WEBVTT 00:00:00.325 --> 00:00:02.388 博士課程の途中で 00:00:02.388 --> 00:00:05.850 私は行き詰まり どうしようもなくなりました 00:00:05.850 --> 00:00:07.630 どの方向で研究を試しても 00:00:07.630 --> 00:00:09.246 ことごとく行き詰まりました 00:00:09.246 --> 00:00:11.148 私の研究の基本前提が 00:00:11.148 --> 00:00:13.076 立ち行かなくなったようでした 00:00:13.076 --> 00:00:16.075 霧の中を飛ぶ パイロットになったような気分で 00:00:16.075 --> 00:00:18.870 どっちへ進めば良いか わからなくなりました 00:00:18.870 --> 00:00:20.351 ヒゲも剃らず 00:00:20.351 --> 00:00:23.092 朝 ベッドから 起き上がれなくなりました 00:00:23.092 --> 00:00:24.825 大学の門を くぐるのも 00:00:24.825 --> 00:00:27.978 私にはふさわしくないと感じました 00:00:27.978 --> 00:00:30.126 アインシュタインやニュートンなど 00:00:30.126 --> 00:00:32.279 科学者たちの研究成果を学び 自分は彼らと 00:00:32.279 --> 00:00:33.810 全然違うと思ったからです 00:00:33.810 --> 00:00:37.192 科学で学ぶのは結果だけ プロセスは学びませんからね 00:00:37.192 --> 00:00:41.893 ですので 私が科学者になるなんて あり得なかったのです NOTE Paragraph 00:00:41.893 --> 00:00:43.557 しかし私は十分な助けを得て 00:00:43.557 --> 00:00:44.954 何とかやり遂げ 00:00:44.954 --> 00:00:47.174 自然界について新発見をしました 00:00:47.174 --> 00:00:49.917 それは素晴らしい感覚で 世界でただ一人 00:00:49.917 --> 00:00:51.249 自然界の新たな法則に 00:00:51.249 --> 00:00:53.474 気づいていることを静かに噛みしめました 00:00:53.474 --> 00:00:56.516 私が博士課程で 2つ目のプロジェクトを始めると 00:00:56.516 --> 00:00:57.880 また同じことが起きました 00:00:57.880 --> 00:01:00.169 私は行き詰まり やり遂げました 00:01:00.169 --> 00:01:01.555 そこで考え始めました 00:01:01.555 --> 00:01:02.712 パターンがありそうだ 00:01:02.712 --> 00:01:04.553 他の大学院生たちに聞くと 00:01:04.553 --> 00:01:06.596 「うん まったく同じことが起きたよ 00:01:06.596 --> 00:01:08.945 誰も そんなこと教えてくれなかったけど」 00:01:08.945 --> 00:01:11.025 私たちは科学を 疑問と答えの間にある 00:01:11.025 --> 00:01:14.471 一連の論理的な手順のように学びますが 00:01:14.471 --> 00:01:17.217 研究とは そのようなものとは まったく違います NOTE Paragraph 00:01:17.217 --> 00:01:19.551 その頃 私は 即興劇の役者になるための 00:01:19.551 --> 00:01:21.638 勉強もしていました 00:01:21.638 --> 00:01:23.072 つまり 昼は物理 00:01:23.072 --> 00:01:25.090 夜は笑ったり跳ねたり歌ったり 00:01:25.090 --> 00:01:26.402 ギターを弾いたりしていました 00:01:26.402 --> 00:01:27.881 即興劇は 00:01:27.881 --> 00:01:30.890 科学と同じで 未知の領域へ入っていくものです 00:01:30.890 --> 00:01:32.302 監督も台本もなしで 00:01:32.302 --> 00:01:34.005 どんな役を演じるかも知らず 00:01:34.005 --> 00:01:36.283 他の役が何をするかも知らず 00:01:36.283 --> 00:01:38.689 舞台上で演技をしなければ ならないわけですから 00:01:38.689 --> 00:01:40.538 しかし科学と違って 00:01:40.538 --> 00:01:43.561 即興劇では舞台に上がれば どうなるか 00:01:43.561 --> 00:01:45.776 初日のうちに教わります 00:01:45.776 --> 00:01:48.548 ひどい失敗もするし 行き詰ることにもなると 00:01:48.548 --> 00:01:49.725 申し渡されます 00:01:49.725 --> 00:01:51.843 そこで 行き詰まっても創造性を 00:01:51.843 --> 00:01:53.046 保てるよう練習します 00:01:53.046 --> 00:01:54.951 たとえば 全員で円になり 00:01:54.951 --> 00:01:56.093 一人ずつ世界最低の 00:01:56.093 --> 00:01:59.058 タップダンスをする練習がありました 00:01:59.058 --> 00:02:00.644 他の人は皆 拍手を送って 00:02:00.644 --> 00:02:01.886 ダンサーを称賛し 00:02:01.886 --> 00:02:04.649 演技を応援するというものです NOTE Paragraph 00:02:04.649 --> 00:02:06.557 私は教授になって 00:02:06.557 --> 00:02:07.938 自分の学生の研究を 00:02:07.938 --> 00:02:09.911 指導する立場になった時 00:02:09.911 --> 00:02:11.278 また実感しました 00:02:11.278 --> 00:02:12.990 どうしていいか わからない 00:02:12.990 --> 00:02:14.984 物理や生物や化学なら 00:02:14.984 --> 00:02:16.598 何千時間も勉強しましたが 00:02:16.598 --> 00:02:18.970 助言の仕方や 未知の領域へ誰かを導く方法 00:02:18.970 --> 00:02:21.556 動機付けについては 00:02:21.556 --> 00:02:23.293 一時間たりとも 概念の一つたりとも 00:02:23.293 --> 00:02:25.214 学んだことがなかったのです NOTE Paragraph 00:02:25.214 --> 00:02:27.144 そこで即興劇に立ち返り 00:02:27.144 --> 00:02:29.317 学生たちに 初日のうちに 00:02:29.317 --> 00:02:32.218 研究を始めたら何が起きるか 伝えました 00:02:32.218 --> 00:02:33.944 これは研究の展開を捉える― 00:02:33.944 --> 00:02:35.956 心理的スキーマと関係します 00:02:35.956 --> 00:02:38.234 なぜなら 何かをする時 人はいつも 00:02:38.234 --> 00:02:40.876 たとえば 私がこの黒板を触ろうとしたら 00:02:40.876 --> 00:02:42.536 私の脳は まずスキーマを作り 00:02:42.536 --> 00:02:44.395 私が手を動かすより先に 00:02:44.395 --> 00:02:46.551 筋肉がすることを正確に予想します 00:02:46.551 --> 00:02:48.399 そして もし邪魔が入れば 00:02:48.399 --> 00:02:50.274 スキーマが現実と合わず 00:02:50.274 --> 00:02:52.558 認知的不協和というストレスを生じます 00:02:52.558 --> 00:02:55.467 だからスキーマは現実と 合わないと困るのです 00:02:55.467 --> 00:02:58.622 しかし もしあなたが 教科書通りの科学を 00:02:58.622 --> 00:03:00.519 そのまま信じていたら 00:03:00.519 --> 00:03:06.813 研究について次のようなスキーマを 持つことになるでしょう 00:03:06.813 --> 00:03:10.131 Aを疑問 00:03:10.131 --> 00:03:13.531 Bを答えとしますね 00:03:13.531 --> 00:03:18.124 研究は 直線でつながる道です 00:03:18.127 --> 00:03:21.242 問題は 実験がうまく行かなかった場合 00:03:21.242 --> 00:03:24.904 もしくは学生がやる気を失った場合 00:03:24.904 --> 00:03:26.990 それは完全な間違いと受け止められ 00:03:26.990 --> 00:03:30.020 とてもつもなく大きなストレスになります 00:03:30.020 --> 00:03:31.803 だから私は自分の学生に 00:03:31.803 --> 00:03:35.665 もっと現実的なスキーマを 教えています 00:03:38.860 --> 00:03:40.384 まさに これが 00:03:40.384 --> 00:03:43.520 現実がスキーマと合わない例ですね 00:03:46.379 --> 00:03:49.641 (笑) 00:03:49.641 --> 00:03:52.840 (拍手) NOTE Paragraph 00:04:01.564 --> 00:04:05.010 私は学生に別のスキーマを教えます 00:04:05.010 --> 00:04:07.204 Aが疑問で 00:04:07.204 --> 00:04:09.385 Bが答えとして 00:04:13.320 --> 00:04:14.855 モヤモヤの中でも創造を忘れず 00:04:14.855 --> 00:04:16.830 そして研究を始めれば 00:04:16.830 --> 00:04:19.193 実験失敗 実験失敗 00:04:19.193 --> 00:04:21.728 また失敗 また失敗 00:04:21.728 --> 00:04:24.404 ネガティブな感情が渦巻く点に 到達します 00:04:24.404 --> 00:04:26.682 自分の基本前提が 意味をなさなくなったように 00:04:26.682 --> 00:04:27.798 感じられます 00:04:27.798 --> 00:04:30.853 足元のカーペットを誰かに グイッと引っ張られたような気分です 00:04:30.853 --> 00:04:34.181 この場所を「モヤモヤ」と呼んでいます 00:04:47.685 --> 00:04:50.363 モヤモヤの中で 迷子になることもあります 00:04:50.363 --> 00:04:52.871 丸1日 1週間 1ヶ月 1年 00:04:52.871 --> 00:04:54.369 研究生活の間 ずっと 00:04:54.369 --> 00:04:56.531 でも時に 運が良く 00:04:56.531 --> 00:04:58.387 十分な支援を受けることが出来れば 00:04:58.387 --> 00:05:00.377 手元の材料から 00:05:00.377 --> 00:05:03.625 あるいはモヤモヤの全体像を 考えているうちに 00:05:03.625 --> 00:05:05.627 新しい答えが見つかります Cです 00:05:07.285 --> 00:05:10.969 そして それに向かって頑張ろうと 思うのです 00:05:10.969 --> 00:05:13.338 そして実験失敗 実験失敗 00:05:13.338 --> 00:05:14.807 でも そこに たどり着いて 00:05:14.807 --> 00:05:16.027 AからCへの矢印を 00:05:16.027 --> 00:05:19.529 論文にして公に発表します 00:05:19.529 --> 00:05:21.488 それは素晴らしい方法ですが 00:05:21.488 --> 00:05:23.832 そこへたどり着くまでの途中経過を 00:05:23.832 --> 00:05:25.631 忘れがちです NOTE Paragraph 00:05:25.631 --> 00:05:27.606 このモヤモヤは研究に内在し 00:05:27.606 --> 00:05:30.210 我々の仕事に内在しています 00:05:30.210 --> 00:05:33.420 なぜならモヤモヤは 境界の番人だからです 00:05:37.721 --> 00:05:39.990 見張りをしているのです 00:05:39.990 --> 00:05:42.962 既知の領域と 00:05:45.795 --> 00:05:49.399 未知の領域の境界で 00:05:53.110 --> 00:05:55.385 真に新しいことを発見するためには 00:05:55.385 --> 00:05:58.962 基本前提のうち 最低でも1つは 変えざるを得ません 00:05:58.962 --> 00:06:00.216 それは科学の世界では 00:06:00.216 --> 00:06:02.178 かなり勇気の要ることです 00:06:02.178 --> 00:06:03.999 日々 私たちは自分自身を 00:06:03.999 --> 00:06:05.811 既知と未知との境界に立たせ 00:06:05.811 --> 00:06:07.632 モヤモヤと直面しています NOTE Paragraph 00:06:07.632 --> 00:06:09.337 私はBを既知の国に置きましたよね 00:06:09.337 --> 00:06:10.080 私はBを既知の国に置きましたよね 00:06:10.080 --> 00:06:11.891 Bは既に知っていたわけですから 00:06:11.891 --> 00:06:15.540 しかしCはBよりも 常に興味深く 00:06:15.540 --> 00:06:18.263 より重要なのです 00:06:18.263 --> 00:06:20.456 Bがないと研究は始まりませんが 00:06:20.456 --> 00:06:22.274 Cは もっとずっと意義深く 00:06:22.274 --> 00:06:26.771 それこそが研究というものの 素晴らしいところなのです NOTE Paragraph 00:06:26.771 --> 00:06:28.959 「モヤモヤ」という言葉を知るだけで 00:06:28.959 --> 00:06:31.514 私の研究グループ内は一変しました 00:06:31.514 --> 00:06:33.384 学生が私のところへ来て 言います 00:06:33.384 --> 00:06:34.982 「先生 モヤモヤに入っちゃった」 00:06:34.982 --> 00:06:38.148 私は こう返します 「素晴らしい 君は今 惨めだろう」 00:06:38.148 --> 00:06:40.290 (笑) 00:06:40.290 --> 00:06:42.203 実際 私は少し喜んでいます 00:06:42.203 --> 00:06:43.881 なぜなら既知と未知の境界に 00:06:43.881 --> 00:06:45.777 私たちは近づいているのかも知れず 00:06:45.777 --> 00:06:47.323 真に新しい何かを発見する 00:06:47.323 --> 00:06:49.184 見込みがあるからです 00:06:49.184 --> 00:06:50.526 そう考えるようになれば 00:06:50.526 --> 00:06:53.674 モヤモヤは普通のことで 00:06:53.674 --> 00:06:58.100 さらに不可欠で 美しくさえあるのだと 00:06:58.100 --> 00:06:59.305 わかります 00:06:59.305 --> 00:07:02.928 「モヤモヤに感謝する会」にも 入会できますし 00:07:02.928 --> 00:07:04.846 自分を ひどく責める感情も 00:07:04.846 --> 00:07:07.408 排出できます 00:07:07.408 --> 00:07:09.858 指導者として 私がすべきことは 00:07:09.858 --> 00:07:12.060 その学生の支援に力を入れることです 00:07:12.060 --> 00:07:13.541 心理学の研究によると 00:07:13.541 --> 00:07:17.100 人は恐れや絶望を感じた時 00:07:17.100 --> 00:07:18.097 視野が狭まり 00:07:18.097 --> 00:07:20.928 無難で保守的な考え方しか しなくなるからです 00:07:20.928 --> 00:07:22.503 モヤモヤを抜け リスクを伴う 00:07:22.503 --> 00:07:23.891 道の探求を望むなら 00:07:23.891 --> 00:07:25.652 他の人とつながることで感じる 00:07:25.652 --> 00:07:27.853 連帯感、支援、希望といった 00:07:27.853 --> 00:07:29.590 感情が必要です 00:07:29.590 --> 00:07:31.140 だから即興劇と同様に 00:07:31.140 --> 00:07:33.441 科学で最良なのは未知の領域に 00:07:33.441 --> 00:07:35.410 誰かと共に入っていくことです NOTE Paragraph 00:07:35.410 --> 00:07:37.852 だから モヤモヤについて知ると 00:07:37.852 --> 00:07:41.176 即興劇から 00:07:41.176 --> 00:07:43.778 モヤモヤの中で会話をするのに有効な 00:07:43.778 --> 00:07:45.538 手段を学ぶことが出来ます 00:07:45.538 --> 00:07:47.515 これは即興劇の 00:07:47.515 --> 00:07:49.282 中心原理に基づきます 00:07:49.282 --> 00:07:50.375 私は また即興劇に 00:07:50.375 --> 00:07:51.671 救われたわけです 00:07:51.671 --> 00:07:53.962 「Yes, and」というもので 00:07:53.962 --> 00:07:57.427 共演者の提案に「そうだね そして」と 応えることです 00:08:04.297 --> 00:08:07.191 つまり「Yes, and」と言って 提案を受け入れ 00:08:07.191 --> 00:08:09.702 さらに膨らませていくのです 00:08:09.702 --> 00:08:10.941 たとえば もし一人が 00:08:10.941 --> 00:08:12.096 「水たまりがある」と言い 00:08:12.096 --> 00:08:13.141 他の役者が 00:08:13.141 --> 00:08:15.010 「いや ただの舞台だよ」と言ったら 00:08:15.010 --> 00:08:16.748 即興は終わりです 00:08:16.748 --> 00:08:20.520 そこでおしまい 誰もが不満を覚えます 00:08:20.520 --> 00:08:21.868 これは遮断と呼ばれます 00:08:21.868 --> 00:08:23.475 コミュニケーションに気を配らなければ 00:08:23.475 --> 00:08:26.412 科学に関する会話は 遮断だらけになります NOTE Paragraph 00:08:26.412 --> 00:08:28.648 「Yes, and」だと こうなります NOTE Paragraph 00:08:28.648 --> 00:08:31.156 「水たまりがある」 「本当だ 飛び込んでみよう」 NOTE Paragraph 00:08:31.156 --> 00:08:34.165 「あっ クジラだ!尻尾を捕まえよう」 00:08:34.165 --> 00:08:36.266 「月まで連れて行かれちゃう!」 NOTE Paragraph 00:08:36.266 --> 00:08:39.286 「Yes, and」は私たちの 内なる批評家を黙らせます 00:08:39.286 --> 00:08:40.980 内なる批評家は私たちの発言を 00:08:40.980 --> 00:08:42.221 管理し 他人に 00:08:42.221 --> 00:08:44.144 非常識、狂っている、凡庸と 00:08:44.144 --> 00:08:45.259 思われないようにしています 00:08:45.259 --> 00:08:46.519 科学では凡庸と 00:08:46.519 --> 00:08:48.076 見られるのは恐怖です 00:08:48.076 --> 00:08:50.243 「Yes, and」は 内なる批評家を黙らせ 00:08:50.243 --> 00:08:52.855 自覚していなかった潜在的な 00:08:52.855 --> 00:08:54.380 創造力を解放します 00:08:54.380 --> 00:08:56.410 それがモヤモヤに関する 00:08:56.410 --> 00:08:58.815 答えをくれたりするのです NOTE Paragraph 00:08:58.815 --> 00:09:01.416 そんなわけで モヤモヤや 00:09:01.416 --> 00:09:02.820 「Yes, and」を知ることは 00:09:02.820 --> 00:09:05.679 研究室を創造性あふれるものにしました 00:09:05.679 --> 00:09:08.207 学生たちは互いのアイディアに 反応し始め 00:09:08.207 --> 00:09:10.321 物理学と生物学が融合した分野で 00:09:10.321 --> 00:09:13.190 私たちは驚くべき発見をしました 00:09:13.190 --> 00:09:16.140 たとえば私たちは1年にわたり 00:09:16.140 --> 00:09:17.289 細胞内の難解な 00:09:17.289 --> 00:09:19.982 生化学ネットワークの解明に行き詰まり 00:09:19.982 --> 00:09:22.439 「モヤモヤの深みに はまった」 と言っていました 00:09:22.439 --> 00:09:24.419 陽気な会話の中で 私の学生の 00:09:24.419 --> 00:09:26.207 シャイ・シェン=オー が 言いました 00:09:26.207 --> 00:09:29.050 「このネットワークを紙に描いてみよう」 00:09:29.050 --> 00:09:30.503 それで私は 00:09:30.503 --> 00:09:32.654 「でも それはもう何度もやって 00:09:32.654 --> 00:09:33.688 ダメだっただろう」 00:09:33.688 --> 00:09:36.631 とは言わず 「そうだね そして 00:09:36.631 --> 00:09:38.672 特大の紙を使おう」と言い 00:09:38.672 --> 00:09:39.764 するとロン・ミロが 00:09:39.764 --> 00:09:41.984 「建築の設計図みたいな 巨大な紙を使おう 00:09:41.984 --> 00:09:43.780 印刷は任せて」と言いました 00:09:43.780 --> 00:09:46.280 そのネットワークを印刷して 検証したところ 00:09:46.280 --> 00:09:48.789 最も重要な発見につながりました 00:09:48.789 --> 00:09:50.990 この複雑なネットワークは いくつかの簡単な 00:09:50.990 --> 00:09:54.453 繰り返し現れる相互作用パターンだけで できているのです 00:09:54.453 --> 00:09:57.616 ステンドグラスのモチーフの ようなものです 00:09:57.616 --> 00:09:59.664 これをネットワーク・モチーフと呼び 00:09:59.664 --> 00:10:01.816 その基本回路は 00:10:01.816 --> 00:10:03.201 我々の体を含む 00:10:03.201 --> 00:10:05.901 あらゆる生命体における細胞の 00:10:05.901 --> 00:10:08.750 意思決定の論理を 解明するのに役立ちます NOTE Paragraph 00:10:08.750 --> 00:10:10.675 その後 ほどなくして 00:10:10.675 --> 00:10:12.295 私は講演に招待されるようになり 00:10:12.295 --> 00:10:15.306 世界中の何千もの 科学者の前で話しましたが 00:10:15.306 --> 00:10:17.139 「モヤモヤ」や 00:10:17.139 --> 00:10:18.271 「Yes, and」の知見は 00:10:18.271 --> 00:10:20.110 研究室内に留まったままでした 00:10:20.110 --> 00:10:22.241 科学の世界では プロセスなど 00:10:22.241 --> 00:10:24.674 主観的 感情的な話はせず 00:10:24.674 --> 00:10:26.537 話すのは結果だけですから 00:10:26.537 --> 00:10:28.606 学会で話題にすることは一切なく 00:10:28.606 --> 00:10:30.530 あり得ないことでした 00:10:30.530 --> 00:10:32.606 やがて私は よその科学者たちが 00:10:32.606 --> 00:10:34.380 自分達の現状を説明する 00:10:34.380 --> 00:10:35.701 術もないまま行き詰るのを見ました 00:10:35.701 --> 00:10:37.056 彼らの考え方は 00:10:37.056 --> 00:10:38.584 無難な方に狭まり 00:10:38.584 --> 00:10:40.244 研究の可能性は最大限に発揮されず 00:10:40.244 --> 00:10:41.997 彼らは惨めでした 00:10:41.997 --> 00:10:43.936 私は思いました それが現実だ 00:10:43.936 --> 00:10:45.957 自分の研究室は なるべく創造的にしよう 00:10:45.957 --> 00:10:47.637 どこの研究室もそうしたら 00:10:47.637 --> 00:10:49.827 科学はいずれ より豊かに 00:10:49.827 --> 00:10:52.041 より良くなるんじゃないか NOTE Paragraph 00:10:52.041 --> 00:10:54.961 その考え方は覆されました 00:10:54.961 --> 00:10:57.300 エヴリン・フォックス・ケラーの 00:10:57.300 --> 00:10:58.658 女性科学者としての経験談を 00:10:58.658 --> 00:11:00.349 たまたま聞きに行った時のことです 00:11:00.349 --> 00:11:02.172 彼女は こう投げかけました 00:11:02.172 --> 00:11:04.120 「なぜ私たちは 科学をやる上での― 00:11:04.120 --> 00:11:06.306 主観的 感情的な面を 語らないのでしょう 00:11:06.306 --> 00:11:10.298 これは偶然ではありません 価値観の問題なのです」 00:11:10.298 --> 00:11:12.476 科学が追求しているのは 00:11:12.476 --> 00:11:14.271 客観的で合理的な知見です 00:11:14.271 --> 00:11:16.469 そこは科学の美しいところです 00:11:16.469 --> 00:11:18.425 しかし文化的な神話もあります 00:11:18.425 --> 00:11:19.679 科学をやるということは 00:11:19.679 --> 00:11:21.979 その知見を目指す 日々の行為も また 00:11:21.979 --> 00:11:24.419 客観的で合理的であるはずだ というものです 00:11:24.419 --> 00:11:26.851 ミスター・スポック並みにね 00:11:26.851 --> 00:11:28.265 物事を客観的で合理的だと 00:11:28.265 --> 00:11:30.078 分類すれば おのずと 00:11:30.078 --> 00:11:31.720 その反対側にある 00:11:31.720 --> 00:11:33.177 主観的で感情的な物事は 00:11:33.177 --> 00:11:35.279 非科学的 あるいは反科学 00:11:35.279 --> 00:11:37.310 科学への脅威という分類になるので 00:11:37.310 --> 00:11:39.231 それについては口を閉ざすのです 00:11:39.231 --> 00:11:41.185 科学には文化があると聞いて 00:11:41.185 --> 00:11:43.022 私の中で 00:11:43.022 --> 00:11:44.729 全てがすとんと腑に落ちました 00:11:44.729 --> 00:11:46.393 科学に文化があるなら 00:11:46.393 --> 00:11:47.649 文化は変えられますし 00:11:47.649 --> 00:11:49.242 可能な限り働きかけて 00:11:49.242 --> 00:11:51.954 私が科学の文化に 変化を起こせばいいのです 00:11:51.954 --> 00:11:55.023 私はさっそく 次の学会の講義で 00:11:55.023 --> 00:11:56.635 自分の科学について話し 00:11:56.635 --> 00:11:58.147 続いて 科学をやる上での 00:11:58.147 --> 00:12:00.149 主観的で感情的な面の大切さと 00:12:00.149 --> 00:12:01.449 その対処法を語りました 00:12:01.449 --> 00:12:02.683 聴衆に目をやると 00:12:02.683 --> 00:12:05.043 冷ややかなものでした 00:12:05.043 --> 00:12:08.334 10本も研究発表が続く 学会という場で 00:12:08.334 --> 00:12:09.585 私の言葉は 00:12:09.585 --> 00:12:11.424 聴衆の耳に届きませんでした 00:12:11.424 --> 00:12:13.906 私は学会があるたびに 何度も挑戦しましたが 00:12:13.906 --> 00:12:16.279 理解は得られませんでした 00:12:16.279 --> 00:12:19.185 私はモヤモヤの中でした NOTE Paragraph 00:12:19.185 --> 00:12:22.699 最終的に私は即興と音楽を使って 00:12:22.699 --> 00:12:25.510 モヤモヤから なんとか抜け出しました 00:12:25.510 --> 00:12:28.249 以来 学会に行くごとに 00:12:28.249 --> 00:12:31.111 科学の話の後 「研究室での愛と恐れ」と呼ぶ 00:12:31.111 --> 00:12:33.104 第2部の特別な話をします 00:12:33.104 --> 00:12:35.321 それは歌で始まります 00:12:35.321 --> 00:12:37.893 テーマは科学者たちにとっての 最大の恐怖― 00:12:37.893 --> 00:12:40.805 一生懸命 研究をして 00:12:40.805 --> 00:12:43.147 新しい発見をしたと思ったら 00:12:43.147 --> 00:12:46.504 他の誰かに 先に発表されてしまうことです 00:12:46.504 --> 00:12:49.120 それを「スクープ」 と 呼んでいます 00:12:49.120 --> 00:12:52.334 先を越された気分は最悪です 00:12:52.334 --> 00:12:54.547 お互いに話すのが怖くなります 00:12:54.547 --> 00:12:55.380 これは良くないです 00:12:55.380 --> 00:12:58.140 科学をやる目的は アイディアを共有し 互いに 00:12:58.140 --> 00:12:59.451 学ぶことのはずですから 00:12:59.451 --> 00:13:02.940 それで私は あるブルースの歌を 演奏します 00:13:05.040 --> 00:13:10.544 それは―(拍手) 00:13:10.544 --> 00:13:13.767 「またスクープだ」という題です 00:13:13.767 --> 00:13:16.425 皆さんに合いの手を お願いしています 00:13:16.425 --> 00:13:20.405 「皆さんのセリフは 『スクープ スクープ』ですよ」 00:13:20.405 --> 00:13:23.050 こんな感じで 「スクープ スクープ!」 00:13:23.050 --> 00:13:24.013 こんな感じです NOTE Paragraph 00:13:24.013 --> 00:13:26.232 ♪また先を越されちゃった ♪ NOTE Paragraph 00:13:26.232 --> 00:13:27.975 ♪ スクープ!スクープ! ♪ NOTE Paragraph 00:13:27.975 --> 00:13:29.253 では行きますよ NOTE Paragraph 00:13:29.253 --> 00:13:31.298 ♪また先を越されちゃった♪ NOTE Paragraph 00:13:31.298 --> 00:13:32.584 ♪ スクープ!スクープ! ♪ NOTE Paragraph 00:13:32.584 --> 00:13:34.479 ♪また先を越されちゃった♪ NOTE Paragraph 00:13:34.479 --> 00:13:35.785 ♪ スクープ!スクープ! ♪ NOTE Paragraph 00:13:35.785 --> 00:13:37.568 ♪また先を越されちゃった♪ NOTE Paragraph 00:13:37.568 --> 00:13:39.207 ♪ スクープ!スクープ! ♪ NOTE Paragraph 00:13:39.207 --> 00:13:40.875 ♪また先を越されちゃった♪ NOTE Paragraph 00:13:40.875 --> 00:13:42.637 ♪ スクープ!スクープ! ♪ NOTE Paragraph 00:13:42.637 --> 00:13:45.912 ♪ねぇママ この痛みがわかるでしょ ♪ NOTE Paragraph 00:13:45.912 --> 00:13:49.698 ♪神様 助けて また先を越されちゃった ♪ 00:13:50.925 --> 00:13:57.316 (拍手) NOTE Paragraph 00:13:57.735 --> 00:13:58.965 ありがとうございます 00:13:58.965 --> 00:14:00.464 合いの手に感謝します NOTE Paragraph 00:14:00.464 --> 00:14:02.548 こうして皆 笑い始め 一息ついて 00:14:02.548 --> 00:14:04.560 自分の周りには同じ問題を抱える 00:14:04.560 --> 00:14:05.867 科学者がいると気づき 00:14:05.867 --> 00:14:07.672 研究をする上で現れる 感情的 00:14:07.672 --> 00:14:09.522 主観的なことについて話し始めます 00:14:09.522 --> 00:14:11.706 重大なタブーが消えたように感じます 00:14:11.706 --> 00:14:14.505 ついに 私たちは これを学会の場で 話せるのです 00:14:14.505 --> 00:14:16.691 そして科学者たちはグループを作り 00:14:16.691 --> 00:14:18.301 定期的に会って 学生の指導や 00:14:18.301 --> 00:14:19.930 未知の領域へと入る時の 00:14:19.930 --> 00:14:22.231 感情的 主観的なことについて 00:14:22.231 --> 00:14:23.594 語り合う場を設けました 00:14:23.594 --> 00:14:25.164 さらに科学をやる過程や 00:14:25.164 --> 00:14:26.839 未知なる領域へ 00:14:26.839 --> 00:14:28.734 共に入って行くことなどについての 00:14:28.734 --> 00:14:30.150 講座まで始めました NOTE Paragraph 00:14:30.150 --> 00:14:31.484 私の展望は 00:14:31.484 --> 00:14:34.946 科学者なら皆「原子」という言葉や 物質が原子からできていると 00:14:34.946 --> 00:14:36.913 知っているように 00:14:36.913 --> 00:14:38.397 科学者が皆「モヤモヤ」や 00:14:38.397 --> 00:14:40.741 「Yes, and」を知り 00:14:40.741 --> 00:14:43.820 科学が もっともっと創造性を発揮し 00:14:43.820 --> 00:14:46.824 私たち皆のために予期せぬ発見を 00:14:46.824 --> 00:14:49.360 どんどんして 00:14:49.360 --> 00:14:51.576 もっと遊び心を持つようになることです 00:14:51.576 --> 00:14:54.166 この話の中で覚えておいてほしいのは 00:14:54.166 --> 00:14:56.862 仕事にせよ 人生にせよ 00:14:56.862 --> 00:14:58.588 解の見つからない問題に 00:14:58.588 --> 00:15:01.180 今度 直面した時には 00:15:01.180 --> 00:15:03.056 この言葉を思い出すことです 00:15:03.056 --> 00:15:04.233 「モヤモヤ」 00:15:04.233 --> 00:15:05.766 モヤモヤは一人ではなく 00:15:05.766 --> 00:15:07.174 誰かと共に切り抜けます 00:15:07.174 --> 00:15:09.212 あなたの考えに「Yes, and」と言い 00:15:09.212 --> 00:15:11.260 あなた自身も自分の考えに 00:15:11.260 --> 00:15:13.577 「Yes, and」と言えるよう 助けてくれて 00:15:13.577 --> 00:15:15.464 モヤモヤのたなびく中 00:15:15.464 --> 00:15:17.190 あの静かな感覚に出会う可能性を 00:15:17.190 --> 00:15:18.688 広げてくれる誰かです 00:15:18.688 --> 00:15:20.491 その時 初めて見えてきます 00:15:20.491 --> 00:15:23.741 あなたの予期せぬ発見 00:15:23.741 --> 00:15:26.465 あなたにとっての「C」の兆しが NOTE Paragraph 00:15:26.465 --> 00:15:28.785 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:15:28.785 --> 00:15:32.785 (拍手)