昔 私は数学者になりたかったのですが うまく行きませんでした 私は奇妙な空間や 平面について勉強していて 「高反射空間」という用語は 殆どの方にとっては 何の意味も持たないでしょうが 私が覚えている例は 球体で その中を真っ直ぐ突っ切って 向こう側に辿り着く距離と 向こう側まで外側を辿った距離が 全く同じなのです (笑) これは明らかに不可能です 地球上ではこれは実現しません でも数学ではこうした事は可能です 素晴らしいのは 一旦それを考え始め 昼も夜も延々と 考え続けると— いずれその解が見つかることです 思考がこうした事を 可能にするのです そしてそうした事柄が 実現する空間が見えると それからは先は簡単です 現実世界にもそういうものが あるかも知れません せっかくですから それを見つけてみましょうか さて ユートピア的思想は これに少し似ています それが私が大いに気に入っている 理由かもしれません ユートピア的思想は 私たちに現状から離れて 想像力に挑む新規性を持ち 「もし何々が可能だったら?」 と想像させ それを試してみよう と探索を促します 私自身考えもしませんでしたが 何年も何年も後に 数学の試行錯誤をした30年後 ビジョナリー思考や ユートピア的ビジョン— 正にこうしたことを毎日 私は欧州委員会で扱っています 真新しいアイデアやラディカルな研究 あなたが椅子から転げ落ちるような 「驚きのファクター」 それが私の研究活動の 日々の糧となっています いや 私の研究というより 私の欧州委員会での仕事のです 自分でもこれについて 研究しましたが それはまた別の話です さて 欧州委員会で FET(未来技術)プログラムが出来て そこで働いて10〜12年になりますが クレイジーなアイデアの研究企画書が 平均して1日に2〜3件届きます 10年間で そんな応募を 数千件は見て来ました 数千のクレイジーなアイデアなんて 想像できます? 全てがクレイジーという訳ではなく 同じように革新的だったり 現実的でもありませんが 「ワオ!」と驚いてしまうような そんなアイデアたちです 個人の名前は出しませんが それらが印象に残るのは ある共通項です それぞれの提案企画書から 立ち上がって来る共通の構想です 5百年前 誰もが知っている 「ユートピア」が書かれました トマス・モアがこれを著した時代には テクノロジーはあまり 存在していませんでしたが この本を見て 今朝私が受け取ったものを 思い出しました 多分― やっぱり トマス・モアは私のプログラムへ 「ユートピア」を企画書として送って来ました 彼は研究資金を必要としています 我々は出資するでしょうか? どれ 見てみましょう いやいやこれは怪しいぞ 成果物も実施タイムラインも 書いていない 必要になる資源リストも 無いじゃないか (笑) 3カ国間の—共同研究かな? 3番目の協力国の名前が 「ユートピア?」 データベースには見当たらないので 多分存在しないんだろう これはインチキだ 本物なわけがない こんな事に出資するなんて馬鹿げてる もちろん これはシニカルな回答ですよ こんなシニカルなやり方が 実際私たちの仕事のやり方かなのも でももし質問が 「こういう事に資金を提供すべきか」或いは 「実際提供しているか?」だったら そうしたら私は必ず 「イエス」と答えるでしょう 私たちのプロジェクトで 頻繁に行われる こまごました技術的側面にこだわった イノベーションより もっとユートピア的思索に 注目すべきです こうしたビジョンをもっと 発掘するというのが 私と同僚たちが やっている仕事なんです これは非常に重要です こんにち 今まで以上に 私たちには社会の現状に 代わり得る可能性が必要です それが無ければ 私たちには ポピュリスト的選択をしがちで ほんの少しの選択肢しか 想像が許されず 若者たちに新たな方向を開拓するように 刺激を与えることもできません そういう訳でこれは非常に重要です もちろんモアが 「ユートピア」を書いたとき テクノロジー的なものは まだありませんでしたから 彼はその時代に存在したものを 用いて表現しました それらは法律や政府機関 社会的慣習などでした そうして彼はユートピアを そうした概念を用いて表現しました こんにち 我々の世界には 量産技術があり それが我々の社会を ほぼ形造っていますから この現実を完全に取り入れ モアが用いたツールを使いながらも 社会を形成する力としての テクノロジーを考慮に入れて 全く新しいユートピア的な社会の ビジョンを作らなければなりません 今までもそうなってきました まず この民主主義は印刷技術 無くしては機能していません 高速コミュニケーション技術や 移動手段 そうしたものも必要です そして技術が変化すると 社会も変化します 続いて政策が変化します 少なくとも今は 政策はいつも 状況に遅れを取り変化します 世界がどうなるだろうかと 予見する思考が欠けているからです ゆえに ユートピアについて考えることは 建設的でプロアクティブな手法であり 私たちにとって非常に大切なのです さて ユートピアとテクノロジーの 繋がりは何も新しいものではなく 数多くの例が存在します 私の関わっているプログラムでは ここに焦点を当てています これら技術に着想を得たユートピア的 ビジョンはディストピア的になりがちで ジョージ・オーウェルの描く 「ビッグ・ブラザー」はよく知られた例です トマス・モアも喜んで 彼のユートピア像にぴったりな 「ビッグ・ブラザー」的ビジョンを 取り入れたことでしょう しかしそのようなビジョンは 彼の時代にはありませんでした さてどういうことでしょう? 工業的機械の時代は もうはるか過去のもので 私たちは今 より洗練された機械の中に 住んでいてその最高の例は もちろん コンピューターです 私たちに送られて来る 多くのアイデアは 何通りかのバリエーションを持つ ある前提を共有しています これは非常に重要です テレコム・イタリアの新聞広告に 「世界をリセットするボタン」が ありますが これを見て思ったんです その広告の前提は 「世界はコンピューターみたいなものだ」と ボタンを押してパソコンのように リセットできるのだから 世界はコンピューターである という考えは様々に表現されています 世界がコンピュータかどうかはともかく 世界をコンピュータと想定してみてください コンピュータとしての世界を研究することも 刺激になることでしょう 更に洗練されているのが コンピューターの中の世界です 数多くのプロジェクトや 研究テーマの企画書が 送られてきますが 科学で研究されている全ての分野には コンピューターを利用する領域があり 計算生物学 計算経済、計算何々 「計算」のつくあらゆる学術分野です これらはコンピューターの持つ能力を 最大限利用するわけです しかし最も根源的には 世界はコンピューターだと定義することです 真の意味で機械ではなく コンピューターだということです その違いはコンピューターは プログラムできるということです つまりプログラム可能な 汎用機械ということです この考えによると世界は プログラム可能だという事になります この世界はプログラムできるのです ゆえに 私たちはどのように 未来を創造できるかを理解できます コンピューターであるこの世界が 算出するのは未来でしか無いのですから チクタクと— 世界は未来を算出しています それをプログラムできれば 未来が向かう方向を左右できます これが私たちのプログラムの 根底に流れるビジョンです 部分的な成果はしばしば明示されますが 全体像が明確に表現されることは稀です しかしそれを把握することは重要です それから NBIC(ナノ、バイオ、情報 認知科学技術)の集約です アメリカで15年以上前に 生まれたテーマですが 未だにシリコンバレーの多くが このようなアイデアに奮闘しています 物事の基礎を構成する 最も原始的なアイデアの種類で ニューロンや材料、思考、などなど 正しく発展させれば他のものに 互換できるようなものです 例えば ヒトのニューロンを コンピューターチップに置き換え それが全く同じ機能を備えていれば 違いは分かりません ビット、原子、ニューロン 遺伝子の互換性は その頭文字をとりBANGと呼ばれ その基礎となる考えです 多くのプロジェクトが この実現を試みています それは多くの人々が 医療目的で目指している 人体の修復に限らず 人間の増補 つまり人の能力を 増強・補完させるという目的も含まれます これはそんなプロジェクトの一例ですが 義肢に感覚機能を持たせ 双方向リンクで繋げた 世界で初の例です これよりももっとクレイジーな 最近の例はこうしたものです ハイパー・インタラクション、繋がった脳 脳の書き込みと読み出し 私たちが最近目にするプロジェクトの多くは 脳から情報を取り出すことを 考え始めていて それは技術的にも 容易になりつつありますが その情報の解釈は難しいままで 情報を脳に書き込む というのも難しいままです そうしたものの背後にあるビジョンは 例えばセンサーやワイヤーも無く 直接脳同士が会話するようなもの 言葉など何も必要とせず ケーブルを使うか 無線かもしれませんが 私の思考が直接 あなたの頭に伝わるのです そうすれば 私はここに立って喋る必要が無く 皆さんは私が言いたいことがもう分かっています 何故なら—シュッ—私たちの脳同士が コミュニケートするからです このプロジェクトでは 確固とした成果が生まれ 権威ある学術誌に掲載されました こうした研究成果では 科学、技術、概念実証の共進化が起こります 非常に単純な方法での実証によって 非常に一般的な意味で 実現可能なのだと証明するのです それが我々のプロジェクト幾つかの 野心的なビジョンです 人工生命 プロジェクト BIONは終了しましたが 人工カタツムリを造ろうとしました 「カタツムリのようなもの」 ではなくて ポリマーなどから成り立ち カタツムリのように動き 生きている存在です カタツムリが作れれば おそらく他のものも作れるでしょう そしてその先が続きます 人工生命という考えでは 比較的最近 確固とした結果が出ました 小細胞などにおいて新たな技術が 出てきましたが それらを複雑なデバイスや 複雑な生物系で扱うのは かなり最近の最新技術です それから発展させたものに こうしたラベルを与えてみました 「ハイブリッド・ネイチャー」、「Gaia++」 それに 植物から着想を得たもの これらは植物のように 振る舞うロボットです 誰が植物がロボットになると 考えたりするでしょう? でもこれらは実際に稼働していて 進む方向や水を見つけたりします そして実は 植物に着想を得て アイデアを発展させた― プロジェクトが数多く それもバラバラに存在していました 突如我々のプロジェクトとして 植物生物学が浮かび上がりました かつて見たこともないものです このように 世界では色々なことが起こり ある日突然こうしたビジョンが 結晶化し実現します それから私が 「偶然の事故」と呼ぶものですが ビジョンが消えたり融合したり あらゆることが起きます 詳細まで解説しませんが 想像できますよね 例えばコンピューターが 目に見えなくなっていくというビジョンは 20年以上昔に生まれ 色々なかたちに派生して行きました 今はモノのインターネット(IoT) と呼ばれるものへ進化し ヒネリや改良が加わり 統合され、分解され— 進化しています これ自体に大いに価値がある 大変興味深い事です こうしたビジョンを起想し、言語化し 分類し、表現する言葉を創造する— これらは大切なことです そうしなければビジョンについて ただ語ろうにも それらを表現する言葉もないからです モアも彼のビジョンを説明するために 英語に存在しない言葉の数々を 発明しなければなりませんでしたから これは挑戦的な革新性を持つ 非常に興味深い作品でした 学際的であること—こうしたビジョンに 単一の学問から生じたものはありません 学際的な協同研究の黄金時代の始まりは これからだと思うのです 学際領域で「収穫を待っている果実」は もうありません 小さなインスピレーションや 新たな生物学の結果がチラホラ しかしこれから本当に深いコラボレーションが 起ころうとしています これらのビジョンは動的で 変化し 応用されるものです そして 最も重要なのは 刷新的な意味を持つということだと思います これはヨーロッパの我々が学ぶべき事です グーグルのような企業を考えてみると 核となる技術があり それが至る所に応用されています 私は「刷新的イノベーション」 と呼びますが 思いつきがあちこちに応用されて ある日偶然車ができた訳ではなくて —「ええっグーグルが自動車だって?」 考えてみたら当然の成り行きです 何故興味を持つのか? 何故彼らがやるのか? 彼らはあらゆる研究に投資をしますが 核となるテクノロジーがあります 謂わば私自身のユートピアは これに着想を得ました 私や欧州委員会の同僚たちなどが 取り組んでいるように ユートピア的ビジョンを持って 研究を進めるというのが 私自身のユートピアです 何故ならこうしたことを通じて パズルのピースを繋げることで 数百あるいは数千のアイデアが生まれ 可能性をこんにちの為に 結晶化できるからです そして 今はか細い パイプラインでしかないイノベーション― 例えば製品化へ繋がるような 研究成果が少しだけ生み出される仕組みを もっと幅広い こんにち既に 未来の社会を形作りつつある こうしたビジョンで代替することが できるのです こうしたビジョンで代替することが できるのです これらがまさに 未来を創造するツールです それは私自身の夢でもあり それで私は今の仕事を 続けているのです ありがとうございました この辺りで終わります そろそろ トマス・モアに返事をして 彼の考えを聞かないといけないので (拍手)