WEBVTT 00:00:00.645 --> 00:00:03.196 野生動物の群れや 魚の集団 00:00:03.196 --> 00:00:04.825 鳥の編隊 00:00:04.825 --> 00:00:06.893 様々な動物が集団で行動し 00:00:06.893 --> 00:00:08.879 それは大自然に見られる 00:00:08.879 --> 00:00:10.597 最も見事な光景と 言えるでしょう 00:00:10.597 --> 00:00:13.321 でも なぜ集団となるのでしょう 00:00:13.321 --> 00:00:14.958 よくある答えは 00:00:14.958 --> 00:00:17.924 敵から身を守るためとか 協力して獲物を捕らえるためとか 00:00:17.924 --> 00:00:20.420 生殖や繁殖のため というものです 00:00:20.420 --> 00:00:22.088 これらの理論は 00:00:22.088 --> 00:00:23.325 大方正しいのですが 00:00:23.325 --> 00:00:26.368 動物の行動について 大きな仮定をしています 00:00:26.368 --> 00:00:29.545 動物の行動や体のあり方を コントロールしているのは 00:00:29.545 --> 00:00:31.796 その動物自身だという 仮定です 00:00:31.796 --> 00:00:35.223 実はそうでないことも 多いのです NOTE Paragraph 00:00:35.223 --> 00:00:38.147 これはアルテミア(ブラインシュリンプ)です 00:00:38.147 --> 00:00:40.911 「シーモンキー」の商品名の方が 馴染みがあるかもしれません 00:00:40.911 --> 00:00:42.906 小さく 通常 単独で生息していますが 00:00:42.906 --> 00:00:45.983 時には この様に 大きな赤い集団を形成し 00:00:45.983 --> 00:00:48.230 何メートルにも 広がることがあります 00:00:48.230 --> 00:00:51.320 これは寄生虫が原因です 00:00:51.320 --> 00:00:54.006 これらのエビの親戚は 条虫に寄生されているのです 00:00:54.006 --> 00:00:56.257 条虫は長い腸に性器と 00:00:56.257 --> 00:00:59.145 反対側に口が付いたような生物です 00:00:59.145 --> 00:01:01.680 フリーランスのジャーナリストの1人としては 同情を禁じ得ません(笑) 00:01:01.680 --> 00:01:03.835 フリーランスのジャーナリストの1人としては 同情を禁じ得ません(笑) 00:01:03.835 --> 00:01:06.743 条虫は アルテミアの体から 栄養分を盗みますが 00:01:06.743 --> 00:01:08.820 それだけではありません 00:01:08.820 --> 00:01:10.440 アルテミアを生殖不能にし 00:01:10.440 --> 00:01:15.158 透明な体を真っ赤に変えます 00:01:15.158 --> 00:01:16.674 寿命も延ばし そして— 00:01:16.674 --> 00:01:19.031 生物学者ニコラス・ロードの 発見した通り 00:01:19.031 --> 00:01:22.390 集団行動をするように 仕向けるのです 00:01:22.390 --> 00:01:25.842 なぜそうするか? 理由は 他の多くの寄生虫と同様 00:01:25.842 --> 00:01:27.423 条虫のライフサイクルが複雑で 00:01:27.423 --> 00:01:29.687 様々な宿主を経るためです 00:01:29.687 --> 00:01:32.091 アルテミアはその過程の 一段階に過ぎず 00:01:32.091 --> 00:01:34.703 条虫が最終的に 目指すのはここ 00:01:34.703 --> 00:01:36.650 オオフラミンゴです 00:01:36.650 --> 00:01:39.675 条虫はフラミンゴの体内でのみ 繁殖できるので 00:01:39.675 --> 00:01:42.964 そこにたどり着くため 宿主のアルテミアを操って 00:01:42.964 --> 00:01:46.055 鮮やかな色の 集団を作らせ 00:01:46.055 --> 00:01:48.772 フラミンゴに見つかりやすく 00:01:48.772 --> 00:01:50.331 食われやすくするわけです 00:01:50.331 --> 00:01:53.263 これが アルテミアが群れになる秘密です 00:01:53.263 --> 00:01:55.426 自らの意志で 社交的になっているのではなく 00:01:55.426 --> 00:01:57.502 そうするよう 操られているのです 00:01:57.502 --> 00:01:59.196 天敵から身を守るためではなく 00:01:59.196 --> 00:02:01.055 むしろ その逆です 00:02:01.055 --> 00:02:04.096 条虫に頭と体を乗っ取られ 00:02:04.096 --> 00:02:05.492 フラミンゴへたどり着くための 00:02:05.492 --> 00:02:09.459 乗り物になり果てているのです NOTE Paragraph 00:02:09.459 --> 00:02:10.889 こちらにもう1つ 00:02:10.889 --> 00:02:13.415 寄生虫によるコントロールの例が あります 00:02:13.415 --> 00:02:16.391 これは 自殺するコオロギです 00:02:16.391 --> 00:02:19.695 このコオロギはハリガネムシの幼虫を 00:02:19.695 --> 00:02:21.588 食べてしまいました 00:02:21.588 --> 00:02:23.744 この寄生虫は体内で成虫になりますが 00:02:23.744 --> 00:02:26.782 交尾・産卵するには 水中に戻らなくてはなりません 00:02:26.782 --> 00:02:29.000 そのためコオロギの頭を 混乱させる 00:02:29.000 --> 00:02:31.188 タンパク質を出して 00:02:31.188 --> 00:02:33.352 奇妙な行動を起こさせるのです 00:02:33.352 --> 00:02:35.307 コオロギが水の近く 00:02:35.307 --> 00:02:36.926 このようなプールなどに近づくと 00:02:36.926 --> 00:02:39.183 自ら飛び込んで溺れます 00:02:39.183 --> 00:02:40.908 するとハリガネムシが 00:02:40.908 --> 00:02:44.764 ニョロニョロと その死骸から出てくるわけです 00:02:44.764 --> 00:02:48.367 コオロギの中は結構 広々としているんですね NOTE Paragraph 00:02:48.367 --> 00:02:51.582 しかし条虫やハリガネムシ だけではありません 00:02:51.582 --> 00:02:53.302 その他にも 00:02:53.302 --> 00:02:55.379 マインド・コントロールを行なう 寄生生物は 00:02:55.379 --> 00:02:59.328 菌類、ウイルス、昆虫など たくさんいます 00:02:59.328 --> 00:03:01.901 これらの寄生生物は 巧みに 00:03:01.901 --> 00:03:04.110 宿主の意思を支配してしまいます 00:03:04.110 --> 00:03:05.847 このような生物との出会いは 00:03:05.847 --> 00:03:08.340 20年前 デイビッド・アッテンボローの 『生命の試練』を見た時で 00:03:08.340 --> 00:03:10.062 20年前 デイビッド・アッテンボローの 『生命の試練』を見た時で 00:03:10.062 --> 00:03:11.764 友人のカール・ジンマーの本 00:03:11.764 --> 00:03:14.438 『パラサイト・レックス』で さらに深く知りました 00:03:14.438 --> 00:03:16.581 以来 このような生物について 執筆してきました 00:03:16.581 --> 00:03:19.392 これほどワクワクする生物学の話は ありません 00:03:19.392 --> 00:03:23.098 私の脳も 寄生虫に 取り付かれてしまったのかもしれません 00:03:23.098 --> 00:03:25.709 寄生虫には抗しがたいものがあり 00:03:25.709 --> 00:03:26.997 素晴らしく気味悪い存在です 00:03:26.997 --> 00:03:28.389 寄生虫の解説は 00:03:28.389 --> 00:03:30.473 刺激的な言葉にあふれています 00:03:30.473 --> 00:03:33.519 「宿主を生きたまま食い尽くし」 「体をぶち破って出てくる」 00:03:33.519 --> 00:03:34.756 (笑) NOTE Paragraph 00:03:34.756 --> 00:03:36.296 でも それだけではありません 00:03:36.296 --> 00:03:38.398 作家なら皆そうだと思いますが 00:03:38.398 --> 00:03:41.107 私も面白い話が好きなんです 00:03:41.107 --> 00:03:43.500 寄生虫は 簡単に予想できるような話は 00:03:43.500 --> 00:03:45.350 書かせてくれません 00:03:45.350 --> 00:03:47.660 彼らの世界では 読者をあっと言わせる 00:03:47.660 --> 00:03:51.267 想定外のことが起こります 00:03:51.267 --> 00:03:52.763 例えば 00:03:52.763 --> 00:03:54.941 この芋虫は 00:03:54.941 --> 00:03:56.915 他の虫が近づくと 激しくのた打ち回り 00:03:56.915 --> 00:03:58.583 他の虫が近づくと 激しくのた打ち回り 00:03:58.583 --> 00:04:00.840 白い繭を守っているように 見えますが 00:04:00.840 --> 00:04:02.278 なぜでしょうか? 00:04:02.278 --> 00:04:05.374 兄弟たちを守っているのでしょうか? 00:04:05.374 --> 00:04:06.823 違います 00:04:06.823 --> 00:04:08.280 実はこの芋虫は 00:04:08.280 --> 00:04:11.499 寄生蜂に襲われ 卵を産み付けられているのです 00:04:11.499 --> 00:04:12.933 生まれた寄生蜂の幼虫は 00:04:12.933 --> 00:04:14.247 芋虫を生きたまま食い尽くし 00:04:14.247 --> 00:04:15.918 体をぶち破って出て来ます 00:04:15.918 --> 00:04:18.193 お話しした通りですね? 00:04:18.193 --> 00:04:21.031 実は芋虫は死んでいません 00:04:21.031 --> 00:04:23.616 寄生蜂の幼虫の数匹は体内に残り 00:04:23.616 --> 00:04:26.953 芋虫を中から操って 00:04:26.953 --> 00:04:28.587 羽化する兄弟を守って 00:04:28.587 --> 00:04:30.607 さなぎの中で無事成長させます 00:04:30.607 --> 00:04:34.146 このヘッドバンギングしてる ボディーガード役のゾンビ芋虫は 00:04:34.146 --> 00:04:35.447 自分を殺した敵の子供を 00:04:35.447 --> 00:04:37.669 守っているわけです NOTE Paragraph 00:04:37.669 --> 00:04:41.535 (拍手) NOTE Paragraph 00:04:41.535 --> 00:04:45.830 先に進みます 持ち時間が13分しかないので(笑) NOTE Paragraph 00:04:45.830 --> 00:04:47.641 さて 皆さんの中には 気休めに 00:04:47.641 --> 00:04:49.859 こんなことは滅多にあることではないと 00:04:49.859 --> 00:04:52.119 自然界における珍しい現象だと 00:04:52.119 --> 00:04:54.050 信じようとしているかもしれません 00:04:54.050 --> 00:04:55.870 その考えもわかります 00:04:55.870 --> 00:04:58.248 寄生虫は小さいものと決まっており 00:04:58.248 --> 00:04:59.588 単に他の生物の体内に 00:04:59.588 --> 00:05:02.542 住んでいるだけの存在ですから 00:05:02.542 --> 00:05:04.313 普段 気にしないのも当然です 00:05:04.313 --> 00:05:06.898 だからと言って その重要性を忘れてはいけません 00:05:06.898 --> 00:05:09.103 数年前 ケヴィン・ラファティという人が 00:05:09.103 --> 00:05:12.472 研究者のグループを率いて カリフォルニアの河口3ヶ所を訪れ 00:05:12.472 --> 00:05:14.220 そこにいる あらゆる生き物の 00:05:14.220 --> 00:05:16.215 重さを量り 解剖する調査をしました 00:05:16.215 --> 00:05:17.443 それで分かったのは 00:05:17.443 --> 00:05:20.659 寄生虫は非常に豊富に 存在するということです 00:05:20.659 --> 00:05:22.703 特にたくさんいたのは 吸虫という 00:05:22.703 --> 00:05:25.353 宿主を生殖不能にする寄生虫です 00:05:25.353 --> 00:05:27.899 この悲惨な巻貝を見て下さい 00:05:27.899 --> 00:05:30.788 さてこの吸虫は小さく 顕微鏡で見るサイズなのですが 00:05:30.788 --> 00:05:32.587 そこに生息する吸虫の総重量は 00:05:32.587 --> 00:05:34.773 河口全体に住む魚と ほぼ同じ重量で 00:05:34.773 --> 00:05:38.480 鳥と比べると 3~9倍にもなったのです 00:05:38.480 --> 00:05:40.474 先ほどお見せしたハリガネムシ 00:05:40.474 --> 00:05:41.862 あのコオロギのやつ…覚えてますね? 00:05:41.862 --> 00:05:44.415 佐藤拓哉 という日本人の科学者が 00:05:44.415 --> 00:05:46.111 ある小川で観察したのですが 00:05:46.111 --> 00:05:48.082 寄生虫によって川に飛び込まされた 00:05:48.082 --> 00:05:49.381 コオロギやバッタが 00:05:49.381 --> 00:05:50.690 大量にいて 00:05:50.690 --> 00:05:54.994 そこに住むマスの食料の 6割を占めていたそうです 00:05:54.994 --> 00:05:57.928 宿主の支配は珍しいどころか 00:05:57.928 --> 00:06:00.048 身の回りの生態系において 00:06:00.048 --> 00:06:01.939 重要かつ ごく日常のことなのです 00:06:01.939 --> 00:06:03.460 最近では 科学者により 00:06:03.460 --> 00:06:05.942 このような寄生虫による操作が たくさん発見され 00:06:05.942 --> 00:06:08.379 さらに 面白いことに 次第にこれらの生物が 00:06:08.379 --> 00:06:12.437 宿主をコントロールする仕組みまで 分かってきました NOTE Paragraph 00:06:12.437 --> 00:06:14.961 これは 特に私の好きな例 00:06:14.961 --> 00:06:17.418 アンパレックス・コンプレッサです 00:06:17.418 --> 00:06:19.642 俗名 エメラルドゴキブリバチ 00:06:19.642 --> 00:06:21.936 良く知られたことですが 00:06:21.936 --> 00:06:23.579 エメラルドゴキブリバチは 00:06:23.579 --> 00:06:25.375 体内に受精卵を持つと 00:06:25.375 --> 00:06:27.841 ゴキブリを探すようになります 00:06:27.841 --> 00:06:29.041 そして ゴキブリを見つけると 00:06:29.041 --> 00:06:31.252 針で刺すんですが その針は— 00:06:31.252 --> 00:06:32.701 感覚器官でもあるんです 00:06:32.701 --> 00:06:35.372 これは 3週間前に解明されたばかりです 00:06:35.372 --> 00:06:37.677 この針の表面には ポコポコとした 00:06:37.677 --> 00:06:39.471 小さなセンサーが付いていて 00:06:39.471 --> 00:06:42.026 これを使って ゴキブリの脳特有の 00:06:42.026 --> 00:06:44.133 感触を感じ取ります 00:06:44.133 --> 00:06:47.174 カバンの中身を 手探りで探す人のように 00:06:47.174 --> 00:06:49.651 針を使って脳を見つけると 00:06:49.651 --> 00:06:53.852 脳内にある 2ヶ所の神経節に 毒を注入します 00:06:53.852 --> 00:06:56.935 イスラエルの科学者 フレデリック・リバーサットとラム・ガルは 00:06:56.935 --> 00:07:00.660 この毒が特殊な化学兵器であることを 解明しました 00:07:00.660 --> 00:07:03.204 ゴキブリを殺したり 眠らせるわけではありません 00:07:03.204 --> 00:07:05.331 ゴキブリは歩くなり 飛ぶなり 00:07:05.331 --> 00:07:08.356 走るなりして 逃げようとすれば 逃げられるのですが 00:07:08.356 --> 00:07:10.231 そうしません 00:07:10.231 --> 00:07:13.611 なぜなら 毒が動きたい気持ちを 失わせてしまうからです 00:07:13.611 --> 00:07:14.725 たった それだけです 00:07:14.725 --> 00:07:18.431 蜂はゴキブリの頭から 「危険なら逃げろ」という 00:07:18.431 --> 00:07:20.271 チェックボックスをはずしてしまい 00:07:20.271 --> 00:07:23.504 まるで犬でも散歩させるかのように 00:07:23.504 --> 00:07:25.615 獲物の触角を引っ張って 00:07:25.615 --> 00:07:28.254 巣に連れ戻るのです 00:07:28.254 --> 00:07:29.931 そこで体に 卵を産み付け 00:07:29.931 --> 00:07:32.207 幼虫は生きた宿主を食べ尽くし 体をぶち破って... 00:07:32.207 --> 00:07:34.396 お決まりのパターンですね 00:07:34.396 --> 00:07:37.626 (笑)(拍手) NOTE Paragraph 00:07:37.626 --> 00:07:40.506 私はこう思うんです ゴキブリは刺されたら 00:07:40.506 --> 00:07:42.511 もう ゴキブリではなくなるんだと 00:07:42.511 --> 00:07:44.861 蜂の一部となってしまうのです 00:07:44.861 --> 00:07:47.704 コオロギがハリガネムシの 一部になったように 00:07:47.719 --> 00:07:50.519 宿主は 生き残ることも 繁殖することもありません 00:07:50.519 --> 00:07:52.318 自分で何をするか 決めるわけではなく 00:07:52.318 --> 00:07:54.102 車と同じようなものです 00:07:54.102 --> 00:07:55.602 寄生者に乗り込まれたら 00:07:55.602 --> 00:07:58.167 宿主に抵抗するすべはないのです NOTE Paragraph 00:07:58.167 --> 00:07:59.481 もちろん 人間だって 00:07:59.481 --> 00:08:01.513 操作されることはよくあります 00:08:01.513 --> 00:08:03.873 薬物で脳内の化学物質の バランスが変わると 00:08:03.873 --> 00:08:05.004 気分が変わります 00:08:05.004 --> 00:08:09.024 議論や 広告 ビッグアイデアというのも 00:08:09.024 --> 00:08:12.727 相手の考えを変えるために 使うわけでしょう? 00:08:12.727 --> 00:08:14.254 でも このような手法も 00:08:14.254 --> 00:08:16.032 寄生虫の研ぎ澄まされた— 00:08:16.032 --> 00:08:19.127 的確さに比べれば 雑なものです 00:08:19.127 --> 00:08:21.519 『マッドメン』の ドン・ドレーパーだって 00:08:21.519 --> 00:08:26.479 エメラルドゴキブリバチの 手際の良さには憧れることでしょう 00:08:26.479 --> 00:08:30.219 寄生虫が不気味で 00:08:30.219 --> 00:08:33.005 かつ興味をそそるのは そこなんです 00:08:33.005 --> 00:08:35.627 自由意志や 自由な考えというものを 00:08:35.627 --> 00:08:36.888 重要視する我々にとって 00:08:36.888 --> 00:08:38.469 それを 見えない力によって 00:08:38.469 --> 00:08:39.747 奪われてしまう可能性は 00:08:39.747 --> 00:08:42.915 私たちの深い社会的恐怖をそそります 00:08:42.915 --> 00:08:45.368 オーウェル的ディストピアや 秘密結社 00:08:45.368 --> 00:08:47.222 人の心を操る悪の親玉 00:08:47.222 --> 00:08:50.250 これらは人を怖がらせる 物語の中の存在ですが 00:08:50.250 --> 00:08:55.048 でも 自然界では そこら中に存在します NOTE Paragraph 00:08:55.048 --> 00:08:57.680 もちろんそう知ると 00:08:57.680 --> 00:08:59.980 こう考えざるを得ません 00:08:59.980 --> 00:09:01.703 気付かぬうちに 私たちの行動に 00:09:01.703 --> 00:09:03.659 影響を及ぼしている 不気味で邪悪な 00:09:03.659 --> 00:09:05.234 寄生者が いるのではないか— 00:09:05.234 --> 00:09:08.053 NSA以外にも? 00:09:08.053 --> 00:09:09.360 そんなものが -- 00:09:09.360 --> 00:09:13.326 (笑)(拍手) 00:09:13.326 --> 00:09:15.648 もしや狙撃手の照準が 私の額に当たってませんか? 00:09:15.648 --> 00:09:18.175 (笑) NOTE Paragraph 00:09:18.175 --> 00:09:21.129 そんなものがいるとしたら これが良い候補です 00:09:21.129 --> 00:09:24.407 トキソプラズマ 短く「トキソ」と呼びます 00:09:24.407 --> 00:09:25.996 怖いものは 00:09:25.996 --> 00:09:28.206 かわいい名前で呼ぶのが良いですね 00:09:28.206 --> 00:09:30.488 トキソは哺乳類に寄生します 00:09:30.488 --> 00:09:31.966 様々な哺乳類に宿るのですが 00:09:31.966 --> 00:09:35.047 生殖はネコの体内でのみ可能です 00:09:35.047 --> 00:09:37.808 ジョアン・ウェブスターなどの 研究者が発見したのは 00:09:37.808 --> 00:09:40.001 ネズミに入り込んだトキソは 00:09:40.001 --> 00:09:43.473 ネズミを 「ネコ追尾ミサイル」に 変えてしまうということです 00:09:43.473 --> 00:09:46.549 宿主のネズミは ネコの尿の匂いを嗅ぐと 00:09:46.549 --> 00:09:47.773 それに惹き付けられ 00:09:47.773 --> 00:09:50.493 匂いの元に向かって走るのです 00:09:50.493 --> 00:09:54.412 本来なら 反対方向に 逃げるべきところを 00:09:54.412 --> 00:09:56.947 ネコはネズミを食べ トキソはネコの体内で恋をします 00:09:56.947 --> 00:09:59.819 これが有名な『食べて、祈って、恋をして』 という物語です 00:09:59.819 --> 00:10:04.487 (笑)(拍手) NOTE Paragraph 00:10:07.512 --> 00:10:10.714 なんて優しい人たちなんだろう 00:10:10.714 --> 00:10:13.299 エリザベス(ギルバート) 素敵なお話をありがとう NOTE Paragraph 00:10:13.299 --> 00:10:16.667 でも 寄生虫はどうやって 宿主をこのように 00:10:16.667 --> 00:10:17.871 コントロールするのでしょう? 00:10:17.871 --> 00:10:19.197 まだよくわかっていません 00:10:19.197 --> 00:10:20.885 トキソが作る酵素は 00:10:20.885 --> 00:10:22.877 ドーパミンの元になります ドーパミンは 00:10:22.877 --> 00:10:24.690 やる気や報酬に関わる物質です 00:10:24.690 --> 00:10:27.121 この物質はネズミの脳の特定の部位 00:10:27.121 --> 00:10:29.586 性的興奮を感じる部分などを刺激します 00:10:29.586 --> 00:10:31.787 でも これらが どう組み合わさるかは 00:10:31.787 --> 00:10:33.631 今のところ 明らかになっていません 00:10:33.631 --> 00:10:35.927 明らかなのは この生物が 00:10:35.927 --> 00:10:37.319 単細胞であること 00:10:37.319 --> 00:10:38.689 神経系もなければ 00:10:38.689 --> 00:10:39.821 意識だってありません 00:10:39.821 --> 00:10:41.122 体すらないんです 00:10:41.122 --> 00:10:43.746 にもかかわらず 哺乳類を操れるんです 00:10:43.746 --> 00:10:45.172 私たちも哺乳類です 00:10:45.172 --> 00:10:47.606 ネズミよりはずっと賢いですが 00:10:47.606 --> 00:10:50.130 でも 脳の仕組みは 基本的に同じです 00:10:50.130 --> 00:10:51.523 同じような細胞で構成され 00:10:51.523 --> 00:10:53.111 同じ化学物質が働き 00:10:53.111 --> 00:10:55.430 同じ寄生虫を持っています 00:10:55.430 --> 00:10:57.778 推定値にバラツキがありますが あるデータによると 00:10:57.778 --> 00:11:00.138 世界の3人に1人は 脳にトキソが 00:11:00.138 --> 00:11:01.851 寄生しているといわれます 00:11:01.851 --> 00:11:05.339 通常 これが明らかな病気を 引き起こすわけではありません 00:11:05.339 --> 00:11:07.217 寄生虫は不活性な状態で 00:11:07.217 --> 00:11:09.400 長い間 潜んでいます 00:11:09.400 --> 00:11:11.439 でも こんな事も知られています 00:11:11.439 --> 00:11:14.473 トキソ感染者は ほんの僅かですが 00:11:14.473 --> 00:11:17.202 性格検査の結果に違いがあるとか 00:11:17.202 --> 00:11:19.686 交通事故に遭うリスクが 若干高いとか 00:11:19.686 --> 00:11:22.289 統合失調症の患者の中には 00:11:22.289 --> 00:11:24.835 感染者が多い可能性も示唆されています 00:11:24.835 --> 00:11:27.018 証拠はまだ決定的ではなく 00:11:27.018 --> 00:11:28.929 トキソの専門家の間でも 00:11:28.929 --> 00:11:31.369 この寄生虫が我々の行動に どう影響するかは 00:11:31.369 --> 00:11:33.754 意見の分かれるところですが 00:11:33.754 --> 00:11:36.413 他の生物を操るものが 00:11:36.413 --> 00:11:38.258 そこら中にいること考えると 00:11:38.258 --> 00:11:39.907 人間だけが 影響されないとは 00:11:39.907 --> 00:11:42.853 考えられません NOTE Paragraph 00:11:42.853 --> 00:11:47.246 我々の世界の見方を 00:11:47.246 --> 00:11:50.113 常に覆す能力を持つ 00:11:50.113 --> 00:11:51.660 寄生虫はすごいと思います 00:11:51.660 --> 00:11:54.869 寄生虫には自然界を 少し違う角度から見るよう教えられます 00:11:54.869 --> 00:11:57.040 生物の行動についても 00:11:57.040 --> 00:11:58.527 明確で単純なものから 00:11:58.527 --> 00:12:00.060 複雑で難しいものまで 00:12:00.060 --> 00:12:02.146 それが 生物自身の意志による 00:12:02.146 --> 00:12:03.999 行動の結果ではなく 00:12:03.999 --> 00:12:05.808 他の何者かによって 00:12:05.808 --> 00:12:08.478 操作されている可能性があるのではと 考えさせられます 00:12:08.478 --> 00:12:10.518 こう考えると 気味が悪いし 00:12:10.518 --> 00:12:13.441 寄生虫の習性こそ おぞましいものですが 00:12:13.441 --> 00:12:15.233 その我々を驚かせる能力は 00:12:15.233 --> 00:12:18.408 すばらしく ある意味 魅力的でさえあり 00:12:18.408 --> 00:12:21.772 パンダや蝶 イルカにもひけを取りません NOTE Paragraph 00:12:21.772 --> 00:12:23.991 『種の起源』の最後で 00:12:23.991 --> 00:12:26.980 チャールズ・ダーウィンが 生命の壮大さについて 00:12:26.980 --> 00:12:29.633 その多様さは 最も美しく 素晴らしいものだと述べています 00:12:29.633 --> 00:12:31.065 その多様さは 最も美しく 素晴らしいものだと述べています 00:12:31.065 --> 00:12:33.644 もしかしたら ダーウィンは 00:12:33.644 --> 00:12:36.824 エビを社交的にする条虫や 00:12:36.824 --> 00:12:40.073 ゴキブリを散歩させる蜂のことを 言ったのかもしれません NOTE Paragraph 00:12:40.073 --> 00:12:43.222 でも そう思わせるのは 寄生虫の仕業かもしれませんね NOTE Paragraph 00:12:43.222 --> 00:12:44.953 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:12:44.953 --> 00:12:48.953 (拍手)