0:00:01.136,0:00:04.209 80年代の名作映画[br]『ブルース・ブラザース』の中に 0:00:04.389,0:00:08.983 ジョン・ベルーシがダン・エイクロイドの[br]アパートを訪ねて 0:00:09.183,0:00:11.506 初めてシカゴに来る場面があります 0:00:11.946,0:00:14.187 狭苦しい 窮屈な部屋の 0:00:14.497,0:00:17.028 ほんの1mほど脇は線路が走っていて 0:00:18.428,0:00:20.266 ジョンがダンのベッドに座った途端 0:00:20.466,0:00:22.719 列車が駆け抜けて 0:00:22.929,0:00:25.003 部屋中のあらゆる物を揺らします 0:00:25.153,0:00:28.843 ジョンが「あの列車はよく通るのかい」[br]と聞くと 0:00:29.023,0:00:32.912 ダンが答えて「いつもかな[br]そのうち気にならなくなるよ」 0:00:33.292,0:00:36.198 その途端 何かが壁から落っこちる 0:00:36.918,0:00:38.712 ダンの話には思い当たりますね 0:00:38.872,0:00:41.713 私達人間は 毎日の出来事に慣れるのです 0:00:41.883,0:00:43.080 あっというまにね 0:00:43.430,0:00:46.814 プロダクトデザイナーである私の仕事は[br]そうした毎日の出来事に目を向け 0:00:46.984,0:00:50.521 感じ取って 改善するきっかけをつかむ事です 0:00:51.365,0:00:54.491 例えば この果物 0:00:56.211,0:00:58.371 小さなシールが ありますね 0:00:59.211,0:01:01.666 このシールは私が子供の頃には[br]ありませんでしたが 0:01:02.626,0:01:04.544 その後 あるときに 0:01:04.694,0:01:07.075 誰かが これを果物に貼ろうと[br]ひらめいたのです 0:01:07.285,0:01:11.058 なぜって その方が スーパーのレジで[br]支払うのが 簡単になるからです 0:01:11.558,0:01:14.456 すごいですね お店に入って[br]すぐに出てこれるんだから 0:01:14.706,0:01:16.784 でもここで 新たな問題も生じます 0:01:17.254,0:01:19.283 帰宅して お腹が空いたなという時に 0:01:19.443,0:01:22.743 美味しそうに熟した果物を[br]カウンターの上に見つける 0:01:22.874,0:01:25.054 以前なら 取ってすぐ食べたでしょうが 0:01:25.314,0:01:26.689 今では まず 0:01:27.099,0:01:29.715 この小さなシールを探さないと[br]いけません 0:01:30.347,0:01:34.501 爪で剥がそうとするうちに[br]果肉も潰してしまったりして 0:01:34.962,0:01:36.601 この丸まったシールがまた 0:01:36.641,0:01:37.676 お分かりですね 0:01:37.756,0:01:40.065 振っても振っても指からとれない 0:01:40.195,0:01:43.556 (笑) 0:01:43.956,0:01:45.456 腹が立ちますね 0:01:45.626,0:01:46.647 まったく 0:01:47.777,0:01:49.682 でもそこで面白い事が起こるんです 0:01:49.992,0:01:52.943 確かに最初はこう思うでしょう 0:01:53.075,0:01:55.280 果物を食べる ただそれだけの事に 0:01:55.460,0:01:58.257 腹を立ててるんです もどかしくて 0:01:58.401,0:02:00.025 でも10回目ともなると 0:02:00.165,0:02:02.641 それほどイライラすることもなくなり 0:02:02.721,0:02:05.901 淡々とシールを剥がし始めるようになる 0:02:06.071,0:02:08.479 100回目ともなれば 少なくとも私なら 0:02:08.590,0:02:09.931 何も感じなくなりますね 0:02:10.211,0:02:12.863 ただただ果物を つまみあげて 0:02:13.583,0:02:17.015 爪で剥がして[br]指から払いのけて 0:02:17.215,0:02:18.771 ふと気がついて 0:02:18.931,0:02:20.870 あれもうはがしたんだっけ? 0:02:23.520,0:02:24.834 なぜでしょう? 0:02:24.974,0:02:27.126 なぜ毎日の出来事に 慣れるのかといえば 0:02:27.256,0:02:29.924 ヒトの脳は有限だからです 0:02:30.274,0:02:34.703 なので脳は毎日の出来事を[br]習慣としてコーディングし 0:02:35.043,0:02:38.190 新たな何かを学ぶための[br]余地を確保するんです 0:02:38.510,0:02:40.342 これは習慣化と呼ばれるプロセスで 0:02:40.622,0:02:44.076 ヒトが学ぶ上での[br]最も 基本的な方法の1つです 0:02:45.596,0:02:47.765 さて 習慣化は悪いことではありません 0:02:48.815,0:02:50.621 自動車教習の事を思い出してみましょう 0:02:50.911,0:02:52.089 私には印象的でした 0:02:52.939,0:02:55.887 ハンドルの10時と2時を握りしめて 0:02:56.227,0:02:58.325 周りの全ての物を注視する 0:02:58.495,0:03:01.455 車や 信号や 歩行者など 0:03:01.605,0:03:03.916 神経をすり減らす体験ですね 0:03:04.766,0:03:08.350 あんまり緊張してるから[br]一緒に乗っている誰とも話せず 0:03:08.520,0:03:10.450 音楽を聴くことすらできませんでした 0:03:10.840,0:03:12.779 ところがここでも面白い事が起こります 0:03:12.949,0:03:17.529 幾週か経つうちに どんどん[br]運転が簡単になってくる 0:03:18.139,0:03:19.447 習慣化した訳です 0:03:20.647,0:03:22.914 そうなると楽しくなって[br]元からそう出来た気にすらなり 0:03:23.324,0:03:26.271 また友人とも 話せるようになるし[br]音楽も 聴けるようになりました 0:03:26.490,0:03:29.059 つまり 脳が物事を習慣化するのには[br]それなりの理由があるのです 0:03:29.189,0:03:32.362 もし習慣化しなければ[br]私達はすべての細部に対して 0:03:32.552,0:03:34.167 常に目がいくようになって 0:03:34.527,0:03:36.105 疲労困憊してしまう 0:03:36.295,0:03:38.687 さらに何かを新たに学ぶような[br]時間も無くなってしまいますから 0:03:40.247,0:03:43.387 でも時によっては[br]習慣化がよくない事もあります 0:03:44.257,0:03:47.592 習慣化によって自分の周囲の[br]問題に気がつかないようでは 0:03:47.812,0:03:48.843 まずいですね 0:03:49.203,0:03:52.606 さらに気がつかないが故に[br]解決もできないとあっては 0:03:52.726,0:03:54.843 問題は深刻です 0:03:55.673,0:03:57.656 コメディアンはそれをよく知ってます 0:03:57.906,0:04:02.281 ジェリー・サインフェルドのネタは全部[br]彼の気付いた 些細な出来事から来ています 0:04:02.721,0:04:05.268 私達が 事あるごとにしでかす[br]ヘマのあれこれ 0:04:05.368,0:04:06.878 思い出しすらしないような 0:04:07.878,0:04:10.395 彼が友人を訪ねた時の話があります 0:04:10.615,0:04:12.831 シャワーを浴びて サッパリしようとして 0:04:13.001,0:04:16.688 ハンドルに手を伸ばして ちょこっと動かすと 0:04:16.940,0:04:19.093 とんでもない熱湯が吹き出して 0:04:19.642,0:04:23.265 慌てて戻すと今度は とんでもなく冷たくなる 0:04:23.435,0:04:25.558 ただのシャワーでもこの有様 0:04:25.778,0:04:27.731 誰しも身に覚えのある事ですが 0:04:27.941,0:04:29.516 私達の誰もそれを思い出しはしない 0:04:29.696,0:04:32.358 でもジェリーは違いました[br]さすがはプロですね 0:04:32.892,0:04:36.012 ですが デザイナーや革新者 あるいは[br]起業家といった人々にとっては 0:04:36.182,0:04:38.589 そうした出来事に気づくのみならず 0:04:38.589,0:04:41.525 さらに踏み込んで 解決する事こそが[br]仕事なのです 0:04:43.276,0:04:46.392 こちらは[br]メアリー・アンダーソンという人物です 0:04:46.581,0:04:50.108 1902年のニューヨークを[br]彼女は旅行中でした 0:04:50.796,0:04:55.614 その日は寒く湿った雪の日で[br]彼女は暖かな路面電車に乗っていました 0:04:57.226,0:05:02.133 途中で彼女は 運転士が窓を開けて[br]窓の雪を払いのけて 0:05:02.323,0:05:07.128 視界を確保しようとしているのに[br]気づきました 0:05:08.258,0:05:11.574 しかし彼が窓を開けた途端に[br]冷たく湿った空気が車内に流れ込んで 0:05:11.654,0:05:13.819 乗客はみんなげんなり 0:05:15.019,0:05:17.952 さておそらくこの時 ほとんどの乗客は[br]こうとしか考えなかったはずです 0:05:18.122,0:05:21.133 「しょうがない 窓を拭くには[br]開けるしかないんだから 0:05:21.373,0:05:22.766 そりゃそうだ」とね 0:05:23.006,0:05:24.541 ところがメアリーは違いました 0:05:24.711,0:05:26.010 彼女が考えたのは 0:05:26.140,0:05:29.654 「運転手が車内からフロントガラスを[br]拭く事が できれば 0:05:29.844,0:05:33.002 安全に運転を続けられるし 0:05:33.122,0:05:36.063 乗客も暖かいままでいられるじゃない?」 0:05:36.603,0:05:39.155 次の瞬間 彼女はスケッチブックを[br]引っ張り出して 0:05:39.355,0:05:43.986 のちに世界初の フロントガラス用[br]ワイパーとなるものを描き始めたのです 0:05:44.924,0:05:49.044 さて プロダクトデザイナーである私もまた[br]彼女のような人々に習って 0:05:49.198,0:05:51.843 世界をありのままに見るべく 0:05:51.973,0:05:54.047 思い込みを捨てようと努めています 0:05:54.534,0:05:58.881 なぜなら 誰もが気付くような問題の解決は[br]簡単ですが 0:05:59.894,0:06:03.674 誰もが見逃すような問題の解決こそが[br]難しいからです 0:06:04.441,0:06:06.829 生まれつきできる人も[br]できない人もいるのだ 0:06:06.919,0:06:08.810 と言う人もいます 0:06:08.950,0:06:13.683 メアリー・アンダーソンも天与の才で[br]真実を見抜いていたのだとね 0:06:14.493,0:06:16.633 私の場合で言えば そうではありませんでした 0:06:16.813,0:06:19.186 単にそうするだけの理由があったんです 0:06:19.536,0:06:21.975 私がAppleにいた数年の間 0:06:22.205,0:06:26.512 スティーブ・ジョブズが求めたことは[br]毎日仕事場に来たときに 0:06:27.162,0:06:30.916 自分達の製品を 顧客の目線で[br]とらえること 0:06:31.126,0:06:32.503 それも新規顧客の目線です 0:06:32.703,0:06:35.689 最新テクノロジーで出来た製品が[br]すぐに使えるだろうかと 0:06:35.829,0:06:38.830 怖れ あるいは欲求不満や[br]さらに高揚感に包まれた 0:06:38.960,0:06:40.851 そんな人からどう見えるか 0:06:41.471,0:06:43.575 初心者であり続けろと言い 0:06:43.705,0:06:47.527 私達に 常に細部に注目するように求める事で 0:06:47.687,0:06:51.845 新規顧客が製品をより早く より簡単に [br]滞りなく使えるように望みました 0:06:52.558,0:06:56.665 特に最初期のiPodは その事を思い出させます 0:06:57.028,0:06:58.548 90年代には 0:06:58.698,0:07:01.127 私もまたガジェットおたくでしたから 0:07:03.107,0:07:08.002 いつも最先端のガジェットを求めて[br]お店に急いだものでした 0:07:09.201,0:07:11.263 時間をかけてお店に着いたら 0:07:11.353,0:07:14.744 支払いをすませて 家に帰ると [br]パッケージを開ける 0:07:14.964,0:07:18.710 するとそこには 例の小さなシール 0:07:18.890,0:07:21.595 「使用前に充電してください」とあります 0:07:21.845,0:07:23.173 何だって! 0:07:23.553,0:07:24.558 信じられない! 0:07:24.678,0:07:26.624 こんな時間をかけて買った[br]製品なのに 0:07:26.734,0:07:28.768 その上 今度は「使用前に充電」だって? 0:07:28.768,0:07:33.158 憧れの新品の前での おあずけは[br]永遠にも感じられました 0:07:33.298,0:07:34.850 どうにかしてましたね 0:07:34.990,0:07:37.745 でもなんと 当時は [br]ほぼ全ての製品が同様だったのです 0:07:37.838,0:07:42.023 充電池が内蔵されている製品は全て[br]使う前に充電する必要があった 0:07:42.520,0:07:44.966 これに気付いたのがジョブズです 0:07:45.136,0:07:45.967 そして言いました 0:07:45.967,0:07:48.565 「ウチの製品ではこんな事が無いようにする」 0:07:48.725,0:07:50.293 どうしたでしょうか 0:07:50.413,0:07:53.499 典型的なハードディスク内蔵型の[br]製品ならば 0:07:53.659,0:07:56.082 工場で 30分程動かして 0:07:56.162,0:07:59.311 顧客が購入してから何年か経っても 0:07:59.431,0:08:02.185 動作するよう確かめるのです 0:08:02.385,0:08:04.721 その代わりにあることをしました 0:08:05.161,0:08:07.751 製品を2時間以上動作させることにしたんです 0:08:07.961,0:08:08.989 理由は? 0:08:09.179,0:08:12.084 まず そもそも製品の品質を[br]高めることができます 0:08:12.254,0:08:14.254 その方が検査も簡単だし 0:08:14.404,0:08:17.346 顧客に対しても良い物を届けられます 0:08:17.756,0:08:19.009 でもさらに大事なのは 0:08:19.159,0:08:22.874 それにより充電が完了し 箱から出すとすぐに製品を使えることでした 0:08:23.124,0:08:26.026 高揚感に包まれたあの顧客が 0:08:26.176,0:08:28.544 すぐに使い始められるようになったんです 0:08:28.684,0:08:31.914 素晴らしいことで 効果的も抜群[br]大好評でした 0:08:32.337,0:08:35.345 今では 充電池で動く製品のほとんどが 0:08:35.455,0:08:37.288 完全に充電されて箱から出てきます 0:08:37.508,0:08:39.561 ハードディスクのない製品でもそうです 0:08:39.971,0:08:44.745 当時私達が気付いて解決した小さなことは 0:08:44.905,0:08:47.073 今や誰もがやることになりました 0:08:47.253,0:08:49.894 「使用前の充電」は もはやありえない事です 0:08:50.504,0:08:52.561 なぜこんな話をするかというと 0:08:52.701,0:08:54.679 自明な問題に目を向けるだけでなく 0:08:54.809,0:08:58.910 見えない問題に目を向ける事こそが[br]重要だからです 0:08:59.400,0:09:02.240 製品デザインにとどまらず[br]私達のやる事全てに言える事でしょう 0:09:02.502,0:09:05.656 実際 私達の身の回りは[br]見えない問題だらけで 0:09:06.056,0:09:08.202 解決こそできますが 0:09:08.462,0:09:12.286 その為にはまず それらを見つけて[br]感じ取らなければならない 0:09:12.996,0:09:14.964 さてここで いささか躊躇しつつも 0:09:15.044,0:09:17.515 神経科学や心理学的なコツに話を進めます 0:09:17.695,0:09:20.549 TEDコミュニティには専門家が[br]大勢いて 0:09:20.689,0:09:23.913 私より精通されています 0:09:24.083,0:09:26.560 それでも 私が実行しているコツを[br]ご紹介しましょう 0:09:26.710,0:09:30.103 誰にでもできる 習慣化への抵抗です 0:09:30.383,0:09:33.597 1つめは 視野をより広げること 0:09:33.777,0:09:35.749 何かの問題に取り組んでいると 0:09:35.889,0:09:39.101 その問題の要因が山のようにあったり 0:09:39.281,0:09:42.091 解決にも膨大な手間がかかったり[br]という時がありますが 0:09:42.351,0:09:45.540 そんな時 一歩下がって より広く見てみると 0:09:45.700,0:09:48.771 それらを変える余地に 気が付いたりします 0:09:48.977,0:09:50.337 問題の要因や解決法をひとつにまとめたり 0:09:50.487,0:09:53.672 全く新しい方法でそれらを取り除いたり[br]できるかもしれません 0:09:54.098,0:09:56.079 例としてサーモスタットを挙げます 0:09:56.249,0:09:59.137 1900年代に売りだされた当時は[br]使い方は全く単純でした 0:09:59.247,0:10:01.399 設定温度を 上げるか下げるかだけ 0:10:01.579,0:10:03.679 誰でも理解できました 0:10:04.019,0:10:05.592 ところが1970年代に 0:10:05.772,0:10:07.696 エネルギー危機が持ち上がった 0:10:07.846,0:10:11.206 顧客の関心は エネルギーの節約に[br]向かいました 0:10:11.416,0:10:12.703 それならということで 0:10:12.703,0:10:15.561 サーモスタットのデザイナーも[br]新たな機能を加えました 0:10:15.731,0:10:17.421 設定温度の上げ下げはやめて 0:10:17.651,0:10:19.362 プログラムで操作するようにしました 0:10:19.522,0:10:22.430 決まった時間に決まった温度に[br]なるよう設定できる 0:10:22.640,0:10:24.296 いいじゃないかということで 0:10:24.486,0:10:27.784 あらゆるサーモスタットが[br]その仕様を取り入れ始めました 0:10:28.064,0:10:32.130 しかしその後 誰一人としてエネルギーを[br]節約できていないことがわかったんです 0:10:32.340,0:10:33.673 なぜか? 0:10:33.853,0:10:36.448 人間が未来を予知できなかったからです 0:10:36.588,0:10:40.136 季節ごと 年ごとの気温のズレを[br]週単位で前もって知ることのできる人は 0:10:40.136,0:10:41.634 いませんからね 0:10:42.414,0:10:44.745 だから節約できた人もいなかった 0:10:44.745,0:10:45.727 さあどうしましょう 0:10:45.727,0:10:48.350 設計者たちは再検討して 0:10:48.350,0:10:50.392 特にプログラム機能を見直しました 0:10:50.942,0:10:53.409 設定画面をわかりやすくして 0:10:53.409,0:10:55.575 取り扱い説明書も改訂したんです 0:10:55.575,0:11:00.305 でも数年経ってみても 相変わらず[br]節約できた人は 全くいませんでした 0:11:00.305,0:11:02.901 未来予知できる人はいませんからね 0:11:03.431,0:11:04.909 では私達はどうしたか? 0:11:04.909,0:11:08.978 プログラム機能の代わりに[br]機械学習の仕組みを取り入れました 0:11:08.978,0:11:11.676 温度を上げ下げするタイミングだけを[br]記録することにして 0:11:11.676,0:11:14.270 朝起きてちょうどよい[br]室温だった時とか 0:11:14.270,0:11:15.977 外出するタイミングを把握したんです 0:11:15.977,0:11:17.245 そしたらなんと 0:11:17.245,0:11:18.422 効果があったんですね 0:11:18.422,0:11:21.639 エネルギーの節約には[br]プログラムなど必要なかった 0:11:23.089,0:11:25.466 ですから 何をするのであれ 0:11:25.466,0:11:28.512 一歩引いて 問題全体を見渡せば 0:11:28.512,0:11:31.533 個々の事象を取り除いたり まとめたりして 0:11:31.533,0:11:34.047 プロセス全体を 断然シンプルに[br]できるかもしれない 0:11:35.007,0:11:38.084 「より視野を広げる」とはそういう事です 0:11:38.084,0:11:42.065 2つ目のコツは「より近くで見る」です 0:11:42.065,0:11:45.096 私の最高の先生の一人に 祖父がいました 0:11:47.006,0:11:48.907 世界の全てについて教わりましたね 0:11:49.557,0:11:53.049 物がいかにして作られているか[br]どのように修理すべきか 0:11:53.049,0:11:56.771 そのために必要なツールや[br]技術などについてです 0:11:57.671,0:12:01.818 祖父の話の1つにネジの話があり 0:12:02.048,0:12:05.548 それは正しくネジを使い分ける事の[br]大切さについてでした 0:12:05.678,0:12:07.617 ネジには多くの種類があって 0:12:07.617,0:12:12.177 木ネジ 金属ネジ アンカー付き[br]コンクリート用など 0:12:12.377,0:12:14.102 数え上げればきりがありません 0:12:15.092,0:12:18.365 私達の仕事は [br]特別な技術なしに 誰もが簡単に 0:12:18.485,0:12:22.139 自分で製品を[br]取り付けられるように[br]することです 0:12:22.699,0:12:24.120 そうするために 0:12:24.560,0:12:27.445 私は祖父のネジの話を思い出して 0:12:27.575,0:12:28.848 みんなで考えました 0:12:28.928,0:12:31.428 「製品の箱に入れるネジは[br]何種類がいいのだろう? 0:12:31.428,0:12:34.278 2、3、4、5種類?」 0:12:34.278,0:12:36.414 一口に壁と言っても多種多様ですから 0:12:36.574,0:12:39.134 いろいろ考えて 最適な選択として 0:12:39.304,0:12:43.115 2〜3種類のネジを[br]箱に同梱する事にしました 0:12:43.765,0:12:45.972 問題は解決したかに見えましたが 0:12:46.102,0:12:48.527 そうではなかったのです 0:12:49.427,0:12:51.058 製品を出荷しましたが 0:12:51.158,0:12:53.548 受け取った人々の反応は[br]よくありませんでした 0:12:54.128,0:12:56.926 そこでどうしたか 0:12:57.086,0:13:00.145 駄目だとわかったら即座に[br]設計に戻りました 0:13:00.425,0:13:03.869 そして特別な 専用のネジを開発したんです 0:13:04.269,0:13:06.440 投資家達はおかんむりで 0:13:06.670,0:13:09.692 「ちっぽけなネジひとつに[br]いつまで時間をかけるつもりだ」とか 0:13:09.862,0:13:11.861 「営業で売り上げを伸ばせ」とか言うので 0:13:11.861,0:13:15.184 「伸びますよ ネジ次第ではね」と答えました 0:13:15.904,0:13:17.494 実際そうできたんです 0:13:17.594,0:13:20.708 この小さな特製のネジであれば[br]箱に入れるネジは1種類ですみ 0:13:20.888,0:13:23.995 製品への取り付けも簡単[br]壁への取り付けも簡単でした 0:13:25.525,0:13:31.625 つまり 誰も気にとめないような[br]小さな部分に着目して 0:13:32.404,0:13:34.048 こう考えることも大切だということ 0:13:34.228,0:13:38.136 「これは本当に大事なのか それとも[br]ただの習慣でこうしてるだけなのか? 0:13:38.316,0:13:41.200 もしそうなら 止めてもいいかも」とね 0:13:42.220,0:13:46.839 最後のコツです「より若く考えること」 0:13:48.179,0:13:52.335 毎日のように私は 3人の子供のおかしな[br]質問の 矢面に立っています 0:13:52.545,0:13:54.106 その質問は例えば 0:13:54.316,0:13:57.034 なんで車は飛ばないの?とか 0:13:57.644,0:14:01.420 何でマジックテープじゃなくて靴ヒモなの? 0:14:02.490,0:14:04.549 時には鋭い質問も 飛び出します 0:14:05.409,0:14:07.437 先日 そばに寄ってきた子供に 0:14:07.597,0:14:10.743 「ちょっと郵便受けを見て来てよ」[br]と頼んだんですが 0:14:11.123,0:14:14.891 彼は私を見て 困ったように言うには 0:14:15.311,0:14:19.935 「なんで郵便受けが自分で見て[br]教えてくれないのかな?」 0:14:20.545,0:14:23.878 「やられたな」と思いましたね 0:14:24.878,0:14:27.322 このように彼らの疑問は尽きないので 0:14:27.492,0:14:31.980 時には正しい答えが[br]見つからないこともあります 0:14:32.210,0:14:37.727 そんな時 私達は「まあ そんなもんだよ」[br]と答えますね 0:14:37.887,0:14:40.267 大人は何かに頻繁に接することで 0:14:40.437,0:14:42.444 それに慣れていくのですが 0:14:42.764,0:14:44.784 子供はそこまで長く生きて[br]いませんから 0:14:44.894,0:14:46.604 慣れることもありません 0:14:46.794,0:14:48.491 ですから問題に直面すると 0:14:48.611,0:14:50.674 その場で解決しようとします 0:14:50.834,0:14:53.146 その結果 よりよい方法が生まれる時もあり 0:14:53.286,0:14:55.990 それが実はかなり[br]いい方法だったりするんですね 0:14:56.280,0:15:01.599 ということで 心底覚えておきたいコツ[br]チームに若い人々を入れること 0:15:01.699,0:15:04.055 精神的に若い人でも構いません 0:15:04.225,0:15:06.626 なぜならそこに若い精神がいれば 0:15:06.786,0:15:09.596 チームの誰もに若く考える余地が[br]生まれるからです 0:15:09.776,0:15:13.870 ピカソは言いました[br]「子供は初めから芸術家だ 0:15:14.270,0:15:20.186 問題は大人になっても 芸術家のままで居られるかどうかだ」 0:15:21.595,0:15:25.544 私達も 世界を初めて目にした時には[br]もっと明瞭に見ていたはずなんです 0:15:25.734,0:15:28.608 習慣化の人生が始まる前にはね 0:15:28.828,0:15:31.171 私達に課された挑戦とは[br]そこに戻るということ 0:15:31.341,0:15:33.436 イライラする感覚を味わい 0:15:33.586,0:15:35.746 些細なことに気を留めながら 0:15:35.926,0:15:37.486 より広い視野を保ちつつも 0:15:37.666,0:15:39.292 より近視眼的に見て 0:15:39.422,0:15:41.362 より若い思考を試みる事で 0:15:41.652,0:15:43.860 いつでも初心者であり続ける事 0:15:43.980,0:15:45.273 簡単ではないですよ 0:15:45.363,0:15:47.358 何せ私達が世界を理解する[br]一番基本的な手立てを 0:15:47.458,0:15:50.109 傍に押しやることになるんだから 0:15:51.519,0:15:52.562 でもそれができれば 0:15:52.732,0:15:54.943 本当にすごいことができるはずなんです 0:15:55.243,0:15:57.890 私にとってそれは よりよい製品の[br]デザインということになりますが 0:15:58.700,0:16:03.187 皆さんにとっても それ以外の[br]力強い何かが できるはず 0:16:06.105,0:16:08.989 私達に課された挑戦とは[br]毎朝目を覚ますたびに 0:16:09.169,0:16:12.134 「世界をもっと深く体験しなきゃ」と[br]口にすること 0:16:12.344,0:16:13.344 そうすれば 0:16:14.634,0:16:15.513 もしかすると 0:16:15.593,0:16:17.214 本当にもしかすれば 0:16:17.324,0:16:19.066 なくせるかもしれない 0:16:19.236,0:16:21.168 あの 小癪な シールをね 0:16:22.248,0:16:23.797 ありがとうございました 0:16:23.797,0:16:26.274 (拍手)