WEBVTT 00:00:00.930 --> 00:00:02.385 これらは 何てことのないモノです 00:00:02.385 --> 00:00:06.180 時計 鍵 クシ 眼鏡 00:00:06.180 --> 00:00:08.520 それらはボスニアの大虐殺の犠牲者たちのもので 00:00:08.520 --> 00:00:11.517 最期まで身に付けられていたものです 00:00:11.517 --> 00:00:14.240 これらのありふれた 日々の暮らしのモノは 00:00:14.240 --> 00:00:15.974 私たち皆にとってお馴染です 00:00:15.974 --> 00:00:17.559 犠牲者の所持品の中には 00:00:17.559 --> 00:00:20.973 個人的なモノ- 歯磨き粉や歯ブラシといったものがあり 00:00:20.973 --> 00:00:23.492 迫り来る影について 全く心積りもなかったことが 00:00:23.492 --> 00:00:25.320 明らかに示されています 00:00:25.320 --> 00:00:27.711 大抵は 彼らは戦争の捕虜と 00:00:27.711 --> 00:00:30.199 交換されるだろうと告げられました 00:00:30.199 --> 00:00:32.212 これらの品は私の祖国中の 00:00:32.212 --> 00:00:35.050 おびただしい数の墓から回収され 00:00:35.050 --> 00:00:37.580 このように 戦争から20年後 00:00:37.580 --> 00:00:39.714 科学捜査により 新たに発見された大きな墓から 00:00:39.714 --> 00:00:41.250 遺体が発掘されています 00:00:41.250 --> 00:00:45.333 そして おそらくこれまでで最も大きいものです 00:00:45.333 --> 00:00:47.611 90年代初め 4年の戦闘の間に 00:00:47.611 --> 00:00:50.457 荒廃したボスニア連合では 00:00:50.457 --> 00:00:53.888 約3万人の市民  主に民間人が行方不明となり 00:00:53.888 --> 00:00:55.823 彼らは殺されたと推定されています 00:00:55.823 --> 00:00:57.803 さらに10万人が 00:00:57.803 --> 00:00:59.530 戦闘中に殺されたのです 00:00:59.530 --> 00:01:01.159 彼らの殆どは 00:01:01.159 --> 00:01:02.932 戦争の初期か 00:01:02.932 --> 00:01:04.298 スレブレニツァなどの 00:01:04.298 --> 00:01:07.477 国連の安全地帯が セルビア軍の手中に落ちた 00:01:07.477 --> 00:01:10.522 交戦の末期にかけて殺されたのです 00:01:10.522 --> 00:01:12.640 国際刑事裁判所は 00:01:12.640 --> 00:01:14.330 人権に反する犯罪や集団虐殺に対し 00:01:14.330 --> 00:01:17.109 数多くの刑を宣告しました 00:01:17.109 --> 00:01:20.618 集団虐殺は組織的で綿密な 00:01:20.618 --> 00:01:24.288 人種 政治 宗教 あるいは民族集団の 00:01:24.288 --> 00:01:25.960 大量殺人です 00:01:25.960 --> 00:01:28.540 集団殺戮が殺人であるのと同様に 00:01:28.540 --> 00:01:31.561 それは財産を 文化的な遺産を 00:01:31.561 --> 00:01:33.451 そして究極的には 00:01:33.451 --> 00:01:36.713 それらが存在していたという観念そのものを 破壊することなのです 00:01:36.713 --> 00:01:39.210 集団虐殺は殺すことだけではなく 00:01:39.210 --> 00:01:42.383 個の尊厳の否定でもあるのです 00:01:42.383 --> 00:01:43.813 完璧な犯罪などというものはなく 00:01:43.813 --> 00:01:45.532 いつも痕跡があります 00:01:45.532 --> 00:01:48.267 非業の死の遺物- 脆く はかない遺体よりも 00:01:48.267 --> 00:01:50.785 私たちの手前勝手で やがて薄れゆく記憶よりも 00:01:50.785 --> 00:01:54.523 「確かな遺物」があるのです 00:01:54.523 --> 00:01:57.180 これらの品々は 00:01:57.180 --> 00:01:58.352 あまたの集団墓地から発掘され 00:01:58.352 --> 00:02:01.766 品々の回収の主な目的は 00:02:01.766 --> 00:02:03.234 ホロコースト以来 ヨーロッパ大陸初の 00:02:03.234 --> 00:02:06.512 殺戮の最中に 00:02:06.512 --> 00:02:09.482 姿を消した人の身元を特定する 00:02:09.482 --> 00:02:10.905 独自の手順なのです 00:02:10.905 --> 00:02:13.419 全ての遺体は発見され 00:02:13.419 --> 00:02:15.285 身元が特定されるべきなのです 00:02:15.285 --> 00:02:16.650 一旦回収されると 00:02:16.650 --> 00:02:19.573 犠牲者が処刑の際に身に付けていた 00:02:19.573 --> 00:02:21.052 これらの品々は 00:02:21.052 --> 00:02:23.409 丁寧に洗浄し 鑑定され 00:02:23.409 --> 00:02:25.647 目録管理されます 00:02:25.647 --> 00:02:28.797 数千もの芸術品がCSI(科学捜査)で 観たことがあるような 00:02:28.797 --> 00:02:31.200 白いポリ袋に詰められています 00:02:31.200 --> 00:02:33.938 これらの品々は法廷で 00:02:33.938 --> 00:02:36.393 犠牲者の視覚識別に使用されますが 00:02:36.393 --> 00:02:39.640 戦闘中の戦争の犯罪審理においても 00:02:39.640 --> 00:02:42.477 非常に貴重な 法的証拠として使用されます 00:02:42.477 --> 00:02:44.568 生存者は時折 これらの品を立ち合いで 00:02:44.568 --> 00:02:47.119 特定するために呼ばれますが 00:02:47.119 --> 00:02:50.449 物理的な視認は非常に難しく 00:02:50.449 --> 00:02:53.551 非効率で辛いプロセスです 00:02:53.551 --> 00:02:57.344 科学捜査と医者と弁護士が 00:02:57.344 --> 00:02:58.486 一通り検品を終えると 00:02:58.486 --> 00:03:01.417 それらの品々は物語のみなしごとなるのです 00:03:01.417 --> 00:03:04.319 信じられないことに 多くは壊されるか 00:03:04.319 --> 00:03:05.956 無造作に棚にしまわれ 00:03:05.956 --> 00:03:08.198 あっという間に忘れ去られます 00:03:08.198 --> 00:03:10.714 数年前 生存者が楽に閲覧できるように 00:03:10.714 --> 00:03:13.380 発掘された全ての品の 00:03:13.380 --> 00:03:15.281 ビジュアルアーカイブを 00:03:15.281 --> 00:03:18.631 私は作ることにしました 00:03:18.631 --> 00:03:22.688 物語の語り部として 社会に恩返ししたいのです 00:03:22.688 --> 00:03:25.431 注意喚起以上のことをしたいのです 00:03:25.431 --> 00:03:27.615 誰かしら これらの品に見覚えがある 00:03:27.615 --> 00:03:29.216 という場合もあり得ますし 00:03:29.216 --> 00:03:31.912 少なくとも写真は 00:03:31.912 --> 00:03:35.714 起きたことの 歴とした忘れ形見として 00:03:35.714 --> 00:03:37.626 未来永劫 偏見もなく残るわけです 00:03:37.626 --> 00:03:39.764 写真は共感についての何かであり 00:03:39.764 --> 00:03:42.982 これらの品に親しみがあれば 共感を呼び起こします 00:03:42.982 --> 00:03:45.436 ここでは 写真家の私はいわば 00:03:45.436 --> 00:03:47.090 科学捜査のツールに過ぎませんが 00:03:47.090 --> 00:03:49.755 成果物の写真は 公文書と 00:03:49.755 --> 00:03:52.376 同じように語ってくれるものなのです 00:03:52.376 --> 00:03:55.515 行方不明者全ての身元が判明すると 00:03:55.515 --> 00:03:57.288 墓の中は腐り行く遺体だけとなり 00:03:57.288 --> 00:03:59.630 これらの日用品は残存していくでしょう 00:03:59.630 --> 00:04:01.555 地味ながらも 00:04:01.555 --> 00:04:03.762 これらの品は個々の犠牲者の 00:04:03.762 --> 00:04:05.319 最後の証しなのです 00:04:05.319 --> 00:04:07.347 最後の永遠の忘れ形見 00:04:07.347 --> 00:04:09.319 これらの人々がかつて存在していた証し- 00:04:09.319 --> 00:04:11.657 ありがとうございました 00:04:11.657 --> 00:04:15.470 (拍手)