1 00:00:06,713 --> 00:00:10,030 警察で 犯人特定のための 面通しが行われています 2 00:00:10,030 --> 00:00:15,631 事件現場から逃走する銀行強盗を 目撃した10人が集められました 3 00:00:15,631 --> 00:00:18,274 このうち6人が同じ人を指せば 4 00:00:18,274 --> 00:00:21,204 その人物が真犯人の可能性が 高いでしょう 5 00:00:21,204 --> 00:00:23,015 10人全員が同じ答えだったら 6 00:00:23,015 --> 00:00:25,209 もう間違いない と思うかもしれませんが 7 00:00:25,209 --> 00:00:27,255 実はそれは間違いです 8 00:00:27,255 --> 00:00:29,728 こう言うと とても奇妙に 聞こえるでしょう 9 00:00:29,728 --> 00:00:34,693 この社会では多くのことが 「多数決」「意見の一致」で動いています 10 00:00:34,693 --> 00:00:35,693 政治も 11 00:00:35,693 --> 00:00:36,693 ビジネスも 12 00:00:36,693 --> 00:00:37,751 娯楽もそうです 13 00:00:37,751 --> 00:00:42,030 ですから 意見の一致が多い方が良い と考えるのは自然ですし 14 00:00:42,030 --> 00:00:44,863 あるところまでは 通常 その通りです 15 00:00:44,863 --> 00:00:48,986 でも時に 意見の一致が 完全なものに近づくにつれ 16 00:00:48,986 --> 00:00:52,590 その信頼性は低くなります 17 00:00:52,590 --> 00:00:56,032 「満場一致のパラドックス(矛盾)」 と呼ばれる現象です 18 00:00:56,032 --> 00:00:58,347 この明らかな矛盾をひも解くカギは 19 00:00:58,347 --> 00:01:01,894 対象となっている状況に 20 00:01:01,894 --> 00:01:05,783 どれくらいの不確実性があるかを 考えることにあります 21 00:01:05,783 --> 00:01:09,936 例えば この中で リンゴがどれか聞いたとしたら 22 00:01:09,936 --> 00:01:13,389 満場一致であっても 不思議ではないでしょう 23 00:01:13,389 --> 00:01:17,500 一方 ある程度違いがあるのが当然 と思われる事柄については 24 00:01:17,500 --> 00:01:21,334 答えにも幅が出る と考えるべきなのです 25 00:01:21,334 --> 00:01:23,460 100回 硬貨を投げたら 26 00:01:23,460 --> 00:01:28,156 約半分の割合で表が出る と考えますよね 27 00:01:28,156 --> 00:01:31,541 でも 表ばかりが出だすと 28 00:01:31,541 --> 00:01:34,177 何かおかしいと疑い始めます 29 00:01:34,177 --> 00:01:35,972 硬貨の投げ方ではなくて 30 00:01:35,972 --> 00:01:39,001 硬貨自体に疑いを持ちます 31 00:01:39,001 --> 00:01:43,806 もちろん 容疑者の特定は 硬貨投げほどランダムなことではなく 32 00:01:43,806 --> 00:01:48,339 バナナとリンゴを見分けるほど 明快なものでもありません 33 00:01:48,339 --> 00:01:54,203 事実 1994年に行われたある研究では 目撃者の48%近くが 34 00:01:54,203 --> 00:01:56,967 面通しで間違った人を選ぶ傾向にあり 35 00:01:56,967 --> 00:02:00,312 しかも 多くが答えに自信を持っていた と報告されています 36 00:02:00,312 --> 00:02:03,788 一瞬目撃しただけでは その記憶は信ぴょう性に欠けうるのに 37 00:02:03,788 --> 00:02:07,204 私たちは しばしば自らの正確さを 過大評価しがちなのです 38 00:02:07,204 --> 00:02:08,163 とはいえ 39 00:02:08,163 --> 00:02:12,093 全員が同じ人物を指すのは その目撃者が悪いというよりは 40 00:02:12,093 --> 00:02:14,705 システムに起因する誤りという 色合いが強くなります 41 00:02:14,705 --> 00:02:17,024 面通しで言えば 候補者の偏りです 42 00:02:17,024 --> 00:02:21,013 システムによる誤りが生まれるのは 人間の判断に関わることだけではありません 43 00:02:21,013 --> 00:02:23,364 1993年から2008年にかけて 44 00:02:23,364 --> 00:02:28,835 ヨーロッパ各地の複数の犯罪現場で 同じ女性のDNAが発見され 45 00:02:28,835 --> 00:02:34,433 その持ち主が架空の犯人 「ハイルブロンの怪人」とされました 46 00:02:34,433 --> 00:02:40,233 そのDNAの証拠は奇妙な一致を見せていました 間違った証拠だったからです 47 00:02:40,233 --> 00:02:43,963 実は DNAサンプルを収集するのに 使われた綿棒は 48 00:02:43,963 --> 00:02:50,045 出荷工場で働く女性によって 誤って汚染されていたのです 49 00:02:50,045 --> 00:02:54,194 システムによる誤りは 計画的詐欺でも起こります 50 00:02:54,194 --> 00:02:59,218 2002年にサダム・フセインが行った 大統領選挙もその一つです 51 00:02:59,218 --> 00:03:06,368 投票率100%の選挙で 全員が7年の再任を 52 00:03:06,368 --> 00:03:09,456 支持したとされています 53 00:03:09,456 --> 00:03:10,839 このように考えると 54 00:03:10,839 --> 00:03:15,121 満場一致のパラドックスは さほど矛盾したものでもないでしょう 55 00:03:15,121 --> 00:03:18,244 やはり全員の意見が一致するのは 理論上は理想的なことです 56 00:03:18,244 --> 00:03:23,588 特に ばらつきや不確実性が あまりないような場合はそうです 57 00:03:23,588 --> 00:03:24,557 でも実際には 58 00:03:24,557 --> 00:03:29,058 完全な一致が起こりえない状況で それが起こった場合は 59 00:03:29,058 --> 00:03:34,180 システムをゆるがす隠れた要因がある ということなのです 60 00:03:34,180 --> 00:03:37,018 「調和」「意見の合致」を 心から追い求めたとしても 61 00:03:37,018 --> 00:03:42,159 多くの場合 「間違い」や「不一致」があることも 普通なのだと考えるべきです 62 00:03:42,159 --> 00:03:44,696 真実というには完ぺきすぎることは 63 00:03:44,696 --> 00:03:46,343 おそらく そういうことなんです