WEBVTT 00:00:06.933 --> 00:00:10.674 伝説的な弓の名手ウィリアム・テルは 物語によれば 00:00:10.693 --> 00:00:14.810 悪代官から 残酷な試練を命じられます 00:00:15.210 --> 00:00:17.542 息子の処刑を免れるには 00:00:17.572 --> 00:00:21.819 頭の上のリンゴを 射抜かなければなりません 00:00:21.839 --> 00:00:26.703 見事射抜くことに成功しましたが 話を2通りに変えてみましょう 00:00:26.723 --> 00:00:28.313 1つ目では 00:00:28.343 --> 00:00:32.740 代官が雇ったならず者に 大事な弓が盗まれてしまい 00:00:32.759 --> 00:00:37.181 性能の劣る弓を 百姓から借りるはめになります 00:00:37.211 --> 00:00:41.187 借りた弓は 完璧には調整されておらず 00:00:41.207 --> 00:00:43.446 練習で放った矢が 00:00:43.656 --> 00:00:47.622 ことごとく的の下の一部分に 集まってしまいますが 00:00:47.642 --> 00:00:51.928 幸い 本番までに弓を調整し 間に合ったという話です 00:00:52.588 --> 00:00:53.972 2つ目では 00:00:53.992 --> 00:00:58.465 ウィリアムは本番よりだいぶ前に 自分の腕に自信を失い 00:00:58.485 --> 00:01:01.252 手が震えるようになります 00:01:01.282 --> 00:01:04.599 練習では リンゴの近くには刺さるのですが 00:01:04.619 --> 00:01:06.557 当たる場所はバラバラです 00:01:06.567 --> 00:01:08.482 リンゴに命中することもありますが 00:01:08.512 --> 00:01:12.349 手が震えるせいで ど真ん中に当たる保証はありません 00:01:12.369 --> 00:01:14.232 震える手を落ち着かせ 00:01:14.262 --> 00:01:18.961 必ず的に当たるようにして 息子の命を救わなければなりません 00:01:18.971 --> 00:01:23.629 この2通りのお話の本質にあるのが たびたび同じ意味で使われる言葉— 00:01:23.639 --> 00:01:26.279 正確さ(accuracy)と 精度(precision)です 00:01:26.299 --> 00:01:27.792 実はこの2つには 00:01:27.812 --> 00:01:31.367 科学の探求においては 決定的に違うことがよくあります 00:01:31.387 --> 00:01:35.611 正確さとは どれだけ 正しい結果に近づけるかどうかです 00:01:35.631 --> 00:01:39.636 正確さを向上させるには 正しく調整された道具を使い 00:01:39.646 --> 00:01:41.823 使い手は十分に訓練を積むことです 00:01:41.833 --> 00:01:43.594 一方で 精度はというと 00:01:43.614 --> 00:01:47.942 同じ方法で 同じ結果を 安定して得られることをいいます 00:01:47.962 --> 00:01:51.934 精度を向上するためには 細かい調整のできる機器を使い 00:01:51.954 --> 00:01:54.511 推定に頼る箇所を減らすことです 00:01:54.521 --> 00:01:59.397 弓が盗まれたお話のほうでは 精度は高いものの正確さが欠けていました 00:01:59.417 --> 00:02:02.918 矢を射るごとに 全く同じ失敗を繰り返したのです 00:02:02.938 --> 00:02:07.955 手が震えたお話のほうでは 正確ではあっても精度は欠けていました 00:02:07.975 --> 00:02:11.221 矢は正しい標的の周りに 当たりましたが 00:02:11.241 --> 00:02:14.929 ど真ん中に命中する保証は なかったのです 00:02:15.609 --> 00:02:18.179 正確さや精度の一方が欠けていても 00:02:18.199 --> 00:02:20.886 日常では問題はないでしょう 00:02:20.906 --> 00:02:24.600 でも 技術者や研究者には 正確性が求められることが多く 00:02:24.620 --> 00:02:29.992 ミクロの単位で正確な結果を 毎回高い確度で出さねばなりません 00:02:30.012 --> 00:02:32.642 工場や研究所では精度を向上するため 00:02:32.662 --> 00:02:36.063 設備の質を上げたり より緻密な手順を使います 00:02:36.083 --> 00:02:39.480 高価な投資になることもあるので 経営陣は 00:02:39.490 --> 00:02:43.793 プロジェクト毎に 結果の不確実性を どこまで良しとするか決めなければなりません 00:02:43.813 --> 00:02:46.098 精度を追求することで 00:02:46.108 --> 00:02:49.197 以前には不可能だったことが 可能になり 00:02:49.207 --> 00:02:51.212 遥か遠い火星さえも 狙うことができます 00:02:51.332 --> 00:02:54.621 他の惑星に送った探査機の 着陸する場所を NASAが 00:02:54.631 --> 00:02:58.405 ぴったり正確に把握してないと 聞いたら驚くかもしれません 00:02:58.425 --> 00:03:02.394 どこに着陸するかを予測するには 大規模な計算が必要です 00:03:02.404 --> 00:03:06.297 計算に使う計測値には ブレがあることもあります 00:03:06.647 --> 00:03:11.054 火星の大気の濃さは地上高により どのように変わるのか? 00:03:11.074 --> 00:03:14.049 どの角度で大気圏に 突入するのだろうか? 00:03:14.069 --> 00:03:16.937 突入時のスピードは? 00:03:16.967 --> 00:03:20.714 コンピューターで何千もの 着地シナリオをシミュレーションし 00:03:20.724 --> 00:03:24.281 あらゆる変数の組み合わせを 想定します 00:03:24.301 --> 00:03:26.088 あらゆる可能性を考慮した上で 00:03:26.118 --> 00:03:29.439 コンピューターは 着地の可能性のある範囲の誤差を示す— 00:03:29.459 --> 00:03:32.780 着陸楕円という数値を叩き出します 00:03:32.820 --> 00:03:41.538 1976年の火星探査機バイキングの 着陸機の着陸楕円は100×280km 00:03:41.558 --> 00:03:44.086 ニュージャージーと ほぼ同じ大きさでした 00:03:44.106 --> 00:03:46.268 このように NASAは 技術の限界により 00:03:46.278 --> 00:03:50.548 面白そうでも着陸が難しそうな場所は 避けざるをえませんでした 00:03:50.578 --> 00:03:54.085 それ以降 火星の大気に関する 新しい情報や 00:03:54.105 --> 00:03:56.471 宇宙船技術の進歩 00:03:56.501 --> 00:04:02.003 シミュレーションの技術の向上により 不確実性が劇的に減少しました 00:04:02.343 --> 00:04:06.176 2012年 キュリオシティの 着陸機の着陸楕円は 00:04:06.196 --> 00:04:09.836 わずか6×19kmと 00:04:09.866 --> 00:04:14.041 バイキングの200分の1以下でした 00:04:14.061 --> 00:04:18.471 これで ゲール・クレーター内の 科学的に注目度の高い— 00:04:18.492 --> 00:04:23.181 以前は着陸不可能だった特定の着陸点を 目指すことができるようになりました 00:04:23.611 --> 00:04:26.179 人は究極的には 正確さを追求するものですが 00:04:26.199 --> 00:04:30.420 精度を高めることで より確実に結果を出せます 00:04:30.440 --> 00:04:32.491 この2つを肝に銘じれば 00:04:32.511 --> 00:04:34.182 星を狙ったとしても 00:04:34.202 --> 00:04:37.181 毎回成功させられるはずです