皆さんにお話したいのは コストが最優先の世界で いかに医療を提供するかという問題です どうしたらいいでしょう? 私が提案したいと思っている 基本的な考え方は 病気を治療するためには まず何を治療しているのか 知らなくてはならない つまり 診断してから治療を行う ということです 私達はこの活動を 「全ての人のための臨床検査」または 「ゼロコストの臨床検査」と呼んでいます 医学的に適切な情報を どうやったら 限りなくゼロに近いコストで 提供できるでしょうか? どうします? 例を二つ挙げましょう 軍事医学の困難さは 第三世界のそれと さほど違いがありません 資源の少なさ 困難な環境 その他諸々 軽量化の問題などもです それは在宅医療や 診断システムと さほど変わりません 従って 私がお話したいことは 第三世界 開発途上国のためのものですが 幅広く応用が利くと思います なぜなら 医療制度では 情報は非常に重要だからです ここに例が二つあります 一つは アフリカでは最高レベルの 検査施設です(右下) もう一つは 要するに商売人で 市場にテーブルを設置して よくわからないことをしています そこでの医療状況は 分かりませんが 最も効率的なものでないのは 確かです 私達のアプローチは どんなでしょう? コストを下げるという 問題に対する 私たちの典型的な手法は アメリカ合衆国の視点から出発し 私たちの解決法を使い それでコストを下げよう というものです どうやっても 10万ドルの機械から始めて ゼロコストにはなりません そう上手くはいきません だから我々は全く逆の方法を 取りました 最も安価な診断機械を作り 有益な情報を取り出す そして機能を加えていくことです 何かというと 答えは紙でした これは試作品です 一辺が1cmくらいです 爪くらいの大きさです ふちの線は ポリマーです 紙で出来ていますから 液体を吸い上げます 紙 布などがそうです テーブルクロスに ワインをこぼすと ワインが全体に 広がりますよね シャツにこぼせば 台無しになってしまう 親水性の表面ではそうなります つまりこの装置の場合 一番下のところに 一滴尿をたらします 液体は 上の方にある区画まで 染みていきます 尿中ブドウ糖の量を茶色で示し タンパク質の量を青色で示します この2つの組み合わせが あなたが検査したい物の 第一弾となります これが 普通の紙でできた 装置の例です どれくらい簡単に これを作れるでしょうか? なぜ紙を選んだのか? 実際に指先に 乗せてみた例があるので どんな感じかわかりますね 紙を使う理由の一つは どこにでもあるからです これらの装置を ナプキンや トイレットペーパー、包み紙 いろんなもので作りました ほぼ 何でも利用できます 二つ目は 非常にたくさんの検査項目を 小さくまとめられる点です のちほど皆さんに 一束の紙で 10万くらいの検査項目を 分析できることを お見せします 三つ目は 世界的に医学ではあまり 考えないことですが 鋭利な部品を含まないことです 鋭利なものとは 針とかそういうものです 採取した誰かの血液が C型肝炎ウィルスを 持っているかも知れない場合 間違ってその針を自分に 刺したくはないですよね それに廃棄の問題もあります 紙なら単に燃やせばいい 取っかかりとしては 実践的なアプローチです でも 紙が丁度いいなら 誰がかが すでに 思いついたはずですよね 答えは「もちろん その通り」です ここにいる大体半分は 女性ですが 妊娠テストを 受けた人もいるでしょう その場合 普通の検査器具は 左側に示してあるようなものです 「側方流動免疫測定法」 と呼ばれるものです このテストの場合は 「ヒト絨毛性ゴナドトロピン」 というホルモンが 尿中にあるかどうかを 試験紙で調べます 線が2本あり 1本目が テストが機能しているかを示し 2本目が現れれば 妊娠しているわけです 二者択一の場合は これは素晴らしい検査です 妊娠の場合ありがたい事に 「イエス」か「ノー」しかありません 「部分的妊娠」とか 「妊娠を考え中」とか そういうことはありません そういう場合は 非常にうまく行きます しかしもっと定量的な結果が 必要な場合はうまくいきません ディップスティックもあります このディップスティックは 別の尿検査のためのものです いろんな色がありますね 複雑な検査は どうしたらいいでしょう? 私達は こう自らに 問いかけました 「こういうモノを作るのは実用的か?」 これは純粋に技術的に 解決されました その手順は 単に紙から始めるだけです 新しいタイプの 「ワックスプリンター」でやるのです ワックスプリンターは まあプリンターのようなことをします プリントするんです ワックスを装着し 温めると ワックスがプリントされ 紙に染み込みます そして思い通りの試験紙が 出来上がります プリンターは800ドルくらい 予想では 24時間稼働すれば 年間1000万の検査ができます つまりこの問題は これで解決です だいたい ご覧になっている ようなものができます 20 X 30センチの紙に プリントされます 1枚が約2秒くらいでできます 完成と言って良いでしょう ここに大事なポイントがあります これはプリンターなので カラープリンターなので 色が印刷できます それがとても役に立つのです 次に知りたいのは 何を測るのか? ですよね 何を分析するのか? 一番分析したいのは 測定の難しい 「原因不明熱」です 誰かが診療所にやってきて 熱があるし 調子が悪い  診断は? 結核か? エイズなのか? ただの風邪か? トリアージ(分別)の問題です 詳しくは説明しませんが 難問です 鑑別したいものが 非常にたくさんあります エイズ、肝炎、マラリアや 結核など 病気の診断や 治療効果判定の指標など 単純なものもあります しかしそれでも想像するより ずっと複雑です 私の友人が 比較文化精神医学の 仕事をしています 彼は 人々がなぜ 薬を飲まないのかという 問題に関心があります しばらく服用しなくてはならない 「ダプソン」とかいう薬について インドの村人との 素晴らしい会話の物語があります 「ダプソンは飲みましたか?」「はい」 「毎日飲んでいますか?」「はい」 「1ヶ月は飲みましたか?」「はい」 村人が言っているのは 実は 30日分のダプソンを 今朝まとめて 犬に飲ませたということです (笑) 彼はまじめです なぜなら ある文化では 犬はあなたの代理であり 「今日」「今月」「雨期からずっと」など 誤解の可能性は いくらでもあるからです (笑) 「医者の指示に従う」といった 些細な事も 時に 問題になるということです 典型的な検査がどうなるかを 見てみましょう 指先を刺して 採血します 大体50マイクロリットルくらい それくらいしか得られません 普通の装置は使えません 難しい作業は行えませんから あとからお見せしますが 採血したら それ以上いじりません そのまま この器具に垂らします 器具が血球をフィルタし 血清を通過させ 一番下に幾つかの色が現れます 色が 病気か正常かを示すのです それでもまだ複雑です 人によって「正常」の色の 判断基準が異なりますから 結局のところ我々は 教育されすぎで困っているのです 定量分析を必要とする場合は どうしたらいいのか? 我々や他の人々が考えた 解決方法 しかも現在急速に 広がりつつあるもので 今日のあらゆることの 解決になりつつあるのは 携帯電話です この場合は特に カメラ付き携帯です インドではどこでも手に入り 毎月600万台売れています どうするかというと まずは器具を使って 検査します  色が出ますね 写真を撮り 検査センターに送ります 医者を派遣する必要はありません 採血のできる人を 派遣すればいいわけです 診療所では医者か この場合は理想的には コンピュータが 分析するわけです 特に色見本が印刷してある場合は 結果の評価方法がわかるので 非常に上手く行くことが 分かりました だから私は 将来のヘルスケアワーカーは 医師ではなく バックパック一杯の 検査キットおよび たまに採血するための 採血針と 機関銃をもった 18歳くらいの少年か 無職の人です それで仕事をこなして いくわけです (笑) もう一つ面白い つながりがあります 我々がやりたいのは 有用な情報を とても品質の悪い 電話システムを使って 送ることです この問題に関しては すでに非常に多くの情報があります 「マーズローバー問題」です 非常にわずかしか 通信帯域がないのに どうやって火星から正確な カラー映像を送れたのか? 答えはさほど 複雑ではありませんが 今日はその点を 追求することはしません ただ こういうことに使う 通信システムは 非常に良く開発されているのです そして ご存じないかも 知れませんが 携帯電話のもつ計算能力は あなたのパソコンと さほど変わりません 携帯電話の可能性は 活用され始めたばかりです OLPC(全ての子どもにPCを)計画が 意味を持つかわかりませんが コンピュータの未来は こちらにあるでしょう 画面もついていますし 誰でも持っています より進歩した器具を お見せします ちょっとした問題提起から 入りましょう これはまた別の 1センチサイズの器具です 色の部分はそれぞれ 異なる染料です そこでちょっと驚かれるかも 知れませんが 面白いのは 黄色い線が途中で消えて 青い線と 次に赤い線を 突き抜けていることです 一体どうやって 別の色を通り抜けているのか? 答えは「そんなことはしていない」です 上か下を通らせるんです ではどうやって一枚の紙の上で 上か下を通れるのでしょう? 答えはこうです 細かいことは省きますが もう少し手の込んだものを作ります 紙を何枚も重ねて それぞれの紙に 固有の溝を作っておいて それを両面テープで隔てます あの絨毯を固定する テープと同じです 液体は一つの層から 次の層へと流れます 穴を通って 広がっていきます 穴を通って 広がっていきます 右下の図は 一番上に垂らされた血液が 紙から紙へ広がって 底では16の穴に入ったところです 紙2枚分の厚さで コンピュータのチップのようにも見えます 特にこの場合 再現性にだけ注目しています しかし原理的には それが 「原因不明熱」問題を 解決するのです なぜなら このそれぞれのスポットが 特定の病気を発見できる マーカーの組み合わせと なるからです その時が来れば役に立ちます こちらはもう少し 複雑な器具です チップがあります 角を浸すと 液が中央まで染みて それがいくつかの 穴に届き 色が変わります 全部 紙と両面テープで 出来るんです これが 考え得る 最低コストの 製作方法だと思います さて このプレゼンの最後に 二つお話をしましょう 一つはこれです 血清と血球を 分離するときに使います 問題は 普通 サンプルを 遠心分離機に入れ 回転させ 血球を取り出します 見事です でも もし電気や 遠心分離機が なかったらどうしますか? どうしたらいいか しばらく考えました そして ご覧のものができたのです どこにでもある泡だて器です ワイアーを取り去って チューブをその上に接着します 血液を入れて グルグルやるんです 非常にうまく行きます 我々は泡立て器の物理学的考察 自動調心チューブやら いろいろ考えて 学術雑誌に投稿しました 非常に誇りに思っています 特に表題が「泡だて器を使った遠心分離」なので (笑) それを送ったんですが すぐに返送されてきました 編集者に電話して言いました 「いったいどういうことなんだ?」 編集者は 明らかに 軽蔑しながら言いました 「読んだよ でも掲載はしないよ 我々は科学的内容のものだけ 取り扱うんだ」 (笑) これは重要なことで 我々は 社会全体で ものの価値を 考えなくてはいけない 単にPhysical Review Letters誌だけの 問題ではないのかも? と ここで例をもう一つ こっちは分光光度計です サンプルの吸光度を測定します 1000ヘルツくらいで明滅する 光源が装着してあって もう一つ1000ヘルツの光の 検出器を用意します なので 日中の光の中でも使えます それが10万ドルクラスの 機械と同じ働きをします たった50ドルですが 5セントまで 下げられるかもしれません なぜ誰もやろうとしない  なぜか? 「この資本主義社会では それでは稼げないから」です 興味深い問題です おわりの言葉です 我々はこれを 工学的問題として考えました そして問いました 「ここでの科学的解決法はなにか?」 そして 問題をコストでなく 単純さの観点から 考えてみることにしました 「単純さ」とは素敵な言葉ですが 意味するところは何でしょう その言葉を知っていますが 本当の意味は知らないのです そこで興味が出てきて 何人かの人を集めました 最近来たのはMITの連中で そのうちの一人は ものすごく頭が良くて 私が「本物の天才」と認める 数少ない一人でした 我々は一日かけて 「単純さ」について考えました 我々がたどり着いた 真に科学的な結論はこうです [単純さとは何か? 「ヘマしようのないものである」] (笑) ある意味 払っただけのものが 手に入るということです どうもありがとう (拍手)