WEBVTT 00:00:14.023 --> 00:00:16.382 私が4年生のある日 先生がこう言いました 00:00:16.382 --> 00:00:19.299 「偶数は自然数と同じだけあります」 00:00:19.299 --> 00:00:25.264 「本当に?」と思いました 確かに自然数も偶数も 無限にあり 同じだけあると言えるかもしれませんが 00:00:25.264 --> 00:00:30.315 しかしその一方で 偶数は自然数全体の 一部に過ぎず 他に奇数もあるので 00:00:30.315 --> 00:00:33.082 自然数全体は 偶数より たくさんあるはずです 00:00:33.082 --> 00:00:38.732 先生が言わんとしたことを理解するために まず2つの 集合の大きさが同じとはどういうことか考えてみましょう 00:00:38.732 --> 00:00:44.298 右手と左手に同じ本数の指があると言うとき その意味するところは何でしょう? 00:00:44.298 --> 00:00:47.881 もちろん どちらの手にも5本の指がありますが 実はもっと簡単に示せます 00:00:47.881 --> 00:00:52.514 数える必要はなく ただ手を合わせて 一本ずつ重ねていけばいいのです 00:00:52.514 --> 00:00:56.265 実際 3より大きい数を表す言葉のない言語を 使っていた古代の人々は 00:00:56.265 --> 00:01:02.264 このトリックを使っていたと考えられています 例えば 囲いから羊を出し放牧するとき 00:01:02.264 --> 00:01:05.782 一匹が出るごとに石を取っておき 帰って来たら石を戻すことで 00:01:05.782 --> 00:01:09.116 何匹が外にいるのか分かり 戻ってない羊がいるかどうか 00:01:09.116 --> 00:01:11.933 頭数を数えることなく 知ることができます 00:01:11.933 --> 00:01:15.165 対応付けが 数え上げより本質的である例を もう1つ挙げましょう 00:01:15.165 --> 00:01:19.665 私が満員の講堂で話していて 席は全て埋まり 立っている人がいないとすると 00:01:19.665 --> 00:01:23.199 何人いるかは 分からないものの 00:01:23.199 --> 00:01:25.725 席数と同じ数だけ聴衆がいる ことが分かります 00:01:25.756 --> 00:01:28.440 つまり2つの集合が同じ 大きさであるということは 00:01:28.440 --> 00:01:32.578 それぞれの集合の要素が 何らかの方法で 1つずつ対応づけられるということです 00:01:32.578 --> 00:01:37.544 私の4年生の時の先生は 自然数を1列に並べ その下にそれを2倍したものを書きました 00:01:37.544 --> 00:01:42.481 見て分かるように 下の列は全ての偶数を含んでおり 1対1で対応しています 00:01:42.481 --> 00:01:45.341 つまり 自然数が存在するのと同じだけ 偶数も存在するのです 00:01:45.341 --> 00:01:50.791 しかし偶数は自然数の一部でしかないという事実が 依然頭に引っかかります 00:01:50.791 --> 00:01:56.474 かといって それで右手と左手の指の数が違う ことになるのでしょうか? 00:01:56.474 --> 00:02:00.666 もちろん違います ある方法で要素を対応付け ようとして うまくいかなかったとしても 00:02:00.666 --> 00:02:02.565 そのことから言えることは 何もありません 00:02:02.565 --> 00:02:06.317 でも2つの集合の要素を 対応付ける方法を見つけられたなら 00:02:06.317 --> 00:02:09.864 その2つの集合の要素数は 等しいと言えるのです 00:02:10.049 --> 00:02:14.787 分数は全て列挙できるでしょうか? 難しいかもしれません 何しろ分数はたくさんあります! 00:02:14.787 --> 00:02:18.954 何を最初に挙げたらいいのか? 全て列挙されているか どうすれば分かるのか? 00:02:18.954 --> 00:02:23.988 実は 全ての分数を列挙する うまい方法があります 00:02:23.988 --> 00:02:27.786 ゲオルク・カントールが 19世紀末に考案しました 00:02:27.786 --> 00:02:35.805 まず 全ての分数を格子状上に並べます 全部あるのが分かります 例えば117/243であれば 00:02:35.805 --> 00:02:39.020 117行223列に見つかります 00:02:39.020 --> 00:02:44.287 次に左上から始め 対角線上に行ったり 来たりしてリストを作っていきます 00:02:44.287 --> 00:02:49.270 2/2のように 前に出てきたのと 同じ数は 飛ばすことにします 00:02:49.270 --> 00:02:53.320 すると全ての分数のリストが得られます 分数は自然数より多いはずですが 00:02:53.320 --> 00:02:58.369 それでも自然数全体と分数全体の間で 1対1の対応付けができるのです 00:02:58.369 --> 00:03:00.870 本当に面白くなるのはここからです 00:03:00.870 --> 00:03:06.263 ご存知かもしれませんが 実数 つまり数直線上にある 数は すべてが分数であるわけではありません 00:03:06.263 --> 00:03:08.586 2の平方根や πなどがその例です 00:03:08.586 --> 00:03:14.620 このような数は無理数(irrational)といいます そんな数は不合理だというわけではなく 00:03:14.620 --> 00:03:20.852 分数は整数の比(ratio)であるために有理数(rational)と呼ばれ それ以外は有理数でない つまり無理数なのです 00:03:20.852 --> 00:03:24.718 無理数は非循環小数で表されます 00:03:24.718 --> 00:03:29.386 自然数全体と 有理数・無理数両方を含む 小数全体の集合の間で 00:03:29.386 --> 00:03:33.903 1対1の対応付けは可能なのでしょうか? つまり小数全体は列挙できるのでしょうか? 00:03:33.903 --> 00:03:39.352 カントールはそれが不可能であることを証明しました 単に方法を知らないということではなく 不可能なのです 00:03:39.352 --> 00:03:46.166 仮に小数全体を列挙したとしましょう これからそのリストにない小数を作ることで 00:03:46.166 --> 00:03:48.220 そのリストが不完全であることを示します 00:03:48.220 --> 00:03:50.819 問題の小数を1桁ずつ作って行きます 00:03:50.819 --> 00:03:55.436 小数第1位を決めるために リスト中で最初の数の小数第1位に注目します 00:03:55.436 --> 00:04:00.302 もしその数が1だったら2を それ以外なら1を選びます 00:04:00.302 --> 00:04:04.569 小数第2位を決めるために 2番目の数の小数第2位に注目します 00:04:04.569 --> 00:04:09.186 ここでも同様に その数が1であれば2を そうでなければ1を選びます 00:04:09.186 --> 00:04:13.585 どうなるかお分かりでしょうか? そうして作った小数は このリスト中に存在し得ないのです 00:04:13.585 --> 00:04:20.737 なぜでしょう? その数は 例えば143番目の数で ありうるでしょうか? いいえ この小数の小数第143位は 00:04:20.737 --> 00:04:25.336 リストの143番目の数の小数第143位とは異なります そうなるように作ったんです 00:04:25.336 --> 00:04:29.220 リストは不完全だったわけです 今作った小数が含まれていません 00:04:29.220 --> 00:04:34.386 どんなリストを与えられようと 同様の操作で そのリストに無い小数を作ることができます 00:04:34.386 --> 00:04:37.219 つまり 我々は驚くべき 事実に直面したわけです 00:04:37.219 --> 00:04:43.286 小数は列挙不可能なのです 小数の全体は 自然数全体の無限大よりも大きな無限大ということです 00:04:43.286 --> 00:04:48.641 我々に馴染み深い無理数は 2の平方根や 円周率など わずかしかありませんが 00:04:48.641 --> 00:04:52.176 無理数全体の無限大は 分数の無限大よりも大きいのです 00:04:52.176 --> 00:04:57.359 かつてこう言った人がいます 有理数 (分数) は 夜空の星のようであり 00:04:57.359 --> 00:05:01.143 無理数は 夜空の黒い部分のようだと 00:05:01.143 --> 00:05:06.943 カントールはまた どのような無限集合に対しても その集合の部分集合全体からなる集合を構成すると 00:05:06.943 --> 00:05:12.144 元の集合よりも高位の無限大が得られることも示しました 無限集合があれば 00:05:12.144 --> 00:05:18.276 その部分集合全体の集合を作ることで より大きな集合が得られ その結果に対して同じ操作をすれば 00:05:18.276 --> 00:05:21.609 さらに大きな集合が得られ それをいくらでも繰り返していけます 00:05:21.609 --> 00:05:25.625 異なる大きさの無限大が 無数に存在するのです 00:05:25.625 --> 00:05:31.092 この考えに納得いかないとしたら それはあなただけではありません カントールの時代の偉大な数学者の中にも 00:05:31.092 --> 00:05:35.425 これにうろたえた人がいたのです 彼らはこの概念無しでも数学が成り立つように 00:05:35.425 --> 00:05:37.860 無限大の違いを無意味なものに しようと試みました 00:05:37.860 --> 00:05:42.443 カントールは個人的にも中傷されたために 重度の鬱に悩まされ 00:05:42.443 --> 00:05:45.910 精神病院への入退院を繰り返しながら 半生を過ごしました 00:05:45.910 --> 00:05:51.492 しかし結果的に彼の考えが勝ちました 今日では根本的かつ偉大な業績だと考えられています 00:05:51.492 --> 00:05:55.740 全ての数学研究者がこのアイデアを受け入れ 全ての数学科の学生が学び 00:05:55.740 --> 00:05:58.143 私は数分でこの考えを 説明しました 00:05:58.143 --> 00:06:00.926 いつの日にか 一般常識になっているかもしれません 00:06:00.926 --> 00:06:06.006 話には続きがあります 全ての小数(実数)の集合は 自然数全体の集合より高位の無限大だと指摘しましたが 00:06:06.006 --> 00:06:09.660 カントールは これら2つの無限大の間に 異なる大きさの無限大は無いかと考えました 00:06:09.660 --> 00:06:14.125 彼は ないだろうと考えていたものの それを証明することはできませんでした 00:06:14.125 --> 00:06:18.275 カントールの予想は「連続体仮説」として 知られるようになりました 00:06:18.275 --> 00:06:23.959 1900年に偉大な数学者ダフィット・ヒルベルトは 数学における最も重要な未解決問題の1つとして 00:06:23.959 --> 00:06:26.441 この連続体仮説を挙げました 00:06:26.441 --> 00:06:32.260 20世紀中にこの問題は解決されましたが その結論は 全く予想外で 旧来の考えを根底から覆すものでした 00:06:32.260 --> 00:06:37.892 1920年代にクルト・ゲーデルが 連続体仮説を偽であると 証明することは不可能だと示し 00:06:37.892 --> 00:06:43.476 1960年代にポール・J ・コーエンが 連続体仮説を 真であると証明することも不可能だと示したのです 00:06:43.476 --> 00:06:48.425 これらを合わせると 数学には答え得ない問が存在することになります 00:06:48.425 --> 00:06:50.310 実に驚くべき結論です 00:06:50.310 --> 00:06:53.459 数学は人類の英知の粋だと 考えられていますが 00:06:53.459 --> 00:06:56.592 その数学ですら理解に限りが あることが分かったのです 00:06:56.592 --> 00:07:00.809 それでも数学には 我々が考えるべき 本当に素晴らしいものあります