億分の1秒の差だけ?
と思うでしょう
それだけでGPSには
十分に違いが出てくるのです
GPS衛星のデータが
補正の必要があるのは
衛星のある高度では
時間が速く進むからです
それが なんと1日に
40マイクロ秒もあるのです
衛星からの無線信号や
マイクロ波信号の伝播速度は
40マイクロ秒に約10キロなので
もし衛星ナビゲーションが
10キロ内しか正確に機能しないとしたら
どれ程酷いことになるか考えてみて下さい
それでは私たちは瞬く間に
道に迷ってしまいます
それでアインシュタインの
重力理論や一般相対性理論は
私たちの日常生活に実際に
大きく影響しているのです
しかしそれは深宇宙では
最大限の形で現れています
重力とはすなわち時空の湾曲であるなら
こういう思考実験が出来ます
微小な空間に物質を
時空が曲がる程 詰め込むと
光さえ重力にガッチリと捕まり
抜け出すことはできません
ブラックホールを作ってしまったのです
アインシュタイン時代に
ブラックホールは推論立てられました
1916年にアインシュタインの
理論が発表された直後
ある若い科学者の
素晴らしい論文が出ました
その科学者は
第1次世界大戦で前線にいた
カール・シュヴァルツシルトです
彼の論文がブラックホールの始まりでした
ブラックホールは確かに
SFの分野に属する話のようですが
私たち天文学者はブラックホールは
実在すると確信しており
ブラックホールから光が抜け出すことは
まさしくミッション・インポシブルです
最期を迎え爆発した星の残骸に
ブラックホールがあります
宇宙の ほとんどどの銀河にも
その中心に超巨大な
ブラックホールがあるようです
ブラックホールが光速に近い速さで動くなら
時空が大幅に揺らぐでしょう
トランポリンのネットに
大砲の弾丸を落とすようにです
それで広がる波紋が
重力波と呼ばれるものです
重力波はブラックホールや
それよりもやや質量の小さい
中性子星から生まれているのです
その両方が光速に近い速さで
衝突するなら
実に大きな波が発生するでしょう
それが私たちが
重力波天文学分野に乗り出し
探し求めているものです
それが簡単ならいいのですが
これが計画で
実際の仕事が困難な理由は
重力波がブラックホールのある時空を
大きく揺さぶり
池の水面に広がる水紋のように
宇宙中に広がっても
次第に弱くなって行き
地球に届くころには—
時空の振動を測定するなら—
大雑把に言って100京分の1メートル
程しかありません
これでは なかなか測れません
では その方法とは?
ラスベガスのマジックショーみたいに
聞こえるかもしれませんが
鏡とレーザーを使って測ります
レーザー光線を鏡に照射し
互いに直角をなす2本の光線に分割し
それを鏡に反射させ
再び重ね合わせて
それを解析するというものです
その両方の光線が
全く同じ距離を進んだなら
両方は完全に一致する光になります
他の全ての光のように光の波であり
波の連なりがぴたりと合うのですが
進んだ距離が異なると
波列がずれて
お互いに干渉し合うのです
それを干渉現象と呼びます
それで「レーザー干渉計」という
名前がついているのです
重力波を捕まえるためには
レーザー干渉計は
素晴らしい装置なのです
恐ろしく微小な重力波シグナルを
キャッチしなくてはならないので
その開発は大変困難な技術課題です
アインシュタインの理論では
重力波が通り過ぎると
その周りの時空は
伸びたり縮んだりするのですが
驚く程の微細な変化です
私たちはレーザー光線と干渉縞を使って
重力波が通ったかどうかを検出しています
しかし実験規模を拡大しなくては
全くどうにもなりません
さてここで LIGO の出番です
LIGOは
レーザー干渉計重力波観測所の略語です
今 最も野心的で最先端をいく
全米科学財団の科学プロジェクトです
実は LIGOは2カ所あり
ルイジアナ州に1つ
ワシントン州にもう1つあります
それに加え 干渉計のある2観測所—
ドイツのGEOとイタリアのVirgoと共に
重力波検知の早期発見システムを
作っています
かなり人里離れた場所に
LIGOは建てられており
地元の人は それが本当は何なのか
知らないと思います
LIGOの私の同僚の1人は
リビングストン上空の機内から
観測装置を見下ろしている
隣席の乗客にこう話しかけられたのです
「私が思うに きっとこれは
政府の秘密のタイムマシンよ」
私の同僚は それに
何と答えていいか分からず
「じゃあ なぜ L字形なんでしょう?」
みたいなことを言うと
彼女は「あぁ それは また
戻ってこなくちゃいけないからよ」
(笑)
タイムトラベルは
確かにSFの話ですが
私たちは重力波発見を
心から期待しています
数年で科学的事実となるでしょう
それは大変なことです
私たちが測定しようとしている
本当に微細な変化は
宇宙空間での現象ではなく
地上で起きる
あらゆる日常の現象に影響され
埋没してしまう可能性があります
それで何をすべきかというと
鏡を―
マテリアルテクノロジーの
限界に挑戦するような
非常に複雑な懸架装置の上に設置します
レーザー光線の光路にある
空気の流れさえ
シグナルを擾乱するので
地上で最も高度な超真空システム中で
レーザーを往復させなくてはなりません
私たちが呼吸している大気圧の
1兆分の1ほどです
これら全ての装置を作るのに
数億ドルかかるので
重力波が少しは
検知されて欲しいところです
それには多くの科学者の協力が必要です
私たちはグラスゴー大学で
LIGO科学コラボレーションの
世界中からの900人を超える
科学者やエンジニアと共に
重力波を探し求めています
まだ検知されてはいません
干渉計が世界に複数あるのは
割引価格があるからではありません
2基のLIGO干渉計が
重力波を同時に検知したなら
確かに何かが検出されたと
確信できるからです
それがVirgoやGEOでも検知されれば
さらに確信度は高まります
高性能検出器の世界的ネットワークが
もう直ぐ出来上がります
現在のLIGO干渉計は
感度が十分ではありません
もっと重い鏡を取り付け
改良された鏡懸架装置を設置し
さらに強力なレーザーを使う計画です
これは2016年までに終わる予定です
性能の高い重力波干渉計のネットワークができ
重力波を探し出すことになるでしょう
では 見つかるまで
どれ程かかるでしょうか
はっきりは分かりませんが
言えることは
数ヶ月もかからないだろう
と思っています
去年のカンファレンスでは
ポーランドの私たちの研究チームは
見つけられる日を
割り出そうとして
ちょっと冗談で
2017年の元旦だと予測しました
その日は大学で
仕事をしている人はまずいない
と付け加えてね
(笑)
しかしながら 重力波の検出は間近です
私たちは宇宙のこの新しい窓を
開けようとしています
今や 天文学者にとって
大きなときめきを感じる時代です
ありがとうございました
(拍手)