0:00:07.285,0:00:09.254 テレポーテーションは可能でしょうか? 0:00:09.484,0:00:12.802 野球ボールが[br]電波のようなものに変化して 0:00:12.802,0:00:14.337 ビルを通り抜け 0:00:14.337,0:00:15.874 角で跳ね返り 0:00:15.874,0:00:18.325 野球ボールに戻ることはできるのでしょうか 0:00:18.325,0:00:24.525 奇妙なことに 量子力学によれば[br]その答は なんと「はい」になるでしょう 0:00:24.525,0:00:25.936 ある意味においてですが 0:00:26.366,0:00:27.355 仕掛けはこうです 0:00:27.355,0:00:30.106 ボールそのものは無線では送れなくても 0:00:30.106,0:00:32.923 ボールに関する全ての情報を[br]送ることはできことでしょう 0:00:33.593,0:00:36.076 量子力学では 原子と電子は 0:00:36.076,0:00:39.386 個々の属性の集まりだとみなせます 0:00:39.386,0:00:40.967 例えば 位置や 0:00:40.967,0:00:41.796 運動量や 0:00:41.796,0:00:43.505 スピンのような属性です 0:00:43.915,0:00:46.817 これらの値によって[br]1つの粒子ができあがります 0:00:46.817,0:00:49.678 つまり 1つの量子状態を決められます 0:00:50.128,0:00:52.876 もし 2つの電子が同じ量子状態にあるなら 0:00:52.876,0:00:54.127 その2つは区別がつきません 0:00:54.127,0:00:58.936 まさに 1個のボールというものは[br]それを構成する数多くの原子の 0:00:58.936,0:01:01.276 全体としての量子状態で定められます 0:01:01.996,0:01:05.487 この量子状態の情報をボストンで読み込んで 0:01:05.487,0:01:06.918 世界中に送れるならば 0:01:06.918,0:01:10.666 バンガロールで 同じ種類の原子に 0:01:10.666,0:01:12.999 これらの情報を刷り込んで 0:01:12.999,0:01:15.599 注意深く組み立てれば 0:01:15.599,0:01:18.549 全く同じボールを作ることが[br]できることでしょう 0:01:18.759,0:01:19.878 しかし 問題があります 0:01:19.878,0:01:22.249 量子状態は計測が難しいのです 0:01:22.739,0:01:25.613 量子物理学の不確定性理論は 0:01:25.613,0:01:28.590 粒子の位置と運動量を 0:01:28.590,0:01:30.688 同時に測ることが[br]できないことを意味しています 0:01:31.228,0:01:34.619 電子の位置を測る[br]もっとも単純な方法は 0:01:34.619,0:01:38.969 光の粒子 つまり光子を[br]電子で散乱させ 0:01:38.969,0:01:41.201 顕微鏡で集光するというものです 0:01:41.201,0:01:46.448 しかし 散乱は電子の運動量を[br]予測不可能な仕方で変化させてしまいます 0:01:46.448,0:01:49.960 観測前の運動量に関する[br]いかなる情報も失われます 0:01:49.960,0:01:53.421 ある意味 量子情報は壊れやすいのです 0:01:53.421,0:01:55.580 情報を計測すると[br]それを変えてしまいます 0:01:55.580,0:01:57.731 壊さないと完全に計測できないものを 0:01:57.731,0:02:01.309 どうすれば 転送できるのでしょうか 0:02:01.309,0:02:05.983 その答えは 「量子もつれ」という[br]奇妙な現象にあります 0:02:06.483,0:02:10.603 「もつれ」は量子物理学の[br]草創期からある古い謎で 0:02:10.603,0:02:12.692 まだ完全には解明されていません 0:02:12.692,0:02:17.042 2個の電子のスピンがもつれて 0:02:17.042,0:02:19.013 離れた場所でも互いに影響しあいます 0:02:19.013,0:02:21.373 初めの1個の電子のスピンを計測すると 0:02:21.373,0:02:24.311 瞬時にもう1個の電子の[br]スピンの計測結果が決まります 0:02:24.311,0:02:28.562 これは 2個の電子が1マイル[br]あるいは 1光年離れていても同じです 0:02:28.562,0:02:32.631 1個目の電子の量子状態を 0:02:32.631,0:02:34.751 1量子ビットのデータと言いますが 0:02:34.751,0:02:40.113 これが 間にある空間を伝わらずに[br]2個目の電子の量子状態を瞬時に決めます 0:02:40.113,0:02:43.765 アインシュタインと共同研究者たちは[br]この奇妙な情報のやりとりを 0:02:43.765,0:02:46.252 「不気味な遠隔作用」と呼びました 0:02:46.252,0:02:50.294 2個の粒子間のもつれによって 0:02:50.294,0:02:54.625 1量子ビットの情報が その間を[br]一瞬のうちに移動するように見えますが 0:02:54.625,0:02:56.114 ここには落とし穴があります 0:02:56.124,0:02:59.562 この相互作用は初めは局所的に[br]起こらなくてはなりません 0:03:00.072,0:03:03.703 互いに接近した2個の電子を[br]もつれさせてから 0:03:03.703,0:03:07.335 一方を新たな地点に[br]運ばなくてはなりません 0:03:08.075,0:03:11.705 「量子もつれ」それ自体は[br]テレポーテーションではありません 0:03:11.705,0:03:13.300 テレポートを完成するには 0:03:13.300,0:03:18.075 受信側で量子ビットの再現を助ける[br]デジタル情報が必要です 0:03:18.075,0:03:22.025 1個目の粒子を計測すると[br]2ビットのデータを得られます 0:03:22.025,0:03:26.345 このデジタルデータは[br]光速を上限とする古典的な通信手段― 0:03:26.345,0:03:31.736 電波やマイクロ波[br]あるいは光ファイバーなどで送られます 0:03:31.736,0:03:34.715 このデジタル情報を得るために[br]粒子を計測すると 0:03:34.715,0:03:37.015 その粒子の量子情報は破壊されます 0:03:37.015,0:03:39.898 つまり ボールをバンガロールへ転送すると 0:03:39.898,0:03:42.436 ボストンでは[br]消えてなくなってしまいます 0:03:42.936,0:03:44.859 不確定性原理のおかげで 0:03:44.859,0:03:48.316 テレポーテーションによって[br]ボールに関する情報が2都市間を移動しますが 0:03:48.316,0:03:51.626 同じものが複数存在することはありません 0:03:52.256,0:03:56.207 原理的には 物体を [br]人間さえ テレポートできるはずですが 0:03:56.207,0:04:00.226 今のところ 大きな物体を構成する― 0:04:00.226,0:04:04.002 1兆の1兆倍以上の原子の[br]量子状態を計測し 0:04:04.002,0:04:06.288 別の場所で再構成するのは[br]出来そうにありません 0:04:06.538,0:04:10.628 この作業の複雑さと[br]必要とするエネルギーは天文学的です 0:04:10.628,0:04:14.928 今のところ 1個の電子や原子は[br]確実にテレポートできます 0:04:14.928,0:04:17.739 これにより[br]将来の量子コンピュータで使える 0:04:17.739,0:04:20.239 解読が絶対に不可能な暗号を[br]作れるようになるでしょう 0:04:20.949,0:04:25.059 量子テレポーテーションの[br]哲学的な意味は難解です 0:04:25.059,0:04:29.109 テレポートの対象は[br]実体がある物質のように 0:04:29.109,0:04:30.870 実際に空間を移動する訳ではありません 0:04:31.270,0:04:35.768 また 実体のない情報のように[br]空間を伝わる訳でもありません 0:04:35.768,0:04:37.984 どちらもあまり関係ないようです 0:04:37.984,0:04:40.959 量子物理学によって[br]宇宙に存在する全ての物質が 0:04:40.959,0:04:45.250 壊れやすい情報の集まりだとする[br]奇妙で新しい見方を手に入れました 0:04:45.250,0:04:50.870 量子テレポーテーションで このもろい情報に[br]影響を及ぼす新しい方法を見つけました 0:04:51.000,0:04:53.883 忘れないでください[br]決してできないとは決して言わないことを 0:04:53.883,0:04:55.441 わずか100年と少しの間に 0:04:55.441,0:04:59.001 人類は 原子のスケールでの[br] 0:04:59.001,0:05:01.801 電子のふるまいを[br]新たに理解することに始まり 0:05:01.801,0:05:05.228 部屋の中で電子を確実に[br]テレポートできるまでに至りました 0:05:06.098,0:05:09.051 量子テレポーテーションを[br]技術的に使いこなすことも 0:05:09.051,0:05:12.412 1千年または1万年のうちに[br]できるのでしょうか? 0:05:12.412,0:05:15.273 時間と空間だけが[br]その答えを知っています