1 00:00:01,309 --> 00:00:06,398 7万年前 我々人類の祖先は 取るに足りない程のちっぽけな動物でした 2 00:00:06,398 --> 00:00:09,411 先史時代の人類について知っておくべき 最も重要なことは 3 00:00:09,411 --> 00:00:12,507 人類は重要な存在でなかったということです 4 00:00:12,507 --> 00:00:17,655 人類がおよぼす地球への影響は クラゲやホタルやキツツキと 5 00:00:17,655 --> 00:00:20,016 大して変らなかったのです 6 00:00:20,643 --> 00:00:24,226 ところが 今日では 人間がこの地球をコントロールしています 7 00:00:24,853 --> 00:00:26,219 ここで疑問が湧きます 8 00:00:26,219 --> 00:00:29,341 いかに その先史時代から ここまでに至ったのか? 9 00:00:29,666 --> 00:00:33,342 アフリカ大陸の片隅で 自分たちが生きるのに精一杯な 10 00:00:33,342 --> 00:00:36,513 取るに足らない存在の類人猿から 11 00:00:36,513 --> 00:00:39,003 地球の支配者になったのか 12 00:00:39,876 --> 00:00:44,880 大抵 この疑問に対し 人間とそのほか全ての動物を比較して 13 00:00:44,880 --> 00:00:47,071 個々の違いに目を向けます 14 00:00:47,412 --> 00:00:50,430 我々が信じたいのは - 私が信じたいのは 15 00:00:50,430 --> 00:00:54,002 人間には 特別な何かがあるということです 16 00:00:54,002 --> 00:00:56,282 人間の身体や脳に 17 00:00:56,282 --> 00:01:02,435 犬や豚やチンパンジーより ずっと優れている 特別な何かがあると信じたがります 18 00:01:03,221 --> 00:01:06,506 しかし 実は 個々の能力のレベルでは 19 00:01:06,506 --> 00:01:09,537 恥ずかしながら チンパンジーと差はないのです 20 00:01:10,029 --> 00:01:15,288 さらに言えば もし私ひとりと一匹のチンパンジーを 孤島に置き去りにした場合 21 00:01:15,288 --> 00:01:20,506 生き残りをかけて必死になりますが どちらが上手く生き延びる可能性があるかー 22 00:01:20,506 --> 00:01:24,776 私なら チンパンジーに賭けますね 23 00:01:25,419 --> 00:01:28,469 これは私に問題があるわけではなくて 24 00:01:28,469 --> 00:01:32,619 ほとんどの人が たった一人で 25 00:01:32,619 --> 00:01:34,608 チンパンジーと孤島に置かれたら 26 00:01:34,608 --> 00:01:37,515 チンパンジーの方が よっぽど生存可能性が高いでしょうね 27 00:01:38,823 --> 00:01:43,032 人間とそのほか全ての動物の 本当の違いは 28 00:01:43,032 --> 00:01:45,133 個々の能力のレベルではなく 29 00:01:45,133 --> 00:01:47,105 集団としての違いにあるのです 30 00:01:47,518 --> 00:01:52,348 人間が地球をコントロールしているのは 人間が唯一 31 00:01:52,348 --> 00:01:57,525 柔軟かつ大勢で協働できる動物だからです 32 00:01:58,167 --> 00:01:59,959 さて ほかの動物でも 33 00:01:59,959 --> 00:02:03,154 蜂や蟻のような社会性のある 昆虫がいますね 34 00:02:03,154 --> 00:02:07,726 多数で協働しています ただ 柔軟性があるわけではないんです 35 00:02:08,098 --> 00:02:10,536 彼らの協働は とても柔軟性に欠けています 36 00:02:11,012 --> 00:02:15,215 ミツバチの巣は基本的に ひとつの方法でのみ機能しています 37 00:02:15,215 --> 00:02:19,050 もし ミツバチが 新しい環境や 初めて遭遇する危険に出くわしても 38 00:02:19,050 --> 00:02:23,617 一夜にして 新しい社会システムに 作り変えることはできません 39 00:02:23,617 --> 00:02:26,521 例えば 女王蜂を処刑して 40 00:02:26,521 --> 00:02:28,451 ミツバチ共和国を設立したり 41 00:02:28,451 --> 00:02:31,893 働き蜂の共産主義独裁政権を設立したり そんなことはできません 42 00:02:32,442 --> 00:02:34,809 ほかにも 社会性のある哺乳類はいます 43 00:02:34,809 --> 00:02:38,707 オオカミや象やイルカやチンパンジーです 44 00:02:38,707 --> 00:02:41,477 彼らは もっと柔軟に協働できます 45 00:02:41,477 --> 00:02:44,842 でも それは少数に限っての場合です 46 00:02:44,842 --> 00:02:47,739 というのも チンパンジーの協働は 47 00:02:47,739 --> 00:02:51,811 チンパンジー同士がお互いを よく知っていなければ成立しません 48 00:02:51,811 --> 00:02:54,603 私はチンパンジー あなたもチンパンジー 49 00:02:54,603 --> 00:02:56,430 あなたと一緒に協働したいんです 50 00:02:56,430 --> 00:02:59,049 あなたのことをよく知る必要があります 51 00:02:59,049 --> 00:03:00,843 あんたはどんなチンパンジー? 52 00:03:00,843 --> 00:03:02,280 善良なチンパンジー? 53 00:03:02,280 --> 00:03:03,957 それとも悪いヤツ? 54 00:03:03,957 --> 00:03:05,425 信頼していい? 55 00:03:05,425 --> 00:03:08,798 あんたのことをよく知りもしないで 協働なんてできるわけないでしょ? 56 00:03:09,676 --> 00:03:13,451 ふたつの能力を持ち合わせ 57 00:03:13,451 --> 00:03:18,771 柔軟性を持って 大勢でも 協働できるのは 唯一我々 58 00:03:18,771 --> 00:03:20,621 ホモ・サピエンスだけなのです 59 00:03:20,973 --> 00:03:25,128 1対1 あるいは 10対10なら 60 00:03:25,128 --> 00:03:27,697 チンパンジーの方が良い成果を出す場合もあります 61 00:03:28,112 --> 00:03:33,315 しかし 1,000人の人間に対し 1,000匹のチンパンジーなら 62 00:03:33,315 --> 00:03:36,957 容易に人間が勝ちます 理由は簡単です 63 00:03:36,957 --> 00:03:40,690 数が1,000匹となると チンパンジーは協働できないからです 64 00:03:41,337 --> 00:03:45,412 10万匹のチンパンジーを オックスフォード・ストリートや 65 00:03:45,412 --> 00:03:49,052 ウェンブリー・スタジアム はたまた 天安門広場やバチカンに 66 00:03:49,052 --> 00:03:51,608 連れてきて押し込んだら 67 00:03:51,608 --> 00:03:54,249 もうそこは完全なるカオスです 68 00:03:54,249 --> 00:03:58,108 想像してみてください ウェンブリー・ スタジアムに10万匹のチンパンジー 69 00:03:58,616 --> 00:03:59,806 大混乱ですよね 70 00:04:00,219 --> 00:04:06,185 対照的に 何万もの人が普通に スタジアムに集まりますが 71 00:04:06,185 --> 00:04:09,273 それでもカオスにはなりませんよね 72 00:04:09,273 --> 00:04:15,360 その代わりに 極めて洗練された 効率的な協力の輪を築きます 73 00:04:16,553 --> 00:04:21,168 これまで人類が成し遂げた偉業は 74 00:04:21,168 --> 00:04:24,451 ピラミッドであれ 月への飛行であれ 75 00:04:24,475 --> 00:04:27,074 それらは全て 個人の才能によるものではなく 76 00:04:27,074 --> 00:04:31,449 大勢が柔軟性をもって協働できるという 人間の能力によるものなのです 77 00:04:31,449 --> 00:04:35,146 このプレゼンテーションひとつを とってもそうです 78 00:04:35,146 --> 00:04:41,154 今 300から400人の観衆の皆さんの前に 立っていますが 79 00:04:41,154 --> 00:04:44,278 ほとんどの方が 私にとって初めて お会いする方々です 80 00:04:44,928 --> 00:04:48,986 同様に このイベントを 運営している人々のことも 81 00:04:48,986 --> 00:04:51,563 私はよく知ってるわけではありません 82 00:04:51,994 --> 00:04:56,647 昨日 飛行機でロンドンまで来ましたが 操縦していたパイロットや搭乗員のことも 83 00:04:56,647 --> 00:04:58,722 私はよく知りません 84 00:04:59,286 --> 00:05:04,699 プレゼンを録画している このマイクやあのカメラを 発明した人や製造した人も 85 00:05:04,699 --> 00:05:07,543 私は知りません 86 00:05:08,123 --> 00:05:12,610 このプレゼンを準備するのに本や論文を 読みましたが その著者たちのことを 87 00:05:12,610 --> 00:05:14,077 私は知りません 88 00:05:14,495 --> 00:05:17,329 そして インターネットで このプレゼンを見る人々 89 00:05:17,329 --> 00:05:21,698 ブエノスアイレスやニューデリーのどこかで 見ている人々のことを 90 00:05:21,698 --> 00:05:23,599 私は もちろん知りません 91 00:05:24,162 --> 00:05:27,695 それにもかかわらず お互いに知らない同士でも 92 00:05:27,695 --> 00:05:33,548 ここでアイデアをグローバルに交換するために 私達は協働することができます 93 00:05:34,081 --> 00:05:37,156 チンパンジーにはこれはできません 94 00:05:37,156 --> 00:05:38,994 もちろん チンパンジーも 95 00:05:38,994 --> 00:05:44,817 お互いにコミュニケーションをしますが 遠く離れたチンパンジーの群れに 96 00:05:44,817 --> 00:05:48,961 バナナや象や その他チンパンジーが興味が ありそうなことについて 97 00:05:48,961 --> 00:05:51,969 遠路はるばるプレゼンしにやってくる チンパンジーなんていません 98 00:05:53,389 --> 00:05:56,903 たしかに 協働がいつも良いわけではありません 99 00:05:56,903 --> 00:06:00,952 これまで人間がしてきた忌まわしいことも 100 00:06:00,952 --> 00:06:03,715 実際 我々がしてきた酷いことも 101 00:06:03,715 --> 00:06:08,888 大規模な協力から生まれたものです 102 00:06:08,888 --> 00:06:11,508 監獄も 協力体制の上に成り立っていますし 103 00:06:11,508 --> 00:06:14,522 大虐殺もそうですし 104 00:06:14,522 --> 00:06:17,907 強制収容所も然りです 105 00:06:17,907 --> 00:06:24,183 チンパンジーの世界には 大虐殺も監獄も強制収容所もありません 106 00:06:24,183 --> 00:06:28,037 皆さんは納得されるでしょう 人間は大勢でも柔軟性をもって 107 00:06:28,037 --> 00:06:33,095 協働することができるから 地球をコントロールするまでになったと 108 00:06:33,516 --> 00:06:36,488 すると 探究心のある方々は 109 00:06:36,488 --> 00:06:39,395 すぐに 次の疑問が湧いてきますよね 110 00:06:39,395 --> 00:06:41,679 まさにどうやって 協働しているのか 111 00:06:42,083 --> 00:06:47,865 ほかの動物にはできないような協働を 可能にするのは何か 112 00:06:49,714 --> 00:06:52,260 答えはズバリ 想像力です 113 00:06:52,998 --> 00:06:58,454 人間は 無数の知らない人たちとも 柔軟性をもって協働することができます 114 00:06:58,454 --> 00:07:02,174 それは この地球上で人間だけが唯一 115 00:07:02,174 --> 00:07:06,797 想像したり架空の物語を作り それを信じることができるからです 116 00:07:07,326 --> 00:07:11,938 全員が 同じフィクションを信じれば 117 00:07:11,938 --> 00:07:15,504 同じルールや基準や価値観に従って 118 00:07:15,504 --> 00:07:17,793 全員が行動します 119 00:07:18,639 --> 00:07:22,562 その他の動物が行うコミュニケーションは 120 00:07:22,562 --> 00:07:25,058 事実を伝えることだけに使います 121 00:07:25,590 --> 00:07:29,831 チンパンジーの場合 「見て!ライオンがいる!逃げろ!」とか 122 00:07:29,831 --> 00:07:33,961 「見て!あっちにバナナの木がある! バナナ取りに行こう!」とかです 123 00:07:33,961 --> 00:07:40,262 対して 人間は事実を伝えるためだけではなく 124 00:07:40,262 --> 00:07:44,786 新しい現実や 架空の現実を創り出すために 言葉を使うのです 125 00:07:45,278 --> 00:07:49,256 人間は「ほら 雲の上に神様がいる 126 00:07:49,256 --> 00:07:51,360 もし私の言う通りにしなかったら 127 00:07:51,360 --> 00:07:54,986 死んだ時に 罰として地獄に 送られてしまうよ」と言えるのです 128 00:07:54,986 --> 00:07:58,782 もし全員が 今私が作ったこの話を信じたら 129 00:07:58,782 --> 00:08:02,621 同じ規範 法律 価値観に従うことになり 130 00:08:02,621 --> 00:08:03,913 協働が可能になります 131 00:08:04,278 --> 00:08:06,628 人間にしかできないことです 132 00:08:07,207 --> 00:08:11,072 バナナを渡すよう チンパンジーを 説得するのに 133 00:08:11,072 --> 00:08:14,889 「死んだら 天国に行けるよ」と約束してもダメです 134 00:08:14,889 --> 00:08:15,936 (笑) 135 00:08:15,936 --> 00:08:19,222 「その善行によって 天国で たっくさんのバナナをもらえるよ… 136 00:08:19,222 --> 00:08:20,668 だからバナナちょうだい」 137 00:08:20,668 --> 00:08:23,776 チンパンジーは 絶対に この話を信じませんよね 138 00:08:23,776 --> 00:08:25,597 人間だけが こういった話を信じる 139 00:08:25,597 --> 00:08:28,597 これが人間が地球をコントロールし 一方で 140 00:08:28,597 --> 00:08:33,442 チンパンジーが動物園や研究所の檻の中に 閉じ込められている理由です 141 00:08:34,904 --> 00:08:37,868 同意いただけると思いますが 142 00:08:37,868 --> 00:08:44,032 宗教では 同じフィクションを信じることで 信者は団結しています 143 00:08:44,032 --> 00:08:49,008 何百万人という人が一緒になって 大聖堂やモスクを建てたり 144 00:08:49,008 --> 00:08:54,774 十字軍やジハードで戦うのは 145 00:08:54,774 --> 00:08:57,487 神 天国 地獄といったことを 皆が信じているからです 146 00:08:57,979 --> 00:09:03,242 しかし ここで強調したいのは 人間がなし得る大規模な協働は どれも 147 00:09:03,242 --> 00:09:09,130 まったく同じメカニズムに もとづいているということです 148 00:09:09,130 --> 00:09:11,674 宗教に限ったことではないのです 149 00:09:11,674 --> 00:09:13,952 法律の分野を例として挙げてみます 150 00:09:14,531 --> 00:09:20,508 現在では 世界の法律制度のほとんどは 人権に対する信念を基本としています 151 00:09:21,247 --> 00:09:23,024 ところで 人権とは何でしょうか? 152 00:09:23,596 --> 00:09:28,322 神や天国と同じように 人権も ホモ・サピエンスが作った話なのです 153 00:09:28,322 --> 00:09:30,664 客観的な現実ではありません 154 00:09:30,664 --> 00:09:34,330 人類になんら生物学的影響をおよぼすものでもありません 155 00:09:34,719 --> 00:09:38,542 人間のカラダを切って開いて 中を見ると 156 00:09:38,542 --> 00:09:43,693 心臓 腎臓 ニューロン ホルモン DNA 157 00:09:43,693 --> 00:09:45,581 でも人権は見つからないでしょう 158 00:09:46,200 --> 00:09:50,145 人権が見つけられるのは 159 00:09:50,145 --> 00:09:54,278 我々が作って ここ数世紀かけて広めてきた 話の中だけです 160 00:09:54,607 --> 00:09:59,561 それらは とても前向きで とてもいい話かもしれませんが 161 00:09:59,561 --> 00:10:03,124 やはり我々が作り上げた架空の話です 162 00:10:03,664 --> 00:10:06,184 これは 政治の分野でも当てはまります 163 00:10:06,565 --> 00:10:12,935 近代政治において最も重要な要素は国家です 164 00:10:13,333 --> 00:10:15,133 ところで 国家とは何でしょうか? 165 00:10:15,593 --> 00:10:17,742 これらも 客観的には実在しません 166 00:10:17,742 --> 00:10:20,479 山は物理的に存在します 167 00:10:20,479 --> 00:10:23,763 見ることができ 触れることができ 匂いを嗅ぐことができます 168 00:10:24,223 --> 00:10:26,019 しかし 国家ー 169 00:10:26,019 --> 00:10:29,823 イスラエル イラン フランス ドイツなど 170 00:10:29,823 --> 00:10:32,587 国家は 人間が作ったストーリーにすぎませんが 171 00:10:32,587 --> 00:10:34,561 その考えは非常によく定着していきます 172 00:10:34,949 --> 00:10:37,453 経済の分野も同様です 173 00:10:37,892 --> 00:10:41,622 グローバル経済で 重要な役割を担っているのが 174 00:10:41,622 --> 00:10:43,884 企業や法人です 175 00:10:44,407 --> 00:10:48,162 おそらく ここにいらっしゃる多くの方が どこかの法人に勤めていると思います 176 00:10:48,162 --> 00:10:51,212 グーグルやトヨタやマクドナルド 177 00:10:51,577 --> 00:10:53,395 これらって つまりは何でしょう? 178 00:10:53,982 --> 00:10:57,929 法律家は これを法的擬制と呼びます 179 00:10:58,359 --> 00:11:03,565 法人も 人間が考案した作り事ですが 強力な魔法使い達によって守られています 180 00:11:03,565 --> 00:11:05,216 まぁ 法律家たちのことですが... 181 00:11:05,216 --> 00:11:06,685 (笑) 182 00:11:06,685 --> 00:11:10,128 法人は 一日中いったい何をやっているのか? 183 00:11:10,128 --> 00:11:12,981 大部分は 金を稼ごうとしているんですよね 184 00:11:13,411 --> 00:11:14,768 ところで お金って何でしょう? 185 00:11:14,768 --> 00:11:19,958 またしても お金とは 客観的には実在せず 客観的価値もありません 186 00:11:19,958 --> 00:11:23,299 この緑色のドル紙幣 187 00:11:23,299 --> 00:11:25,700 見てください 何の価値もありません 188 00:11:25,700 --> 00:11:27,958 食べられないし 飲めないし 189 00:11:27,958 --> 00:11:29,250 着ることもできません 190 00:11:29,633 --> 00:11:33,698 でもこれが優れた語り部の手にかかると 191 00:11:33,698 --> 00:11:35,206 大手の銀行マンや 192 00:11:35,206 --> 00:11:36,670 財務大臣や 193 00:11:36,670 --> 00:11:38,048 首相が語ると 194 00:11:38,048 --> 00:11:40,550 とても説得力のある話になります 195 00:11:40,550 --> 00:11:42,532 「ほら この緑色の紙が見えますね? 196 00:11:42,532 --> 00:11:45,115 これは 実はバナナ10本分の価値が あるんですよ」 197 00:11:45,591 --> 00:11:47,724 もし 私がこれを信じたら そしてあなたも信じたら 198 00:11:47,724 --> 00:11:49,264 みんな信じたら 199 00:11:49,264 --> 00:11:51,152 成立するのです 200 00:11:51,152 --> 00:11:54,089 この価値のない紙っぺらを持って 201 00:11:54,089 --> 00:11:55,750 スーパーマーケットに行って 202 00:11:55,750 --> 00:11:59,781 会ったこともない見知らぬ人に渡して 203 00:11:59,781 --> 00:12:04,466 代わりに バナナを手に入れます バナナは実際に食べられますからね 204 00:12:04,870 --> 00:12:06,615 驚くべきことですよ 205 00:12:06,615 --> 00:12:08,717 チンパンジー相手に これはできません 206 00:12:08,717 --> 00:12:10,686 もちろん チンパンジーも交換はします 207 00:12:10,686 --> 00:12:13,460 「ココナッツをくれたら バナナをあげるよ」 208 00:12:13,460 --> 00:12:14,722 これなら あります 209 00:12:14,722 --> 00:12:17,738 しかし 価値のない紙っぺらを渡されて 210 00:12:17,738 --> 00:12:19,776 バナナをくれってどういうこと? 211 00:12:19,776 --> 00:12:20,952 とんでもない! 212 00:12:20,952 --> 00:12:22,913 僕を人間だとでも思ってるの? 213 00:12:22,913 --> 00:12:24,954 (笑) 214 00:12:24,954 --> 00:12:29,097 実際のところ お金は 人間が考案し 受け継がれてきたものの中で 215 00:12:29,097 --> 00:12:31,777 もっとも成功した例です 216 00:12:31,777 --> 00:12:36,120 全ての人が信じる唯一のストーリーだからです 217 00:12:36,692 --> 00:12:39,506 全員が神を信じているわけではありません 218 00:12:39,506 --> 00:12:42,555 全員が人権を信じているわけではありません 219 00:12:42,555 --> 00:12:45,364 全員が国家主義というわけではありません 220 00:12:45,364 --> 00:12:49,107 ところが お金やドルは 全員が信じるところとなっています 221 00:12:49,514 --> 00:12:51,519 オサマ・ビン・ラディンでさえもです 222 00:12:51,519 --> 00:12:55,230 彼は アメリカの政治と宗教と文化を 223 00:12:55,230 --> 00:12:56,703 憎んでいましたが 224 00:12:56,703 --> 00:12:59,533 アメリカ・ドルに たてつくことはありませんでした 225 00:12:59,533 --> 00:13:02,368 実際のところ 相当好きだったと思います 226 00:13:02,368 --> 00:13:03,555 (笑) 227 00:13:04,166 --> 00:13:05,890 つまりは 228 00:13:05,890 --> 00:13:11,658 人間は 二重の現実にいるので 世界をコントロールしているんです 229 00:13:12,531 --> 00:13:16,444 他の全ての動物は 客観的実在の世界だけに生きています 230 00:13:16,992 --> 00:13:21,568 彼らの現実は 実在的に存在するもので構成されています 231 00:13:21,568 --> 00:13:25,511 川や木やライオンや象のような 実在です 232 00:13:26,067 --> 00:13:29,774 我々人間も 実在の世界に生きています 233 00:13:29,774 --> 00:13:34,842 川や木もあれば ライオンも象もいます 234 00:13:35,421 --> 00:13:37,290 しかし 何世紀にもわたって 235 00:13:37,290 --> 00:13:42,041 この実在の世界に加えて 236 00:13:42,041 --> 00:13:45,558 フィクションの世界という もうひとつの層を形成していったのです 237 00:13:45,558 --> 00:13:49,146 虚構の世界です 238 00:13:49,146 --> 00:13:53,679 国家 神 お金 法人のようなものです 239 00:13:54,481 --> 00:13:59,139 そして 驚くべきことに 歴史の過程で 240 00:13:59,139 --> 00:14:04,559 この架空の現実が よりパワーをもつようになり 241 00:14:04,559 --> 00:14:09,084 今日の世界では この架空の存在が 242 00:14:09,084 --> 00:14:11,715 もっとも力を有しています 243 00:14:11,715 --> 00:14:18,533 今や 川や木やライオンや象が 生き残れるかどうかは まさに 244 00:14:18,533 --> 00:14:23,662 架空の世界の決定や願いにかかっているのです 245 00:14:23,662 --> 00:14:28,223 アメリカ合衆国やグーグルや世界銀行のような 246 00:14:28,223 --> 00:14:32,262 人間の想像の中だけにある存在にかかっているのです 247 00:14:32,929 --> 00:14:34,105 ありがとうございました 248 00:14:34,105 --> 00:14:38,676 (拍手) 249 00:14:41,749 --> 00:14:46,083 ブルーノ・ジュッサーニ: ユバルさん 新しい本を出版されましたね 250 00:14:46,083 --> 00:14:48,360 『Sapiens』出版の後 次の本を執筆して 251 00:14:48,360 --> 00:14:50,971 原書はヘブライ語で まだ翻訳されていないということですが… 252 00:14:50,971 --> 00:14:53,924 ハラーリ: 鋭意 翻訳に取り組んでいるところです 253 00:14:53,924 --> 00:14:56,752 ジュッサーニ: 私の理解が間違ってなければ この本では 254 00:14:56,752 --> 00:15:01,199 いま私達が経験している驚くべき ブレイクスルーについて論じていますね 255 00:15:01,199 --> 00:15:04,052 それは 将来的に 私達の生活を 良くする可能性を秘めているだけではなく 256 00:15:04,052 --> 00:15:06,312 あなたはこう記しています 257 00:15:06,312 --> 00:15:10,954 「まさに産業革命のように 新しい階級や階級闘争をもたらす」と 258 00:15:10,954 --> 00:15:12,177 少し説明していただけますか? 259 00:15:12,670 --> 00:15:14,618 ハラーリ:はい 産業革命では 260 00:15:14,618 --> 00:15:19,544 都市部に労働者階級という 新しい階級が生まれました 261 00:15:19,544 --> 00:15:24,678 過去200年の政治的また社会的な歴史は 262 00:15:24,678 --> 00:15:28,328 この階級の扱い 新たな問題や機会 といったことが大いに関係してきました 263 00:15:28,328 --> 00:15:32,984 そして 今日は 「役に立たない人々」という 巨大な新しい層ができています 264 00:15:32,984 --> 00:15:34,009 (笑) 265 00:15:34,009 --> 00:15:39,394 コンピューターがより多くの分野において より高度に利用されるようになり 266 00:15:39,394 --> 00:15:44,310 多くのタスクにおいて コンピューターが 人間を超越し 267 00:15:44,310 --> 00:15:47,937 人間が不必要になる可能性が はっきりとしてきました 268 00:15:47,937 --> 00:15:50,698 そして 21世紀における 269 00:15:50,698 --> 00:15:53,085 政治的かつ経済上の大きな疑問は 270 00:15:53,085 --> 00:15:55,271 「何のために人間が必要なのか?」 となるでしょう 271 00:15:55,271 --> 00:15:58,662 控えめに言えば 「何のために こんなにも 多くの人間が必要なのか?」 272 00:15:58,662 --> 00:16:01,144 ジュッサーニ:この本の中に 答えは書かれていますか? 273 00:16:01,144 --> 00:16:05,188 ハラーリ:今のところ 最も妥当な答えは 彼らをハッピーにさせておくことです 274 00:16:05,188 --> 00:16:07,009 ドラッグとコンピューターゲームで… 275 00:16:07,009 --> 00:16:08,034 (笑) 276 00:16:08,034 --> 00:16:11,329 まぁ これはあまり好ましい将来とは 思えませんね 277 00:16:11,329 --> 00:16:14,162 ジュッサーニ:あなたは著書 とこの場において こう主張されていますね 278 00:16:14,162 --> 00:16:17,488 著しい経済的不平等を示す傾向が 顕著になっているという議論において 279 00:16:17,488 --> 00:16:20,759 我々は まだ そのプロセスの 280 00:16:20,759 --> 00:16:22,225 初期段階にあると 281 00:16:22,225 --> 00:16:23,775 ハラーリ:これは予言ではありませんが 282 00:16:23,775 --> 00:16:27,742 我々の前に その可能性が示されてきています 283 00:16:27,742 --> 00:16:32,748 ひとつの可能性は 「役に立たない人々」 という新たな巨大な層の誕生です 284 00:16:32,748 --> 00:16:35,912 もうひとつは 今までとは違った 生物学的な階級にー 285 00:16:35,912 --> 00:16:38,927 区分されていくということです 286 00:16:38,927 --> 00:16:43,242 富裕層は 仮想の神へと成り上がり 287 00:16:43,242 --> 00:16:47,574 貧困層は 役立たずの層に成り下がっていくのです 288 00:16:47,574 --> 00:16:50,620 ジュッサーニ:1〜2年の内に もう一回 TEDで お話して頂きたいものです 289 00:16:50,620 --> 00:16:52,466 ユバルさん 遠路はるばる ありがとうございました 290 00:16:52,466 --> 00:16:53,646 ハラーリ:ありがとうございました! 291 00:16:53,646 --> 00:16:55,311 (拍手)