1 00:00:00,992 --> 00:00:02,469 今年 ドイツでは 2 00:00:02,469 --> 00:00:05,556 東ドイツの平和革命の 3 00:00:05,556 --> 00:00:07,092 25周年を祝っています 4 00:00:07,092 --> 00:00:11,858 1989年 共産党政権が倒れ 5 00:00:11,858 --> 00:00:15,320 ベルリンの壁が崩壊し その1年後に 6 00:00:15,320 --> 00:00:19,485 東ドイツである 7 00:00:19,485 --> 00:00:21,154 ドイツ民主共和国と 8 00:00:21,154 --> 00:00:23,844 西ドイツである ドイツ連邦共和国が統一し 9 00:00:23,844 --> 00:00:27,117 今日のドイツが成立しました 10 00:00:27,117 --> 00:00:30,511 ドイツは東ドイツから 様々なものを継承しましたが 11 00:00:30,511 --> 00:00:35,104 その中には東ドイツの旧制度である 12 00:00:35,104 --> 00:00:38,420 シュタージという秘密警察の 文書保管庫もありました 13 00:00:38,420 --> 00:00:40,960 シュタージが解散してからわずか2年後に 14 00:00:40,960 --> 00:00:44,602 その保有文書が公開され 15 00:00:44,602 --> 00:00:47,677 私のような歴史学者は 16 00:00:47,677 --> 00:00:49,105 東ドイツの諜報活動について 17 00:00:49,105 --> 00:00:53,797 より詳しく知るため 18 00:00:53,797 --> 00:00:55,507 これらの文書の研究を始めました 19 00:00:55,507 --> 00:00:58,303 おそらく みなさんは 『善き人のためのソナタ』 20 00:00:58,303 --> 00:01:00,341 という映画を観たことがあるでしょう 21 00:01:00,341 --> 00:01:05,081 この映画によりシュタージは 世界中に知られるところとなりました 22 00:01:05,092 --> 00:01:07,942 私たちは「諜報」とか「盗聴」という言葉を 23 00:01:07,942 --> 00:01:11,229 新聞の一面記事で扱うような 24 00:01:11,229 --> 00:01:13,979 時代に生きているので 25 00:01:13,979 --> 00:01:16,802 シュタージが実際に どの様な活動をしたのかについて 26 00:01:16,802 --> 00:01:19,201 お話ししたいと思います 27 00:01:19,201 --> 00:01:21,970 始めに シュタージの歴史を 28 00:01:21,970 --> 00:01:23,928 簡単に説明します 29 00:01:23,928 --> 00:01:26,219 というのも その自己概念を理解することは 30 00:01:26,219 --> 00:01:29,706 とても重要だからです 31 00:01:29,706 --> 00:01:32,418 その起源はロシアに発します 32 00:01:32,418 --> 00:01:34,736 1917年 ロシア共産党は 33 00:01:34,736 --> 00:01:36,930 反革命・サボタージュ取締 全ロシア非常委員会 34 00:01:36,930 --> 00:01:39,731 通称チェーカーという 35 00:01:39,731 --> 00:01:41,950 組織を設立しました 36 00:01:41,950 --> 00:01:44,960 これはフェリックス・ジェルジンスキーが 率いていました 37 00:01:44,960 --> 00:01:48,203 チェーカーは共産党が 支配体制を築くために 38 00:01:48,203 --> 00:01:51,960 人々を恐怖に陥れ 39 00:01:51,960 --> 00:01:54,435 敵を処刑する手段として利用しました 40 00:01:54,435 --> 00:02:00,244 後に良く知られたKGBへと発展しました 41 00:02:00,244 --> 00:02:03,750 シュタージの役人たちは チェーカーを崇拝し 42 00:02:03,750 --> 00:02:06,822 自らをチェキストと称し 43 00:02:06,822 --> 00:02:09,680 ご覧の通り 44 00:02:09,680 --> 00:02:12,661 記章もそっくりでした 45 00:02:12,661 --> 00:02:16,227 実際 ロシアの秘密警察が 46 00:02:16,227 --> 00:02:19,518 シュタージを作り上げたのであり その指導を行っていました 47 00:02:19,518 --> 00:02:23,109 赤軍が1945年に東ドイツを占領した時 48 00:02:23,109 --> 00:02:25,497 組織は直ちに拡大し 49 00:02:25,497 --> 00:02:29,118 ドイツ人共産党員の訓練をすぐに始め 50 00:02:29,118 --> 00:02:32,366 自ら秘密警察を作り上げました 51 00:02:32,366 --> 00:02:35,886 さて 我々がいるこのホールで 52 00:02:35,886 --> 00:02:41,566 1946年に東ドイツの与党が設立されました 53 00:02:41,566 --> 00:02:44,950 その5年後にシュタージが組織され 54 00:02:44,950 --> 00:02:47,569 抑圧という汚い仕事を 55 00:02:47,569 --> 00:02:50,111 徐々に担っていきます 56 00:02:50,111 --> 00:02:52,542 たとえばロシアによって作られた 57 00:02:52,542 --> 00:02:53,856 政治犯を収容する 58 00:02:53,856 --> 00:02:56,604 中央刑務所は 59 00:02:56,604 --> 00:02:58,864 シュタージの手に管理が渡り 60 00:02:58,864 --> 00:03:02,048 共産主義が終焉するまで 使われていました 61 00:03:02,048 --> 00:03:03,850 こちらをご覧ください 62 00:03:03,850 --> 00:03:07,485 初めのころは すべての重要な手続きが 63 00:03:07,485 --> 00:03:11,040 ロシア人が同席する中で 行なわれました 64 00:03:11,040 --> 00:03:14,141 しかしとても効率的なことで知られる ドイツ人なので 65 00:03:14,141 --> 00:03:17,519 シュタージは急速に成長し 66 00:03:17,519 --> 00:03:21,207 すでに1953年には ナチの秘密警察の 67 00:03:21,207 --> 00:03:22,905 ドイツのゲシュタポよりも 68 00:03:22,905 --> 00:03:25,695 多くの構成員を抱えていました 69 00:03:25,695 --> 00:03:28,133 10年ごとにその数は倍になり 70 00:03:28,133 --> 00:03:31,558 1989年にはシュタージには 71 00:03:31,558 --> 00:03:33,223 9万人以上の構成員が働いていました 72 00:03:33,223 --> 00:03:35,597 つまり1人あたり 73 00:03:35,597 --> 00:03:38,810 180人の住民を監視するという 74 00:03:38,810 --> 00:03:42,809 他国で例を見ないものでした 75 00:03:42,809 --> 00:03:45,405 このとてつもない組織の トップに立っていたのが 76 00:03:45,405 --> 00:03:49,189 エーリッヒ・ミールケという人物です 77 00:03:49,189 --> 00:03:51,450 彼は30年以上もの間 78 00:03:51,450 --> 00:03:53,769 国家安全省を支配下に置いていました 79 00:03:53,769 --> 00:03:56,400 彼は用心深い役人でした - 80 00:03:56,400 --> 00:03:59,122 ここからさほど遠くない場所で 81 00:03:59,122 --> 00:04:01,130 警察官を2人を殺害し 82 00:04:01,130 --> 00:04:05,197 シュタージを私物化していた人物です 83 00:04:05,197 --> 00:04:09,690 しかし シュタージの何が 特別なのでしょう? 84 00:04:09,690 --> 00:04:12,600 先ず何よりも とてつもない権力を有していました 85 00:04:12,600 --> 00:04:16,089 というのも いくつかの異なる役割を 1つの組織に 86 00:04:16,089 --> 00:04:18,365 集約したものだったからです 87 00:04:18,365 --> 00:04:20,476 第1にシュタージは 88 00:04:20,476 --> 00:04:23,571 諜報機関でした 89 00:04:23,571 --> 00:04:26,050 情報を密かに収集するために 90 00:04:26,050 --> 00:04:28,333 想像し得る限りのあらゆる手段を 用いました 91 00:04:28,333 --> 00:04:31,934 たとえば 密告や電話の盗聴などです 92 00:04:31,934 --> 00:04:34,802 こんな写真も残されています 93 00:04:34,802 --> 00:04:37,806 東ドイツだけでなく 94 00:04:37,806 --> 00:04:40,543 世界中で活動していました 95 00:04:40,543 --> 00:04:44,506 第2に シュタージは秘密警察でした 96 00:04:44,506 --> 00:04:46,650 街角で人々の前に立ちはだかり 97 00:04:46,650 --> 00:04:51,078 逮捕し 私設の牢獄に 投獄することができました 98 00:04:51,078 --> 00:04:52,580 第3にシュタージには 99 00:04:52,580 --> 00:04:55,435 検察のような役割もありました 100 00:04:55,435 --> 00:04:58,565 仮の調査を開始し 101 00:04:58,565 --> 00:05:02,262 公式に人々を尋問する権利がありました 102 00:05:02,262 --> 00:05:04,353 最後に といっても大事なことですが 103 00:05:04,353 --> 00:05:08,218 シュタージは自ら軍備を備え 104 00:05:08,218 --> 00:05:10,222 11,000人以上の兵士が 105 00:05:10,222 --> 00:05:13,732 「衛兵連隊」として務めていました 106 00:05:13,732 --> 00:05:18,148 抗議運動や反乱を鎮圧するために 設立されたのです 107 00:05:18,148 --> 00:05:20,875 このように権力が集中していたので 108 00:05:20,875 --> 00:05:25,940 シュタージは「国家の中にある国家」と 呼ばれていました 109 00:05:25,940 --> 00:05:28,199 シュタージが用いたツールを 110 00:05:28,199 --> 00:05:30,816 もっと詳しく見てみましょう 111 00:05:30,816 --> 00:05:32,459 覚えておいて頂きたいのは 112 00:05:32,459 --> 00:05:36,284 当時はインターネットもスマートフォーンも 発明されていなかった時代です 113 00:05:36,284 --> 00:05:39,525 シュタージは人々を調査するために もちろん 114 00:05:39,525 --> 00:05:42,598 ありとあらゆる 技術的な道具を用いました 115 00:05:42,598 --> 00:05:44,711 電話には盗聴器が仕掛けられました 116 00:05:44,711 --> 00:05:48,850 西ドイツの首相の電話も対象でした 117 00:05:48,850 --> 00:05:51,802 またアパートも盗聴していました 118 00:05:51,802 --> 00:05:55,195 毎日 9万通の手紙が 119 00:05:55,195 --> 00:05:58,541 この器械で開封されました 120 00:05:58,541 --> 00:06:02,239 シュタージは特訓を受けたスパイや 121 00:06:02,239 --> 00:06:05,471 隠しカメラで何万人もの人々の 122 00:06:05,471 --> 00:06:09,006 行動を逐一記録していました 123 00:06:09,006 --> 00:06:11,674 この写真には私たちが今ここにいる 124 00:06:11,674 --> 00:06:15,154 建物の前に立っている 若者としての私をご覧になれますが 125 00:06:15,154 --> 00:06:18,908 これはシュタージのスパイによって 撮影されたものです 126 00:06:18,908 --> 00:06:23,304 シュタージは人々の臭いですら 収集していました 127 00:06:23,304 --> 00:06:26,563 密閉した瓶に保存されたサンプルが 128 00:06:26,563 --> 00:06:31,022 平和革命の後に発見されました 129 00:06:31,022 --> 00:06:35,258 このような各任務は 非常に専門家された部署によって 130 00:06:35,258 --> 00:06:37,626 行なわれていました 131 00:06:37,626 --> 00:06:39,806 電話の盗聴は 132 00:06:39,806 --> 00:06:41,696 手紙を検閲する部署とは 133 00:06:41,696 --> 00:06:44,242 完全に独立していました 134 00:06:44,242 --> 00:06:45,540 これには理由がありました 135 00:06:45,540 --> 00:06:50,217 あるスパイがシュタージをやめても 彼の知る情報を 136 00:06:50,217 --> 00:06:52,131 僅かなものに限定できるからです 137 00:06:52,131 --> 00:06:56,119 これは例えば スノーデンのケースと 対照的です 138 00:06:56,119 --> 00:06:59,196 一方 組織の縦の役割を 特殊化することも 139 00:06:59,196 --> 00:07:01,501 観察の対象に 140 00:07:01,501 --> 00:07:04,496 いかなる感情移入をも 防ぐ意味で重要でした 141 00:07:04,496 --> 00:07:06,800 私を追尾していたスパイは 142 00:07:06,800 --> 00:07:08,657 私が誰であり 何のために 143 00:07:08,657 --> 00:07:10,522 追尾するのか知りませんでした 144 00:07:10,522 --> 00:07:12,136 実際 私は西側から東ドイツへ 145 00:07:12,136 --> 00:07:15,028 禁書を持ち込みました 146 00:07:15,028 --> 00:07:18,220 しかしシュタージはとりわけ 147 00:07:18,220 --> 00:07:21,384 スパイ つまり 組織に密かに通報する人間を 148 00:07:21,384 --> 00:07:25,577 重視した点が特徴的でした 149 00:07:25,577 --> 00:07:27,379 国家安全省大臣にとって 150 00:07:27,379 --> 00:07:30,291 いわゆる非公式要員が 151 00:07:30,291 --> 00:07:33,186 最も重要でした 152 00:07:33,186 --> 00:07:38,509 1975年以降 20万人 153 00:07:38,509 --> 00:07:41,346 つまり人口の1%以上の人々が 154 00:07:41,346 --> 00:07:46,222 シュタージと常時 協力していました 155 00:07:46,222 --> 00:07:48,950 ある意味 大臣のやり方は 理が適っていました 156 00:07:48,950 --> 00:07:50,891 技術的な装置は 157 00:07:50,891 --> 00:07:54,463 人々の行動を記録することしかできませんが 158 00:07:54,463 --> 00:07:57,771 密告者やスパイは 159 00:07:57,771 --> 00:07:59,474 人々が企んでいることや 160 00:07:59,474 --> 00:08:01,834 考えていることを報告できるからです 161 00:08:01,834 --> 00:08:06,615 それが故に シュタージはこれほど多くの 密告者を雇っていました 162 00:08:06,615 --> 00:08:09,459 彼らを雇い 163 00:08:09,459 --> 00:08:12,491 「教育」する方法は -そのように言われていましたが- 164 00:08:12,491 --> 00:08:15,181 とても洗練されたものでした 165 00:08:15,181 --> 00:08:18,088 ここから遠くない場所に 166 00:08:18,088 --> 00:08:19,608 シュタージの大学がありました 167 00:08:19,608 --> 00:08:21,535 そこでは役人を対象とした 168 00:08:21,535 --> 00:08:24,204 方法論が考え出され 教えられました 169 00:08:24,204 --> 00:08:27,955 このガイドラインには 170 00:08:27,955 --> 00:08:30,578 知り合いを裏切らせるための 171 00:08:30,578 --> 00:08:32,940 知り合いを裏切らせるための 172 00:08:32,940 --> 00:08:36,919 一つ一つのステップが 詳細に書かれています 173 00:08:36,919 --> 00:08:40,264 圧力をかけられ密告者になったと 174 00:08:40,264 --> 00:08:41,720 よく耳にしますが 175 00:08:41,720 --> 00:08:44,314 それは多くの場合正しくありません 176 00:08:44,314 --> 00:08:48,225 無理強いされた密告者の働きは 芳しくありません 177 00:08:48,225 --> 00:08:51,312 求められている情報を 教えたがる者こそ 178 00:08:51,312 --> 00:08:53,973 効率的な密告者なのです 179 00:08:53,973 --> 00:08:58,830 シュタージに協力した者達には大抵 180 00:08:58,830 --> 00:09:04,330 政治的信念や報奨がありました 181 00:09:04,330 --> 00:09:07,440 役人たちは密告者たちとの 182 00:09:07,440 --> 00:09:10,848 個人的なつながりを作ろうとしており 183 00:09:10,848 --> 00:09:16,000 正直いえば シュタージの例が示すように 184 00:09:16,000 --> 00:09:19,392 他人を裏切らせることは 185 00:09:19,392 --> 00:09:22,835 難しいことではありません 186 00:09:22,835 --> 00:09:26,586 イブラヒム・ベーメのように 東ドイツの反体制派の 187 00:09:26,586 --> 00:09:28,421 トップでありながら 188 00:09:28,421 --> 00:09:32,166 シュタージに協力するものもいました 189 00:09:32,166 --> 00:09:34,956 彼は1989年の平和革命の リーダーであり 190 00:09:34,956 --> 00:09:39,330 彼が密告者であったことが 明らかになるまで 191 00:09:39,330 --> 00:09:44,475 自由体制になって初の東ドイツ首相に 選ばれようとされていたのです 192 00:09:44,475 --> 00:09:48,404 スパイのネットワークは実に 広範囲でした 193 00:09:48,404 --> 00:09:50,110 ほとんどすべての組織に 194 00:09:50,110 --> 00:09:53,355 教会や 西ドイツにさえも 195 00:09:53,355 --> 00:09:55,543 多くの密告者がいました 196 00:09:55,543 --> 00:09:59,032 こんな事がありました シュタージのリーダー的な役人に 197 00:09:59,032 --> 00:10:02,461 「私に密告者を送っても 198 00:10:02,461 --> 00:10:05,091 きっと気が付くさ」と言いました 199 00:10:05,091 --> 00:10:06,950 すると彼はこう答えました 200 00:10:06,950 --> 00:10:08,393 「誰も送りつけてはいないね 201 00:10:08,393 --> 00:10:11,415 君の周りの人間を利用しただけさ」 202 00:10:11,415 --> 00:10:14,070 実際 私の2人の親友が 203 00:10:14,070 --> 00:10:18,401 シュタージに密告していたのでした 204 00:10:18,401 --> 00:10:20,990 私の場合に限らず 密告者はとても近くにいたのです 205 00:10:20,990 --> 00:10:24,693 たとえば 別の反体制派のリーダー ヴェラ・ラングスフェルドの場合 206 00:10:24,693 --> 00:10:28,906 夫が彼女をスパイしていました 207 00:10:28,906 --> 00:10:32,259 有名な作家が兄弟に裏切られていた ケースもあります 208 00:10:32,259 --> 00:10:36,151 これはジョージ・オーウェルの小説 『1984』を思い起こさせます 209 00:10:36,151 --> 00:10:39,230 この話では 一見 唯一の信頼に足ると 思われた人物が 210 00:10:39,230 --> 00:10:42,043 密告者でした 211 00:10:42,043 --> 00:10:45,740 ではなぜシュタージは全ての情報を 212 00:10:45,740 --> 00:10:47,661 資料保管庫に保存したのでしょうか 213 00:10:47,661 --> 00:10:51,720 主な目的は社会を管理することでした 214 00:10:51,720 --> 00:10:54,303 シュタージの長官はことあるごとに 215 00:10:54,303 --> 00:10:57,025 「誰が何者か確かめろ」 と言っていました 216 00:10:57,025 --> 00:11:00,119 つまり「誰が何を考えているか調べろ」 ということです 217 00:11:00,119 --> 00:11:01,870 彼は誰かが反体制ののろしを上げるまで 218 00:11:01,870 --> 00:11:04,390 待つことをしませんでした 219 00:11:04,390 --> 00:11:06,280 誰が何を考え 企んでいるのか 220 00:11:06,280 --> 00:11:09,175 予め知りたがっていたのです 221 00:11:09,175 --> 00:11:11,997 東ドイツの国民は 不信感と 222 00:11:11,997 --> 00:11:15,167 恐怖の広まった状態を作りだす 全体主義体制において 223 00:11:15,167 --> 00:11:19,140 周りは密告者だらけであることを 224 00:11:19,140 --> 00:11:22,234 もちろん知っていました 225 00:11:22,234 --> 00:11:25,750 これはいかなる独裁政権においても 人々を抑圧する 226 00:11:25,750 --> 00:11:27,909 最も重要な手段であったのです 227 00:11:27,909 --> 00:11:30,512 それゆえに 共産党体制に 228 00:11:30,512 --> 00:11:34,796 立ち向かおうとする東ドイツの人々は あまりいませんでした 229 00:11:34,796 --> 00:11:39,378 そういう者に対し シュタージはしばしば 230 00:11:39,378 --> 00:11:42,050 実に残虐な手段をとりました 231 00:11:42,050 --> 00:11:44,236 「チェルゼッツン」と呼ばれたもので 232 00:11:44,236 --> 00:11:47,907 もう1つのガイドラインに 記述されていました 233 00:11:47,907 --> 00:11:50,707 この意味を正確に訳すことは 難しいのですが 234 00:11:50,707 --> 00:11:54,605 「生物分解」という意味からきています 235 00:11:54,605 --> 00:11:57,959 しかし これは実際のところ 意味をとても正確に表しています 236 00:11:57,959 --> 00:12:01,518 目的は人々のもつ自信を 237 00:12:01,518 --> 00:12:04,408 密かにぶち壊すことです 238 00:12:04,408 --> 00:12:07,521 例えば 評判を貶めたり 239 00:12:07,521 --> 00:12:10,990 仕事で失敗するように仕向けたり 240 00:12:10,990 --> 00:12:15,620 人間関係を壊すのです 241 00:12:15,620 --> 00:12:20,995 東ドイツは とても現代的な 専制政治だったともいえるでしょう 242 00:12:20,995 --> 00:12:25,366 シュタージは反体制派の人々を 全員逮捕しようとはしませんでした 243 00:12:25,366 --> 00:12:28,457 彼らを麻痺させることを優先したのです 244 00:12:28,457 --> 00:12:30,960 大量の個人情報を有し 245 00:12:30,960 --> 00:12:34,310 多くの組織に通じていたことから 246 00:12:34,310 --> 00:12:38,240 成し得たことです 247 00:12:38,240 --> 00:12:40,512 人々を拘束することは 248 00:12:40,512 --> 00:12:43,042 あくまで最終手段でした 249 00:12:43,042 --> 00:12:46,347 拘束のために シュタージは各州に1つずつ 250 00:12:46,347 --> 00:12:48,864 17の再拘束のための牢獄を 有していました 251 00:12:48,864 --> 00:12:51,538 ここでは シュタージは 252 00:12:51,538 --> 00:12:55,980 とても現代的な拘束手段すら 開発しました 253 00:12:55,980 --> 00:12:57,763 尋問する役人は たいてい 254 00:12:57,763 --> 00:13:01,226 囚人を拷問にかけたりせず 255 00:13:01,226 --> 00:13:03,802 かわりに 洗練された方法で 256 00:13:03,802 --> 00:13:05,940 精神的な圧力をかけました 257 00:13:05,940 --> 00:13:10,034 中心となるのは完全な隔離です 258 00:13:10,034 --> 00:13:12,318 ほとんど全ての囚人が 259 00:13:12,318 --> 00:13:15,547 証言へと追いやられました 260 00:13:15,547 --> 00:13:17,609 ベルリンにある 261 00:13:17,609 --> 00:13:21,060 旧シュタージの牢獄を訪れて 262 00:13:21,060 --> 00:13:24,649 元政治犯の囚人による ガイドツアーに参加すれば 263 00:13:24,649 --> 00:13:27,505 これがどのように行われたか 説明してくれるでしょう 264 00:13:27,505 --> 00:13:30,664 もう1つ答えるべき問題があります 265 00:13:30,664 --> 00:13:33,106 シュタージがそれほどまでに上手く 266 00:13:33,106 --> 00:13:37,439 機能していたのならば なぜ共産党体制は崩壊したのでしょうか? 267 00:13:37,439 --> 00:13:41,570 まず第1に 1989年 東ドイツの首脳部は 268 00:13:41,570 --> 00:13:43,831 広がる抗議運動に 269 00:13:43,831 --> 00:13:46,768 どう対処したらいいか分りませんでした 270 00:13:46,768 --> 00:13:49,119 特に 社会主義の生みの親である 271 00:13:49,119 --> 00:13:51,890 ソビエト連合で 272 00:13:51,890 --> 00:13:53,410 より自由な政策が 273 00:13:53,410 --> 00:13:56,793 とられたことから困惑しました 274 00:13:56,793 --> 00:13:59,210 それに加え 体制は 275 00:13:59,210 --> 00:14:02,602 西ドイツからの借款に依存していました 276 00:14:02,602 --> 00:14:05,150 それゆえ 反乱を鎮圧せよという命令が 277 00:14:05,150 --> 00:14:08,227 シュタージに出されませんでした 278 00:14:08,227 --> 00:14:11,860 第2に 共産主義者のイデオロギーに対し 279 00:14:11,860 --> 00:14:14,513 批判することはできませんでした 280 00:14:14,513 --> 00:14:16,820 逆に指導者たちは 281 00:14:16,820 --> 00:14:19,614 社会主義は完全であるという 信条に縛られ 282 00:14:19,614 --> 00:14:23,865 もちろんシュタージも これに倣わなければなりませんでした 283 00:14:23,865 --> 00:14:26,226 その結果 284 00:14:26,226 --> 00:14:28,722 体制側はせっかく収集したデータから 285 00:14:28,722 --> 00:14:32,886 真の問題を洗い出すことができず 286 00:14:32,886 --> 00:14:35,571 よって 問題を解決することが できませんでした 287 00:14:35,571 --> 00:14:38,275 そしてついに シュタージは 288 00:14:38,275 --> 00:14:40,068 自らを防御する 289 00:14:40,068 --> 00:14:43,788 組織体制が原因となって死に至りました 290 00:14:43,788 --> 00:14:45,858 シュタージの最期は 291 00:14:45,858 --> 00:14:47,905 悲劇的でした 292 00:14:47,905 --> 00:14:49,964 役人たちは 293 00:14:49,964 --> 00:14:53,032 平和革命が進行する中で たった1つのことに 294 00:14:53,032 --> 00:14:55,007 専念しなければ ならなかったからです 295 00:14:55,007 --> 00:14:57,660 数十年間の間に 296 00:14:57,660 --> 00:15:01,351 書き続けてきた文書を破棄することです 297 00:15:01,351 --> 00:15:03,269 幸いにも 298 00:15:03,269 --> 00:15:06,806 人権擁護者たちに これは阻止されました 299 00:15:06,806 --> 00:15:09,732 そのおかげで今日 ファイルを調べることにより 300 00:15:09,732 --> 00:15:11,356 諜報国家がどう機能するのか 301 00:15:11,356 --> 00:15:14,136 より良く理解することが出来ます 302 00:15:14,136 --> 00:15:16,133 有難うございました 303 00:15:16,133 --> 00:15:20,439 (拍手) 304 00:15:24,518 --> 00:15:30,578 ブルーノ・ジュッサーニ: 有難う 本当に有難うございます 305 00:15:30,578 --> 00:15:33,302 フバタスさん いくつか質問があります 306 00:15:33,302 --> 00:15:36,090 先週から (元シュタージの) スピーゲル氏がここに来ていて 307 00:15:36,090 --> 00:15:40,964 「NSAはシュタージの同類」 と発言しています 308 00:15:40,964 --> 00:15:43,595 先ほど私の祖国(スイス)の隣国である 309 00:15:43,595 --> 00:15:46,583 東ドイツのスパイと密告者について 語られましたが 310 00:15:46,583 --> 00:15:49,283 この2つの話に直接的な関連が ありますか 311 00:15:49,283 --> 00:15:51,161 それとも ありませんか? 312 00:15:51,161 --> 00:15:53,183 これを見て歴史家として どう思われましたか? 313 00:15:53,183 --> 00:15:54,908 クナーベ: 私は様々な観点から 314 00:15:54,908 --> 00:15:56,811 述べる必要があると思いますが 315 00:15:56,811 --> 00:15:59,877 まず最初に 同じくデータを収集する行為であっても 316 00:15:59,877 --> 00:16:03,965 目的が異なっていると思います 317 00:16:03,965 --> 00:16:06,283 テロリストの攻撃から 318 00:16:06,283 --> 00:16:07,830 国民を守るためなのか 319 00:16:07,830 --> 00:16:10,600 それとも国民を抑圧するためなのか? 320 00:16:10,600 --> 00:16:12,542 これは根本的に異なっています 321 00:16:12,542 --> 00:16:14,891 しかし一方で 322 00:16:14,891 --> 00:16:19,210 民主主義社会においても こういった手段が濫用される可能性があり 323 00:16:19,210 --> 00:16:21,376 注意を払ってこれを 324 00:16:21,376 --> 00:16:22,761 阻止しなければなりません 325 00:16:22,761 --> 00:16:25,634 また諜報機関は 326 00:16:25,634 --> 00:16:28,755 ルールを守らなければなりません 327 00:16:28,755 --> 00:16:30,255 3つ目のポイントは 328 00:16:30,255 --> 00:16:33,543 我々は民主主義の国にいて とても幸せで有り得ることです 329 00:16:33,543 --> 00:16:37,223 一方 ロシアや中国はともに きっと同じようなこと(諜報)を 330 00:16:37,223 --> 00:16:38,755 行なっているのですから 331 00:16:38,755 --> 00:16:40,321 でも誰もそれを語ったりしません 332 00:16:40,321 --> 00:16:42,612 そんな(危険な)ことは 出来ないのですから 333 00:16:42,612 --> 00:16:47,576 (拍手) 334 00:16:49,398 --> 00:16:51,451 昨年7月に 335 00:16:51,451 --> 00:16:53,646 シュタージの件が初めて暴露された時 336 00:16:53,646 --> 00:16:56,474 あなたはドイツ法廷で 337 00:16:56,474 --> 00:16:59,454 刑事告訴しましたね どうしてですか? 338 00:16:59,454 --> 00:17:02,667 先ほど申し上げた 2つ目のポイントにあります 339 00:17:02,667 --> 00:17:05,564 とりわけ民主主義において 340 00:17:05,564 --> 00:17:09,021 ルールは皆のためにあると 考えています 341 00:17:09,021 --> 00:17:11,386 皆のためのルールですから 342 00:17:11,386 --> 00:17:15,176 いかなる組織もこれを破ってはなりません 343 00:17:15,176 --> 00:17:17,155 ドイツの刑法には 344 00:17:17,155 --> 00:17:19,010 裁判所の許可がない限り 345 00:17:19,010 --> 00:17:21,397 盗聴してはならないと書かれています 346 00:17:21,397 --> 00:17:25,219 幸いにもドイツの刑法に 明記されているのですから 347 00:17:25,219 --> 00:17:29,150 これが守られていないのならば 348 00:17:29,150 --> 00:17:31,046 捜査されるべきでしょう 349 00:17:31,046 --> 00:17:33,025 ドイツの検察官が 本件の捜査を始めるまで 350 00:17:33,025 --> 00:17:35,131 かなりの時間がかかり 351 00:17:35,131 --> 00:17:38,702 アンゲラ・メルケル首相の件が 初の事例となりましたが 352 00:17:38,702 --> 00:17:41,658 国内に住む他の人々の 捜査は始まっていません 353 00:17:41,658 --> 00:17:44,131 驚きはしませんよ 354 00:17:44,131 --> 00:17:46,254 (拍手)- 355 00:17:46,254 --> 00:17:49,697 お話を伺った後ですからね 356 00:17:49,697 --> 00:17:52,180 外部から見れば ドイツに住んでいない者から見れば 357 00:17:52,180 --> 00:17:53,957 ドイツ人は 358 00:17:53,957 --> 00:17:57,177 もっと力強く 迅速に行動すべきでしょう 359 00:17:57,177 --> 00:17:59,789 しかし メルケル首相が 盗聴されていると発覚して 360 00:17:59,789 --> 00:18:01,646 初めて人々は反応しました 361 00:18:01,646 --> 00:18:05,201 なぜでしょうか? 362 00:18:05,201 --> 00:18:07,064 国民がドイツの民主主義を 363 00:18:07,064 --> 00:18:11,394 安全だと感じている証拠です 364 00:18:11,394 --> 00:18:13,608 逮捕されるのだと恐れることもなく 365 00:18:13,608 --> 00:18:16,771 このカンファレンスの後 ホールを後にする時 366 00:18:16,771 --> 00:18:19,335 秘密警察が立ちはだかって 367 00:18:19,335 --> 00:18:21,773 自分を逮捕するなどと 誰も思っていないでしょう 368 00:18:21,773 --> 00:18:23,367 ですから良い兆候だと思います 369 00:18:23,367 --> 00:18:26,242 国民は以前の様に恐れていません 370 00:18:26,242 --> 00:18:30,596 しかし勿論のこと 公共機関は 371 00:18:30,596 --> 00:18:33,163 ドイツ国内であれどこであれ 372 00:18:33,163 --> 00:18:36,281 不法な行動を抑止する義務があるでしょう 373 00:18:36,281 --> 00:18:39,474 個人的な質問ですが これで最後にします 374 00:18:39,474 --> 00:18:41,740 ドイツでは エドワード・スノーデンの亡命を 375 00:18:41,740 --> 00:18:43,281 認めようという議論がありました 376 00:18:43,281 --> 00:18:46,046 これに賛成ですか それとも反対ですか? 377 00:18:46,046 --> 00:18:47,734 これは難しい質問ですね 378 00:18:47,734 --> 00:18:49,420 でも質問されたので 379 00:18:49,420 --> 00:18:51,075 正直に答えますと 380 00:18:51,075 --> 00:18:52,841 亡命を認めて良いと思います 381 00:18:52,841 --> 00:18:54,890 というのも 彼はとても勇敢で 382 00:18:54,890 --> 00:18:57,502 自分の人生や家族 そして全てを 383 00:18:57,502 --> 00:18:59,171 犠牲にしたからです 384 00:18:59,171 --> 00:19:02,380 このような人々のために 何かをすべきだと考えます 385 00:19:02,380 --> 00:19:06,534 とりわけ ドイツの歴史を振り返ってみると 386 00:19:06,534 --> 00:19:09,031 多くの人々が国外に脱出し 387 00:19:09,031 --> 00:19:11,347 亡命を求めましたが 388 00:19:11,347 --> 00:19:12,730 これは叶いませんでした 389 00:19:12,730 --> 00:19:15,567 ですからスノーデンの亡命を認めることは 良いことなのです 390 00:19:15,567 --> 00:19:17,378 (拍手) 391 00:19:17,378 --> 00:19:23,680 フベタスさん どうも有難うございました