WEBVTT 00:00:20.846 --> 00:00:25.014 ここは 秋の終わりの 広葉樹の森 00:00:25.938 --> 00:00:29.394 落葉した木々の間から 木漏れ日が差し込み 00:00:30.655 --> 00:00:34.623 たくさんの野鳥たちが さえずっています 00:00:35.608 --> 00:00:41.152 私は そんな森に分け入り 獲物の痕跡を探します 00:00:41.983 --> 00:00:45.332 獣道に残された 足跡 00:00:46.793 --> 00:00:50.517 「これはイノシシが 昨日の晩 通ってるな」 00:00:51.533 --> 00:00:55.728 「鹿は3、4頭の群れがおって 子連れやな」 00:00:56.744 --> 00:01:00.679 木の幹に付いた傷や泥 00:01:01.756 --> 00:01:06.153 「このイノシシは 体重50kg ぐらいで雄やな」 00:01:06.677 --> 00:01:09.683 「鹿の群れは昨日 来てへんけど 00:01:09.683 --> 00:01:12.212 3日にいっぺんぐらいは来てる」 00:01:13.165 --> 00:01:16.726 罠猟師は残された痕跡から 00:01:16.726 --> 00:01:19.895 そこにいない動物の行動を 00:01:19.895 --> 00:01:23.064 手に取るように把握します 00:01:23.064 --> 00:01:26.233 私は街でも猟師です 00:01:26.233 --> 00:01:29.790 例えば 3月の引っ越しシーズン 00:01:29.790 --> 00:01:33.803 まだまだ使える家具や電化製品 00:01:33.803 --> 00:01:37.351 そんな大型ゴミがたくさん出ます 00:01:37.905 --> 00:01:42.650 「来週の大型ゴミは火曜日・・・」 (笑) 00:01:44.435 --> 00:01:46.842 取り壊し中の家を見つけると 00:01:46.842 --> 00:01:50.256 「大将 その廃材 ちょっともらえへんかな?」 00:01:50.256 --> 00:01:52.564 「ええで ええで いくらでも持っていきや 00:01:52.564 --> 00:01:55.184 こんなん どうせ ほかす(捨てる)もんやしな」 00:01:55.815 --> 00:01:59.194 ただで必要なものを手に入れる 00:01:59.194 --> 00:02:03.399 そういう点では山でも街でも 00:02:03.399 --> 00:02:06.276 私は同じような感覚です 00:02:06.276 --> 00:02:08.526 こんなことを言うと 00:02:08.526 --> 00:02:11.941 野生動物をゴミ扱い しているように聞こえますか? 00:02:11.941 --> 00:02:16.656 でも 野生動物を ゴミのように扱っているのは 00:02:16.656 --> 00:02:19.525 実は この現代社会です 00:02:21.618 --> 00:02:25.666 2009年に 狩猟によって 捕獲された鹿の数は 00:02:25.666 --> 00:02:28.832 156,700 頭 00:02:28.832 --> 00:02:33.550 それとほぼ同じ数の 154,800 頭の鹿が 00:02:33.550 --> 00:02:37.193 有害な動物だということで 殺されています 00:02:37.747 --> 00:02:39.928 それは皆さんが食べる お米や野菜を 00:02:39.928 --> 00:02:43.068 食い荒らす害獣だから という理由 00:02:43.068 --> 00:02:48.466 そして その鹿は ほとんどが 焼却 埋設処分されます 00:02:48.466 --> 00:02:50.518 つまり 00:02:50.518 --> 00:02:53.608 「野生動物も増えすぎて邪魔だ 00:02:53.608 --> 00:02:56.861 ゴミとして 燃やしてしまえ 00:02:56.861 --> 00:02:59.111 殺して土に埋めたらいい」 00:02:59.111 --> 00:03:01.340 というわけです 00:03:02.664 --> 00:03:06.748 罠に掛かった鹿の命を奪うとき 00:03:06.748 --> 00:03:10.087 私は鹿の首をナイフで 00:03:10.087 --> 00:03:13.456 頸動脈を切り取ります 00:03:13.456 --> 00:03:17.506 そこから血が流れ出て 約10分間の間に 00:03:17.506 --> 00:03:20.512 鹿は息絶えます 00:03:20.512 --> 00:03:22.942 ちょうど今日 私に与えられた時間 00:03:22.942 --> 00:03:25.642 このスピーチの時間くらいの間 00:03:25.642 --> 00:03:29.765 山の中で 私は鹿と二人っきりで 00:03:29.765 --> 00:03:33.265 静かな時間を過ごします 00:03:34.204 --> 00:03:40.003 鹿は死ぬ間際 息を荒げ 00:03:40.003 --> 00:03:45.184 痙攣し 足をつっぱり 目を見開きます 00:03:46.354 --> 00:03:48.939 「殺すことにもう慣れましたか?」 00:03:48.939 --> 00:03:51.279 よく聞かれます 00:03:52.079 --> 00:03:55.522 確かに命を奪う技術は 向上しました 00:03:55.522 --> 00:03:58.847 でも 慣れることはありません 00:03:59.632 --> 00:04:02.623 本当に殺す必要があるのか 00:04:02.623 --> 00:04:06.270 常に自分に問いかけています 00:04:06.886 --> 00:04:10.812 猟師がこんなことを言うのは おかしいかも知れませんが 00:04:10.812 --> 00:04:15.542 私はなるべくなら 鹿は殺したくありません 00:04:16.527 --> 00:04:20.005 自分や家族 友人たちが 00:04:20.005 --> 00:04:23.026 生きていくため 食べるための 00:04:23.026 --> 00:04:27.187 その為だけに私は猟をしています 00:04:29.018 --> 00:04:32.686 猟を始める1年前 00:04:32.686 --> 00:04:36.412 私は東ティモールにいました 00:04:36.412 --> 00:04:41.550 そこでは 現地の独立を決める 00:04:41.550 --> 00:04:45.135 住民投票が 国連により準備されており 00:04:45.135 --> 00:04:49.197 私は国際投票監視員として 関わっていました 00:04:50.521 --> 00:04:54.134 投票後 東ティモールの 独立に反対する 00:04:54.134 --> 00:04:57.853 インドネシア軍や民兵組織によって 00:04:57.853 --> 00:05:02.156 多くの家が放火され 銃声が響き 00:05:02.156 --> 00:05:05.431 たくさんの人々が殺されました 00:05:05.431 --> 00:05:09.843 私も国外に脱出し 東ティモールに戻れたのは 00:05:09.843 --> 00:05:14.233 独立が決まって 半年も経った後のことでした 00:05:14.941 --> 00:05:19.643 再び東ティモールに戻った私は ショックを受けました 00:05:20.859 --> 00:05:26.929 現地の人々がまだ 住む家もないというのに 00:05:26.929 --> 00:05:32.209 国連やNGOが焼け残った建物を 利用しています 00:05:32.840 --> 00:05:36.930 金儲け目的の外国人も 多数入国しており 00:05:36.930 --> 00:05:41.430 東ティモール人のための 食堂や市場が出来る前に 00:05:41.430 --> 00:05:45.182 外国人向けのバーやカフェが 00:05:45.182 --> 00:05:48.430 そしてそこで働く 東ティモール人の給料は 00:05:48.430 --> 00:05:51.180 一日たったの1ドル 00:05:51.180 --> 00:05:53.933 呆然としました 00:05:53.933 --> 00:05:59.157 これが新たに 独立を決めた国の姿か 00:05:59.157 --> 00:06:02.733 そして そこでは私も 00:06:02.733 --> 00:06:05.755 その他大勢の外国人の一人でした 00:06:06.924 --> 00:06:10.210 すぐに帰国を決意しました 00:06:10.210 --> 00:06:13.256 ここはもう 私の居るべき場所ではない 00:06:14.180 --> 00:06:18.986 その一方で東ティモールの人々は 独立を勝ち取り 00:06:18.986 --> 00:06:22.929 喜び 新たな国作りを 始めていました 00:06:22.929 --> 00:06:25.345 それを見て思いました 00:06:25.345 --> 00:06:29.632 私も自分にとって 責任のある場所に戻り 00:06:29.632 --> 00:06:33.726 自分自身の側の問題に 取り組もう 00:06:34.619 --> 00:06:39.268 帰国してまずは自分自身の生き方を 見つめなおそうと思いました 00:06:40.345 --> 00:06:44.123 その中で自分の食べる肉を 自分で確保したい 00:06:44.123 --> 00:06:46.881 そういう思いが生まれました 00:06:46.881 --> 00:06:50.547 そして 狩猟を始めました 00:06:50.547 --> 00:06:55.000 始めてびっくりしたのは すごく楽になったこと 00:06:56.231 --> 00:06:58.474 見知らぬ誰かに殺してもらって 00:06:58.474 --> 00:07:01.933 自分はただ パック詰めされた お肉を食べるだけ 00:07:01.933 --> 00:07:04.600 そういうのが嫌だったんですね 00:07:04.600 --> 00:07:07.875 そんな後ろめたさから 開放されました 00:07:08.721 --> 00:07:12.352 また 山には山菜やキノコ 00:07:12.352 --> 00:07:15.892 川魚などの豊富な食べ物に加えて 00:07:15.892 --> 00:07:21.494 杉や檜の間伐材が 利用されずに転がっていました 00:07:23.557 --> 00:07:28.283 私はそれを 薪として利用しました 00:07:28.283 --> 00:07:33.410 これで我が家の 暖房 ストーブ お風呂 00:07:33.410 --> 00:07:36.967 石油やガスに 頼る必要はなくなりました 00:07:37.721 --> 00:07:41.721 ここには自分自身の生活を 自ら作りあげていっている という 00:07:41.721 --> 00:07:45.521 喜びがありました 開放感がありました 00:07:45.521 --> 00:07:48.928 全てのことが 自分に責任がある代わりに 00:07:49.436 --> 00:07:53.629 間に他人が入らない シンプルで自由な暮らしです 00:07:54.584 --> 00:07:58.453 そして 私の生活は貨幣経済から 00:07:58.453 --> 00:08:01.922 緩やかな脱出を始めました 00:08:02.322 --> 00:08:06.193 一部の人々が便利さを 求めるあまり 00:08:06.193 --> 00:08:09.801 非効率で無駄が多いのが この現代社会 00:08:09.801 --> 00:08:12.422 その隙間を縫うように 00:08:12.422 --> 00:08:16.581 私の生活は出来上がっていきました 00:08:18.275 --> 00:08:20.854 便利さと引き換えに 00:08:20.854 --> 00:08:24.741 やりたくもない仕事を させられていませんか? 00:08:26.632 --> 00:08:29.569 近くの山に鹿がたくさんいるのに 00:08:29.569 --> 00:08:32.758 レストランで出る鹿肉は外国産 00:08:33.188 --> 00:08:36.607 まだまだ使える 大型ゴミがたくさん出るのは 00:08:36.607 --> 00:08:40.390 新しい商品を常に 売らないといけない企業の理屈 00:08:40.775 --> 00:08:43.582 エコ? CO2 削減? 00:08:44.044 --> 00:08:47.897 いつから商品の 宣伝文句になったんでしょうか? 00:08:48.928 --> 00:08:51.833 修理するより買ったほうが安い 00:08:51.833 --> 00:08:54.403 採算が合わない 00:08:54.403 --> 00:08:58.288 そういって無駄になっているものが あまりにも多い 00:09:00.365 --> 00:09:04.473 私にとっての狩猟採集生活は 00:09:04.473 --> 00:09:08.666 今の経済優先の社会が 放棄している 00:09:08.666 --> 00:09:11.668 様々な資源 00:09:11.668 --> 00:09:15.364 そして 見捨ててきた 技術や価値観 00:09:15.364 --> 00:09:20.183 そういったものを取り戻す という意味を持ち始めています 00:09:20.183 --> 00:09:24.520 「社会を変えよう」 声高に叫ぶのではなく 00:09:24.520 --> 00:09:27.685 自らの生活として 実践していくことが 00:09:27.685 --> 00:09:31.746 最終的に 力を持つと信じています 00:09:32.793 --> 00:09:35.854 東ティモールの友人が獲った肉と 00:09:35.854 --> 00:09:39.460 私が獲った肉に 価値の違いはありません 00:09:40.384 --> 00:09:45.923 いつか 笑顔で 食べ比べしてみたいな 00:09:46.293 --> 00:09:48.358 そう思います 00:09:48.358 --> 00:09:52.940 ありがとうございました (拍手)